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恋の行方編 後藤3話



【SPルーム】

仙崎国土交通大臣の警護を終えSPルームに戻ってくると、自然と息が漏れた。

藤咲瑞貴
「お疲れさまです」

秋月海司
「いきなり警護の任務は大変だったろ」

サトコ
「SPの仕事がこんなに緊張するものだとは知りませんでした」

広末そら
「警護中っていっても、今は厳戒態勢でもないから気楽な方だよ」

桂木大地
「気楽とはなんだ。いかなる時も気を抜くなと言ってあるはずだ」

広末そら
「フルで緊迫してないってだけの話ですよ」

一柳昴
「初日にしては、まずまずだったな」

藤咲瑞貴
「お茶いかがですか?コーヒー、紅茶、烏龍茶、ジャスミン茶、プーアル茶···」
「もちろん緑茶も取り揃えてますよ」

サトコ
「たくさん種類あるんですね」

秋月海司
「瑞貴の趣味だよな」

藤咲瑞貴
「お茶請けにはしば漬けチョコがオススメです」

サトコ
「し、しば漬けチョコ?」

藤咲瑞貴
「意外とイケますよ。飲み物は何にしますか?」

サトコ
「あ、それじゃ、ジャスミン茶を···」

藤咲さんがお茶の用意を始めてくれる。

(桂木班ってアットホームな雰囲気···これが優秀な警護チームの秘密なのかな)

広末そら
「にしても、あの大臣ウザかったな~。典型的な古臭い政治家タイプ」

一柳昴
「後藤も心にもないこと言いやがって」

後藤
何の話だ

一柳昴
「日本のため大臣のため、命を捧げる覚悟はできてる···か?」
「嘘つくんじゃねーよ」

後藤
お前の身辺を探るために警護についてるとでも答えればよかったか?

広末そら
「だけどステレオタイプの政治家は思考回路も分かりやすいから、助かるっていえば助かるよね」

藤咲瑞貴
「自尊心をくすぐるようなことを言えば上機嫌ですからね」
「お茶どうぞ」

サトコ
「ありがとうございます」

(皆さん、SPルームに戻った途端、結構本音を言うんだな)
(私も仙崎大臣のことは少し嫌な人だと思ったけど)

桂木大地
「まったく···訓練生がいるんだ。口を慎め」

広末そら
「今のうちに現実知っておいた方がいいでしょ」

後藤
氷川、コイツらの口の悪さは勉強しなくていいからな

サトコ
「は、はい···」

広末そら
「それにしても、教官って大仰じゃない?訓練生とはいえ、サトコちゃんも警察官なのにさ」

サトコ
「学校では皆、教官って呼んでますけど···」

一柳昴
「まったく、お偉くなったもんだよな」

後藤
お前だって校内では教官扱いだろうが

桂木大地
「後藤と氷川は今日の報告書を次来る時に提出してくれ」

後藤
わかりました

サトコ
「はい、わかりました」

広末そら
「じゃあ仕事も終わったことだし、サトコちゃんの歓迎会といきますか!」

サトコ
「そんな、歓迎会なんて恐れ多いです!少しの間お世話になるだけなのに」

広末そら
「少しとはいえ、桂木班の一員になるんだから歓迎しないと~」

後藤
帰るぞ、サトコ

サトコ
「え···」

(今、サトコって···久しぶりに名前で呼ばれた···)

前に名前で呼ばれたのは、後藤教官の部屋にお見舞いで行った時だったと思う。

(私、ドキドキしすぎだって!教官だってなんとなく呼んでみただけに決まってる!)

