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恋の行方編 後藤8話



【ホテル】

仙崎大臣が参加している、超党派の会合。
会場となっているビルの裏手から銃声が響いた。
インカムを通して、一柳教官から会合から行われている4階の大会議室に戻る様連絡が入った。

アナウンス
「外部から何者かによって襲撃されています!慎重に行動してください!」

議員A
「犯人は誰だ!?」

議員B
「だから、こんな時期に開くなと言ったんだ!」

議員C
「誰か恨みでも買ってる者がいるんじゃないか!?」

(大混乱になっている···銃声が聞こえたんだから当然か···)

一柳昴
「氷川、戻ったか」

広末そら
「サトコちゃんは大丈夫?」

サトコ
「はい。ビルの裏手から銃声が聞こえた気がしたんですが···何が起こってるんですか?」

一柳昴
「確認中だが、武装した集団がビルの裏口から押し入ってきたようだ」
「目的はこの会議室だと思われる。氷川は後藤と共に仙崎大臣の警護に就いて指示を待て」

サトコ
「了解です!」

一柳教官の指示に従って、仙崎大臣の斜め前方に立って後藤さんのもとに急ぐ。

サトコ
「一柳教官の命令で、先崎大臣の警護に戻りました」

後藤
敵の目的は仙崎大臣かもしれない。注意を怠るな

サトコ
「はい!」

緊迫するSPをよそに、議員たちは超党派の会合だったにも関わらず、
党間で互いを批判し合っていた。

議員A
「どうせあんたらの過激な発言のせいだろう!」

議員B
「なにを!そちらの党の失言に比べれば···」

(政治家は結局、自分の身が一番可愛いのかな)

言い合いをしている状況ではないのに···と思っていると、仙崎大臣が1歩前に出て来た。

仙崎
「皆さん、落ち着いて!」
「本当の敵はこの中にはいない、ここで分断したら敵の思うツボだ」

議員A
「仙崎さん···」

仙崎
「我々はこの危機を乗り越え」
「テロに負けない強い政治をその身を持って実現しようではないか!」

議員A
「仙崎さんの言う通りだ!」

議員B
「さすが私たちのリーダー、仙崎大臣だ!」

場の空気が一気にまとまり、議員たちから拍手が沸き起こる。

(嫌な人だと思ってたけど、政治家としての手腕はさすが···)

議員同士の争いが静まり、落ち着いたと思ったのは僅かな間だった。
複数の足音が響いてきたかと思うと、武装した犯人グループが戸口に姿を見せる。

一柳昴
「そら、配置につけ」

広末そら
「了解って言いたいところだけど···」
「ちょっと人数多すぎない!?」

一柳昴
「···みたいだな」

一柳教官と広末さんが銃を構えるものの、犯人グループの人数は明らかに警護中のSPより多い。

犯人A
「この場にいるSPの数は把握している」
「我々は倍の人員を投入した。全員死にたくなければ、おとなしく言うことを聞くんだな」

広末そら
「だって。お決まりのセリフだけど、どうする?昴さん」

一柳昴
「総理の会談の日を狙われたってことか。普段なら、こっちにもSPを割けたはずだからな」
「わかった。お前たちの言う通りにしよう。目的は何だ?」

犯人A
「まずはSPが持っている銃を捨ててもらおうか」

(武器を奪われるのはキツイけど、下手なことをしたら議員の皆さんを危険にさらしてしまう···)

<選択してください>

 A:銃を捨てる 

(ここはおとなしく指示に従っておこう)

私は銃を床に置く。
すると、後藤さんも銃を置く姿が見えた。

 B:隠し持つ 

(銃がなくなったら、誰かを守ることはできない。何とか隠し持つ方法は···)

私がモゾモゾと動いていると、後藤さんに小さく名前を呼ばれた。

後藤
下手なことを考えず、ここは指示に従っておけ

サトコ
「は、はい」

後藤さんが床に銃を置くのに合わせて、私も銃を捨てた。

 C:後藤の指示に従う 

(後藤さんの指示に従うのが一番だよね)

後藤さんを見ると目が合った。
小さく頷いて銃を置く後藤さんに、私も銃を捨てる。

(こんな状況でも、後藤さんは表情ひとつ変えてない···)

犯人A
「それから、通信機の類も捨てろ」

後藤
······

サトコ
「······」

私たちはインカムも床に置く。

犯人A
「お前らには政府と交渉するための人質になってもらう」

仙崎
「目的は何だ?」

後藤
仙崎大臣、直接犯人と交渉するのは危険です

仙崎
「危険でも、誰かがやらなければいけない役目だ」
「それならば、私がその任を負おう」

犯人グループのリーダーの前に立つ仙崎大臣に、私と後藤さんも大臣の左右を固めた。

(この距離感···武器もない状態で襲われたら、身体を盾にすることしかできない)

