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出会い編 後藤シークレット2



エピソード 6.5
「パジャマとローズマリーに挟まれて」

【寮監室】

後藤教官にハンカチと実家からのお裾分けを届け、そのまま少しお茶を飲むことになった。
ハンカチのアイロンがけを中断し、コーヒーで休憩する。

後藤
これを食べるのは久しぶりだ

サトコ
「あんまり食べる機会ないですよね」

後藤
たまに食べると美味いもんだな

サトコ
「はい。私も上京してから、急に食べたくなってスーパーで買ったりしてました」

干し柿の懐かしい味に舌鼓を打つ。
少し間を置いて教官はコーヒーを飲み始めてくれる。

サトコ
「教官はお茶よりコーヒー派ですか?」

後藤
いや···日本茶も好きだが···

サトコ
「あれ?そうなんですか?」

(あの時は、お茶を飲みたい気分じゃなかっただけかな?)

和やかな時間を楽しんでいると、ドアがノックされると同時に開けられる。

一柳昴
「後藤、さっき渡し忘れたもんがある」

サトコ
「一柳教官···」

書類を片手に入ってきたのは一柳教官だった。

後藤
もうボケたのか

一柳昴
「あぁ?そんなもん食ってるヤツに言われたくねーな」

サトコ
「私が持ってきたんです。田舎のおばあちゃんが送ってくれて···」

一柳昴
「ああ、そういうことか···お前、なんか干し柿に合うしな」

一柳教官は書類をデスクに置きながら、フッと見惚れるような笑みを浮かべる。

(干し柿が似合うって誉められてる?···誉められてないよね?)

一柳昴
「それはクルミと一緒にケーキにすると触感が良くなるから試してみろ」

サトコ
「へ~!一柳教官、物知りなんですね」

後藤
用事が済んだなら、さっさと帰って愛しのローズマリーの世話でもしてろ

一柳昴
「オレは氷川と話してんだよ」
「お前こそ、目障りだからさっさとクソダサいパジャマに着替えて寝てろ」

(またローズマリーとパジャマって···何の話なんだろう?)

後藤・一柳
「氷川、お前もそう思うだろ?」

サトコ
「え?」

言葉の意味を考えていたら、振られる前の会話を聞いてなかった。

(ちょっと···聞いてみようかな)

サトコ
「あの···そのローズマリーとパジャマって何なんですか?」
「お二人の愛称かなって思ったんですけど···ちょっと不思議だったので」

一柳昴
「愛称なんて可愛いもんじゃねぇよ」

後藤
コイツが先にフッかけてきたんだ

一柳昴
「お前が先だろ」

サトコ
「えっと、その理由は···」

再び言い合いが始まりそうになり理由を問うと、揃って嫌な表情を浮かべた。

(聞いちゃいけないことだった?)

一柳昴
「まだ刑事部にいた頃の話だ」
「コイツ、仮眠室からパジャマで出てきて仕事を始めようとしたことがあんだよ」

後藤
パジャマじゃなくて、仮眠用のシャツだ
それに、あれは気になることがあって書類を確認しに行っただけで
仕事を始めようとしたんじゃねーよ

一柳昴
「寝グセのボサボサ頭だったくせに、よくそんなこと言えるな」

後藤
日頃からローズマリー柄のハンカチを持ち歩いてるヤツより、よっぽどマシだ

(パジャマっぽいシャツ···花柄のハンカチ···)
(なるほど。それでこの呼び方なんだ)

後藤
お前のお気に入りのハンカチなんだよな?

一柳昴
「···貰いもんを使ってやってるだけだ」
「オレはお前と違ってモテるからな」

後藤
やはりボケてるらしい

一柳昴
「あぁ?」

後藤
文句あるのか?

(どんな話かと思ったら、意外と可愛い争いっていうか···)

睨み合う2人の向こうに颯馬教官の笑顔が浮かぶ。

(颯馬教官が言ってた『ケンカするほど仲がいい』って言葉がわかって気がする)

ある意味馬が合っていなければ、ここまでテンポのいい言い合いもできないだろう。

サトコ
「仲がいいんですね」

後藤・一柳
「よくない!」

サトコ
「ふふっ」

後藤・一柳
「······」

声を重ねた2人は気まずそうに視線を逸らせる。
すると、一柳教官がアイロンに気が付いた。

一柳昴
「お前、訓練生にアイロンがけさせてんのか?」
「雑用係にしてんじゃねーよ」

後藤
お前には関係ない

一柳昴
「氷川、お前もお人好しすぎる」

サトコ
「いえ、これは私から申し出たことで···」

一柳昴
「それに、このアイロンのかけ方は何だ」

サトコ
「な、何か問題が···」

一柳昴
「反吐が出るほど甘いな」

一柳教官はぴっとハンカチを引っ張ってからアイロン台に置くと、
華麗な手つきでアイロンがけを始める。
それはまるでオーケストラを自由に操る名指揮者のようだった。

(凄い···あんなに綺麗に···!)

一柳昴
「あらかじめハンカチの縫い目を整えておくことがコツだ」
「それから素材に合わせて温度調整をし、低い温度から温めていく···」

サトコ
「私がアイロンをかけたハンカチとは全然仕上がりが違います!」

(アイロンがけ1つで、こんなに差が出るなんて···)

サトコ
「一柳教官は、どうしてこんなにアイロンがけが上手なんですか?」

一柳昴
「それは···」

後藤
アイロンがけが趣味なんだろ。寂しい奴だ

一柳昴
「そんなワケねーだろ!」
「···ったく、ムダな時間を過ごした。その書類、確認して石神に渡しておけよ」

面倒そうな顔をしながらも、アイロンをきっちり片付けてから一柳教官は部屋を出て行った。

(一柳教官って几帳面なんだな···その辺は後藤教官と正反対みたい)

そんなことを思っていると、隣で後藤教官が大きく溜息をついた。

後藤
息抜きのつもりが台無しだ

サトコ
「そうですか?でも、お二人楽しそうでしたよ」

後藤
氷川まで周さんみたいなことを言うな
さっきのこと···誰にも言うなよ

サトコ
「さっきの···あ、は、はい」

(パジャマで仮眠室から出て来たって話だよね?)
(後藤教官は違うって言ってたけど、本当はどうなのかな)

寝起きでぼんやりしている姿は意外と簡単に想像できて、自然に顔が緩んだ。

後藤
···何を考えてる

サトコ
「いえ、な、なにも!干し柿とクルミのケーキ美味しそうだなって···」

(後藤教官の寝起きを想像してたとは言えない···)

後藤
あの男も面倒な奴だ。いちいち構うな

サトコ
「はい···」

(後藤教官と一柳教官って不思議な仲なんだなぁ)
(男同士の友情って、こんな感じなのかな)

サトコ
「コーヒー冷めちゃいましたね。淹れ直しましょうか?」

後藤
いや、これでちょうどいい

口にするコーヒーはぬるいのを通り越して、少し冷たくなっていたけれど。
そのまま飲む後藤教官に、私も席を立つとアイロンがけの続きを始める。

(縫い目を整えてから、低い温度で···)

一柳教官のアドバイスのおかげで、綺麗にピシッとしたハンカチに仕上げることができた。

Secret End



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