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ふたりの絆編 後藤シークレット2



【アジト】

(予想していたよりも、数が少ないな)

石神さんの命令で、家宅捜査に入ったが思うような証拠は出てこなかった。

(銃器の類は出て来たから、石神さんの言う通り表立って捜査は出来るが···)
(金山の姿が見えないことが引っかかる···)

サトコ
「金山の姿も見えませんでしたね···」

俺と同じことをサトコも考えていたらしい。
サトコの報告では、金山が来てから教団に動きがあった。

(つまり金山は教団の動きそのものに関わるほど、重要な人物ということになる)
(···金山を捕まえられれば、武器の密輸に関しても進展があるんだろうが···)

サトコ
「金山!」

そんな時、ベランダに出ていたサトコが叫んだ。

【ベランダ】

後藤
氷川、どうした?

サトコ
「金山がマンションの前をうろついています!」
「確保に向かいます!」

後藤
氷川!?

俺が呼び止めるのも聞かず、サトコは部屋を飛び出しひとりで確保に向かってしまう。

(···馬鹿野郎、ひとりで勝手に行動するなとあれほど教えて···っ!)

胸がざわついて、嫌な予感がする。
勘が良い方ではないが、こういう風に胸がざわつく時はいつも何かがあった。

(夏月の時も···いや、考えるな。あの時とは違う)
(···あの時のことを重ねるな。サトコは俺が守ると決めたんだから)

後藤
追いかけます···っ!

【ビル】

(この辺だと思うんだが···)

サトコが向かった方向にあったのは建設中のビル。

身を隠すにはうってつけの場所で、俺は警戒を強めながら歩く。

金山
「だからナンだと言うんだ?この状況でワタシの方が有利に違いない」
「あんたにはココで死んでもらう。まずは銃を捨てろ」

金山らしき男の声が聞こえ、壁に身を隠しながら様子を見ると、

(サトコ···!?)

サトコが金山に銃を向けられている姿が視界に入ってきた。
サトコの視線がちらりと自分の携帯している拳銃に向く。

(まさか、早撃ちでもするつもりか?)
(···ドラマや漫画の世界じゃないんだ、そう上手くいくはずがないだろう!)

心の中でサトコを叱咤しながら、俺は勢いよく飛び出した。

後藤
伏せろ!

サトコ
「きゃっ···!?」

俺にとっても一か八かだったが、サトコと共に床へと倒れ込んだ。
俺が来たことで不利になったと思ったらしく、金山が逃走の意を見せる。

後藤
待て!

サトコ
「待ちなさい!」

追いかけようと俺たちがビルを飛び出した時、2度目の銃声が響いた。

後藤
···っ!?

銃弾は俺の隣を通り過ぎ、少し後ろを走っていたサトコのうめき声を生んだ。

サトコ
「う···っ」

後藤
撃たれたのか!?

金山
「チッ!外したか!」

金山は忌々しげに吐き捨てた後、そのまま背中を向けて逃げ出す。

サトコ
「私は大丈夫です!金山を追ってください!」

後藤
···っ

サトコが撃たれたのは腕。
出血の様子を見る限り、恐らく腕を掠めただけ。
最優先されるべきは、逃走する犯人を追うことだとわかっていたのに···

サトコ
後藤さん!

俺が咄嗟に選んだのは、サトコだった。
結果、金山の逃走を許してしまうことになる。



【教官室】

石神
···氷川の手当てを優先して、金山の逃走を許しただと?
あの教官の調査に、どれだけの労力が使われていると思っている!

後藤
······

予想通り、俺は公安家学校に戻って早々石神さんに呼び出され、説教を受けていた。

石神
お前は公安の捜査員としての自覚があるのか!
みすみす犯人を取り逃がすとは···俺の下で何を学んでいた

後藤
申し訳ありません

難波
訓練生だから放っておけなかったのか?

室長の言葉に、俺は僅かに反応してしまう。
だけど動揺する心を知られないように、俺はマニュアル的な言葉を返す。

難波
それはつまり···彼女が一人前の公安捜査員になったら残せたという訳か?

後藤
······

石神
答えろ、後藤

後藤
···その状況になってみないとわかりません

するとそこへ、サトコが入ってきた。

後藤
······

包帯で撒かれた痛々しい姿を視界に入れることが出来ず、俺は彼女から目を逸らす。

(逃がした犯人···)
(救えず傷つけてしまったサトコ···)

公安刑事として正しい結果は···
どっちだったんだろう。

【屋上】

自分らしくない行動だったことは理解できていた。

(でもあの時···身体が動かなかった)
(今、サトコから離れちゃダメだと···どうして···)

颯馬
後藤

後藤
周さん···

颯馬
···犯人を逃がすなんて、後藤らしくないね

後藤
······

颯馬
俺は今、お前のこと責めてるよ
言い訳は?

後藤
···ありません。今回は、自分のミスです

颯馬
謝って済む問題じゃない。それで解決される問題なら、俺は責めてないよ

率直な言葉は、俺自身にまっすぐに突き刺さる。

颯馬
···今回の行動は、彼女だから?

後藤
え···

颯馬
ふたりの関係を細かく聞くつもりはないよ
でも、らしくない行動をとったのは、彼女だったから?

