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出会い編 後藤シークレット3



エピソード 10.5
「教官と付き合ったら」

【後藤マンション】

後藤
サトコ···

サトコ
「後藤教官···」

名前を呼ばれて顔を上げると、優しく微笑む後藤教官と目が合った。

(あれ?私···たしか後藤教官のお見舞いに来て、おかゆを作って···)

後藤
どうした?そんな夢でも見ているような顔をして

サトコ
「私、お見舞いに来て···」

後藤
ああ、アンタのおかげで元気になった
礼をしないとな

サトコ
「お礼だなんて···教官が元気になってくれれば、それで充分です」

後藤
そういうわけにはいかない。わざわざ家まで来てくれたんだ
このまま帰すわけにはいかない

後藤教官の手が頬に触れる。
しばらく無言で交わされる視線。

(後藤教官って、こんなに熱い目をする人だったっけ···?)

後藤
真っ赤になって可愛いな

サトコ
「え!」

目を細めて笑みを浮かべる後藤教官にますます頬が熱くなる。

(可愛いとか···嬉しいけど、え?)

戸惑う私を余所に、後藤教官が私を抱き上げた。

サトコ
「お、降ろしてください!こんなことしたら傷に障ります」

後藤
言っただろ、アンタのおかげで元気になったって

サトコ
「元気になるのと、傷がふさがるのは別の話じゃ···」

後藤
なら、確かめてみるか?

私を抱き上げたまま、後藤教官は隣の部屋につながるドアを開けた。


【寝室】

(ここが後藤教官の寝室···寝室は全然散らかってない)

床に本が積み上げられることもなく、ベッドも綺麗に整えられている。
私はそっとベッドの上に横たえられた。

サトコ
「教官···あ、あの···!」

後藤
確かめたいんだろ?

私の制止の声も聞かず、教官は服を脱ぎだした。

サトコ
「ほ、本当にダメ···!」

両手で顔を覆ったものの、つい指の隙間から覗いてしまう。

(あれ?脇腹にケガをしたはずなのに本当に何もない···)
(傷跡もないなんて、そんなことある?)

後藤
触ってみろ

サトコ
「あ···」

服を脱ぎ落した後藤教官がベッドに膝を乗せる。
軋んだ音と共に、その素肌に手を導かれた。

(わ、すごく鍛えられてる···って、そうじゃなくて!)

後藤
どうだ?

サトコ
「えっと···その···逞しいです···」

後藤
ここも触れ

手が教官の厚い胸板に移される。

後藤
鼓動が速くなってるのわかるか···?

サトコ
「は、はい···」

後藤
アンタのせいだ
サトコを想って、こんなふうになった···

熱っぽい掠れた声には余裕が感じられない。

後藤
アンタのことも確かめたい

サトコ
「で、でも、私はケガしてないです。後藤教官のおかげで···」

後藤
誠二

サトコ
「え?」

後藤
教官ではなく、誠二と呼べ

サトコ
「そ、そんなの!無理です!」

後藤
なら、呼ばせてやる。ベッドの中でな···

(え、え···えええええっ!?)

見たこともないほど甘い表情を浮かべた後藤教官の顔が近づいてーーー

サトコ
「ま、ま、待って!早まってはいけません!」

後藤
氷川、どうした?

サトコ
「へ···?」

目を開けると、後藤教官が心配そうな顔で私を覗き込んでいる。

サトコ
「誠二···」

後藤
···俺の名前は確かに誠二だが···いきなり呼び捨てか?

サトコ
「えっ?あ···あれ!?」

周囲は雑然としていて、ここがリビングだと分かる。
私はソファに横になっていたらしい。

(さっきの···夢···!?)
(私はなんてものを···!)

サトコ
「い、今何時でしょうか···」

後藤
5時過ぎだ

(3時間くらい眠っちゃってたんだ···)

サトコ
「すみません!」

後藤
いや、俺の方こそいろいろしてもらって悪い

(おかゆを食べてもらって洗濯してたら、後藤教官が眠っちゃって···)
(起きたら帰ろうと思って待ってたら、私が寝ちゃったんだ)

身体を起こすと、後藤教官にかけていたブランケットが落ちる。

(あ···かけてくれたんだ···)

サトコ
「お見舞いに来たのに、寝転げちゃって恥ずかしいです」

後藤
アンタも事件のことで疲れてるんだろ
あんまり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしておいた

サトコ
「教官の顔色がよかったので安心したのかもしれません」

後藤
それにしても、慌てたような顔ばかりしていたが、事件の夢でも見てたのか?

サトコ
「そ、それは···」

(まさか教官に迫られる夢を見たなんて言えない···!)

サトコ
「よく覚えてないんですけど、たぶんそんな感じかと···」
「長居してすみませんでした。すぐに帰りますね」

ブランケットを畳んで立ち上がると、グゥっとお腹が鳴ってしまった。

サトコ
「あ···」

(恥ずかしい···!そういえば、お昼食べてなかったんだ···)

後藤
俺におかゆを作ってくれたが、アンタは何も食べてなかったんじゃないか?

サトコ
「寮の夕飯の時間には間に合いますから、帰って食べます」
「教官は夕食はどうするんですか?」

後藤
出前かコンビニで済ませるつもりだ

サトコ
「胃の調子大丈夫ですか?もしよかったら、夜のおかゆも作って帰りますけど···」

後藤
さすがに、そこまで面倒見てもらったら悪い

サトコ
「教官が食べてくれるなら、私も一緒にいただこうかなって···」
「さっきよりは普通のご飯にします。味噌仕立てのタマゴおじやとかはどうですか?」

後藤
···それを聞いたら、俺も急に腹が減ってきた
夕飯も作ってもらっていいのか?

サトコ
「もちろんです!食べられそうならフルーツとか買ってきましょうか?」

後藤
そうだな···バナナでもあれば助かる。あれは剥くだけで食えるから便利だ

サトコ
「分かりました。他にも必要なものがあれば買ってきますよ」

後藤
···悪いな。俺の補佐官ってだけで、いろいろ手伝わせてしまって

サトコ
「気にしないでください。いつもお世話になってるお礼です」

お礼という言葉に、さっきの夢を思い出す。

後藤
ああ、アンタのおかげで元気になった
礼をしないとな

夢の中のひどく甘い表情が、目の前の後藤教官の顔と重なった。

サトコ
「······」

後藤
俺の顔になにかついてるか?

サトコ
「な、なんでもありません!」

後藤
顔が赤い···うたた寝で風邪でも引いたか?

スッと教官の手が額に当てられて、私は肩を大きく揺らしてしまった。
正夢になったような感覚に、ドキドキと鼓動が早まる。

後藤
手、冷たかったか?

サトコ
「は、はい、大丈夫です!教官はベッドに戻った方がいいですよ!」
「買い出しして夕飯が出来たら起こすので、それまで眠っててください!」

後藤
あ、ああ···分かった

後藤教官は早口で話す私を不思議そうに見る。
そして、夢とは反対に私が後藤教官を寝室に連れて行く。

(はぁ···あんな夢を見るなんて···もう、しっかりしないと···)
(でも···ちょっとだけ幸せだったなぁ)

後藤教官の寝室は夢とは違い、あちこちに本が積まれていた。

Secret End



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