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ふたりの絆編 後藤6話



【教官室】

石神教官の机の上に置かれた辞表。
それは後藤さんのものだった。

(辞表なんて···どうして···)

グラっと頭が揺れ、手が震える。
公安を辞めるなんて一言も聞かされていない。

(どうして···そんな素振り全然なかったのに···)
(それとも、私が気が付かなかっただけ?)

ここ最近の後藤さんを思い出そうとして、混乱する。

(金山を確保できて、一安心だと思ってた)
(でも···あの時には後藤さんはもう辞めるつもりだったの?)

結局、後藤さんは私に心を開いていなかった···
その現実をつきつけられたようで、それが何よりつらい。

後藤
アンタは···満点の恋人だ

(満点だって言ってくれたじゃないですか···)
(なのに···相談もしてくれないなんて···)

無意識に奥歯を噛み締めていたのか、小さく歯が鳴った。

東雲
なにそれ?

サトコ
「辞表です···後藤さんの···」

東雲
へぇ。なんて書いてあるんだろ?

私の手から辞表を取った東雲教官が中を見ようとする。

サトコ
「勝手に開けちゃダメですよ!」

東雲
どうせ石神さんのところには届かないんだから構わないよ

サトコ
「え···」

颯馬
歩の言う通りですが、中を見るというのは感心しませんね

東雲
あ···ケチ

横から伸びてきた颯馬教官の手が東雲教官から辞表を奪った。

(よかった···って、全然よくない!辞表って···)

サトコ
「どうして辞表なんか···」

颯馬
石神さんが負傷した責任を感じた···それと同時に怖くなったというところでしょうね

東雲
後藤さんって意外と豆腐メンタルなんだよね

颯馬
キノコくんには、言われたくないかもですね

東雲
な···っ!?

加賀
辞めたいヤツは辞めさせとけ。この程度で辞めるようじゃ、とんだ役立たずだ

東雲
兵吾さんだって後藤さんは買ってたじゃないですか

加賀
アイツの刑事としての能力はな
だが、逃げ出すようなヤツはいらねぇ

(逃げ出した···後藤さんは逃げたの?公安からも···)
(私、からも···)
(いつから辞めようと思ってたんだろう···石神教官が病院に運ばれた時から···?)

颯馬
さて···これからどうしましょうか

<選択してください>

A:石神に相談に行く

サトコ
「石神教官に相談しに行った方がいいんじゃないでしょうか?」
「石神教官の机にあったものですし、後藤教官のことを1番わかっているのは石神教官だと···」

東雲
後藤さんのことを1番わかってるのは『私』じゃないの?

東雲教官に意味深に微笑まれる。

東雲
優秀な補佐官、なんでしょ?

サトコ
「あ···えっと···」
「辞表のこと···知らなかったんです」

東雲
え?

サトコ
「何も知らされてない私が、そんなこと言えるわけありません···」

B:後藤に会いに行く

サトコ
「後藤教官に会いに行きます。会って、どういうつもりなのか話を聞きましょう!」

東雲
会いに行って会えればいいけどね

サトコ
「どういう意味ですか?」

東雲
キミが説得に来ることくらい予想してるでしょ。本気で辞める気なら、姿をくらますよ

C:放っておく

サトコ
「放っておけばいいんじゃないでしょうか···」

東雲
結構冷たいんだね

サトコ
「今、話しても聞いてもらえない気がして。少し間を置いてからの方がいいかなと···」

颯馬
間を置いている間に逃げてしまうこともありますよ

サトコ
「颯馬教官···」

颯馬
サトコさん、後藤の携帯に連絡してみてください

サトコ
「は、はい」

携帯を取り出して後藤さんの携帯にかけてみると···

アナウンス
『おかけになった電話は電波の届かない所にいるか、電源が入っていないためかかりません』

サトコ
「ダメです、通じません」

東雲
電源切ってるんでしょ。GPSで追われないためにも

サトコ
「そこまでしますか?家で寝てるってことは···」
「前に一柳教官から聞いたことがあるんです。後藤さんと連絡が取れなくなったことがあるって···」
「部屋に行ったら寝込んでたって」

颯馬
可能性は薄いと思いますが、その目で見ないと納得もできないでしょうね
これからサトコさんを連れて後藤が活きそうな場所を探してきます

東雲
了解。こっちは街頭の監視カメラ映像集めておきますよ

サトコ
「どうして、そんなことをするんですか?」

東雲
後藤さんはオレたちから逃げたんだ
ふふ、本当に逃げられると思ってるのかな?

