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ふたりの絆編 後藤Good End



【東京タワー】

護送中に脱走に、東京タワーの中に逃げ込んだ『タディ・カオーラ』の幹部、金山京太郎。
所持しているプラスチック爆弾が入ったリュックを床に置き、こちらに銃を向けている。

金山
「ここで全てをオワリにしてやる!!」

(きっとあの中に爆弾が···爆発だけは···させられない!)

撃たれる危険よりも、爆弾を先に奪わなければと私はリュックに手を伸ばす。
同時に金山の指が引き金にかかる!

(撃たれる···!?)


パンッ!

···

······

サトコ
「あれ?」

響く銃声に反射的に倒れ込んだけれど、身体に異変は感じなかった。

サトコ
「え···?」

金山
「···っ!」

私の代わりに手を押さえてうずくまったのは金山だった。

後藤
サトコ!

サトコ
「後藤さん···!」

硝煙を上げているのは後藤さんの拳銃。

後藤
大丈夫か!?

サトコ
「はい!あのリュックの中にはプラスチック爆弾が入ってて···」
「爆発したら大変なことになります!」

後藤
プラスチック爆弾···

金山
「またアンタか···クソッ···」
「だ、だが、ちょうどいい···」
「もろとも吹っ飛ばしてやる!」

金山が血に濡れた手で懐からスマホを取り出す。

後藤
···っ!しまった!起爆装置か!

サトコ
「えっ!」

後藤さんは床を蹴ると、私を守るように覆い被さってきた。
ひゅっと息を呑んだ次の瞬間、轟いたのは爆発音ではなく······

金山
「ぐあっ···!」

加賀
これ以上痛い目を見たくなければ、観念しておけ

サトコ
「加賀教官!」

後藤
加賀さん···

颯馬
よかった、間に合いましたね

私の前に颯爽と現れたのは加賀教官と颯馬教官。

金山
「···っあ!あ、ああっ···!」

加賀
ああ?何言ってんだ?そんな小せえ声じゃ聞こえねぇなぁ

加賀教官のかかとが金山の撃たれた手の甲をグリグリと踏みつけている。

(い、痛そう···!)

颯馬
爆弾処理班が来ます。我々は離れていましょう

加賀
···ったく、SATも役に立たねぇな

金山
「ぐああっ···」

(まだ踏んでる···)



【外】

プラスチック爆弾は冷却処理され、金山は再び連行されていった。

(とにかく爆発を止められてよかった···)

ほっと一息ついていると、颯馬教官が後藤さんを振り向いた。

颯馬
随分と長い休暇だったね。有休、全部使うつもりだったんですか?

後藤
有休たまってたんで···

颯馬
明日からは石神さんも復帰だから。覚悟しておいた方がいい

後藤
はい

加賀
お前はまだまだ甘い。あのクソメガネの下にいるんだ。図太さも見習っとけ

笑顔の颯馬教官にタバコを噛む加賀教官。
いつもの面々に後藤さんは苦笑を刻む。

後藤
また出直すつもりで頑張ります

小さく頭を下げる後藤さんの横顔は吹っ切れたような清々しさがあった。



【居酒屋】

金山の逮捕から数日後。
石神教官の復帰祝いに石神班と加賀班で近所の居酒屋へとやってきた。

黒澤
では、石神さんの復帰を祝って乾杯!

全員
『乾杯!』

東雲
すみませーん。この舟盛り1つ

加賀
焼き鳥大皿

颯馬
シーザーサラダボウル1つ

乾杯するや否や、メニューを片手に注文が飛び交う。

黒澤
皆さん、速攻ですね。じゃ、オレは天ぷらの盛り合わせ塩で!

石神
誰のために集まったのか、わかったものじゃないな

後藤
難波さんのおごりだから容赦ないですね

難波
ったく、お前ら、俺の給料知ってんだろ

渋い顔をする難波室長を気に留めることなく注文は続く。

サトコ
「そ、そんなに頼んでもテーブルには乗りませんよ!」

東雲
食べ始めたら一瞬だよ。待ってる間もったいないから隙なく頼まないと

退院したばかりの石神教官の前にはオレンジジュースが運ばれてきた。
その瓶を手に、私は石神教官の隣に膝をつく。

サトコ
「退院おめでとうございます」

石神
ああ。金山の件はよく頑張ったな

サトコ
「いえ。私は結局、後藤教官に助けてもらってばかりで···」

石神
最終的に金山から目を離さなかったお前の粘り勝ちだ
捜査に必要なのは犯人を必ず確保するという執念だ。その点で、今回の氷川は評価できる

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

(石神教官に誉められちゃった···)

石神教官はまだ所々包帯を巻いているけれど、顔色もよくてホッとする。

(こんなに早く退院できるなんて···元気になって本当によかった)

