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あ、クリスマスは愛のため中止です 東雲2話



今年のクリスマスは、お互いに都合が合わない――
というわけで、今日ひそかに「先取りクリスマス」を計画していたはずが···

【東雲 実家】

サトコ
「あの···ここ、教官のご実家ですよね?」
「どうしてここに?」

東雲
誕生日だから。父の

(お父さんって、あの刑事ドラマ好きの?)

サトコ
「え、ええと···私、プレゼントとか持ってきてないんですけど」

東雲
いいよ。たくさんもらってるだろうし

サトコ
「たくさん?」

東雲
親戚一同が集まってるから。お祝いのために

(親戚!?)

東雲
じゃあ、行くよ

(ま、待って···いきなり「親戚一同」とか···)
(心の準備が···!!)



【リビング】

東雲
ただいま···

教官がドアを開けた途端、クラッカーの音が派手に鳴り響いた。

東雲
···なんですか、これは

男性1
「聞いたぞ、歩!ついに恋人ができたんだって?」

女性1
「おめでとう、歩くん!」

女性2
「お赤飯、炊けてるわよ。ほら、あそこに」

東雲
そうですか
余計なお世話、ありがとうございます

(ちょ···教官!)

男性2
「ハハハッ···相変わらずだな、歩は」

女性3
「ほんとにねぇ、ふふ」

(いいの?今の笑うとこ?)
(なんか、ずいぶん大らかというか···)

東雲茂
「やあ、氷川さん。久しぶりだね」

サトコ
「ご···っ、ご無沙汰しております」
「このたびは、お誕生日おめでとうございます」

東雲茂
「いやぁ、もう祝ってもらうような歳でもないんだけどね」
「こういう機会でもないと、親戚一同集まることもなくて」

東雲
父さん、8人兄弟だから

(8人!?)
(それで、こんなに出席者が···)

感心していると、奥の扉から会長···「教官のお母さん」が出て来た。

東雲洋子
「それでは、そろそろ乾杯いたしましょうか」

サトコ
「あの···本当に私、ここにいてもいいんですか?」

東雲
いいもなにも···
父さんたちだから。キミを呼べって言ったの

(えっ!?)

サトコ
「そ、それって、まさか『親戚に顔見せ』的な···?」

東雲
さあ。そこまで考えてるとは思えないけど
とりあえず、いつも通りでいいよ、キミは
下手に取り繕うと、ロクなことにならなそうだし

(うっ···)

乾杯が済み、お酒が入り始めると、誕生日はさらに賑やかなものになった。

(こうして見ると、家の親戚の集まりとあまり変わらないなぁ)
(もっと堅苦しい感じかと思ってたけど、全然そんなこともないし)
(それに···)

男性3
「歩、いっぱい食べてるか?」

女性3
「たくさん食べないと大きくなれないわよ」

東雲
いえ、もう十分大きくなりましたので

(···教官、すごく構われてる)
(しかも「子ども扱いされてる」っていうか···)

女性4
「たしかに大きくなったわよねー」

男性4
「昔は生意気なチビッコだったのになぁ」

東雲
そうでしたか?

女性4
「だって、ほら!クリスマスの時!」
「伯父さんがサンタクロースになってプレゼントを渡そうとしたら···」
「『サンタが日本語をしゃべるのはおかしい』って」

東雲
······

男性5
「そのわりに、プレゼントは喜んでいたよなぁ」

女性5
「もらった『恐竜図鑑』を毎日部屋で眺めてね」

東雲
·········

男性5
「正月のあいさつに来たときも、ずーっと恐竜の話ばかりしてたよなぁ」
「『これがティラノ、これがプテラノドン』って。それでv」

東雲
すみません。もう勘弁してください

(照れてる···あの教官が、耳まで真っ赤になって···)
(かーわーいーいー!)


【車内】

そんなわけで···

(あー楽しかった)
(教官ってば、親戚の人たちに囲まれるとあんな感じになるんだ)
(なんだか新鮮···)

東雲
···キモ
なにニヤけてるの、キミ

サトコ
「気にしないでください。ただの思い出し笑いです」

東雲
···あっそう
ま、いいけど。楽しかったなら···

サトコ
「ハイ、最高でした!」

<選択してください>

 教官の昔話を聞けて 

サトコ
「教官の昔話を聞くことができて」

東雲
べつに大した話はなかったじゃん

サトコ
「そんなことないです!どれもお宝エピソードですよ」
「小学生の頃、『幽霊は存在しない』ってことを科学的に証明しようとして」
「肝試しで返り討ちにあった話とか」

東雲
······

サトコ
「でも、一番はアレですね!運動会のとき···」

東雲
黙れ、スッポン

サトコ
「···っ、いひゃひゃっ」

(頬つねるの、反則!)