(サトコ、だったから···)

その言葉もまた、自分の中にスッと落ち着いた。

(そうか、サトコだったから、だ)

彼女によって動き出した俺の時間。
気付かない間に、自分が想像していたよりも大きく成長していた気持ち。
守るという意味が、分かった気がした。



【寮】

それから、俺はサトコの部屋を訪れていた。
三角巾で腕を吊った姿は教官室で見た時よりも痛々しさを増している。

サトコ
「後藤さんが差し入れてくれただけで何倍も元気が出ます!」
「早くケガが治りそう···!」

カラ元気なのかもしれない。
それでも、俺の心を渦巻く黒い影は、だんだんと消えていく。

(やっぱり···アンタを助けて良かった)

自分のことよりも、まず他人を優先する。

(アンタはそういう女だ···)
(そしてそういうアンタが愛おしい)

サトコ
「後藤さん···その···ありがとうございました」
「後藤さんが守ってくれなかったら、今頃···」

アンパンの袋を開けた後、サトコが不安そうに俯きながら呟く。
俺は少しでもサトコの不安を取り除けたら、とその手に自分の手を重ねる。

(···アンタを助けられたこと、俺は後悔していない)

例え、何度同じ場面に遭遇しても俺は同じ選択をする。
サトコは、俺が絶対に守ると決めたんだから。

【公園】

サトコの腕が回復して、快気祝いに評判のレストランへ出かけた。
予想以上に喜んでくれた様子で、人を喜ばせることが、
自分にとってこんなにも嬉しい事だとは知らなかった。

(愛おしいとは···そういう意味だろうか···)

自分の隣を歩くサトコ。
時折、街灯に照らされる表情、肌の白さ。
いつもとは違う姿の彼女に、邪な感情が生まれた。

後藤
恋人として何点か知りたいか?

サトコ
「え···」

サトコの言葉を待つことなく、俺は彼女を気に押し付けながら唇を重ねる。

(サトコの卒業まで自制心が持つかどうか···分からないな)

サトコを求める気持ちは、毎日どんどん膨らんでいく。

(···このまま、サトコを守り続けたい)

彼女が離れていくのが怖い。
このまま攻め込んでも、彼女は受け入れてくれるだろうか?
もし離れて行ったら?もし嫌われたら?
キスの合間の呼吸。
力を抜いて自分に身体を預ける無防備な姿。

(いつの間に···)

いつの間に、こんなにも愛しい存在になったんだろう。
今の俺はサトコに対してひどく臆病になっている。

【個別教官室】

翌日。

後藤
失礼します

石神
単刀直入に聞く···
氷川とはどんな関係だ?

後藤

石神
まさか···ただの補佐官です、と誤魔化すつもりではないだろうな
···氷川は素直にお前との関係を答えたぞ

後藤
石神さん、俺相手にカマかけるのはやめてください

石神
どうかな?はっきりとは答えていないが···
曖昧な答えほど、明確なものはない。特に引っかかりやすいヤツはな

後藤
······

いつも通りの静かな空間。
そして···少し前にも感じた、いつもと違って嫌な沈黙。

石神
···飯嶋夏月

後藤

石神
忘れたわけじゃないだろう
お前は···
氷川を彼女の代わりにしようとしているんじゃないか?

後藤

石神
氷川が撃たれたことで、犯人を逃がしたお前は···
まだ、彼女を引きずっているんじゃ···

後藤
違います!

気付けば、拳をギュッと固く握りしめていた。

石神
······

後藤
違います。夏月と彼女を被らせたことも、比べたこともありません
俺が今回のことを起こしてしまったのは、氷川だったからです
氷川だから、放っておけなかった

石神
······

後藤
この手で···守りたかったんです

握りしめた拳に一層力が入る。
石神さんは深く溜息を吐いた後、曖昧な表情を浮かべた。

石神
それがお前の答えだと受け取っておこう
言っておくが、今のはカマをかけたつもりはなかった



【病院】

それから、あまり間もない頃だった。
石神さんが地下鉄爆破事件に巻き込まれ、病院に運ばれたということを知ったのは。

後藤
······

いつもは自信たっぷりの石神さんが、管に繋がれ、ひどく弱々しく見える。

(俺は···間違っていたのだろうか)
(犯人は確定ではないが、十中八九金山だろう)

あの時、金山を逃がしさえしなければ石神さんが巻き込まれることはなかった。
俺の判断が間違っていたから、石神さんは今あんな状態になっている。

後藤
俺があの時、捕まえてれば···っ

不安が押し寄せてきて飲み込まれそうだ。
だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。

後藤
···金山は必ず俺が捕まえます

颯馬
オレたちと···だろう?

後藤
···はい

【裏路地】

そして所轄と合同捜査という形を取り、金山を捕まえるためにがむしゃらに捜査を続けた。
張り込みに数週間が経ち、僅かながら焦りと苛立ちが募るのがわかる。

サトコ
「あのフードの男!背格好が金山と同じです!」

サトコが指差した男を見ると、所轄は最初から疑ってかかってくる。
しかし、靴を引きずって歩くクセが金山と同じで、俺たちは追いかけ、金山を確保した。

【教官室】

そして俺たちが金山を捕まえた日。
黒澤が教官室に飛び込んできて、石神さんの意識が戻ったことを知る。

(石神さん、意識が戻ったのか···)
(良かった、本当に良かった···!)

サトコ
「良かった···」

サトコも目に涙を浮かべながら、石神さんの回復を喜んでいる。

後藤
······

俺はそんなサトコの姿を見ながら、ある決意をした。
あの時、サトコを助けたことで自分の弱点を知った。
石神さんを巻き込んだことで、自分の判断にも自信が持てなくなった。

(···もう、今の俺は公安刑事として役に立てない)

【新幹線】

後藤
······

朝イチで石神さんの机に辞表を置き、俺は実家に帰ることにした。
手に持ったスマホにはサトコの名前が映し出されている。

後藤
······

通話ボタンを押せば、すぐサトコに繋がる。
だけど、俺は逃げるようにその画面を消して新幹線に乗り込んだ···。

(俺は···いつから、こんなに弱くなった?)

自問してみるけど、答えてくれる者など誰もいなかった···

to be continued

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