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出会い編 後藤9話



【アジト】

犯人の男
「柳田さん、女を連れてきました」

データの受け渡し場所に現れた男に連れてこられのは、住宅街から少し離れた廃校だった。
教室では柳田と呼ばれた主犯格らしき若い男と、
メガネをかけた男がノートパソコンを広げている。

(廃校をアジトに使ってるなんて···局長もこの学校のどこかに監禁されてるのかな)

柳田
「名前を呼ぶなと言っただろう」

犯人の男
「いいじゃないですか。オレたちが勝つに決まってるんですから。ねえ、皆本さん」

皆本
「僕は構わないが、ならお前も名乗っとけ」

犯人の男
「はは、俺は寺内です。捜査員のお嬢さん」

サトコ
「···警察を舐めていると痛い目を見ますよ」

寺内
「学生みたいな顔をして、言うことだけは一丁前なんですね」

柳田
「女の所持品は調べたか?」

寺内
「もちろんです。携帯1つ持たせていません」

柳田
「皆本、どうだ?この女に発信器はついていないか?」

皆本
「ふむふむ···大丈夫そうだね。この場所からの発信は何も確認されていない」

柳田
「さて···約束のものを渡してもらおうか」

私に向かって柳田という神経質そうな顔をした男が手を差し出してくる。

(会話の感じからして、この男が主犯格)
(普通の男たちに見えるけど、一度に男3人を相手にするのは無理だろうな)

用意されたROMを手渡しながら、私は教官たちの言葉を思い出していた。

石神教官たちは犯人と交渉し、データと局長の引き渡し場所を決めた。
私はデータの整合性がとれるまで、人質として犯人に連れて行かれることになっている。

後藤
今回、GPSは使用しない。簡単に気付かれるだろうからな
代わりに、こちらで選んだ精鋭の捜査員が
氷川と引き渡し場所に現れる犯人を尾行していく

サトコ
「はい、わかりました」

後藤
氷川は犯人と接触後、こっちが用意した会話で時間を稼げ
その会話内容から必要な情報を引き出し、局長の居場所を特定、保護に向かう

サトコ
「話すことはしっかり覚えたので、任せてください」

後藤教官に強く頷くと、インカムから石神教官の声が聞こえてくる。

石神
氷川、この通信が終わったらインカムは後藤に渡せ

サトコ
「わかりました」

石神教官と東雲教官は学校のモニタールームで捜査の指示を。
後藤教官と颯馬教官は現場に出ていて、加賀教官のことは私にはわからない。

石神
データの引き渡し場所からエリアに分け、細かく捜査員を配置してある
お前たちが向かう場所がどこであれ、迅速に対応できるはずだ

サトコ
「はい」

石神
同時に颯馬の方でも協力者から犯人周辺の情報収集を進めている。あとはお前の技量次第だ

(今回は訓練じゃない。絶対に失敗はできない···)

石神
そろそろ時間だな···では、全員配置につけ

サトコ
「了解!」

後藤
了解

同期たち
『了解!』

石神教官の一言で捜査員と同期たちが街に散っていく。
私はインカムを外すと後藤教官に渡した。

後藤
···不安か?

<選択してください>

 A:いいえ 

サトコ
「いいえ。教官の皆さんと···後藤教官との任務ですから不安はありません!」

後藤
ああ、お前が不安に思うことは何もない。打ち合わせ通り進めれば必ず成功する

 B:はい 

サトコ
「···はい。嘘をついても分かってしまうと思うので」
「初めての公安捜査員としての任務ですから、不安もあります」

後藤
それが当たり前だ
不安を自覚すれば対処もできる
氷川は俺たちを信じて、自分の任務を成功させることに集中しろ

 C:聞かないでください 

サトコ
「聞かないでください。弱音は吐きたくないので」

後藤
氷川らしいな。不安に思うのは当然だ
だが、お前には俺たちがついている
自分の任務に集中すれば、必ず成功する

サトコ
「はい!」

後藤
無茶はするな。必ず追いかける

一瞬だけ、インカムを受け取った後藤教官の手が私の手を勇気づけるように握ってくれた。

(いよいよ作戦開始···大丈夫、後藤教官もいてくれる···)
(ここまできたら、やるしかない!)

【アジト】

柳田
「皆本、このROMを調べろ」

皆本
「当然当然。警察は狡猾だからな。ダミーデータの可能性も十二分にある」

柳田がROMを皆本に渡すと、皆本はROMをパソコンに入れて調べ始めた。

寺内
「もっとオレの手柄を讃えてくれてもいいじゃないすか?」
「各方面からの追跡を、最後はアイドルイベントを通り抜けることで」
「まんまと撒いたんですから」

柳田
「当たり前だ。警察が尾行をつけていないわけがないだろう」

寺内
「だからこそ、突発イベントの人混みを利用した機転を誉めてほしいものなんすけど···」

サトコ
「······」

(捜査員を全員撒いたなんて···実際はどうなんだろう)
(この人たちより、教官たち捜査員の方が上だと思う)
(後藤教官を信じて、予定通り進めるしかない!)

