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恋の行方編 後藤9話



【廊下】

仙崎
「やっと邪魔者がいなくなった」
「私が直接処分してやろう」

後藤
······

中沢
「仙崎さん···どうして···」

仙崎大臣の手には中沢議員を刺したナイフが握られている。

後藤
サトコ、中沢さんの止血を

サトコ
「はい···」
「中沢さん、身体を起こせますか?」

中沢
「あ、ああ···幸い、脇腹に刺さったようだ···」

仙崎
「はは、距離が近かったからね。少し位置がずれてしまったようだ」
「ひと思いに殺してやれなくて、すまないね」

後藤
···やはり黒幕はお前か、仙崎

仙崎
「ん?私が犯人だと見当をつけていたような口ぶりだが···ハッタリはきかんよ」

後藤
お前の目的は何だ

仙崎
「目的?使命と言ってほしいね。私はこの事件の黒幕を中沢議員だと見破り···」
「他の議員を救出した英雄になる。お前たちSPは中沢の手下として葬ればいい」

後藤
始めから中沢議員を殺すために、この事件を計画したのか

仙崎
「中沢は何かと目障りだったからね。父親が総理大臣経験者というだけで大きな顔をし過ぎだ」

中沢
「仙崎さんとは···同じ理想を追いかけていたはずなのに···」

仙崎
「ふざけるな。私は貴様のような軟弱な考えは持っておらん」
「今の日本が目指すべきなのは、テロにも負けない、欧米の力も頼らない強い国家なのだ!」

超党派の会合が左寄りという話はあったけれど、比較的慎重派の集まりだと聞いていた。

(その中に隠れて、仙崎大臣本人は極端な政治思想だったんだ···)

後藤
自作自演の事件で、自分の存在を国民にアピールする計画だったのか

仙崎
「堕落した国民は扇情されると、すぐに気分が変わる」
「衆愚は敵に挫けない、日本を強くできるセンセーショナルな政治家を好むからな」
「この事件で私は一躍現総理を上回る指示を得るようになる」

後藤
そこまで国民を馬鹿にしている奴が、本当に支持を集められると思っているのか?

仙崎
「なに、そこは勧善懲悪のシナリオを考えているから心配はいらない」
「君たちSPは中沢議員の手下として動く非国民の警察官だった···というね」

サトコ
「私たちを悪役に仕立て上げるつもりですか」

仙崎
「死人に口なし。話はどうとでも作れる」
「警察と政治家、どちらが信用できるのか国民に教えてあげないとな」

仙崎は隠し持っていた銃をスーツの内ポケットから取り出し、私たちに銃口を向けた。

後藤
そこまでしないと信頼を得られないとは、クズ議員は苦労するな

仙崎
「生意気な口を···」
「あの世で後悔するんだな」

後藤さんが私の前に立つ。

サトコ
「後藤さん?何を···」

後藤
俺が先崎を抑える。その間に中沢議員を連れて逃げられるか?

サトコ
「···後藤さんを盾にするようなことはできません!」

後藤
このまま全員殺されるよりましだ

サトコ
「でも···!」

仙崎
「心配しなくとも、すぐに2人とも殺して···」

ドンッ!!

その時、大きな爆発音と共にビルが揺れた。
同時に近くの窓ガラスが割れ、破片が飛び散る。

仙崎
「なっ···!」

後藤
サトコ!

サトコ
「···っ」

思わず目を瞑って衝撃に構える。

爆風が収まり顔を上げると、額から血を流す後藤さんの姿が見えた。

サトコ
「後藤さん···!」

後藤
···平気か?

サトコ
「私は大丈夫です···中沢議員も···」

私たちを庇って、後藤さんがガラスの破片を一身に浴びてしまったようだった。

(腕や手からも血が流れてる···)

仙崎
「クソッ!何だというんだ!」

仙崎大臣も頬や手から血を流しながら、舌打ちをしている。

(これは仙崎大臣の計画じゃないの?)

後藤
大方、お前の仲間がしくじってビルのどこかを爆破したんじゃないか?
もしくは、黒幕は別にいてお前も捨て駒だったとかな

後藤さんがわざとらしく苦笑する。

仙崎
「そ、そんなことがあるわけがない!」
「お前らの始末は手下に任せる!」
「せいぜい苦しんで死ぬがいい!」

仙崎が走り去り、後藤さんは床に座り込んだ。

サトコ
「後藤さん!仙崎が···」

後藤
放っておけ。外では一柳たちが待機している。すぐに捕まえるはずだ
まぁ、俺たちも脱出しないと仙崎の罪は立証できないけどな

自嘲気味に後藤さんは笑う。
私は、汗が滲む後藤さんにそっと近づいた。

サトコ
「傷、痛みますか···?」

後藤
···大腿部に深い傷が一カ所ある
アンタは中沢議員を連れて、先に脱出しろ

サトコ
「そんなことできません!」

後藤
中沢議員の意識が朦朧としてるだろ。これ以上時間が経てば命に関わる
それに、俺たちのどちらかは絶対脱出して仙崎を逮捕しなければいけない

サトコ
「だから3人で逃げましょう!」

後藤
アンタが男2人を支えられると思ってるのか?

