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勘違いBABY 東雲1話

【個別教官室】

ある日のこと。

東雲
長野時代の同僚?

サトコ
「はい。剣道の大会で、今週末上京するらしくて」
「それで、日曜日に飲みに行こうってことになりまして···」

東雲
あっそう
いってらっしゃい

サトコ
「まだです!話はここからです!」
「実は、飲み会のメンバーが、女性2人・男性3人でして···」
「その···男性がいる飲み会に行くの、教官は嫌がったりしないかなー」
「やきもち妬いちゃったりしないかなーなんて···」

東雲
しない
ていうかキモい。そのクネクネした動き

(ひどっ!)

サトコ
「いいじゃないですか!少しくらいクネクネしたって」
「それに、ちょっとくらい妬いてくれても···」

東雲
たとえば?

サトコ
「えっ」

東雲
どんなふうに妬いて欲しいわけ、キミは

サトコ
「え、ええと···そうですね···」

<選択してください>

A: 嫉妬を隠す感じで

サトコ
「嫉妬を隠す感じで···」
「でも、それがほんのり滲み出てしまう、みたいな?」

東雲
ふーん···つまり···
後藤さんが嫉妬する感じ?

(えっ?)

東雲
『バカだな、アンタは』···
『俺が喜んで許可を出したと、本気で思っているのか?』···

サトコ
「!!!」
「すごいです、後藤教官っぽいです!」
「しかも、めちゃくちゃ理想的でした!!」

東雲
·········あっそう

B: すごく分かりやすく

サトコ
「すごく分かりやすいのがいいですね」
「いかにも『嫉妬全開!』みたいな···」

東雲
ふーん···つまり···
こういうことだよね

ドンッ!

(えっ···)

東雲
『テメェ、この俺が許すと思ってんのか?』···
『このクズが!』···

(加賀教官···!)
(背後に加賀教官が見えます、教官!)

C: ほんのり漂う感じで

サトコ
「ほんのり嫉妬が漂う感じ···とか?」

東雲
あっそう···じゃあ···
『氷川は、ほんと鈍いよな』···
『どんなに妬いても止められないよ』···
『楽しみにしてるってわかっているのに』···

サトコ
「??今の、誰かのモノマネですか?」
「なんか···誰かに似ている気がするんですけど···」

東雲
······ほんと鈍いね、キミ

サトコ
「えっ?」

東雲
まあ、いいけど。そのほうが
それと···

東雲
まぁ、でも···
妬かないけど。実際のオレは

(うっ···)

サトコ
「どうしてですか?気になりませんか?」

東雲
ならない
キミ、女子力低いし

サトコ
「そんなこと···」

東雲
ハイ、鏡

サトコ
「!!!」

東雲
髪の寝グセ。目の下のクマ
唇ガサガサ
それで引っかかる物好きなんていないんじゃない?

(く、悔しい···!)

【寮 自室】

(けど反論できない···残念なことに···)
(ここのところ、訓練とレポートで大変だったとはいえ···)

サトコ
「はぁぁ···」

(やっぱりマズいよね。このクマ···それに唇も···)
(寝グセなんて言語道断だし···)

サトコ
「美容液たっぷりのシートマスク···確かこの辺にあったよね···」
「あとはリップクリームを厚めに塗って···」

【廊下】

飲み会当日――

(とりあえず目の下のクマは消えたよね)
(寝グセもついてないし、唇もそれなりに···)

サトコ
「···あ」

(今日って教官、宿直だよね)
(ちょっとだけ宿直室に顔を出していこうっと)

【宿直室】

サトコ
「氷川です。失礼しま···」

(え···)
(な···なななな、なんで警護課の···元アイドルの藤咲瑞貴がここに···)

瑞貴
「どうしましたか?」

サトコ
「あ、あああの、東雲教官は···」

瑞貴
「黒澤さんとコンビニ行っていますよ」

(まぶしい!笑顔が···オーラが······)
(お父さん、お母さん···私、東京に来て良かった···)

東雲
···ちょっと。邪魔なんだけど

(ぎゃっ!)

黒澤
あれ、サトコさん?
今日はやけにキラキラしていますね。なにかありましたか?

