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ふたりの絆編 後藤5話



【病院】

都内で起こった地下鉄爆破事件に石神教官が巻き込まれた。
後藤さんと颯馬教官と共に石神教官が運ばれた病院へと駆けつける。

サトコ
「石神教官!」

後藤
石神さん!

手術室から出てきた石神教官は全身包帯を巻かれていて、呼吸器をつけられていた。
そのままICUへと運ばれる。

颯馬
先生、石神の容体は?

医師
「申し訳ありませんが、ご家族の方以外は···」

颯馬
警察の者です

颯馬教官が警察手帳を見せると、医師は納得したように頷いた。

医師
「そういうことでしたら···」
「意識が戻るまでは油断ではできません。外傷はヤケドと裂傷···」

颯馬教官が医師からの説明を受ける横で、後藤さんは石神教官が入ったICUを見つめ続けている。

後藤
······

(後藤さん···)

後藤さんの肩が震えている。
加賀教官からの話では、
爆発があった駅の監視カメラに『タディ・カオーラ』の金山が映っていたそうだ。

(金山が犯人の可能性が高い···)

後藤
俺があの時、捕まえていれば···っ

ぐっと後藤さんの腕に力が入るのがわかった。
視線を落とすと、硬く握られた拳には爪が食い込んで血が滲んでいる。

サトコ
「ご、後藤さん、手···!」

<選択してください>

A:後藤の手を両手で包む

サトコ
「こんなことしちゃダメです···」

私は後藤さんの手を取ると両手で包んだ。

(指先が真っ白になるほど···)

サトコ
「血、出てます。絆創膏貼っておきましょう」

B:ハンカチを差し出す

私はハンカチを取り出すと慌てて後藤さんの手に当てる。

サトコ
「後藤さん···力、抜いてください···」

そっとその腕に触れても、後藤さんの拳が解かれることはなかった。

C:何してるんですか!と怒る

サトコ
「何してるんですか!血が出てますよ!」

後藤
······

私が声をかけても、後藤さんの背は強張ったままだ。

サトコ
「後藤さん···」

後藤
構うな···ひとりにしてくれ···

そう言い、ICUを離れていく後藤さん。

(ひとりになんてできるわけありません···)

今の後藤さんをひとりにしておくことはできなくて、私は後藤さんの後を追った。

【ロビー】

後藤さんを追いかけていくと、ロビーにその姿を見つけた。
見てる方の胸が痛くなるような背中に、そっと寄り添う。

サトコ
「金山を取り逃がした責任は私にあります!」
「私たちの手で金山を捕まえましょう!」

後藤
······

震える後藤さんの背中に触れても、後藤さんは私を見ようとはしない。
ゆっくりと後藤さんから離れると、
後藤さんは目を伏せて唇をかみしめていた。

颯馬
後藤、落ち着け

そこへ、医師との話を終えた颯馬教官が私たちの元にやってくる。

颯馬
金山を取り逃がしたのはお前のミスだったとして···次にするべきことはわかっているだろう?
お前がこんなところに立っていたら、石神さんは何と言うだろう

後藤
···金山は必ず俺が捕まえます

颯馬
オレたちと···だろう?

後藤
···はい

サトコ
「颯馬教官···」

(颯馬教官は後藤さんが思い詰めて単独で動かないように釘を刺してくれたんだ···)

頷いた後藤さんに私も少し安心する。

(後藤さんは仲間が傷つくことを何よりも恐れてるから···)

颯馬
加賀さんと合流して捜査に向かおう。初動が大事ですから

サトコ
「はい···!」

後藤
はい

(石神教官···早く意識を取り戻してください···)

歩き出す前にもう一度、石神教官回復を祈って病院を後にした。



【教官室】

地下鉄爆破事件は死者こそ出なかったものの、重傷者を多数出す結果になってしまった。
事件の翌日、大型テロ事件として扱われることになり所轄との合同捜査が決定した。

東雲
さっそく所轄が持ってる情報を全て公開しろって言ってきてますけど、どうします?

難波
所轄が調べればわかる程度の情報を流しておけばいい
その他の情報を渡すつもりはねぇよ。もともと事件はこちらで解決するつもりだしな

(難波室長は所轄と協力する気はないんだ···でも、こういう時は···)

