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出会い編 後藤3話



【個別教官室】

ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、後藤教官の一糸まとわぬ上半身。
私は咄嗟に後ろを向いた。

サトコ
「す、すみません!」

後藤
別に気にするな

サトコ
「は、はあ···」

(気にするなって言われても···)

後藤
どうした?
···演習のことをまだ落ち込んでるのか

<選択してください>

 A:落ち込んでます··· 

サトコ
「落ち込んでます···だけど、今はそうじゃなくて···」

後藤
気分でも悪いのか?

サトコ
「い、いえ···私のことは気にせずに早く着替えてしまってください···」

 B:早く服を着てください 

サトコ
「それよりも···は、早く服を着てください」

後藤
言われなくても着替えるが···なにを急かしているんだ?

サトコ
「か、風邪をひいたら大変だなって思っただけです···」

 C:イメトレ中なんです 

サトコ
「イ、イメトレ中なんです!今日の演習のことを思い出して···」

後藤
さっそく実践しているのか
それはいいが、もう少し集中できる時にやったらどうだ?

サトコ
「はい。あとは部屋に戻ってからにします!」

訓練用の服からスーツに着替えていたようで、後藤教官はシャツを着て向き直る。

後藤
それで、演習のレポートだったか?

サトコ
「はい。机の上に置いて···」

後藤
······

(机の上に物がいっぱいで置き場がない···)
(そういえば、颯馬教官が片づけをしてもらえばって言ってたっけ)

サトコ
「差支えなければ···ここにある書類だけでもまとめておきましょうか?」
「中は見ないようにしますので···」

私はデスクの端で崩れそうになっている書類に目を留める。

後藤
···じゃあ、それだけ頼む

サトコ
「わかりました」

私が片づけをする音と、教官がレポートを捲る音だけが響く。
部屋の広さを意識すると、後藤教官との近さを感じてしまう。

(後藤教官ってドラマに出て来そうなほど模範的な刑事だよな)
(仕事は完璧だし、格好いいし···)

レポートに目を落とす姿に見惚れていると、後藤教官が顔を上げた。

後藤
なんだ?

サトコ
「···っ!」
「い、いえ、私のレポート、どうかなって···」

後藤
···氷川のレポートはこれか。分厚いな

サトコ
「反省点をまとめていたら枚数が増えてしまって」
「それだけ失敗が多いってことなんですけど···」

後藤
詳しくはあとでチェックするが···よくまとまっていて読みやすいと思う

サトコ
「ありがとうございます。あ、片付け終わりました」
「あと···これ、教官の個室の使用申請書みたいですけど···出さなくていいんですか?」

後藤
そんなところにあったのか
早く提出するように事務から言われていたんだが、見つからなくてな
助かった。ありがとう

後藤教官の口元に微笑みが浮かんで、ドキッと鼓動が速くなる。

サトコ
「役に立ててよかったです」
「他には何かお手伝いすることありますか?」

後藤
いや、十分だ。帰って休め

サトコ
「分かりました。では、私はこれで失礼します」

後藤教官に頭を下げると、ふと窓際に置いてある茶器セットが目に入った。

(なんか本格的···教官ってお茶好きなのかな?)

後藤
どうした?

サトコ
「あ、すみません···素敵な柄だったので···」

後藤
ああ、あれか
後輩が土産にくれたんだが、使う機会がなくてな。俺には宝の持ち腐れだ

サトコ
「あの···よかったら私が淹れてもいいですか?」
「使ってあげたら、くれた方も嬉しいと思いますし」

後藤
···そうだな

茶器を持って教官室に用意されている給湯室へ向かう。
そこには日本茶に紅茶、コーヒーもあった。
私は熱いお茶を淹れ、後藤教官の元へと持っていく。

サトコ
「どうぞ」

後藤
そこに置いておいてくれ

空いたデスクの上を指差され、私はそこに湯呑を置く。

後藤
······

後藤教官はお茶に口つけることなく、レポートを読み進めている。

(···もしかして、日本茶好きじゃなかった?)
(コーヒーのほうが良かったのかな···)

そう聞こうかと口を開いた時、

石神
後藤、いるか?

後藤
はい

共用の教官室に繋がるドアから石神教官の声が聞こえてきた。
私は思わずビクッと肩を揺らしてしまう。

(べ、別にビクビクすることはないんだけど···)

後藤
どうかしたのか?

