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勘違いBABY 東雲2話

【コンビニ】

お土産袋のなかに入っていたのは、まさかの「成人向けDVD」で···

(な、なんでこんなものが···)
(もしかして間違い?)
(でも渡されたとき「ひとりのときに開けて」って言われた気が···)

ひとまず、元同僚にLIDEのメッセージを送ってみた。

サトコ
「あ、もう返事来た···」

――「例のDVD?寮生活だとムラムラすると思って」

サトコ
「しないから!」

(そもそも「清らかなお付き合い」をしてるから!寮生活とか関係なく)
(卒業するまで「おあずけ」って···)

サトコ
「はぁ···」

(どうしよう、これ···)
(いっそ、教官にあげようかな···)

サトコ
「···いやいや」

(さすがに、カノジョとしてそれはどうかと思うし···)
(ていうか···)

周囲に人がいないのを確認して、私は再び袋のなかを覗き込んだ。

(すごいパッケージ···一目見ただけで、そのテのDVDって分かりそう···)
(···うん?)

サトコ
「『オトナな女性のアナタへ』···」
「えっ、これ、女性向けのDVD?」

(そういえば、最近、深夜番組でやってたよね)
(『女性用成人向けDVD』がアラサー女性にひそかに人気」って)

サトコ
「そっか···これが噂の···」

(ええと···参考までにどんな作品が···)

東雲
お待たせ

(ぎゃっ!)

東雲
···なに驚いてんの

サトコ
「い、いいいえ、なにも···」

東雲
······
···キミ、その紙袋···

(マズい、バレる!)

とっさに誤魔化そうとした私は···

<選択してください>

A: キスをねだった

サトコ
「教官!」

東雲
······なに、いきなり目を閉じて

サトコ
「キッスです」
「数時間ぶりに会えた恋人に『おかえりのキッス』···」
「ふぐぐ···っ」

東雲
懲りないね、キミ
これまでに何度も唇をつねられてきたのに

(分かってます···分かってますけど!)
(やっぱり唇が痛いです、教官···っ)

B: 東雲に抱きついた

サトコ
「教官ーっ」

東雲
ちょ···なんで抱きついて···

サトコ
「嬉しいです!迎えに来てくれて、本当に嬉しいです!」
「ありがとうございます!!」

東雲
······あっそう

そっけない返事ながらも、教官は私の背中に手を回してくれた。

サトコ
「···っ」

(嬉しい···嬉しいけど、ちょっと罪悪感が···)

C: あそこにゴジーラが!

(こうなったらダメ元で···)

サトコ
「教官、あそこに『ゴジーラ』が!」

東雲
えっ、どこ!?

サトコ
「あそこです!あのビルの看板に···」

東雲
······バカなの、キミ

(うっ、やっぱりダメ···)

東雲
あれ、『ゴブーラ』じゃん

(···え?)

東雲
『ゴブーラ』は、『ゴジーラ』の公式認定兄弟生物···
ていうか元は偽物だったけど
あまりにも本家『ゴジーラ』への愛情が伝わってきたことから
公式が応援団として認定したことで晴れて兄弟生物となれたわけで
『ゴジーラ』第3作ではついに共演を果たして···

(どうしよう···教官が何を言ってるのか、さっぱりわからない···)

サトコ
「···くしゅっ」

東雲
なに、風邪?

サトコ
「いえ、ちょっと鼻がムズムズして···」
「くしゅっ」

教官はため息をつくと、持ってきた傘を勢いよく開いた。

東雲
入りなよ。ほら

サトコ
「ありがとうございます」

紙袋を背中に隠したまま、教官の隣に身体を滑り込ませる。

(···よかった、なんとか誤魔化せたっぽいよね)
(それにしても、どうしよう···このお土産···)
(明日、鳴子に相談してみようかな···)

【教場】

ところが、翌朝―――

サトコ
「えっ、鳴子、休みなの?」

千葉
「ああ、風邪だって」

サトコ
「そっか···相談したいこと、あったのにな」

(鳴子なら、いい案を出してくれると思ったのに···)

千葉
「···俺でよければ話を聞くけど」

サトコ
「えっ···」

千葉
「相談ごとだろ?俺じゃダメかな?」

サトコ
「あ···ええと···その···できれば鳴子に······」

(···待って)
(むしろ、千葉さんの方が適任だったりする?)