サトコ
「そ、それが、その···」

黒澤
ああ、藤咲巡査部長にお会いしたんですか
だったら女性ホルモン全開になりますよねー

東雲

サトコ
「黒澤さん···声、もっと小さく···」

黒澤
あれ、もしかしてガチでファンだったとか···

サトコ
「シーッ、シーッ」

瑞貴
「おかえりなさい。幻のピーチネクター、ありました?」

東雲
ええ

サトコ
「!!」
「そういうことなら言ってください!私が買ってきたのに···」

東雲
でも、今日は飲み会って言ってたじゃん、キミ

サトコ
「そうですけど···」

東雲
で、なんで今ここにいるわけ
飲み会は?中止?

サトコ
「いえ、今から行くところです」
「でも、その前にちょっと顔を出そうかなぁと···」

黒澤
なるほど、御用聞きってわけですね
さすが、補佐官の鏡!

サトコ
「いえ、その···」

(単に、教官に一目会いたかっただけなんですけど···)

瑞貴
「『補佐官』ということは、ここの訓練生なんですか?」

サトコ
「は、ははは、はい!」

瑞貴
「···ふふ、目が真ん丸」
「うちのキャサリンみたい」

黒澤
ああ、かわいいですよねー、キャサリンさん

(かわいい···)
(藤咲瑞貴が、私のこと「かわいい」···「かわいい」って······)

東雲
氷川さん、そろそろ行かないと
飲み会に遅れるんじゃないかな?

(···っ、そうだった!)

サトコ
「じゃあ、私、行きますけど···」
「帰りに『幻のピーチネクター』···」

東雲
いいよ、もう買ってきたから
それより、ほら。急いで

(な···なんで、そんなグイグイと背中を押して···)

【廊下】

東雲
それじゃ、気を付けて

(···なんか、無理やり追い出された?)

サトコ
「ま、いっか。教官にはちゃんと会えたし」

(久しぶりの飲み会、楽しんで来よう!)

【居酒屋】

というわけで···

サトコ
「すみませーん、生ジョッキ追加で!」

男性1
「おっ、氷川、いい飲みっぷりだな」

サトコ
「そりゃ、このメンバーで飲むの、久しぶりだもん」
「お正月に帰っても、なかなか全員揃わないし」

女性1
「誰かしら、勤務になっちゃうもんね」

男性2
「まぁ、そのあたりはしょうがないよな」
「それにしても、氷川って長野にいたころと変わらないよなー」

男性3
「全然色気がないとことか」

サトコ
「そういうの、余計なお世話です!」

女性1
「でもサトコ、彼氏できたんじゃなかったっけ?」

男性全員
「「「ええっ!?」」」

男性1
「本当に?本当の本当に?」

男性2
「うう···よかったな、氷川···」

男性3
「長野時代は、仕事のことばかりだったもんなぁ」
「県警来るたびに『刑事課の空きはありますか』って」

サトコ
「ハハッ···たしかに···」

女性1
「それで?サトコの彼ってどんな人?」

サトコ
「ええと···そうだなぁ」

<選択してください>

A: 頭のいい人

サトコ
「すごく頭のいい人だよ」
「偏差値の高い大学を出ているし」
「今いる部署も、当時は最年少で配属されたみたい」

女性1
「へぇ、すごいね」

サトコ
「あと、ハッキング系が得意なんだよね」

女性1
「えっ」

サトコ
「ちょっとしたパスワードならすぐに解除しちゃうし」
「私のスマホなんて、5秒で解析されちゃったし」

(たしか実戦訓練の『お手本』として披露してくれたんだよね)
(あのとき、みんな驚いてたなぁ)

B: 意外と優しい人

サトコ
「意外と優しい人だよ」
「イベント嫌いなのに、なんだかんだで付き合ってくれるし」
「体調崩したときは、看病してくれたし···」

女性1
「へぇ···いいね、そういうの···」

サトコ
「3回に1回は、お気に入りのシャンプーを貸してくれるし」

女性1
「···え?」

サトコ
「10回に1回は、ピーチネクターの買い出しを免除してくれるし」
「あとは···ええと···」

C: 女子力の高い人

サトコ
「女子力の高い人···かな」
「もちろん、それもあるけど···」
「どっちかっていうと、美容系かな」

女性1
「び、美容?」

サトコ
「毎日髪の毛サラサラだし、毎月美容院に行ってるし」
「お肌のお手入れは欠かさないし、掃除も洗濯もすごくマメだし」

女性1
「······」

サトコ
「あと、洗濯物からはいつもアロマオイルの香りがして···」

全員
「······」

(···あれ、みんな黙り込んじゃった?)