颯馬
フフ···面白くなってきましたね

東雲
ふふっ

颯馬
フフフ···

(こ、この2人が笑い合うと怖い!)

加賀
ったく、暇人が。後藤を探したきゃクソメガネをさっさと退院させるのが一番早ぇだろ

東雲
兵吾さん、石神さんのお見舞いに行くんですか?

加賀
誰が見舞ってやるか。お前んとこのバカが辞表を出して、いい迷惑だと言いに行くだけだ

東雲
お見舞いなら、ポステルのプリンがいいと思いますよ

加賀
チッ

話を聞かない東雲教官に舌打ちをして加賀教官は教官室を出ていく。

(加賀教官とポンポン言い合えるんだから、東雲教官もすごいよね···)

颯馬
行きますよ、サトコさん

サトコ
「はい!」

(後藤さん···何も言わずにいなくなったりしてませんよね?)

祈るような気持ちで颯馬教官と共に後藤さんを探しに行ったけれど···
颯馬教官と東雲教官の予想通り、後藤さんの姿はどこにもなかった。



【新幹線】

(まさか山口の田舎に行ってるなんて···)

私は東京から新山口に向かう新幹線の中にいた。
流れる景色を見ながら、先ほどまでいた教官室での会話を思い出す。

【教官室】

東雲
どこにもいなかったでしょ

サトコ
「はい······」

颯馬
歩の方の調べは?

東雲
さすが後藤さん。街中のカメラは意識しているのか、全然映ってない

サトコ
「それじゃ、後藤教官の居場所はわからないんですか···?」

(もう二度と···会えないかもしれないの···?)

ぎゅっと苦しいくらいに胸が痛む。
そして同時に、このまま諦めるわけにはいかないという強い想いが生まれるのを感じた。

東雲
ねぇ。キミ、世界の果てまで後藤さんを追いかける気ある?

サトコ
「あります!世界の裏側だって···北極だって南極だって行ってみせます!」

東雲
それなら···オレが最新ネットワークを駆使して割り出した情報あげるよ

東雲教官が私に1枚の地図を渡した。

サトコ
「これが···世界の果ての地図···?」

東雲
いやいや、山口のド田舎の地図

サトコ
「や、山口!?」

颯馬
ああ、そういえば後藤の実家って山口だったね

サトコ
「実家!?後藤教官、実家に帰ってるんですか?」

東雲
そう。こっちは海外に飛んでるんじゃないかって、一番に出国者名簿とか調べたのに
行き先が実家なんて灯台下暗しを通り越して、呆れたよ

東雲教官は首を振りながら大きなため息をつく。

東雲
ほんとダサいよね。実家に帰るなんて、いびられた嫁じゃないんだから

サトコ
「でも、山口ならすぐに行けます!」

東雲
そこが一番呆れたところ。実家にいるってことは
何だかんだ言ってキミに迎えに来てほしいんだよ

サトコ
「え···」

東雲教官の一言にドキッと鼓動が跳ね上がる。

(そうなんですか?後藤さん···)

東雲
ちょっと、あからさまに嬉しそうな顔するのやめて。今、ノロケとかいらないから

サトコ
「す、すみません」
「とにかく私、これから山口に行ってきます!」

颯馬
落ち着いてください、サトコさん
新幹線で少し時間をかけて行った方がいいですよ
貴女の気持ちを整理する時間も必要でしょう

サトコ
「···はい」

(確かに···今の私じゃ後藤さんに会っても何を言っていいのか分からない···)

東雲
連れ戻してきてよ。せっかく居場所調べたんだから

颯馬
サトコさんなら大丈夫ですよね

東雲教官と颯馬教官に見つめられる。

(自信がないなんて言ってる場合じゃない)
(絶対に···後藤さんを連れて帰るんだ)

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【新幹線】

(なんて勢いよく出て来ちゃったけど、どうやって説得しよう···)

いろいろな方法や言葉を考えて、結局やめてしまう。

(考えたって、後藤さんを前にしたら用意してる言葉なんて出てこないに決まってる)
(後藤さんに会って···そのとき思った気持ちを正直にぶつけていこう)

そう覚悟を決めたものの。

(私のことも···捨てられるほど、どうでもいい存在だったんですか···?)

後藤さんと付き合って3ヶ月。
2人の絆の深さはわからない。

【後藤 実家】

サトコ
「ここが後藤さんの実家···」

緑豊かな郊外の住宅地に『後藤』という表札が出た一軒家を見つけた。
東雲教官から貰った地図を確認して、間違いないことを確認する。

(ここまで来たんだから、ためらってても仕方ない!)