内心の動揺を隠しながら、私は犯人グループの動きに細心の注意を払う。

犯人A
「お前、仙崎国土交通大臣だな···いい人質になりそうだな」
「我々は同士である内山雄一の釈放を要求する」

仙崎
「内山雄一といえば、極左派の活動家で過激なデモを計画し逮捕された男···」
「お前たちは内山の仲間か」

犯人A
「仙崎、お前なら我々の思想を理解できるだろう。今すぐ、内山を釈放するように要請しろ」

仙崎
「私たちを貴様らと同じにしないでもらいたい」
「私たちの理想は暴力による鎮圧などではない!」

犯人A
「口のきき方に気を付けるんだな」

サトコ
「!」

後藤
仙崎大臣!

パンッ!

後藤さんの声と乾いた音が耳と貫いたのは同時だった。
仙崎大臣の身を庇うように、後藤さんが床に身を伏せさせている。

後藤
大臣、おケガは!?

仙崎
「大事ない。肩をかすっただけで、あたってはいない」

(後藤さんのおかげで助かった。この距離で撃って来るなんて···)

私ではとても反応が間に合わなかった。

犯人A
「我々は本気だ。内山を解放してもらおうか」

仙崎
「···わかった。私が交渉してみよう」

仙崎大臣が秘書を通し、法務大臣に話をもちかけたものの。
内山の釈放は認められないという答えが返ってきた。

議員A
「政府は我々を見捨てるのか!」

議員B
「だから今の政府は腐っているというのだ!」

犯人A
「皮肉なものだな。その意見には私も同意だ」

仙崎
「できるだけのことはやった。あとは私にはどうすることもできん」

犯人A
「お前にできないのなら、私がやるだけだ」
「政府が要求を呑むまで1時間に1人、人質を殺していく」
「まず、最初は···」

リーダーの男が銃口をぐるっと動かすと、悲鳴ともつかない声があちこちから上がる。

サトコ
「後藤さん、どうすれば···」

後藤
落ち着け。交渉を続けるしかない

仙崎
「君たちの決意はわかった。だが、人質は多ければいいというものではない」
「私が人質になる代わりに、他の議員とSPたちを解放してくれないか?」

犯人A
「お前ひとりの人質では頼りないな」
「いざとなれば、無残に死んでいった人間の数で」
「その罪を思い知らせてやらなければならない」

後藤
では、仙崎大臣とSPだけを残すというのはどうだ?
数だけでいえば十分な人数だろう

一柳昴
「その男の言う通りだ。人質が多ければリスクも増えるはずだ」

犯人B
「リーダー、確かにこれだけの人数を監視するのは面倒です」
「リスクは軽減しておきましょう」

犯人A
「···わかった。人数は半分にする。議員の半数とSP数名は解放してやろう」

仙崎大臣と後藤さんと一柳教官の説得が功を奏し、
人質にされる人数は半分に減らされることになった。
犯人グループの男たちが解放する人々を選んでいる。

(適当に選んでるのかな···近くにいる議員を解放メンバーに分けてるだけっぽいけど)

結果、一柳教官と広末さんも解放されることになった。

犯人A
「仙崎大臣とそのSPには残ってもらう」

仙崎
「解放すると言われても、残るつもりだったよ」

犯人A
「解放する人間を一列に並べて順番に連れて行け!」
「少しでも妙な動きをするやつがいたらその場で撃ち殺せ」

犯人B
「了解しました!」

犯人側のリーダーの指示により、議員の半分と一柳教官を含む数名のSPが解放された。

中沢
「なぜ俺は解放しないんだ!」

仙崎
「中沢君、待つんだ!」

(あの人は、街頭演説の時に狙われた中沢議員···)

中沢議員が犯人リーダーにつかみかかる。

サトコ
「危険です!落ち着いてください!」

私が止めに入ろうとした次の瞬間。

パンッ!

サトコ
「!」

中沢
「ぐっ···」

サトコ
「大丈夫ですか!?」

中沢
「···っ」

仙崎
「何てことをしたんだ!」

犯人A
「肩を撃っただけだ。政府が我々の要求に早く応じればコイツは助かる」

後藤
応急手当てを!

SP
「こちらで!」

後藤さんの指示で、SPの1人が応急手当を始めてくれる。

犯人A
「政府が我々の要求を呑むまで、お前たちをひとりずつ処刑していく」

後藤
それなら俺から殺せ

サトコ
「後藤さん!」

後藤さんが犯人の前に立った。

<選択してください>

 A:犯人に従うことありません! 

サトコ
「犯人に従うことありません!強い姿勢でいきましょう!」

後藤
犯人を刺激するようなことを言うな
ひとりずつというなら、SPである俺が最初に名乗り出るのは当然のことだ

 B:落ち着いてください! 

