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出会い編 後藤7話



【警察庁】

石神
許可のない単独行動をしたうえ、訓練中の生徒を巻き込むとはどういうつもりだ

後藤教官と共に警察庁に戻ると、厳しい顔の石神教官が私たちを待っていた。

後藤
申し訳ありません

サトコ
「石神教官、話の前に後藤教官の手当てを!腕を切られてケガをしてるんです!」

後藤
大したことない

サトコ
「大したことあります!」

後藤教官ものとにレポートを届けた2日後。
夜遅くにかかってきた教官からの突然の電話に、その時はこんなことになるとは思いもしなかった。

(今から指定する場所の近くまで車で来て、着いたら連絡してくれって···)

後藤教官から電話で呼び出された私は都内の繁華街を走っていた。

(後藤教官に言われた場所はこの近く···どこか車を停められるところを見つけないと)

路地を入ったところに時間制の駐車場を見つけ車を入れると、後藤教官に電話をかけた。

後藤
氷川、ここだ

サトコ
「後藤教官!」

後藤教官はビル街の細い路地の暗がりに座り込んでいた。

後藤
大きな声を出すな

サトコ
「す···すみません」
「なにがあったんですか?急に電話がかかって来るから驚き···」
「!!」

(腕から血が出てる!)

後藤
悪い。いつもなら都合のいい奴に頼むところなんだが、あいにく出張中でな

サトコ
「そんなことより!腕、どうしたんですか!?」

後藤
命に別状はない。すまないが、警察庁まで運んでくれ

サトコ
「でも、まず病院に行かないと···」

後藤
この程度問題ない

後藤教官の腕はタオルとハンカチで応急処置がされていた。

サトコ
「だけど刃物で切られたんですよね?応急処置だけってわけには···」

後藤
いいから、行け。命令だ

強い口調で遮られ、後藤教官の鋭い視線が私に向けられる。

<選択してください>

 A:わかりました 

サトコ
「わかりました」

後藤
面倒なことを頼んで悪いとは思ってる

サトコ
「私は後藤教官の専任補佐官なんですから、教官のために動くのは当たり前です」
「駐車場まで少し歩きますけど、大丈夫ですか?」

 B:病院に行きます 

サトコ
「病院に行きます。いくら後藤教官の命令でも聞けません」

後藤
なら、帰れ。あとはどうにかする

サトコ
「そんな···ケガしている教官を置いて帰れるわけないじゃないですか」

後藤
俺の力になってくれるなら、おとなしく警察庁に向かってくれ

サトコ
「···はい」
「駐車場まで少し歩きますけど、大丈夫ですか?」

 C:救急車を呼びます 

サトコ
「今、救急車を呼びます」

後藤
お前···いくら訓練生とはいえ、それが公安の捜査として致命的なのがわからないのか?

サトコ
「サイレンを鳴らさないで来てもらえば···」

後藤
死にそうなケガならともかく、この程度で救急車に乗れるか
心配するなら、さっさと警察庁まで乗せて行ってくれ

サトコ
「······わ、わかりました」
「駐車場まで少し歩きますけど、大丈夫ですか?」

後藤
ああ。路地から出る時、不審なヤツがいないか確認してから出るようにしろ

サトコ
「はい」

周囲に注意を向けながら車に戻り、後藤教官を乗せて警察庁へと急いだ。

石神
退き際を間違えば命取りになると言ったはずだ

後藤
ギリギリのところで退いたつもりです

石神
···落ち着き次第、報告書を出せ

後藤
はい

サトコ
「え······」

(ケガに関しては何もないの···?)

後藤教官が一礼して会議室を出ようとする。
私もそれに続こうとして、石神教官に呼び止められた。

石神
氷川、今後このようなことがあれば、すぐに俺に連絡しろ
自分の判断で勝手な行動をするな

サトコ
「は、はい」

石神
今回お前への処罰はない。行っていい

サトコ
「はい···失礼します」

石神教官に頭を下げてから、私も会議室を後にした。

サトコ
後藤教官!

すでに廊下の先を歩いている後藤教官を追いかけ声をかける。

サトコ
「今からでも病院に行った方がいいんじゃ···」

後藤
必要ないと言ってる

歩きながら返ってきた声には苛立った色が感じられた。
一瞬怯んだけれど、それでも血が滲んだ袖を見れば、心配になる。

サトコ
「無理しないでください。そのままにしておけば、捜査にも支障が···」

後藤
用件はそれだけか?