不安な気持ちを打ち消して、私は時間を稼ぐために口を開く。

サトコ
「公安の機密データなんて、何のために必要なんですか?」

柳田
「そんな話をわざわざ聞かせてやると思ってるのか」

皆本
「話を逸らそうったって無駄だよ。僕にかかれば、ダミーデータだったらすぐにわかるからね」

寺内
「皆本さんはFBIからスカウトが来るほどの天才ハッカーなんだ」
「お前たち警察の小細工なんて、すぐに見破るさ」

サトコ
「本物のデータですから、問題ありません」

そう答えながらも、内心で冷や汗を垂らす。

(すぐにはわからないようにしてあるとは言ってたけど、データはダミーに違いない)
(バレるのも時間の問題かも···それまでに、局長を保護しないと···)

皆本
「んー···へぇ、めずらしく本物を持ってきたみたいだね」

(あれ、バレてない···?)

柳田
「さすがに警察庁局長の命は危険にさらせないと踏んだか」

皆本
「OK、こっちは問題ナシ。予定よりちょっと早いけどいいか」
「ここをクリックすれば、局長を監禁してる倉庫ごと、ドーン!だよ。ハハハッ!」

サトコ
「ま、待ちなさい!」
「そんなことをしたら、あなたたちは本当に取り返しのつかないことになります!」

皆本
「余計な心配をありがとう。心配しなくても、楽しみは最後にとっておくよ」

柳田
「始末するのは、まずは公安に見捨てられたお前からだ」

サトコ
「!」

柳田がサバイバルナイフを取り出し、私に向ける。
幸い拘束はされておらず、女であることで油断を誘えたのかもしれない。

サトコ
「公安の機密データは渡したはずです。あなたたちの目的は達成されたのでは?」

柳田
「初めから公安のデータそのものに興味などない」
「奴らに恥をかかせるために手に入れただけだ」

サトコ
「···どういう意味ですか?」

(想像してた流れと違う···けど、ここで慌てたらいけない)
(私の役目は、とにかく教官たちが到着するまで時間を稼ぐこと)

サトコ
「あなたたちには···何か別の目的があるんですね」

柳田
「公安への復讐だ。初めから局長も殺す予定だ」

サトコ
「怨恨ですか···」

柳田
「お前たち警察とまともに話す気はない」

皆本
「女の公安刑事なんて楽しむには最高の素材だな」
「警官でも男には勝てないってこと、たっぷり教えてやるよ」

寺内
「え、そういう展開すか!?それなら俺も混ぜてくださいよ」

サトコ
「······っ」

ニヤニヤとした表情で寺内は私を見つめる。

柳田
「くだらないことを考えるな。クズと同じになるぞ」

皆本
「ここに来るまで、かなりの労力を使ったんだ。少しくらい楽しんだって···」

柳田
「黙れ。女はここで始末する」

ナイフを構えた柳田が1歩1歩近づいてくる。

(どうすれば···)

<選択してください>

 A:色仕掛けで誘う 

(色仕掛けで誘って、仲間割れを狙ってみよう!)

サトコ
「ま、待って。どうせ死ぬなら、その前に楽しい思いをしたい」

皆本
「だってよ、柳田。可愛そうな女の最後の望みくらい叶えてやろうじゃないか」

寺内
「そうっすよ、柳田さん。公安の女をヤるなんていい仕返しじゃないすか」

柳田
「黙れ。私を下衆共と一緒にするな」
「死ね!」

 B:拳を構える 

(闘って時間を稼ぐしかない!)

私は拳を構える。

(体術は得意じゃないけど、学校での訓練を思い出せば少しは闘えるはず!)

柳田
「勝てると思うのか?だから、警察というのは嫌いなんだ」
「自信満々な奴らばかりでな!」
「死ね!」

 C:命乞いをする 

(刺激しないためにも、命乞いする作戦でいってみよう!)

サトコ
「お願いです、命だけは助けてください!公安の刑事と言っても私は新人なんです」

柳田
「関係ないな。公安の一員であることに変わりはない。運が悪かったと思え」

サトコ
「そんな···私は公安のために死にたくないです!」

柳田
「そんな覚悟もなく刑事になるとは···ますます生きている価値がない」
「死ね!」

サトコ
「!」

柳田が強く地を蹴る。
致命傷だけは避けたいと身構えた、その時ーーー

ドンッ!

乾いた銃声が耳を貫いた瞬間、柳田のナイフが弾き飛ばされた。

後藤
動くな!