後藤教官は私の手を掴むとSPルームを出ていく。

サトコ
「失礼します!」

広末そら
「あー!勝手にサトコちゃんを連れてくなよー!」

ドアの向こうから広末さんの声が飛んできたが、後藤教官は聞く耳を持たず先へと進んでいった。

サトコ
「こんなふうに出て来ちゃって大丈夫ですか?」

後藤
あいつらと馴れ合う必要はない。俺たちの目的は大臣の近辺を探ることだからな

サトコ
「はい」

(馴れ合い···か。でも桂木班の皆さんは優しそうな人たちでよかった)



【車内】

車に戻ると、後藤教官が運転席に座った。

サトコ
「本当にいいんですか?私が運転しますよ?」

後藤
別に、運転は嫌いじゃない

(教官に運転してもらうなんて申し訳ない気がするけど···いいのかな)

車は官邸を出て学校に向かう道を走り始める。

後藤
···どうだった

サトコ
「はい?」

後藤
桂木班との任務は、上手くやれそうか?

サトコ
「はい。皆さん、親しみやすい楽しい方たちでしたし」

後藤
俺たちがお祭り課と呼ぶ理由がわかったか?

サトコ
「ふふっ、少しだけ。だけど、あの雰囲気があるからこそ優秀なチームになれるんだと思いました」
「一柳教官たちの個人の能力がすごいのはもちろんですが···要はチームワークのような気がします」

後藤
···そうだな。しかし、氷川も言うようになったな

ふっと後藤教官が口元に笑みを浮かべる。

サトコ
「後藤教官の指導のおかげです」

後藤
···お祭り課に言われたからじゃないが···学校を出ているときくらい『教官』呼びは止めないか?

サトコ
「でも、教官は教官ですし···」

後藤
俺はもともと常任の教官じゃない
教官が本職じゃないのに、外でもそう呼ばれ続けるのも違和感がある

サトコ
「じゃあ···たとえば、後藤···さん···とか···?」

後藤
そうしてくれ

サトコ
「は、はい」

(後藤さん···)

数回心の中で呼んでみる。

(なんか急に距離が縮まった気がする···そして恥ずかしい···!)
(よく考えたら、車で二人きりなんだ。な、何を話そう)

緊張で身体を硬くすると······

後藤
サトコ

サトコ
「ひゃいッ!」

後藤
······

サトコ
「い、いえ、何でしょうか?」

後藤
お前と寄りたいところがあるんだが、ちょっといいか?

サトコ
「は、はい。どうぞ」

後藤
助かる。ずっと行きたかったんだ
そんなに時間はかからない

(わ、私と行きたい場所って···)

信号を左折した車はネオンが灯り始めた夜の街へと入って行った。


【花屋】

サトコ
「ここは···」

寄ったのは夜遅くまで営業しているガーデニングショップだった。

(あの生活感のない雑然とした部屋にお花でも飾るのかな?)

意外に思いながら後をついて行くと、後藤さんはサボテンコーナーの前で立ち止まる。

サトコ
「サボテンを買うんですか?」

後藤
最近、忙しかったから枯らしてしまってな

(サボテンって比較的手がかからない植物だけど、季節によって水をあげたり、あげなかったり···)
(割とデリケートな植物だって聞くもんね)

サトコ
「新しいのを買いに来たんですね」

後藤
あんな部屋でも、1つくらい緑があると違うからな
長いこと家を空けても平気な植物だと周さんから教えてもらった

(サボテンを選ぶ後藤さんって可愛いかも)
(繁華街を抜けていくから、どこに向かってるのかと思えば···)

サトコ
「行き先がガーデニングショップだなんて想像もしませんでした」

後藤
そうか?

後藤さんは丸いサボテンに決めたのか、それを持ってレジへと向かった。

(後藤さんと2人で言った初めてのお店がホームセンターか···)
(いや、別に何か期待してたわけじゃないんだけど!)

勝手にグルグルと慌てていると、会計を済ませて戻ってきた。
すると、後藤さんは少し困ったような顔をして私の頭に手を伸ばす。

後藤
···そんな顔をするな

サトコ
「え!な、なにがですか!?」

(どうしよう。何か期待してたって思われたら···)

後藤
仕方ない。飯くらいおごってやる

サトコ
「ご、ご飯ですか?」

後藤
飯に行くと思ったんだろう?まあ、俺も腹減ってるから気持ちはわかる

サトコ
「······」

(もしかして、ただの食いしん坊だと思われてる···?)