サトコ
「火事場の馬鹿力で何とかしますから!」

後藤
奥から火の手が近づいている。話をしている時間はない
先に行け!

サトコ
「···っ」

(先に行って、救急車を呼んで間に合う?)
(奥から火の手が迫ってるなら、多分間に合わない···)

サトコ
「行きましょう」

私は中沢議員の腕を左側から首に回して支え、後藤さんの左腕を取った。

後藤
無茶だ

サトコ
「これくらい平気です。ケガをした方の足に体重をかけないようにして移動しましょう」

後藤
アンタ、どうしてそこまで···

サトコ
「勝手に守って勝手に死なないでください!」
「私は···絶対に後藤さんと帰るんです。簡単に死なせたりしませんから」

中沢議員と後藤さんを抱えながら、少しずつだけど確実に前に進んでいく。

(···1階まで降りれば、声をあげれば一柳教官たちに届くかもしれない)

サトコ
「憧れの刑事さんとか、もうそんな話はどうでもいいんです」
「私は···今の後藤さんに生きていてほしい」

後藤
サトコ···

サトコ
「夏月さんの仇を討ちたいなら···生きてなくちゃダメじゃないですか!」

夏月さんの名前を借りるのは狡いと思った。
けれど、後藤さんに生きてもらうためだったら構っていられない。

後藤
······
···わかった

サトコ
「後藤さん···」

後藤
だが、夏月のことは関係ない
俺は···アンタの···

黒澤
後藤さん!サトコさん、この上ですかー!?

サトコ
「この声···黒澤さん!」

後藤
石神さんたちが動いたのか···

サトコ
「黒澤さん!上です!後藤さんも一緒です!」

大声で叫ぶと、黒澤さんと石神さんが急いで駆け寄ってくる。

黒澤
貴女の黒澤透、参上です!

石神
ひどい有様だな、後藤

後藤
助かりました···

そして、私たちは駆けつけてくれた石神教官と黒澤さんのおかげで無事脱出することができた。


【外】

あの後、中沢議員は救急車で搬送され、後藤さんも手当てを受けた。
幸い太ももの傷も別に別状はなく、数日入院すれば大丈夫という話だった。

後藤
アンタが無事でよかった

応急手当てを終え、戻ってきた後藤さんが不意に私を抱きしめ肩口に顔を伏せた。

サトコ
「えっ···ご、後藤さん···!?」

(私、今後藤さんに···抱きしめられてる···!?)

<選択してください>

 A:抱きしめ返す 

ケガのせいか、その腕の力は少し弱かったけれど。
後藤さんの温もりと鼓動を感じて、私も抱きしめ返してしまう。

サトコ
「後藤さんも無事で本当に良かったです···」

後藤
アンタのおかげだ

 B:身体を離す 

突然のことで、思わず身体を離そうと腕に力を入れてしまう。

後藤
···っ

サトコ
「すみません!痛かったですか!?」

後藤
いや、大丈夫だ。アンタが無事なことを確認したかっただけだ

 C:背中を軽く叩く 

どうしていいのか分からず、私はその背を軽く叩く。

サトコ
「あの···後藤さん?」

後藤
アンタが無事だってことを確認したくて、つい···
悪かった

サトコ
「い、いえ!私は見ての通りピンピンしてます!」

しばらく無言で抱きしめられる。

(後藤さんが諦めたりしなくてよかった)

まだ後藤さんの生きる理由は夏月さんの復讐かもしれないけれど、ここにいてくれることが嬉しい。

サトコ
「後藤さんが庇ってくれたおかげです。ありがとうございました···」

後藤
当たり前のことだ

お礼を言うと、どこか照れくさそうな表情で私の身体を離した。

颯馬
フフ、ドラマチックな展開ですね

サトコ
「颯馬教官!」

後藤
周さんも来てたんですか

颯馬
郊外とはいえ、武装集団が市議会に押し入ったりしたら招集がかかるのは当然だよ
呼ばれなくても来るつもりだったけど···
石神さんと黒澤だけで十分だったみたいだね

後藤
仙崎はどうなりました?

颯馬
ビルから出て来たところを昴と広末が保護した。今、向こうで手当てを受けてる
後藤たちの証言があればすぐに逮捕されるだろう

爆発で顔や腕を切った仙崎も警察車両の中で応急処置をされていた。

後藤
······

サトコ
「後藤さん?」

後藤さんが真っ直ぐに仙崎の方に向かい、私も後に続く。

後藤
仙崎、3年前の事件もお前が関与していたのか

仙崎
「貴様···貴様らが公安のイヌだったとはな···そこまで気が付かなかった私の負けだ」

後藤
そんなことはどうでもいい
答えろ!3年前の事件もお前が仕組んだものなのか

仙崎
「3年前?何の話だ」

問い返す仙崎の顔は何かを誤魔化しているふうではなく、
本当に思い当たらないといった顔をしていた。

後藤
警視庁の警察官が3人ほど殺害された事件だ
犯人は住所不定の男が被疑者死亡のまま送検されている

仙崎
「警官殺し?」
「ああ···そういえば、そんな事件があったな」
「ふん、そんな事件、知るわけないだろう」
「警察を悪者に仕立て上げるならともかく···」
「殉職などという英雄的な死に方など、私にとって利点がないのはわかるだろう」