思い切ってインターフォンを押す。

女性
『は~い』

サトコ
「あ、あの、私···」

女性
『ちょっとお待ちくださいね~』

高い声の女性は私が名前を告げる間もなく、インターフォンを切ってしまう。
そしてすぐに玄関のドアが開いた。

女性
「あら、どちら様ですか~?」

サトコ
「あ、あの、私は氷川サトコと言いまして···」

(後藤さんのお母さんにしては若いような···お姉さんかな···)

サトコ
「後藤誠二さんの部下で、仕事の件でお話があって伺いました」
「ご自宅まで押しかけて申し訳ありません」

女性
「あら!あらあら!誠ちゃーん!」

(せ、誠ちゃん!?)

女性
「彼女さんよ~」

(か、彼女さん!?待って、そんなことひと言も!)

後藤
何を騒いでるんだ。おふくろは···

サトコ
「お、おふくろ!?後藤さんのお母さんだったんですか?てっきり、お姉さんかと···」

後藤母
「あら!お姉さんなんて!ふふっ、誠ちゃん、こちらいいお嬢さんねぇ」

後藤
アンタ···

玄関から顔を出して驚く後藤さんに小さく頭を下げる。

後藤
···アンタと、話すことはない

サトコ
「!!」

後藤母
「誠ちゃん!わざわざ来てくれた女の子を追い返すようなことしちゃダメよ!」
「とにかくあがって、あがって!こんなことならケーキ買っておけばよかった~」

後藤
······

後藤さんは黙って家の中に入ってしまう。

(ここで帰ったら、来た意味もなくなっちゃうから···)

サトコ
「お邪魔します」

後藤さんのお母さんの言葉に甘え、中に上がらせてもらった。

【リビング】

リビングに通され、後藤さんは向かいのソファに座ってくれた。

(よかった···話は聞いてくれるのかな···)

後藤
···何の用だ?

<選択してください>

A:どうして黙って···

サトコ
「どうして黙って···?」

後藤
······悪い

サトコ
「それだけじゃわからないです···」

後藤
石神さんに言われて来たのか?

サトコ
「いえ、石神教官にはまだ何も言っていません」
「東雲教官と颯馬教官に言われて来ました」

後藤
···そうか

サトコ
「教官たちに言われなくても、私は後藤さんを探しましたけど」
「ここまで来たこと···怒ってますか?」

B:教官たちからの伝言です

サトコ
「教官たちからの伝言です。勝手にいなくなるのは許さないって···」

後藤
石神さんがそう言ったのか?

サトコ
「いえ、颯馬教官と東雲教官です。石神教官には今回のことは知らせていません」
「ここまで来たこと···怒ってますか?」

C:迎えに来ました

サトコ
「迎えに来たんです。皆、後藤さんのことを待ってます」

後藤
石神さんは辞表を受け取ってくれたのか?

サトコ
「辞表は颯馬教官が預かってます。石神教官には何も知らせていません」

後藤
直接持っていくべきだったか···

サトコ
「ここまで来たこと···怒ってますか?」

後藤
······

後藤さんはうつむくと、口をつぐんだ。
前髪で表情は見えなくて、膝に置かれた拳が強く握られている。
こう一度声をかけようとした時、掠れたような声がやっと耳に届いた。

後藤
···少しだけ···あとは···

(後藤さん?)

後藤母
「ちょっと、誠ちゃん!彼女さん相手にボソボソ話さないの!」

後藤
その呼び方、やめろって言ってるだろ。仕事の話だ。向こうに行ってろ

後藤母
「はいはい。ひとりで大きくなったような顔をして、これだから男の子はツレないのよね」
「えっと···サトコちゃん?今日は泊まっていくでしょ?」

サトコ
「いえ!とんでもありません!話が終わったら、すぐにお暇しますので···」

後藤母
「でも···今、終バス行っちゃったわよ?」

サトコ
「え!まだ6時前ですけど···」

後藤母
「ウチの近くの終バス、5時50分なのよ」

サトコ
「ええっ!?それじゃ、タクシーで···」

後藤母
「んー···でも、今からタクシーを呼んで在来線に乗って···新幹線に間に合うか難しい時間よ」

後藤
夜になると在来線の本数も減るんだ

サトコ
「じゃ、この近くにホテルは···」

私の問いに後藤さんは首を振る。

後藤母
「気にしないで、ウチに泊まっていって!女の子が泊まりに来る日をずっと楽しみにしてたの」

サトコ
「いえ。くらなんでも、そこまでは···」

後藤
···泊まっていった方がいい
この田舎じゃ間違えれば泊まる場所もなくなって、駅で一晩明かすことになる

後藤母
「決まりね!ふふっ!今日は腕によりをかけて、お夕飯用意しなくちゃ!」

サトコ
「す、すみません···!」

(後藤さんの実家に押しかけて、泊まることになるなんて···)