<選択してください>

 A:そうじゃなくて··· 

サトコ
「いえ、そうじゃなくてですね···」

後藤
飯に行きたいんじゃないのか?

(後藤さんとご飯···行きたいです!)

サトコ
「行きたいです!」

後藤
わかってる。どっか連れてってやる
アンタの腹が鳴る前に行こう

 B:焼肉行きましょう! 

サトコ
「焼肉行きましょう!」

後藤
上司に肉をおごらせるとは···アンタもなかなかやるな

サトコ
「あ、もちろん割り勘でいいので···」

後藤
訓練生は給料も安いだろ。後輩に肉を食わせるくらいの余裕はあるから心配するな
ただし、黒澤には言うなよ

サトコ
「はい!」

後藤
アンタの腹が鳴る前に行こう

 C:お腹空きました! 

サトコ
「お腹空きました!SPの仕事が終わって緊張が解けたら急に···」

後藤
もう寮の夕飯には間に合わないし、どこかで食って帰るか

サトコ
「学校近くの中華料理屋以外での外食は久しぶりです!」

後藤
あの辺りも、もう少し店が増えれば便利になるんだがな
アンタの腹が鳴る前に行こう

サトコ
「そんなマンガみたいなことしませんよ」

そう笑って答えたものの···車に乗った途端、お腹を鳴らしてしまった私だった。
こうして、後藤さんへの恋心は誰にも知られることなく募っていった。


【グラウンド】

SPとして桂木班に入ってから数週間が経った。
警護に就くのは週に2~3日だけれど、学校の講義や演習もあるので二足のわらじ状態だ。

(キャリア組じゃない私は、これくらい頑張った方がいいのかもしれないけど)

任務に支障が出ない範囲で、学校での自主練も続けていた。
走り込みを終えて休憩をしていると、後ろからペタッと頬に缶コーヒーがあてられる。

サトコ
「!」

(もしかしてこれは、後藤教官···?)

東雲
後藤さんだと思った?ゴメンね、オレで

サトコ
「東雲教官!」

(しかもまた心の中読まれてるし!)

東雲
言っとくけど、別にエスパーとかじゃないからね
はい、差し入れ

サトコ
「ありがとうございます···」

(もう読まれてることは諦めよう···)

教官がくれたのは特別甘くない普通のコーヒーだった。

加賀
落ちこぼれが追いつくのは大変なんだろうな

サトコ
「加賀教官も···今こちらに戻られたんですか?」

加賀
今日は宿直だ。めんどくせぇ

東雲
オレに押し付けて兵吾さんは寝てるだけなんだからいいじゃないですか
そういえば、今桂木班にいるんでしょ?どう?SPとしての仕事は

サトコ
「大変ですけど、勉強になることも多いです」
「学校に通いながら、実際の任務にも就けるのはありがたいことだと思ってますので」

加賀
確かに、現場で役に立つのは経験だ

東雲
公安の仕事は他の仕事とは違うからね。訓練生は卒業して初めて公安課の新人になれる
今から実際の捜査を経験できるのは、先々有利になるかもしれないよ

加賀
お前らは、まだひよっこにもなれないタマゴ共だな

東雲
頑張るのはいいけど、潰れないようにね

サトコ
「はい!コーヒー、ごちそうさまです!」

寮に戻っていく2人を頭を下げて見送った。

(卒業して初めて新人になれる···か)
(どれくらい頑張れば、後藤さんに認めてもらえる刑事になれるのかな)

当然のことながら、憧れの人の背中は遠い。



【官邸】

翌日は後藤さんと仙崎大臣の警護任務に就いていた。
桂木警部に提出する書類を出して、後藤さんが先に戻っているSPルームの戸を開ける。

サトコ
「おつかれ···」
「!?」

ドアを開けると目に飛び込んでくる着替え中の後藤さんと一柳教官の上半身。

一柳昴
「おう」

後藤
遅かったな

(ど、どうして私って、こうタイミングが悪いんだろう!)