サトコ
「千葉さん、ちょっと耳貸して」

千葉
「??」

サトコ
「あの···千葉さんって···」
「セクシー系の···アレ、観たりする?」

千葉
「ん?」

サトコ
「つまり『成人向け』の···レンタル店ののれんの奥にある···」

千葉
「!!」

サトコ
「ああいうのって普段どこに隠してる?」
「本棚?クローゼット?それとも処分派?」

千葉
「いや、お、俺は···」

サトコ
「でも、処分するのは難しいよね」
「寮内のゴミ箱に捨てると、誰かに見られる可能性もあるわけだし」

千葉
「いや、その···」

サトコ
「そうだ!千葉さん、もらって···」

千葉
「観ないんだ、俺!」
「そういうの興味なくて!!」

サトコ
「······あ、そうなんだ」

(そっか···残念···)
(でも、言われてみれば、千葉さん草食男子っぽいもんね)

【モニタールーム】

(そういえば、教官たちってどうなんだろう)
(あのテのDVD、観ないのかな···)

後藤
···よし
氷川、今のところから1時間分のデータをコピーしてくれ

サトコ
「了解です」

(後藤教官は···観なさそうだよね)
(というか観てほしくないなぁ···勝手な願望だけど···)

東雲
あと最初の10分も。気になる部分があったから

サトコ
「わかりました」

(東雲教官は···うーん······)
(正直2パターン考えられるかな)

(パターン・その1···)

東雲
···は?成人向けDVD?
バカなの?
観るわけないじゃん、そんなの
キミじゃあるまいし

(いやいや、観ませんけど···私も)

(パターン・その2···)

東雲
成人向けDVD?ああ···
この間観たのは38点だったかな
展開のツメが甘いんだよね
なんで通りすがりの男が、×××を隠し持ってるのって感じじゃん
あと、今日借りてきたのは···

(···イヤだ)
(あり得そうだけどイヤだよ、成人向けDVDの評論をする教官なんて)

(でも、一番あり得そうなのは···)
(万が一、あのDVDが教官に見つかったときで···)

東雲
···なに、これ
オレが、今までキミと付き合ってきたのって···
『思春期の息子を持つ母親の気持ち』を味わうためじゃないんだけど
ほんと無理
さよなら、ウラグチ

(待って、教官···)
(私を捨てないで――――!!)

【廊下】

サトコ
「はぁぁ···」

(ダメだ···バレたらお先真っ暗だ)
(きっと、軽蔑されて捨てられる)

とはいえ、寮や学校のゴミ箱に捨てるのはリスクがある。
それこそ、誰に見つかるか分からない。

(いっそ、売っちゃう?ヨフオクとかメロカリとか)
(でも、人からもらったもので一儲けするっていうのもな···)

サトコ
「はぁぁ···」

???
「23回目」

(え···)

東雲
キミのため息の回数。今日1日分の
オレが把握してる分のみだけど

(きょ、教官!?)

東雲
それで?原因は

サトコ
「そ、それは、その···たいしたことでは···」

東雲
ふーん···
言えないんだ、オレに

サトコ
「いえ、そんなことは···」

東雲
ふーん···ふーん···
ふ----ん···

(ぎゃっ)

サトコ
「本当です!本当にたいしたことじゃないんです!」

東雲
その割にボーっとしてたけど
一日中ずっと

サトコ
「で、ですから、それは···」

こつん、とおでこがぶつかった。

(え···)

サトコ
「あ、あの···教官···?」

東雲
···風邪ではなさそうだね
てっきり『バカは風邪をひかない』んじゃなく
『引いても気付かない』的なのかと思ってたけど
キミ、昨日くしゃみしてたし

(あ···)
(そういえば、そんなことがあったような···)

サトコ
「心配してくれたんですか?」

東雲
······

サトコ
「ありがとうございます」

東雲
······べつに
でも、風邪じゃないとしたら···
なんなわけ、原因は

(うっ···)

東雲
身体的異常はなし
となると、他に考えられるのは···

サトコ
「あーっ!」
「すみません、大事な用事を思い出しました!」
「失礼します」

東雲
ちょ···キミ···!

(ダメだ、このままだと心が休まらないよ!)
(なにがなんでも、あのDVDを処分しないと!)

