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エピソード0 加賀5話



【ラーメン屋台】

加賀
···あんた何者だ?

俺のことを知っているようなそぶりの男に、思わず尋ねる。
ラーメンを注文し終わると、男は俺に向き直った。

ガタイのいい男
さて···俺のことを話す前に、まずはお前

ニヤリと笑ったあと、男は声を潜めた。

ガタイのいい男
公安刑事になってみないか?

加賀
なんだと···?

あまりにも唐突な言葉に、それ以上言葉が出てこない。

ガタイのいい男
お前は向いてると思うんだよな、公安に
公安なら、事件を未然に防げる
今回の爆弾テロの被害者のような、悲しむ人間も減らせる

加賀
あんた、何を知ってる

ガタイのいい男
情報はいろんなツテで入ってくるからなあ
壁に耳あり、障子に目ありってとこか。怖いもんだねぇ~

加賀
チッ···

ガタイのいい男
ハハ、悪い悪い。俺は公安の難波だ
ひそかにお前をスカウトしようと狙ってたわけよ

ガタイのいい男
ちょうど今、この辺で仕事してるんだよなー

初めて会ったときの、この男の言葉を思い出す。
それに、最近は公安がこの辺で情報を集めてるのも知っていた。

(なるほど···そういうことか)
(しかしまさか、公安の奴に目を付けられるとはな)

加賀
俺は目的があって刑事をやってる。公安に行くつもりはねぇ

難波
その目的ってのは、公安じゃ成し遂げられねぇか?
誰かの悪事を暴くなら、公安が最適だ。俺の下にいりゃ、自由にやらせるしな
お前の性格じゃ、刑事課は窮屈だろ?

加賀
······

(···俺のことをどこまで調べた?)
(本当に公安は面倒くせぇ)

それでも、首を縦に振るつもりはなかった。
ここで公安に行けば、浜口たちから逃げるのと一緒だ。

(それに、あの爆破テロの真犯人をまだ捕まえてねぇ)
(浜口たちがあげるはずだった手柄···必ず犯人見つけ出してしょっぴいてやる)

加賀
悪いが···

難波
おいおい、そんな無下にするなよ
よく考えろ。その歳で公安からの引き抜きだ。異例の大出世だぞ

加賀
···俺は刑事課で、手柄を挙げる

難波
ハハ、頑固な奴だね~。それでこそ刑事課の曲者・加賀だな
まあ、答えは急いでねぇよ。よく考えてくれ
俺はいつでもここで待ってるからよ

難波という男の言葉を聞き、立ち上がって屋台を後にする。
このときは、この得体の知れない男について行くつもりは微塵もなかった。


【科捜研】

その後、爆破テロ事件の捜査は遅々として進まなかった。

莉子
「兵吾ちゃん、あの件から外されたんだって?」

加賀
情報が早ぇな
これ以上の捜査は無駄、だとよ

莉子
「それは一応でも犯人が捕まってるから?」

加賀
だろうな。だがあいつらは真犯人じゃねぇ
···黒幕は、別にいる

莉子
「······」

それは莉子も感じているらしい。
何しろ、証拠となるあの素材を莉子も一緒に見ている。

莉子
「···あのブラックボックスに使われてる素材の件、上に報告したんだけど」
「このままじゃ、もみ消されそうね」

加賀
やっぱりか

莉子
「これじゃますます、兵吾ちゃんの “勘” が正しい気がしてきたわ」

加賀
もみ消すってことは、後ろ暗いところがある証拠だ
どいつもこいつも、権力には弱ぇってことだな

莉子
「それはまあ、しょうがないかもしれないわね」

(結局、なんでもかんでも権力だ)
(この国の警察も、うちの親父も)

難波
誰かの悪事を暴くなら、公安が最適だ。俺の下にいりゃ、自由にならせるしな

(···あのおっさんなら、権力に屈したりしねぇだろうな)

莉子
「兵吾ちゃん?どうかした?」

加賀
···公安の難波って奴、知ってるか

莉子
「難波?それって、難波室長のこと?」

加賀
室長?

莉子
「知らないの?難波室長」
「普段はのらりくらりで何考えてるかわからないけど、仕事はできるって」
「あの人に手に入らない情報はない、なんて言われてるらしいけど」

加賀
······

(やっぱり、俺に関してはすべて調べたってことか)
(なんでそこまで、俺を···)

難波
お前の性格じゃ、刑事課は窮屈だろ?

なぜかやたらと、あの言葉が頭に響く気がした。

結局、爆破テロ事件は犯人を逮捕したという表向きの理由から、解決の記者会見が開かれた。
内部でも曖昧なまま捜査が打ち切られ、俺は査問会にかけられることになった。


【街】

数カ月後。
査問会はまだ続いており、俺はどの捜査からも外されたままだった。

(真犯人は必ずいる。浜口たちを殺した爆弾を仕掛けた奴意外に、裏で手を引いていた奴が)
(それがわかってるのに、なぜ捜査できねぇ···)

もちろん、単独で調べようと試みた。
だが、さすがに査問会にかけられている最中に目立った行動はまずいと莉子に止められた。

(何もできねぇまま、時間だけが過ぎていく)
(俺は···こんなところで、何やってんだ)

顔を上げると、あのラーメン屋の屋台が見えた。
誘われるように、のれんをくぐる―――

そこに、あの男の姿はなかった。

(···さすがに、時間が経ちすぎたか)
(なんで俺はここに来た···?あの話を受けるつもりは)

難波
おっ?ようやく来たな

加賀
あんた···

俺のあとから、難波という男がのれんをくぐって屋台に入ってきた。

難波
で?腹は決まったか?

加賀
···ひとつ聞きたい

難波
おー、なんでもいいぞ

隣に座り、難波室長がラーメンを注文する。

加賀
俺は今、査問会にかけられてる

難波
そうらしいなあ
手柄のために、仲間をわざと爆弾が仕掛けてあるほうに追いやって殺した、だったか
冷静に考えりゃ、そんなわけねぇのにな

査問会、という言葉を、難波室長はそのたった一言で笑い飛ばした。

難波
お前が犯人でもない限り、下手すりゃお前自身が死んでた可能性もある
つまり、どういうことかわかるか?

加賀
···敵が多いのは、今に始まったことじゃねぇ

難波
だろうな。だがお前、敵作り過ぎじゃないか?
邪魔だからって査問会にかけられるなんて、よっぽどあちこちで恨み買ってんだろうな
それとも、その “勘” のせいか

(···本当によく調べてやがる)

難波
だがな。俺はその “勘” を買ってる
お前はそれを、仲間のために使おうとするからな
それに、その勘はお前の経験値と優れた推理により導かれるものだ
あの時は勘が外れたんじゃなく···

加賀
俺は、手柄にしか興味ねぇ

難波
まあ、そういうことにしといてやるさ
お前が仲間思いで、真実をとことん追求する優秀な刑事だって思ってるのは、俺の勝手だ
でも···それが、お前の正義なんじゃないのか?

(俺の、正義···)

難波室長の言葉に、ひとすじの光が射した気がした。

to be continued



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