サトコ
「い、いえ!」

後藤
行くぞ。お前だけここに残すわけにもいかないからな

サトコ
「はい」


【教官室】

教官室に出ると、石神教官の他にも、東雲教官、颯馬教官、加賀教官が顔を揃えていた。

加賀
随分、長居だったな

サトコ
「少し片付けを手伝ったので···」

加賀教官の探るような目に、やましいことはないのに視線を逸らしてしまう。

颯馬
片付け手伝ってもらったんだ
よかったね、後藤

東雲
サトコちゃんがいてくれれば、後藤さんも人間らしい暮らしが送れるかもしれませんね

石神
関係のない話はあとにしろ
以前、捜査会議でもマークしていた政治家の支援団体の件だが···

(実際の捜査の話かな。どうしよう、部屋を出るタイミングが···)

出るに出られず、私は後藤教官の後ろに下がる。

石神
後援事務所を装い、そこでカジノの利益をロンダリングしている可能性がある

後藤
情報源は?

石神
お前が仕掛けた盗聴器からだ
やはり、元都知事候補だった男が出入りしているというのは本当だったらしい

颯馬
今度はその事務所に乗り込むんですね?

石神
ああ、データだけでも先に回収しておきたい

後藤
俺が行きます

石神
ひとりでは危険だ
黒澤は···海外だったか
他に何人か連れて行ってもいい
颯馬、この方面に強いSをすぐに用意できるか

颯馬
ええ、大丈夫ですよ。そういったところに入り込みやすい市民団体にツテはありますから

(エス?強いSってなんだろう)

私の疑問を察したのか、東雲教官が口を開いた。

東雲
Sっていうのはスパイ···つまり、公安のために働く協力者のこと
公安特有の隠語っていろいろあるから。そのうち勉強すると思うけど

後藤
協力者は必要ありません。俺ひとりで充分です。リスクは少ない方がいい

石神
今回の件は裏に暴力団もついている。しくじれば海に沈められて終わりだ
いざという時の連絡手段として、誰かを···

後藤
入り込む人間が増えれば、それだけ見つかる可能性も高くなります
自分のフォローは自分でした方が確実だ。心配いりません

後藤教官は強い口調で石神教官に返す。

(後藤教官くらいの腕になれば、ひとりで捜査した方がやりやすいってことなのかな···)

石神
······

加賀
やらせてやればいい。コイツの腕はお前が一番わかってんだろ

颯馬
まぁ、室長なら、そうするでしょうね

(室長?)

東雲
室長っていうのは、公安課のボスの警視正のこと

サトコ
「東雲教官、どうしてさっきから私が考えてること分かるんですか!?」

東雲
なんでだろうね

じっと見つめられ、何もかも見透かすような目に軽く身をひいてしまう。

颯馬
またからかって···
歩は人の表情から心を読むのが得意なだけですよ

サトコ
「それも公安で鍛えられたことなんですか?」

颯馬
歩の場合は天性の才の色が強いですね

(人の心を読める天才って···怖いかも···)

東雲
今、オレのこと怖いって思った?

サトコ
「!い、いえ!」

(否定したのも図星だって見透かされてる気がする···)

後藤
では、俺はこれで。任務が完了次第、連絡を入れます

後藤教官は背を向けて教官室を出て行こうとする。

サトコ
「後藤教官···!」

後藤
なんだ?

サトコ
「あっ···」

(思わず声かけちゃったけど···ど、どうしよう)

<選択してください>

 A:本当にひとりで大丈夫ですか? 

サトコ
「本当にひとりで大丈夫ですか?」

後藤
問題ない

颯馬
後藤は単独の任務の方が多いですから、心配いりませんよ

東雲
女の子を心配させるなんて、後藤さんも隅に置けないなぁ

後藤
······

 B:補佐官の仕事は··· 

サトコ
「後藤教官のいない間、補佐官の仕事は···」

後藤
他の教官の手伝いでもしていろ。いつ戻れるかわからないからな

サトコ
「わかりました」

東雲
オレの手伝いしてくれてもいいからね。色々と

サトコ
「は、はい!」

(後藤教官···なるべく早く戻ってきてくれるといいな···)

 C:気を付けてください! 

サトコ
「あの、その···気を付けてください!」

後藤
氷川···

一瞬、後藤教官が驚いたような顔を見せる。

(教官に言うべき言葉じゃなかった!?)