手術室から出て来た石神教官を思い出すと、安堵で目の奥が熱くなった。

石神
氷川···

サトコ
「教官、元気になってよかったです···!」

石神
···ありがとう

ポンッと石神教官の手が肩に置かれる。
微笑んだ目と合って、ますます涙がこみ上げそうになるとグッと横から腕をひかれた。

後藤
石神さん、俺の補佐官を泣かせないでもらえますか

石神
 “俺の” ···か

サトコ
「ふ、深い意味はないですよ!きっと···」

後藤
 “俺の” です

サトコ
「後藤教官!?」

石神教官と後藤さんの視線がまっすぐにぶつかる。

(大丈夫なのかな···こんな言い方しちゃって···)

石神
ふっ···まあいい。金山を捕えられたのも、お前たち2人の力だ

サトコ
「ああ、そうです!金山!動機は何だったんですか?」

石神
金山は日本に出稼ぎに来たものの、暮らしがうまくいかず日本という国を恨むようになった
そして、『タディ・カオーラ』の幹部になり、教団を隠れ蓑に武器を密輸しようと考えた

後藤
その武器と信者を使って日本を占拠する計画だったそうだ
大規模テロになる前に捕えられてよかった

石神
明日からはまた別の捜査が待っている。氷川には次の試験もな

サトコ
「試験!全然勉強してない···!」

(事件ですっかり忘れてた···)

後藤
補習くらいはしてやる

サトコ
「は、はい。事件が終わったら次は試験勉強漬け···今日だけは飲ませてもらいます!」

黒澤
どうぞ、どうぞ!ビールの次は何にしますか?

サトコ
「ハイボールで!」

飲む気満々でドリンクメニューを手に取ると、後藤さんのグラスが減っていないことに気が付く。

さとこ
「後藤教官は飲まないんですか?」

後藤
元からあまり飲める方じゃないからな。アンタが酔い潰れても介抱してやる

サトコ
「酔い潰れるほどは飲みませんよ」

そう言いながらも、お祝いごとのお酒は美味しい。

サトコ
「···ぷはーっ!こんなに美味しいお酒は久しぶりです!」

東雲
うわぁ···引くんだけど

サトコ
「え···」

東雲
親父クサいっていうか。もっと色気のある飲み方は出来ないの?

サトコ
「う···すみません、久しぶりだったので、つい···」

東雲
彼氏···がいるかどうかは知らないけど、そんな態度じゃ抱く気にもならないかもよ?

東雲教官はチラッと後藤さんに視線を送って、私に視線を戻す。

(うぅ···相変わらず、ニヤニヤしてイジワルを···)
(こうなったら···!)

サトコ
「キノコのホイル焼き···」

東雲
は?

サトコ
「キノコのホイル焼きください!」

颯馬
ダメですよ、サトコさん。歩の頭がマッシュルームみたいなんて言ったら···

東雲
誰も言ってないです!

難波
こういう席じゃシラフの方が損だからな

サトコ
「そうです!同じ飲み会なら飲まなきゃ損です!」

東雲
もう完全に出来上がる気満々だし。後藤さん、覚悟した方がいいですよ

颯馬
とっくの昔に覚悟は出来てるよね

黒澤
この際だから、ズバッと聞いちゃいましょうよ!後藤さんとサトコさんの本当のこと!

サトコ
「後藤教官は···素晴らしい教官です···私の憧れの刑事さんなんです···」

加賀
ただのノロケじゃねぇか。酒が不味くなる

颯馬
私はもっと聞きたいですよ

黒澤
オレもでーす!

(皆さんが後藤さんのこと聞きたがってる···愛されてるんだなぁ)
(後藤さんが戻って来てくれて本当によかった···)

東雲
あーあ。寝ちゃったけど···こういうの一番面倒だよね
熱く語るだけ語って周囲を恥ずかしい空気にして寝ちゃう子

加賀
···素直じゃねぇな

東雲
···どういう意味ですか?

加賀
お前は、裏表ねぇヤツ好きだろ

東雲
···さぁ?分かりやすいとは思いますけど

颯馬
おや、ライバル登場ですか?

東雲
···かもしれませんね。どうします?後藤さん?

(教官たちの声···フワフワ気持ちもいいし、夢かぁ)

難波
とりあえず、担当教官が面倒見るべきだろう

石神
酔い潰れても介抱してやると言っていたしな

黒澤
オレが送ってもいいですよ?オレも飲んでませんし

後藤
俺が送る。先に失礼します

身体が揺れたかと思うと、たくましい背中を感じる。

(後藤さんにおんぶされてる···?いい夢···仕事頑張ったご褒美かも)

ぎゅっと抱きつくと、後藤さんが微笑むのが背中越しに伝わってきた。

後藤
あまり可愛いことをするな

優しい声が深い眠りに誘うようで。
私は再び意識が遠くなっていくのを感じた。



【後藤マンション】

サトコ
「んっ···」

差し込む光が眩しくて寝返りを打つ。
ボフッと沈むベッドがやけに心地よくて、私はうっすらと目を開けた。

サトコ
「これ···私のベッドじゃない···?」

見慣れない天井に、どこか見覚えのある部屋。

(ここって···)

後藤
起きたか

サトコ
「後藤さん!」

(そうだ!後藤さんの部屋だ!)