後藤
警察の信用を落とすためとも考えられる

仙崎
「当時の報道を思い出してみろ。あの事件で警察の評価が落ちたか?」
「むしろあんな無様な死に方をするなど、批判されるべきだと私は憤っていたところだ」

(警察官の連続殺人事件は大きく報道されたけど···)
(確かに警察批判にはつながっていなかった気がする)
(ただ、ホームレスが犯人とされたことで、社会問題に発展した気はするけど···)

仙崎
「いや、もしかしたら···」

後藤
何だ、何か知っているのか!?

仙崎
「ふっ···取り調べでもないのに、貴様に話すことはない」
「すべて黙秘だ。弁護士を呼べ」

処置が終わると、仙崎はパトカーに乗せられていく。

サトコ
「本当に仙崎が事件に関与しているなら、今後の取り調べで···」

後藤
ああ、石神さんと加賀さんの取り調べが入れば、嫌でも口を割らざるを得ないだろう
今は···犠牲者をひとりも出さずに事件を解決し
アンタも俺も無事だったことを満足するべきだ

(後藤さん、穏やかな顔してる···)

事件前の剣吞な空気はなく、憑き物が落ちたような顔をしていた。

後藤
アンタには助けられた

そう言って、後藤さんはふっと小さく笑った。

(優しかった頃の後藤さんに戻ってくれたのは嬉しいけど···)
(この気持ちは封印しなきゃ。後藤さんの心には夏月さんがいるんだから)

石神
後藤、いいか?

後藤
ええ
サトコ、少し外す。待っててくれ

サトコ
「はい」

石神さんに呼ばれて離れていく後藤さんを見送る。

一柳昴
「氷川、無事でよかった。大変だったな」

サトコ
「一柳教官!お疲れさまです!」

一柳昴
「新人のお前に、まさかこんな経験をさせることになるとは···」
「悪かったな」

サトコ
「いえ、いい勉強になりました」

一柳昴
「お前、ほんとに根性あるよな」
「卒業したら公安じゃなくて、警護課に移ってこいよ」

サトコ
「いえ、皆さんのフォローがあったからです」
「有り難いお言葉ですけど···私の目標はここにあるので、難しいです」

一柳昴
「フッ、そうか」
「しかし、あの後藤をよく引っ張ってきたな」

サトコ
「先に行けって言われたんですけど···それもできなくて」
「夏月さんの仇を討たなくていいのかって言って無理やり立ってもらったんです」

一柳昴
「まあ、アイツも無駄死にするつもりはねーだろうけど、無茶はするからな」
「お前がついててくれてよかった」

サトコ
「後藤さんを助けたのは、私じゃなくて夏月さんですよ」

(悔しいけど、後藤さんの心を動かすだけの力は私にない···)

一柳昴
「そんなことねーとオレは思うけど」
「お前、やっぱり後藤に惚れてんのか?」

<選択してください>

 A:はい 

(一柳教官にくらいは本当の気持ち言ってもいいかな···)

サトコ
「はい···でも後藤さんに伝えるつもりはありません」

一柳昴
「なんでだ?」

サトコ
「言っても迷惑になるだけだと思うから···」

一柳昴
「それはどうだろうな」
「ひとりで思い込むよりも、本人の気持ちを聞いた方がいいんじゃないか?」

 B:いいえ 

(この気持ちは伝えないって決めたんだから、誰にも言わない方がいいよね)

サトコ
「いいえ···教官として尊敬しているだけです」

一柳昴
「お前がそういうなら、それでもいいけど」
「もし諦めてるもんがあるなら、本人の気持ちを聞く価値はあると思うぜ」

(一柳教官には、私の気持ちバレちゃってるんだ···)

 C:そう見えますか? 

サトコ
「そう見えますか?」

一柳昴
「ああ」
「後藤は気付いてないかもしれねーけどな。アイツ鈍いし」

サトコ
「いいんです。言うつもりはないので···」

一柳昴
「本当に、それでいいのか?」
「鈍いヤツ相手には言ってみれば変わることだってあるかもしれない」

一柳昴
「お前···」
「もっと自信持っていいんじゃねーの?」

サトコ
「え?」

一柳昴
「警官として···ま、女としてはもっと磨く余地があると思うが···」
「アイツとなら、野暮ったい者同士お似合いかもな」

微笑んで視線を流す一柳教官の先に後藤さんの姿が見える。

(一柳教官の言葉は嬉しいけど···想いを伝えるのは、多分無理だと思う···)

後藤さんの心に私の居場所はない、そう思うから。

to be continued



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