浅い刑事経験だけど、この手の事件は捜査員を多く入れた方が犯人確保には有利だと思う。

サトコ
「あの···所轄は足を持っています。今回の捜査が街中を中心に行われるんでしたら···」
「所轄と協力した方が早く犯人を捕まえられるんはないでしょうか?」

加賀
これだからクズは···

腕組みをした加賀教官にチッと舌打ちをされてしまう。

サトコ
「そんなに所轄に情報を流すことがマズイことなんでしょうか?」

難波
俺たちはもともと所轄と馴れ合わないが、今回はまた特別だ
捜査情報を公開すれば、後藤のミスが表沙汰になる

サトコ
「あ···!」

加賀
お前は後藤を吊し上げたいのか?鬼畜な女だな

東雲
それが彼女の本性なら、兵吾さんと気が合いそうですね

サトコ
「ま、待ってください!私はそんなつもりじゃなくて···」

後藤
···俺は構いません。所轄に情報を流してください

後藤さんの強い声が響くと、一瞬静寂が降りた。

難波
······
処分は免れなくなるぞ

後藤
もとから覚悟はできています

加賀
こっちのミスが表沙汰になれば、お前の処分だけで話は済まねぇんだよ
隙あらば、突っつこうと粗探ししてる連中だ
犯人を逃がしたって知られた日には、鬱陶しくて堪ったもんじゃねぇ

颯馬
私は所轄と協力すること自体には賛成です
都内の情報収集には彼らが積み上げてきた足も有効でしょう
金山逃走の件は伏せて、できるだけの情報を共有したらどうでしょうか?

颯馬教官の言葉に難波室長は眉間にシワを寄せたまま苦い顔をする。

難波
できないこともないが···所轄も馬鹿ばかりじゃないからな···
どうせ向こうも気付いてチクチク言ってくるだろうが、知らぬ存ぜぬの顔できるか?

東雲
問題なのは彼女だけですよね

<選択してください>

A:私は大丈夫です!

サトコ
「私は大丈夫です!何を言われても知らない顔で通します!」

東雲
考えてることがすぐに顔に出るくせに

颯馬
公安の捜査員になるには、少なからずポーカーフェイスの練習も必要です

(うっ···)

颯馬
サトコさんの訓練も兼ねていると思えば、ちょうどいいのではないでしょうか?

難波
まあ、口を滑らさなきゃ結果的にはいいわけだから···それくらは氷川にもできるか

サトコ
「はい!余計なことは絶対に言いません!」

B:自信ないかも···

サトコ
「そう言われると自信ないかも···」

颯馬
何を言われても笑顔で返せばいいんですよ
こんな笑顔で···ね

サトコ
「こ、こうですか?」

東雲
ぷっ···
オカメみたい

サトコ
「オ、オカメて···ひどいですよ···真面目にやってるのに」

加賀
ある意味、その顔でも黙らせられるんじゃねぇか?不様すぎてな

難波
まあ、そうだな···氷川は何を言われても笑ってろ。それで全部誤魔化せ

サトコ
「が、頑張ります!」

C:所轄とは口をききません

サトコ
「私は所轄とは口をききません!」

東雲
感じワル···
ますますオレらの評判悪くなるね

颯馬
もともと大した評判もないんだから、痛くもかゆくもないよ

難波
そこまで徹底しろとは言わないが···
氷川にそこまで強い意志があるならいいか
返答に困ることは全部黙秘で通せ。な?

サトコ
「はい!貝のように口を閉じてみせます!」

(所轄の方には申し訳ないけど、後藤さんを処分させるわけにはいかない)
(そもそもの責任は私にある···!)
(早く金山を捕まえなくちゃ!)

難波
とりあえず『タディ・カオーラ』の家宅捜索の情報をエサに所轄を動かす
その他の情報については、各自の判断で行え

全員
『はい』

難波
夜から合同会議がある。補佐官以外は全員出席するように

こうして金山逮捕に向け、所轄との合同捜査本部が設置されることになった。



【街】

合同捜査が始まって数日。
現場の空気はよくないものの、着実に捜査は進んでいた。

刑事A
「金山がこの近辺をうろついているのは間違いない。街頭の監視カメラで確認済みだ」

後藤
行動パターンまで分析できてるのか?

刑事B
「そういうのは、そっちの仕事でしょ。お宅らは人の秘密を探るのが得意なんだから」

刑事A
「そもそも家宅捜索に踏み切ったのに、どうして主犯格のメンバーが確保できてないんだろうねぇ」

後藤
······

(公安のミスだって言いたいんだ···)

金山の足取りを追いながらも、所轄の刑事から言われるのは嫌味ばかりだ。

刑事A
「いつも上から首を突っ込んでくるわりには、お粗末な話だ」
「警察官の基本を見直した方がいいんじゃないか?」

刑事B
「そっちのお嬢ちゃんも今からなら所属変えられるんじゃないの?」

余計なお世話です···と言いかけた言葉を飲み込む。

(反論したらボロが出るだけ。何も答えないのが一番···)

サトコ
「午後5時···金山がネットカフェに立ち寄ることが多い時間です」

後藤
水曜日は向かいのネットカフェが安くなる日で、圧倒的に利用率が高い
今日こそ、ここで確保できればいいんだが···

刑事A
「そう簡単に行くと思うのが甘いんだよ。張り込みってーのは分析より忍耐で···」

ベテラン刑事の張り込み術を聞かされながらビルの間の細い路地に身を潜めた。

【裏路地】

金山捜索から数週間が経った。
今日もビルの隙間での張り込みが続く。

(張り込みは忍耐だっていうのは本当···毎日動きのない日を送るのはツラい)

今日こそは···と、祈るような気持ちで見慣れたネットカフェの様子を見続ける。
すると、駅の方から歩いてくる1人の男に視線が吸い寄せられた。

(あの男···最近の監視カメラで確認された金山に似てる!)