サトコ
「!」

柳田
「!?」

響いた声に後ろを振り向くと、そこには肩で息をしながら後藤教官が銃を構えていた。

サトコ
「教官···!」

柳田
「何だと···!」
「寺内ぃぃぃ!!警察は撒いたんじゃなかったのか!?」

寺内
「そ、そのはずだったんすけど···!」
「皆本さんが見落としてるんじゃ···」

皆本
「ふざけたことを言うな!この僕に限って、そんなこと···」

後藤
うちの『天才』を超えるハッカーがいなくて助かった

皆本
「なに···?」

不敵な笑みを浮かべる後藤教官に、皆本が手元のパソコンに視線を落とす。

皆本
「なっ···何だコレは!」

柳田
「どうした!?」

皆本
「ぼ、僕のパソコンが···ウイルスに···!ROMに何か仕込んだなぁ!!」

東雲
あーあ、もっと抵抗してくれれば面白かったのに

サトコ
「···?」

皆本
「なっ!どこから···!」

後藤
アンタのパソコンからだろ

皆本
「僕の、僕の大切なマシンを勝手に動かすな!」

東雲
悪いけど、これは乗っ取ったよ
キミが見たダミーデータから逆探知させてもらったんだ

柳田
「ダミーだと?このデータは本物だと言っていたじゃないか!どういうことだ、皆本!」

皆本
「だ、だって、僕の解析では正規のデータだと···」

石神
データに20%ほど、漏洩しても差し支えのない本物の情報を入れておいた
それを解析して、正しいデータだと判断したんだろう

モニタールームにいるであろう石神教官の声もパソコンから聞こえてくる。

皆本
「ぐっ···しかし、こっちには最後の手段があることを忘れるなよ!」

サトコ
「···!」

(そうだ···局長の部屋が···!)

後藤
······

皆本の元に走ろうとした私を後藤教官が腕をつかんで止めた。

サトコ
「後藤教官!?止めないと···!」

皆本
「ハハハ!局長はこれでおしまいだ!」

皆本がマウスに手を伸ばしてクリックする。

サトコ
「そんな···っ」

皆本の高笑いが響く中、掴まれた腕に力がこもる。

皆本
「ハハハッ!!!これで局長も木端微塵に···」
「な、なんだ···?これは···」

皆本の慌てた声に、周りの仲間も不思議そうな顔を向ける。

東雲
ああ、言い忘れたけど
逆探知するときにこのマシンのデータも吸い取らせてもらったから
そこから局長の監禁場所を調べて、鍵の暗証番号なんかも全部手に入れたよ

皆本
「な、な、な···っ」

後藤
局長はすでにこちらで保護済みだ

寺内
「ちょっとぉ!どういうことすか!」
「柳田さんの言う通りにしてれば万事うまく行くって話だったのに!」

皆本
「この僕が負けるなんて···!負けるなんて!!」

後藤
警察庁局長拉致監禁、及び脅迫・殺人未遂の疑いで逮捕する

先に地面に膝をついた寺内と皆本に後藤教官が手錠をかけた。

柳田
「私は···私はこんなところで終わらん!!」

サトコ
「教官!柳田が逃げます!」

柳田は窓を開けると、2階の高さから飛び降りる。

後藤
こっちは他の捜査員に任せ、俺とお前で柳田を確保する
行くぞ、氷川!

サトコ
「はい!」

私たちが追いかけると同時に、教室の中に捜査員が入り皆本と寺内を連行して行った。



後藤
角のビルを左に入った。追い込むぞ

サトコ
「はい!」

後藤教官が他の捜査員に指示を出しながら追跡し、柳田の逃走ルートは予測されたものだった。

柳田
「くっ···」

角を曲がろうとしたところで柳田が足を止める。

後藤
すでに捜査員が回り込んでる。もう逃げ場はない

柳田
「くそっ!」

柳田が逃げ場を必死に探していた時だった。

子ども
「先生、さようならー」
「ばいばーい」

ビルに入っていた学習塾が終わりなのか、小学生の男の子が下りてくる。

サトコ
「危ない···!」

柳田が子どもに手を出すのと同時に、階段に立てかけてある竹ホウキを咄嗟に手に取った。

サトコ
「子どもに手を出さないで!」

柳田をホウキで突くと、ドサッと勢いに負けて倒れる。

柳田
「くっ···貴様ぁぁ···!」

後藤
諦めろ、柳田

柳田
「諦めない···!私は諦めないぞ···!」

柳田がスーツの中に手を入れるのを見て、
後藤教官が何かに気付いたように、近くにいた子どもを建物の陰に突き飛ばした。

後藤
サトコ!

サトコ
「え?」

柳田
「全員死ねえぇっ!!」

耳を貫く銃声。

その音を聞くと同時に、私は後藤教官に強く抱きしめられていた。

サトコ
「教官っ!!」

目の前を鮮血が散ったーーー

to be continued



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