サトコ
「あの···なにか···」

女性1
「別れたほうがいいよ、サトコ」
「その彼、なんかヤバい感じがする」

(ええっ!?)

サトコ
「ヤバくないよ!教か···『彼』は本当に素敵な人で···」

男性1
「いや、ヤバいって」

男性2
「もっと他にいるだろ。ふつうの『イイやつ』が···」

サトコ
「そりゃいるよ!」
「でも、彼が『1番』なの!それ以上はいないの!」
「それに、本当にそんなにヤバくないってば···」

男性3
「じゃあ、そいつのこと、オレたちに紹介できるか?」

サトコ
「そ、それは···」

全員
「「「ほら、できない」」」

サトコ
「違っ···それは、お互いの『立場』があるからで···」

女性1
「え、まさか不倫?」

サトコ
「違うから!不倫でもないから!」
「本当に、素敵な人なんだってばー!!」

【改札】

帰り道――

(おかしいなぁ、どうして伝わらないんだろう)
(教官の素敵なところ、いっぱいアピールしたはずなのに)
(言えば言うほど、みんな、ドン引きして···)

サトコ
「あ、電話···」

(教官から!?)

サトコ
「おつかれさまです!」

東雲
おつかれ
今は······外?

サトコ
「はい。飲み会の帰りです」
「あと10分くらいで寮に着きます」

東雲
あっそう。じゃあ···

(な···っ)

サトコ
「待ってください!もうちょっと付き合ってください」

東雲
······

サトコ
「だって、今日はちょっとしか話をしてないじゃないですか」
「せっかく、飲み会の前に宿直室まで会いに行ったのに」

東雲
···あのときは、キミが······

ファオーンと間の抜けた音が、教官の声をかき消した。
背後から来た外国産の車が、派手なクラクションを鳴らしたせいだ。

サトコ
「すみません、教官!今なんて···」

東雲
···っ、だから······

ポツ···

サトコ
「え···」

ポツ···ポツ···ポツ······ポツポツポツ······

(うわ、雨···)

東雲
···もしもし?どうかした?

サトコ
「すみません。急に雨が降ってきて···」

(でも、これくらいなら問題ないか)
(走って帰れば、本降りになる前に寮に着きそうだし···)

東雲
迎えに行く

サトコ
「えっ、いいですよ。これくらい···」

東雲
いいから
待ってて。近くのコンビニで

(教官···)

サトコ
「じゃあ、駅前の『エイト・イレブン』で待ってます」

東雲
わかった

サトコ
「······」
「·········」

(きゃーーー!!!)
(なに、今の···)
(教官、普段の5割増しくらいで優しいんですけど!)

サトコ
「よし、記念日認定しよう」

(「教官が傘を持って迎えに来てくれた記念日」···ちょっと長いな)
(「教官の傘記念日」···「あいあい傘記念日」···それか······)

ザアアアアッ···

サトコ
「うわっ」

(ちょ···本降りになるの、早すぎ!)
(早く雨宿りしないと···)

【コンビニ】

サトコ
「はぁ···はぁ···」

(あぶなかった···ずぶ濡れになるところだったよ)
(お土産の紙袋、大丈夫かな)

そう、今から1時間前――

女性1
「サトコ、これ。お土産ね」

サトコ
「うわぁ、ありがとう」
「なんだろう···お菓子とか?」

女性1
「ああっ!!」
「ここで開けないで!開けるのは寮に戻ってからにして」

サトコ
「??」

女性1
「開けるのはひとりのとき···」
「それか、彼と一緒のときにして」

(教官と一緒のとき?)

女性1
「ああ、でもサトコの彼氏、微妙っぽいしなー」

サトコ
「ちょ···微妙じゃないってば」
「『彼』は本当の本当に素敵な人で···」

(···大丈夫だよね。お土産、濡れてないよね?)

私は、恐る恐る紙袋の中を覗きこんだ。

(あれ···お菓子のパッケージじゃない?)
(これって···DVD···?)

サトコ
「!!!」

(な···ななな···)
(なんで「成人向けDVD」が入ってるの!?)

to be continued

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