逸る気持ちを抑え、後藤さんたちを振り返る。

サトコ
「あのフードの男!背格好が金山と同じです!」

刑事A
「んん?あんな見るからに怪しい恰好でうろつく逃走犯がいるか?」

後藤
···あの靴を引きずる歩き方は金山で間違いない。行くぞ!

刑事B
「お、おい!本当か!?」

後藤
俺と氷川はこのまま、アンタたちは左右から挟み撃ちにしてくれ!

サトコ
「はい!」

刑事A・B
「お、おう!」

私たちが路地から飛び出すと、金山がハッとした顔で逃げ道を探す。

(やっぱり!)

同時に懐に入れられた手に緊張が走る。

(また銃を···!)

後藤
させるか!

金山
「ぐっ···!」

金山が銃を手にするより早く後藤さんのタックルが決まった。
そのまま地面に伏せさせると、後ろ手に手錠をかける。

後藤
氷川!難波さんに連絡だ!

サトコ
「はい!」

金山確保を難波室長に連絡すると、すぐに現場にパトカーが駆けつける。
武器密輸と地下鉄爆破の主犯を捕えたことで、ようやく事件解決の糸口が見え始めた。

【教官室】

颯馬
お手柄でしたね。サトコさんも後藤も

サトコ
「後藤教官が素早い動きで金山を捕えてくれたおかげです!」

金山はとりあえず警視庁に連行され、難波室長と加賀教官が警視庁に行っていた。
私と後藤さんは学校に戻り、颯馬教官から労いの言葉をもらう。

東雲
これで後藤さんの処分はチャラかな?

サトコ
「そうなるといいなって思ってるんですけど···」

颯馬
ウチが主導で犯人逮捕できて所轄への面目も保てたし···
難波さんもその辺りは考慮してくれると思いますけどね

後藤
俺のことはいい。それより早く石神さんが···

後藤さんが厳しい表情のまま石神教官の名前を口にしたとき。
勢いよく教官室のドアが開かれた。

黒澤
お待たせしました!待望の黒澤透の登場です!

東雲
誰も待ってないし

黒澤
ハハッ。歩さんの歓迎嬉しいな~。知ってますよ、後藤さん!お手柄だそうじゃないですか

後藤
用がないなら即刻帰れ

黒澤
そんなこと言っていいんですか?今日のオレは吉報の使者ですよ?

サトコ
「吉報って、何かいいことがあったんですか?」

黒澤
石神さんが意識を取り戻したんです!
オレがお見舞いに行ったから!

後藤
それは本当か!?

後藤さんが黒澤さんの肩を掴んで詰め寄る。

黒澤
石神さんもオレに会いたくて仕方なかったんでしょうね
オレがICUの前に行ったら、ちょうど看護師さんが出てきて···

後藤
お前の話はどうでもいい!石神さんが意識を取り戻したというのは本当なんだな?
話はしたのか!?

黒澤
いえ、それが諸々検査してICUを出るまでは面会できなくて···
でも、医師からも話を聞いたので間違いありませんよ。明日には面会できるんじゃないかな

サトコ
「よかった···」

颯馬
これで本当の意味で一段落ですね

東雲
石神さんが死ぬわけないよ
あの人、機械のカラダだって兵吾さんが言ってたから

黒澤
SPチームの皆さんもそんなこと言ってましたけど、石神さんも大変な人ですね

後藤
よかった···

(後藤さん···)

後藤さんの肩から目に見えて力が抜ける。

(金山も捕まって、石神教官も意識を取り戻して···これで本当に後藤さんも安心できるはず)
(明日、一緒にお見舞いに行けたらいいな)

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【学校 廊下】

翌日は私の心を表すような晴天だった。
校内を歩く足取りも軽い。

(昨日の夜まとめた資料、後藤さんに渡さないと)
(そのあと、お見舞いの相談ができたらいいな)

【教官室】

サトコ
「失礼します!···あれ?後藤教官、まだ来てないんですね」

東雲
みたいだね
昨日、最後まで教官室に残ってたの後藤さんみたいだったけど

サトコ
「そうなんですか···」

(朝イチで石神教官のお見舞いに行っちゃったのかな)

持ってきた資料を後藤さんの机に置くと、石神教官の机の上に白い封筒が見えた。

サトコ
「え?」

封筒に書かれているのは『辞表』の2文字。

サトコ
「これって···」

嫌な予感に、目眩がする。
まるで心臓が頭に移動したかのように···

(まさか···だよね?)

そう信じて、震える手でとった封筒の後ろには···
後藤さんの名前が書かれていた。

to be continued



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