サトコ
「落ち着いてください!犠牲者を出さないように交渉しましょう」

後藤
わかってる。それが大前提だ
だが、俺たちSPは万が一の時に要人の盾になるのが仕事だからな

 C:後藤さんの前に私から! 

サトコ
「後藤さんの前に、私から!」

後藤
馬鹿なことを言うな!
アンタはおとなしく俺の指示に従っていろ

犯人A
「ふん···まったく、これだから偽善者野郎は嫌いなんだ」
「そんなに死にたかったら、お望み通りにお前から殺してやるよ」

リーダーの男が銃口を後藤さんに向ける。

サトコ
「待ってください!もう一度政府と交渉を!」
「犠牲者を出してしまったら、政府も強硬姿勢を崩せなくなるかもしれません!」

犯人A
「その時はその時だ。全員殺してしまう前に考えればいいさ」

(こうなったら犯人に飛び込むしか···!)

後藤さんは表情を変えずに犯人の男を見据えている。
男の指が引き金に伸び、私が足に力を入れた瞬間。

パンッ!

(銃声!?どこから···)

犯人A
「ぐっ···な、なんだ···」

リーダーの男が太ももを押さえて片膝をついた。
部屋に入ってきたのは、一柳教官率いる数名のSP。

犯人B
「ぐあっ!」

犯人C
「お前たちは···先程解放したSP···!」

(すごい···あっという間に犯人グループを制圧した···)

SPに不意を討たれては敵わなかったのか、会議室の中にいた8名の犯人は拘束された。

一柳昴
「間に合ったか」
「パジャマ野郎のパジャマに穴が空くところも見たかったけどな」

後藤
これがパジャマに見えるとは、お前の老眼もかなり進行したんじゃないか?

サトコ
「一柳教官···議員たちと解放されたんじゃ···」

一柳昴
「議員たちを先に外に出して、オレたちは建物内に非丼で突入の機会をうかがっていた」

広末そら
「こんなに早く突入することになるとは思わなかったけどね」

後藤
突入の合図を作れと言ったのはお前らだろ
臆病者が逃げてないかと冷や冷やだったがな

(奇襲作戦を後藤さんと一柳教官たちは打ち合わせ済みだったんだ。いつの間に···)

一柳昴
「会議室の外にはまだ犯人グループが残っている。急いで避難させるぞ」

サトコ
「肩を撃たれている方がいます!応急手当はしてありますが···」

仙崎
「彼は私が連れて行こう。中沢君とは昔からの付き合いだからね」
「SP諸君は他の議員を優先させてくれ」

中沢
「仙崎さん···ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ない···」

仙崎
「なに、こんな時に助け合うのが我々の理想でしょう」

一柳昴
「今の銃声は他の犯人にも聞こえていると思います」
「避難経路は確保してあるが、襲ってくる可能性は充分にある」

広末そら
「オレと昴さんが先頭で行くから、他のSPの警護で順番に皆でを避難させていこう」
「後藤さんとサトコちゃん、仙崎さんたちは一番最後でいいからついてきて」

仙崎
「わかった」

サトコ
「了解です」

後藤
行くぞ

仙崎大臣が負傷した中沢議員に肩を貸し、
私と後藤さんは2人を警護しながら進んでいくことになった。

【廊下】

一柳教官と広末さんのいる先頭から、時折男たちのうめき声のようなものが聞こえてくる。

サトコ
「犯人グループの男たちを倒しているんでしょうか」

後藤
だろうな
桂木さんのもとで鍛えられられた一柳と広末ならたやすいだろう
広末も小柄に見えるが、その体格を生かした戦い方を教わっているはずだ

中沢
「うっ···!」

もうすぐ1階につながる階段に辿り着こうという時、中沢議員が片膝をついた。

サトコ
「大丈夫ですか!?」

仙崎
「貧血かもしれん。ちょっと待っててくれ」

後藤
わかりました

後藤さんは前にいたSPに先に行くように伝える。
前にいた議員の方々は先に避難を進め、老化には私と後藤さんと仙崎大臣、中沢議員だけが残った。

後藤
肩、見せていただけますか?

中沢
「ち···が···腹···」

サトコ
「腹?」

中沢議員の言葉に、それまで彼を抱えるようにしていた仙崎大臣が離れた。
仙崎大臣の手には血で濡れたナイフが握られている。

サトコ
「仙崎大臣!?何を···」

仙崎
「やっと邪魔者がいなくなった。まあ、お前たち2人くらいは仕方ない」
「私が直接処分してやろう」

後藤
······

(どうして、仙崎大臣が中沢議員を···いったい、どういうことなの!?)

血が滴るナイフを片手に仙崎大臣が近づいてくる。
その口元こそ笑っていたものの、目には明確な殺意が宿っていた。

to be continued



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