【寮 自室】

(とりあえず、この部屋に置いておかなければいいよね)
(たとえば、「開封禁止」ってメモをつけて、実家に送れば···)

サトコ
「···電話?」
「うっ、教官から···」

(どうしよう、さっきの件かな)
(いっそ、このまま無視して···)

東雲
出ろ、氷川サトコ

(ぎゃーーー)

東雲
いるのわかってるから。早く出ろ

サトコ
「そ、それが、その···今···シャワー中で···」

東雲
時間の無駄だから。すぐバレる嘘は

(うっ)

東雲
5秒以内に開けろ。じゃないと明日補習を受けさせる
5···4···3···

サトコ
「わ、わかりました。すぐに開けます!」

私はドアノブに飛びつくと、すぐさま鍵を外した。

サトコ
「どうぞ···」

東雲
退いて

(ちょ···強引すぎ···)
(ていうか、なに?この今にも家宅捜索が始まりそうな雰囲気···)

東雲
······へぇ、なるほど

(え···)
(ああっ、お土産の入った紙袋!!!)

東雲
これ、昨日の帰りも持ってたよね
中身は······

(あああ―――っ!)

サトコ
「違っ···それ、私のじゃなくて···」
「いえ、私のは私のなんですけど···」
「昨日会った同期に『お土産』って押し付けられたもので···」

東雲
『お土産』って相手が喜ぶものを送るよね。ふつう
ということは···

サトコ
「誤解です!喜んでません!」
「女性向けセクシーDVD3点セットなんて、そんなもの···」

弁解する私に目も向けず、教官はDVDのパッケージをひっくり返した。

東雲
·········ふーん

(め···目が怖い···)

東雲
ふーん···ふーーん······

サトコ
「あ、あの···教官···?」

東雲
···なるほど
なかなかバリエーションに富んでるね

(え···)

東雲
1本目『責められて★束縛捜査官の壁ドンプレイ』···
2本目『メガネ男子・とろける夜をアナタに』···
で、3本目は『敬語で朝まで!主従逆転メイド』···
ちなみに1本目のあらすじは···」

サトコ
「あーあーあーっ」
「聞こえません!そんなの興味ありませーん!」

(ていうか何?この羞恥プレイ···)
(なんで観てもいないDVDのせいでこんな目に···)

東雲
それで?
どれが好きなの、キミは

(······は?)

東雲
教えてよ、せっかくだから
今後の参考のために

(ど、どうしよう···こういうときは···)

<選択してください>

A: いちおう答える

サトコ
「し、強いて言うなら『メガネ男子』が···」

東雲
ふーん···
ふーーーーん···

サトコ
「だって、一番普通っぽそうな話ですし!」
「その···教官も『メガネ男子』で···」

東雲
違うけどね。普段は

(うっ)

東雲
『今宵アナタをとろけさせるのは、普段はクールなメガネ男子』って···
誰を想像してるんだか···

サトコ
「教官です!」
「私にとって『メガネ男子』は教官だけです!!」

東雲
······あっそう
···で、どうするの?

B: どれも好きじゃない

サトコ
「べつに、どれも好きなわけでは···」

東雲
そう?
でも、この男優なんて藤咲巡査部長にちょっと似て···

サトコ
「似てません!」
「ぜんぜん似てません!」

東雲
いや、キミ···
近すぎなんだけど、顔···

サトコ
「あ、すみません、つい···」

東雲
···で、どうするの?

C: 教官の好みを知りたい

サトコ
「私の好みより、教官の好みを知りたいなーなんて···」

東雲
そう···オレの···
······
この子かな。1作目の

(うっ···)

サトコ
「や、やっぱり教官の好みは『巨乳女子』···」

東雲
バカ。本気にするな
あと興味ないから。胸のサイズとか

(···本当かなぁ)

東雲
···で、どうするの?

教官は、私の目の前でDVDのパッケージをチラつかせた。

東雲
風紀違反なんだけど
こういうの、所持するのは

サトコ
「そ、そうですよね···ダメですよね、やっぱり」

東雲
当然
まぁ、資料としてはギリギリセーフかもしれないけど

サトコ
「資料?」

東雲
たとえば『セクシャル・エントラップメント』用とか

(あ、なるほど···)

東雲
観る?いっそ

(え···)

東雲
せっかく3本もあることだし
観てみようか、ふたりで

サトコ
「!??」

to be continued

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