後藤
···ああ

颯馬
気を付けて···なんて
私のたちの間では滅多に出ない言葉なので新鮮ですね

後藤教官が任務に出る背中を初めて見送る。

(訓練じゃない本当の捜査···絶対に失敗は許されない···)
(どうか···無事に帰って来てください)

教官たちが危険な任務に就くのはめずらしいことではないのだろうけれど。
いざ、赴く姿を見ると無事を強く願わずにはいられなかった。

東雲
いいの?兵吾さん。今回の獲物は大きいかもですよ

加賀
このタイプはアイツに丁度いい

加賀教官は後藤教官が出て行ったドアに視線を送って唇の端を上げる。

颯馬
加賀さんは大物を釣り上げている最中でしたね

加賀
お前ら手ぇ出すなよ。これは俺の班の獲物だ

石神
獲物を確保してから大口は叩くんだな。お前の手に余るようであれば俺が出る

加賀
必要ねぇ。お前は指をくわえて見てろ

石神
あとで泣きつくなよ

(こ、この2人、やっぱり仲悪い···!)

違う意味の緊張が生まれた教官室に、私は思いきって教官の皆さんに頭を下げる。

サトコ
「では、私はこれで失礼します!」

東雲
そういえば、この子に話聞かれちゃったけどよかったの?

石神
守秘義務に関することは入学の時に誓約書を交わしている
それに、ここの生徒たちには遅かれ早かれ捜査の手伝いをさせることになるからな

加賀
お前が2ヶ月後に切られてなきゃ···の話だがな

サトコ
「···失礼します」

私はもう一度小さく一礼して教官室を後にした。



【教場】

後藤教官が捜査に赴いてから数日。
後藤教官の授業は石神教官が担当し、私も石神教官の補佐官となって雑用をこなしていた。

鳴子
「同じ講義でも、石神教官が担当だと鬼···」

千葉
「後藤教官は基本的に聞いていればいいけど」
「石神教官はひねった問題をバシバシあててくるから気が抜けないよな」

サトコ
「講義中、ずっと緊張してた気がするね」

(後藤教官···捜査は順調に進んでるのかな···)
(私が心配するなんて、おこがましい話なんだろうけど)

それでも、ふとした瞬間に気にしてしまうのは任務に出る姿を見てしまったからだと思う。

石神
氷川

サトコ
「はい!」

石神
資料室からこのリストにあるファイルを用意しておけ

サトコ
「わかりました」

鳴子
「サトコ、大変そうだけど、石神教官と話せるなんてうらやましい」

サトコ
「雑用手伝ってるだけだって。じゃ、次の講義でね」

私は石神教官から資料のリストを受け取ると、資料室へと向かった。

【資料室】

サトコ
「お、重い···」
「こんなに分厚いファイルを10冊も···」

次は過去の事件の分析をする講義だった。


【廊下】

両腕でファイルを抱えながら階段を下りるが、足元がよく見えない。

(石神教官の専任補佐官の人にも手伝ってもらえばよかったかも)
(いやいや、演習でダメな分、これくらいはひとりで···!)

後藤
訓練はともかく、補佐官としてはいい手際だった

(後藤教官に初めて褒めてもらえたんだよね)

あの時の後藤教官の顔を思い出し、それはすぐに任務に出たときの厳しい表情に入れ替わる。

(いつ戻ってくるのかな···)

考え事でファイルの重さを忘れた一瞬。
足元がふらつき、階段を踏み外していることに気が付く。

サトコ
「っ!」

(やばい···落ちる···っ!)

???
「危ねっ」

目を瞑った瞬間、男性の声が聞こえたかと思うと、強い腕が私を受け止めてくれた。

サトコ
「え···」

???
「大丈夫か?」

サトコ
「は、はい···ありがとうございます···」

資料ごと私を抱きかかえてくれているのは、顔だちの整った華やかな印象の男性。

(後藤教官たちも格好いいけど、またタイプが違うっていうか···)
(まるで芸能人みたい···)

華やかな男性
「お前···後藤の女か」

サトコ
「え!?」

華やかな男性
「俺が通りかかったことに感謝するんだな」

男性はフッと微笑を刻む。

(笑った顔もかなり格好いい···じゃなくて!)
(後藤の女って、どういう意味?この人、誰なの!?)

to be continued



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