サトコ
「!」

後藤教官が立ち止まって不意にこちらを振り向いた。
その目は凍てつくような冷たさで、私の頬が強張る。

後藤
車を出させたことは悪いと思っている。だが、これは俺が抱える事件だ
お前には関係ない

<選択してください>

 A:怒る 

サトコ
「そんな言い方しなくても···巻き込んだのは後藤教官じゃないですか」

後藤
捜査員は顔が割れている可能性があった。訓練生の氷川にしか頼めなかった

サトコ
「後藤教官の役に立てるのは嬉しいです。だからこそ···」
「心配するのは当たり前です···」

 B:悲しむ 

サトコ
「そんなふうに言うなら、他の人を呼べばよかったじゃないですか」

後藤
捜査員は顔が割れている可能性があった。だから、訓練生の氷川を呼んだ
危険を冒させたのは、すまないと思っている

サトコ
「それは私だって警察官なんですから構いません。だけど、あんな姿を見たら···」
「心配するのは当たり前です···」

 C:冷静に話す 

サトコ
「···関係ないのに、どうして私に連絡したんですか?」

後藤
捜査員はすでに顔が割れている可能性があった。他の任務に就いている後輩は出張でいない
一番安全に来られるのが訓練生である氷川だった。それだけだ

サトコ
「後藤教官の役に立てたのは嬉しいです。だからこそ···」
「心配するのは当たり前です···」

後藤
不要だ

サトコ
「え?」

後藤
余計な感情は不要だ。お前も俺の専任補佐官なら、言われたことだけをこなせ
必要以上に踏み込むな

サトコ
「······」

再び歩き始めた後藤教官をもう追いかけることはできなかった。

(余計な感情···)

明確な拒絶の言葉に耳鳴りがして胸が引き絞られる。

加賀
後藤に期待すんなよ
あいつは優しいわけじゃない。無関心なだけだ

いつかの加賀教官の言葉が頭に浮かんでくる。

(期待してたわけじゃ···)
(···ううん、いつの間にか期待してたんだ)
(後藤教官ともっと話せるかも、もっと近づけるかもって)

サトコ
「後藤教官は教官として私を指導してくれてただけなんだから」

後藤
ノンキャリ同士のよしみだ

そんな言葉に親近感を持ったりした私が愚かだった。

(ただの憧れが通用するような甘い世界じゃない)
(後藤教官は私と違う世界にいる人···私の声が届くわけないんだ···)



【中華料理店】

それからというもの、後藤教官に補佐官としての仕事を頼まれることもなくなった。

(後藤教官の授業も最近ないから、学校に出てきてるのかすらわからないし···)
(また危険な任務に就いてるのかな)

元気を出そうと思って、学校近くのお気に入りの中華料理屋さんにやってきたものの。
思考はすぐに切り替えられず、気が付けば料理を待っている間も悶々と考えてしまう。

店員
「餃子定食お待ち!餃子、1コおまけしといたよ!」

サトコ
「ありがとうございます」

(後藤教官のことを考えても仕方ない!)
(私は自分のことを精一杯頑張らないといけないんだから)

2ヶ月後の中間審査まで、あまり間もなくなっている。

(後藤教官に胸を張って報告ができるように···って、また教官のこと考えてる···)

サトコ
「はぁ···」

一柳昴
「餃子定食食いながら溜息とか···辛気臭くせぇ女だな」

サトコ
「すみません······えっ?」

一柳昴
「アイツの手伝いなんてやってるから辛気臭さが移ったんじゃねーのか?」

聞き覚えのある声に隣のテーブルを見ると、一柳教官と颯馬教官が座っていた。

サトコ
「一柳教官···颯馬教官も···今いらしたんですか?」

一柳昴
「お前が来る前からここに座ってたけど?」
「ぼんやりしてて全然気づいてなかったみたいだけどな」

颯馬
昴に気付かない女の子もこの世に存在するんだよ

一柳昴
「別にそういう意味じゃないですよ」

サトコ
「一柳教官と颯馬教官、部署が違うのに仲がいいんですね」
「公安課と警備課って仕事で組むことが多いんですか?」

颯馬
昔、同じ部署にいたことがあるんです。私と昴と後藤は

サトコ
「え···初耳です」

(確かに後藤教官と一柳教官は古くからの知り合いみたいな雰囲気だったけど···)