サトコ
「す、すみません!」

一柳昴
「気にすんな、別に減るもんじゃない」
「普段から女なんてこないから、ここで着替えてるしな」

後藤
だそうだ。お祭り課は相変わらず野蛮な集団だな

一柳昴
「あ?日焼けの一つも出来ねぇ根暗課に言われたくねぇな」

(すごい、着替えながら喧嘩してる···)

後藤
悪いが、別件で俺はこの後すぐに出る

サトコ
「あ、はい。わかりました」

一柳昴
「今日の報告書、出来たらテーブルの上に置いておけ」

サトコ
「はい」

慌ただしく着替えを済ませると、後藤さんと一柳教官はSPルームを出て行った。

(別件···この事件の他にも何か仕事抱えてるのかな···)

後藤さんたちがSPルームを出て、私は報告書に取り掛かる。

広末そら
「なになに?もう破局?」

タイミングよく、広末さんたちも部屋に戻ってきた。

サトコ
「広末さん、おかしな言い方しないでください。別件って言ってたの聞こえませんでした?」

広末そら
「聞こえてたけど、可愛い顔してサトコちゃん返しが手厳しいね」

藤咲瑞貴
「人の恋路に首は突っ込まない方がいいですよ」

秋月海司
「恋路って···氷川と後藤さんって付き合ってんのか?」

SPルームにいる広末さん、藤咲さん、秋月さんの視線が突き刺さる。

<選択してください>

 A:片思いです··· 

サトコ
「私の片思いです···」

広末そら
「え!ほんとにサトコちゃん、後藤さんに惚れてるの!?」

秋月海司
「からかわれてるんですよ、そらさん」
「公安学校ってかなり厳しいとこだって聞いてるし」
「そこで惚れたの何だのって余裕あるわけないよな?」

サトコ
「え···は、はい、そうですね···」

 B:まさか! 

サトコ
「まさか!後藤さんは私の教官ですよ!」
「女性警官がいた方がいい任務だったので、後藤教官と組んでるだけです」

広末そら
「はは、わかってるって。冗談、冗談。サトコちゃんってマジメだね~」
「からかってゴメンね」

 C:バレましたか!? 

サトコ
「バレましたか!?」

広末そら
「え!ほんとに付き合ってるの!?」

サトコ
「冗談ですよ。広末さんがあまりにからかうからです」

広末そら
「サトコちゃん、やっぱりやるね···このまま桂木班に残ってほしいくらいだよ」

サトコ
「報告書書き終わったので、私はこれで失礼します」

秋月海司
「お疲れ」

サトコ
「桂木さんにもよろしくお伝えください」

SPルームを出て、今日は地下鉄で学校まで帰ることにした。

最寄駅で学校までの人通りのない道を歩いていると、自然とこの前のことが思い出される。

(後藤さんとのご飯楽しかったな···)

一緒に食べた焼き肉。
猫舌の後藤さんは冷ましながら食べるために、最初に一気に焼いてしまうのが印象的だった。

(また一緒にご飯食べに行きたいって···それくらいなら思っても許されるかな)

憧れと恋の境目に落ち着こうとするものの、なかなか自分ではわからない。

(後藤さんのことが気になって仕方ないのは確かだし···)

サトコ
「はぁ···」

護衛の訓練で後藤さんを守りながら通った場所。
信号が変わって立ち止まると、走ってきた車がブレーキ音を響かせて急停車した。

サトコ
「!?」

後部座席が開くと、伸びてきた手に腕を掴まれ車へと連れ込まれる。

(な、何!?)

???
「騒ぐな」

サトコ
「!」

低く耳元で聞こえた声に身体を硬直させた。
声を発する間もなく、私を乗せた車はすぐに走り始めた。

to be continued



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