後藤さんのお母さんに本当の彼女だとは思われていないだろうけれど。

(彼女としては大失態だよね···)

お土産の『東京ばにゃも』を渡して、私はガックリと肩を落とした。

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【客間】

後藤
ここを使ってくれ

サトコ
「すみません。本当に···」

客間に通され、私は頭を下げる。

後藤
来てくれたアンタには悪いが、俺の気持ちは変わらない

サトコ
「後藤さん···」

後藤
なにかあれば呼んでくれ。上の部屋にいるから

サトコ
「あの···っ」

後藤さんに背を向けられると、これ以上声がかけられなくて私は口をつぐむ。

(話さなきゃいけないことが···話したいことがたくさんあるのに···)

サトコ
「······」

頭で考えていたより、上手く話をすることが全然できなかった。

【リビング】

サトコ
「わ、すごいごちそう!」

後藤母
「張り切って作り過ぎちゃったのよ。たくさん食べてね!」

後藤
作り過ぎだろ···

ハンバーグから唐揚げ、餃子、和洋中様々なおかずがテーブルに並ぶ。
すると、玄関が開く音がして制服を着た男の子が姿を見せた。

後藤
壱誠、帰ったのか

後藤母
「いっちゃん、おかえりなさい」

壱誠
「···お客さん?」

後藤母
「誠ちゃんの彼女」

後藤
部下だ

即座に声を重ねる後藤さんをチラッと見ると、後藤さんはやや申し訳なさそうな顔をする。

(今回は仕事で来てるから、部下でいいんだけど)
(それとも、私はもう後藤さんの彼女じゃないのかな···)

後藤
弟の壱誠だ

サトコ
「氷川サトコといいます。後藤さんには、いつもご指導いただいています」

壱誠
「こんにちは」

サトコ
「突然お邪魔してしまい、すみません」

後藤母
「今日はサトコちゃん泊まっていくから、いっちゃんもいい子にしててね」

壱誠
「ガキじゃないんだから、大丈夫に決まってんだろ」

(弟さん、後藤さんに似てるな···高校生の頃の後藤さんってこんな感じ?)

後藤母
「すぐにお夕飯にするから、降りてきてね~」

壱誠
「わかった」

後藤母
「パパは今日遅いっていうから、先に食べちゃいましょうね」

(パパ···後藤さんのお母さんって若々しくて明るい人だなあ)

後藤さんと壱誠くんは困った顔をするけれど、お母さんがいるから後藤さんの家はパッと明るい。

(だから、後藤さんも実家に帰ってきたのかな···)

後藤さんの横顔を観ても、その考えは読めない。
壱誠くんが着替えると、夕食をいただくことになった。

後藤
壱誠、アスパラのベーコン巻、アスパラだけ残すな

壱誠
「兄貴にやるよ」

後藤
食え

壱誠
「ぐっ···無理矢理つっこむなよな!」

お皿の横によけていたアスパラを後藤さんは壱誠くんの口に詰め込む。

(野菜を残さず食べろなんて、お兄ちゃんっぽいなあ)

サトコ
「ふふっ」

後藤
行儀が悪くてすまないな

サトコ
「いえ、そんなこと···」

壱誠
「兄貴が無理に食わせるからだろ」

後藤母
「いいわね~、兄弟揃ってるって」
「誠ちゃんが上京してからは、いっちゃんもしばらくは寂しくて仕方なかったのよね」

壱誠
「せいせいしただけだ」
「つーか、兄貴、いつまでウチにいるんだよ。さっさと帰れば?」

後藤
言われなくても、長居はしない

後藤母
「あら、いっそのこと、このまま帰ってきちゃってもいいのよ。誠ちゃん」

サトコ
「······」

(後藤さん、東京に戻るのかな?)
(でも、公安を辞めるって気持ちは変わってないよね···)

私の役目は後藤さんを公安メンバーとして連れ戻すこと。
大事な話は何もできないまま、ただ時間は悪戯に過ぎて行った。

to be continued



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