 教官が愛されていて 

サトコ
「教官が愛されていて」

東雲
······は?

サトコ
「だって皆さん、教官のこと大好きっぽいじゃないですか」
「『歩くん』『歩』ってニコニコして話しかけてくれて」

東雲
オレだけじゃないし。べつに
他の甥っ子や子どもたちにも、わりとあんな感じで···

サトコ
「だとしても、教官が可愛がられていることにかわりないですよね」

東雲

サトコ
「だから嬉しくて」
「私の大好きな人はこんなに愛されているんだなぁ、って」

東雲
······あっそう

 キノコ料理が美味しくて 

サトコ
「キノコ料理が美味しくて!」

東雲
·········ああ···キミ、ガツガツ食べてたもんね
特に、ニンニクの効いたアヒージョを

サトコ
「はい!あれ、すごく美味し···」

東雲
キスしないから。今日

サトコ
「!?」

東雲
無理だし。ニンニクくさいのとか

(な···っ)

サトコ
「今すぐ牛乳飲みますから!!」

東雲
無理

サトコ
「教官~っ!!」

そうこうしているうちに、車は寮のそばまでやってきた。

サトコ
「あ、今日はここでいいです」

東雲
そう。じゃあ、また来週

サトコ
「はい!おつかれさまです」

【帰り道】

サトコ
「···うん?」

(また来週?)
(そっか···教官、明日から出張だっけ)
(帰りは25日···)

サトコ
「あああっ」

(「先取りクリスマス」できなかったんですけど!)


【寮 談話室】

そんなわけで12月24日――

サトコ
「はぁぁ···」

(どうしよう···ヒマすぎるよ)
(みんな、今日はなにしてるんだろう)

??
「じゃあ、オレンジジュース20本追加で」

(ん?この声は···)

宮山
「はい、明日の19時に。よろしくお願いします」
「······あ、先輩。おつかれさまです」

サトコ
「おつかれさま。明日何かあるの?」

宮山
「『クリスマス飲み会』です。うちのクラスの」
「俺、幹事なんで、いろいろ手配しないといけなくて···」
「っと、ヤバ、そろそろ行かないと」

サトコ
「用事?」

宮山
「明日のクリスマス会で、プレゼント交換があるんです」
「そのためのグッズ、18時までに引き取らないといけないんで」
「それじゃ、また!」

(プレゼント交換か)
(そういえば、まだクリスマスプレゼントを用意してなかったよね)
(予定では、先週のデートで)

(ここだ···「恐竜カフェ」···)
(うわ···カップルだらけ···)

サトコ
「···」

(ここは、さっさとプレゼントを買って、寮に戻ろう···)

ショップ店員
「『サンタクロース・ザウルス』ただいま売り切れましたー」

(えっ···!?)

サトコ
「はぁぁ···」

(わかった···よーくわかりました)
(今年の私は、クリスマスとは縁がないんだ)

サトコ
「ていうか、もっと早く気付くべきだったよね」
「教官が出張って知ったときに」

(そもそも、教官が出張じゃなくてもどうなっていたことか)
(もともとイベントごとに興味のない人だし)
(「クリスマスがなくても生きていける」って言ってたし)

サトコ
「···もういいや。帰ろう」

(帰って、明日の準備をしよう)
(明日は「課外研修」だから、朝早いし···)

??
「ほーら、クリスマスプレゼントだよ」

(うん?)

初老の男性
「ヌイグルミのクマさんだよー」

女の子
「···っ」

(あ、そっぽ向いちゃった···)
(クリスマスにも興味なさそうだし···子どもの頃の教官も、あんな感じだったのかな)

女の子
「···がと···」
「ありがと···おじいちゃん」

(···!)

照れくさそうな、お礼の声。
その瞬間、先日のパーティで聞いた話が脳裏をよぎった。

――『そのわりに、プレゼントは喜んでいたよなぁ』
――『もらった「恐竜図鑑」を毎日部屋で眺めてね』

サトコ
「······」

(···やっぱり、なにか贈りたいよ)
(それで、教官が少しでも喜んでくれるなら···)

サトコ
「···よーし」


【恐竜カフェ】

(まずは「恐竜カフェ」に戻って···)

サトコ
「すみません。ヌイグルミをください」

ショップ店員
「申し訳ございません」
「『サンタクロース・ザウルス』は売り切れでして···」

サトコ
「いえ、あの一番大きなヌイグルミが欲しいんです」

ショップ店員
「あちらは通常商品ですが···」

サトコ
「いいんです、あのヌイグルミをください」

(あとは『ドソキ・ホーラ』で「アレ」を買って···)
(急いで作業すれば何とかなるはず···)

【学校 廊下】

翌日、12月25日――

鳴子
「あー疲れた···課外研修、大変すぎ」

千葉
「研修より帰りの渋滞だよな。おかげでもう23時過ぎ···」

サトコ
「ふたりともおつかれ!」

千葉
「えっ、氷川?」

鳴子
「ちょっと!なんでそんなに急いで···」

サトコ
「用事があるから!それじゃ!」

鳴子
「用事?今から?」

サトコ
「はぁ···はぁ···」

(うう···プレゼント重いよ······)
(でも、絶対今日中に渡さないと···)



【東雲マンション】

サトコ
「つ···着いた···」

(時刻は···23時52分···)
(よかった···なんとか間に合った!)