サトコ
「どうして、後藤さんのベッドで···」

後藤
やっぱり覚えてないのか。昨日、居酒屋で酔っぱらって寝落ちたから俺が連れてきた
さすがに寮には帰せそうになかったからな

サトコ
「そうだったんですね···」

(ああ、もう!酔い潰れないって約束したのに···!)

頭の奥が鈍く痛むのは飲み過ぎのせいらしい。

(冷たいシーツが気持ちいいのもお酒が残ってるせいか···サラサラで···ん?)

肌に触れるシーツに自分を見下ろすと、下着しかつけていなかった。

サトコ
「なっ···!」

(し、しかもベランダで見られたベージュの下着!)

サトコ
「こ、これは···っ」

慌ててブランケットを引き寄せて肩を小さくすると、後藤さんの手がポンッと頭の上に置かれる。

後藤
そんな顔しなくても大丈夫だ。何もしていない

サトコ
「いえ、その···あの···」

後藤
いざ寝かせようとしたら、熱いって脱ぎだすから参った

(わ、私のバカー!!)

後藤
アンタの服はそこに掛けてある

後藤さんはいつもと変わらない様子でハンガーにかけた服を指さす。

後藤
酒が入ってなければ嬉しかったんだがな

サトコ
「それって···その···」

(も、もしかして私は大事な夜に大失態を演じてしまったんじゃ···!)

離れようとする後藤さんに、呆れられたのではと急速に不安になってくる。

サトコ
「あ、あの···!」

後藤
何だ?

サトコ
「私って···魅力ないですか?」

後藤
···どうした?突然

サトコ
「いえ、その···」

後藤
イジワルキノコの言葉、気にしてるのか?

サトコ
「聞いてたんですか!」

後藤
···他の男と喋ってるのを、気にしないわけないだろ

ほんの一言に、キュッと胸が締め付けられる。

(小さいことだけど···すごく嬉しい···)

サトコ
「でも···」

(下着姿で彼女が眠ってたら、少しは気にしてくれても···)
(そりゃ、こんな色気のない下着だけど)

後藤
······

恥ずかしくなってうつむいていると、ギシッとベッドが軋んだ。

後藤
いいのか?

サトコ
「え···?」

そのままベッドに押し倒され、後藤さんが私に覆い被さった。

後藤
いいのか?と聞いてるんだ

吐息が触れる距離で聞かれると、うるさく鳴る鼓動ばかりが聞こえて上手く言葉が出ない。

サトコ
「わ、私···」

(ど、どうしよう!ダメではないけど、ベージュの下着だし、きっとお酒臭いし!)

後藤
···冗談だ

サトコ
「後藤···さん···?」

ふっと真剣な表情を緩めると、後藤さんは何事もなかったかのように私から離れる。
そして向けられる背中。

後藤
アンタを怖がらせたくない
手を出したら···多分、止まらなくなると思うから

ベッドから降りて、後藤さんは顔だけで私を振り返る。

後藤
アンタももっと自分のこと自覚しろ
石神さんに鍛えられた鋼の精神がなければ、危なかったぞ

冗談めかして笑う後藤さんに、私はシャツの裾を掴む。

サトコ
「止まらなくなってもいいです···」

後藤
サトコ···

サトコ
「後藤さんの近くに行きたいって···もっと後藤さんの傍にいられたらって···」
「後藤さんに置いていかれないくらいに···」

後藤
······」

後藤さんはベッドに腰を掛けると、その手で私の肩を抱き寄せた。
節くれ立った指が頬に添えられる。

後藤
もう···置いていけなくなる。それでもいいのか···

サトコ
「私は···ずっと後藤さんと一緒にいたいです···」

顔が近づいてきて柔らかな日差しの中、唇が重なる。

サトコ
「んっ···」

後藤
サトコ···

朝にしては淫靡な音が部屋に響いて、その背徳感にキスも深いものに変わっていく。
後藤さんの手が下着の肩紐にかかって、私はハッと口を開いた。

サトコ
「あ!」

後藤
···何だ?

サトコ
「あの···次はもっと素敵な下着を着ます!」

後藤
は?

サトコ
「私だって持ってるんですよ!いざっていう時のために着る豪華な下着!」
「色も鮮やかでレースとかもついてて···」

後藤
ぷっ···

吹き出した後藤さんは私に背を向けると、肩を揺らしている。

(し、しまった···!余計なこと言っちゃった···!)

サトコ
「い、今のは···その···緊張を解すためっていうか···」

後藤
ああ···

ひと息ついて、後藤さんはもう一度こちらに向き直った。

後藤
期待しないで待ってる

サトコ
「そこは期待してください···」

後藤
なら、期待してるからな

伸びてきた腕に閉じ込められ、そのまま柔らかいベッドに倒れ込む。
朝日を背にした後藤さんを見上げると、その顔にもう曇りはない。

(こんな後藤さんをたくさん見られたらいいな···)

暖かな日差しは私たちの未来をも、明るく照らしてくれているような気がして。
これからの日々を想うように、私たちは互いの指先をそっと絡め合った。

Good End

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

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