颯馬
昴と後藤は昔からいい組み合わせでね。警視庁でも有名な名コンビだったんですよ

一柳昴
「冗談やめてくださいよ、周さん」
「それにそいつには後藤と話してるトコ見られてるから無駄です」

颯馬
一番仲がいい所を見てるなら、私が説明するまでもなかったですね

(ケンカがするほど仲がいいとは言うけど···)

一柳教官と話している時の後藤教官は本気で不機嫌だった気がして内心首を傾げる。

サトコ
「あの···後藤教官、最近学校に来てないように見えるんですけど···」
「捜査に出ているんですか?」

(事件に関することは教えてもらえないかもしれないけど)

颯馬教官と一柳教官は一瞬顔を見合わせてから、こちらを向く。

颯馬
先日、サトコさんが後藤を拾ってくれたそうですね

一柳昴
「訓練生の手を借りるとは、アイツもしょうがねー奴だな」

サトコ
「···あの時、後藤教官、腕をケガしていたんです。大丈夫かなって···ずっと気になってて」

颯馬
後藤でしたら元気に捜査に向かっているので心配はいりませんよ

一柳昴
「無茶ばっかすんなって話だよな」
「いつまで1つの事件に拘ってんだか···」

颯馬
彼にとっては重要な事件なんです。仕方ないでしょう

(後藤教官にとって重要な事件···)
(それが今回追っている事件なの?)

少し前に射撃場で交わした後藤教官との会話。

後藤
成し遂げたいことがある

ふとその言葉が思い出される。

一柳昴
「いちいち暗いんだよ。言葉だって足りねーし」
「アイツの言うことはあんまり気にするな。まともに取り合うだけ損だからな」

サトコ
「教官の言葉をまともに取り合わないって難しいです」

颯馬
サトコさんは素直な生徒ですからね
あなたが補佐官になってから、後藤も少し変わったように見えますよ

サトコ
「そうでしょうか···」

(必要以上に踏み込んでくるなって言われたのに)
(私が後藤教官を変えることなんてできたのかな···)

颯馬
あなたたちは意外といい組み合わせなのかもしれませんね
サトコさんがいてくれると、いつも綺麗なハンカチが持てますし

一柳昴
「それは人間として最低限必要なことだな」

サトコ
「そ、そんなにですか!?」

一柳昴
「ハンカチの乱れは心の乱れだ。覚えておけ」

サトコ
「は、はい」

(一柳教官は後藤教官と違ってしっかりしてるタイプなのかも)

改めて一柳教官を見ると、髪型からワイシャツ、スーツまで一分の隙もない。

一柳昴
「後藤はそのうち戻ってくる。気にするんじゃねーよ」

颯馬
サトコさんは審査に向けて頑張ってください

一柳教官は私に特製餃子特盛を注文すると席を立った。

一柳昴
「お前、どうせ大食いなんだろ?特製餃子腹いっぱい食べて今日はさっさと寝ろ」
「食って寝るのが一番だ」

サトコ
「一柳教官···ありがとうございます!」

一柳教官と颯馬教官は私の会計までしてくれていく。

(教官たちが心配ないって言うなら、後藤教官は大丈夫なのかな)
(悩んでいても前には進めない···私は自分にできることをやるしかないんだ)


【教官室】

相変わらず後藤教官とは顔を合わせない日が続いていた。

(今日あたり出てくるんじゃないかって颯馬教官が言ってたから···)

おばあちゃんからまた送られてきた仕送りのおすそ分けと
救急セットを入れた紙袋を教官室の個室のドアノブにかける。

(余計なことって思われるかもしれないけど···)

後藤教官の部屋で過ごした日々がひどく遠くに感じられた。

【廊下】

教官室から戻ってくると、廊下の向こうから鳴子が駆けてくる。

(かなり慌ててるみたいだけど、どうしたんだろう)

鳴子
「サトコ、大変!」

サトコ
「どうしたの?」

鳴子
「この学校の校長が···警察庁の局長が拉致されたんだって!」

サトコ
「!」

(局長が拉致···!?)
(なんでそんなことに···)

to be continued

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