サトコ
「ええと···部屋番号···」

(っと、その前にプレゼントは見えないようにして···)

呼出ボタンを押すと、少ししてスピーカーから声が聞こえてきた。

東雲
·········はい

サトコ
「メリークリスマス!よいこのサンタクロー···」

ブチッ!

(うそ、切られた?)
(ま、負けないし!もう1回、呼び出せば···)

プルルル···プルルル···

(···出ない)
(もう23時55分なんですけど!)

プルルル···プルルル···

東雲
·········しつこい。なに?

サトコ
「氷川です!大事な用事があって伺いました!」

言い終わるより先に、自動ドアが音を立てて開いた。

(よし!あと5分···じゃなくて4分!)

(絶対···)
(こうなったら···)
(意地でも···25日中に······)

ピンポーン!
ピンポンピンポンピンポーン!

東雲
はい···

(開いた!)

サトコ
「スペシャルハッピーミラクルメリークリスマス!」

東雲
ちょ···バカ···っ

ドスンッ!!

【リビング】

東雲
···サイアク
腰、痛すぎ

サトコ
「すみません。嬉しくて、つい胸に飛び込んじゃって···」

東雲
飛び込むどころじゃないから
タックルだから。あれ
···で、なに?そのデカい荷物は

サトコ
「クリスマスプレゼントです」
「今日、25日ですよね?」

東雲
日付変わったけどね。さっき

(う···)

サトコ
「と、とにかく開けてみてください」
「教官が喜んでくれそうなもの、用意しましたから」

東雲
喜んでくれそうなもの···ね
オレは用意してないって言ったら?

サトコ
「いいんです、そんなの想定内ですから」

東雲
······あっそう。じゃあ···
······

このヌイグルミって···

サトコ
「『サンタクロース・ザウルス』です」
「っていっても、実は偽物なんですけど」

東雲
偽物?

サトコ
「本当は『恐竜カフェ』ってところで限定で売ってたんです」
「でも、昨日買いにに行ったら、もう売り切れてて···」

東雲
じゃあ、これは?

サトコ
「普通のヌイグルミに、サンタの衣装を着せただけです」
「『ドソキ・ホーラ』にミニスカサンタの手作りキットがあったんで、それを参考にして」

東雲
···なるほど
だからガタガタなんだ、この衣装の縫製が

(うっ、痛いことろを···)

<選択してください>

 そこは見ないで 

サトコ
「そこは見ないでください」

東雲
でも、見えるし
袖のとことか、脇のとことか
あと、ほら!この裏地の部分なんて···

(小姑か!)

 でも愛情はいっぱいだ

サトコ
「でも、愛情はいっぱい込めました!」
「スペシャル、スーパー、それから、ええと···ええと···」
「『ありったけ』込めましたんで!」

東雲
日本語なんだ、そこは

(ぐっ···)

 これが流行りなんです 

サトコ
「こ、これが今の流行りなんです」
「このガタガタ感が『味があっていい』って言われていて···」

東雲
へぇ、だったら···
高く売れるかもね。『メルガリ』に出品したら

サトコ
「もちろんです!絶対高値で···」
「ってダメです!」

東雲
「でも、興味あるじゃん」
「いくらで売れるか」

(うっ···まさか本気で···)

サトコ
「そ、そんな意地悪なこと言ってますけど···」
「本当は喜んでくれてますよね?教官、恐竜好きですし」

東雲
······

サトコ
「喜んで···くれてますよね?」

内心、ドキドキしながら訊ねてみる。
と、教官はなぜかため息をついて···

東雲
なにそれ、計算?

(え?)

東雲
あーもーギブ
やめてよ、そういうの

(「ギブ」っていったい何が···)

東雲
ま、悪くないんじゃない。ヌイグルミがちょっと大きすぎるけど
キミの愛情並みに

(え···)

サトコ
「じゃあ···」

東雲
98点

(やったー!)

サトコ
「プレゼント、いただきましたー!」

嬉しさのあまり、私は再び教官の胸に飛び込んだ。

東雲
ちょ···なに、プレゼントって···
あげてないけど!なにも

サトコ
「いいえ、確かにいただきました!」

だって、教官の笑顔こそが、私にとって最高のプレゼントなのだ。

Happy End



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