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ふたりの絆編 後藤シークレット3



【後藤 実家】

覚悟を決めて戻ってきたはずなのに、サトコの姿を見るだけで心を揺さぶられる。
サトコが来るのは予想出来ていたからこそ、すぐに追い返すつもりだった。

(···俺は、もう戻らない)
(たったそれだけ言えばいいのに···)

どうしても言葉が詰まって、それ以上を言えない。
どんなに固く決心していても、サトコの表情、言葉ひとつで決心鈍らされる。

(それでも、自分でケリをつけなければ···)

【河原】

翌日の早朝、俺はサトコを誘って近くの川辺に来ていた。

(なんだか、不思議な気分だな)
(昔と同じ場所、同じ風景···)
(だが···)

幼い頃を過ごした見慣れた川辺に、サトコがいる。

後藤
俺は···怖くなったんだ

しばらく川の流れを見つめた後、重い口を開いた。

サトコ
「怖く···?」

後藤
···また大切な人を失いかけた
その怖さに···耐えられなくなったんだ

刑事である以上、犯罪に立ち向かうたびに自分が危険に晒されるのは分かっている。
···分かっていた、つもりだった。

(夏月のことがあって強くなろうとしたけど···)
(結局、俺はあの頃から全然変わっていないんだ。臆病者で、逃げることばかりだ)

サトコ
「石神教官のことですか?」

俺は肯定の意味を込めて、サトコの言葉に何も答えなかった。
自分から出てくるのは女々しい言葉ばかりで···うんざりする。
こんな俺が誰かを守るなんて、おこがましい。

後藤
俺は···戻るつもりはない。帰って、そう伝えてくれ

サトコ
「···っ!」

サトコが息を呑んだ気配がした。
見ることができないまま、伝えた言葉は···サトコにどれだけの衝撃を与えたのだろう。

サトコ
「勝手に決めて、勝手なこと言って···勝手なことして···!!」

俺の言葉を聞き、サトコが目に涙を溜めながらつぶやく。

後藤
サトコ···

キツく俺を睨みつける表情は涙に濡れていて、俺の心を揺さぶる。

(泣かせたいわけじゃないのに···やっぱり、俺はダメだな···)

サトコ
「守ることも大事です。でも···守られる方の気持ちも考えてください!」

(守られる方の、気持ち···?)

サトコの言葉は、今まで考えたこともないものだった。

サトコ
「後藤さんが公安を辞めても、石神教官も私も公安の仕事を続けます」

後藤
···ああ

サトコ
「私も、いろんな人のことを守りたい」
「その中には、後藤さんもいます」

後藤

サトコ
「私も······後藤さんを守りたい···」

(サトコが···俺を···?)

後藤
もし、守れなかったら···どうする···?
俺は
俺は、お前を今の俺と同じ気持ちにはしたくない

サトコ
「絶対に守ります」

なんて、まっすぐに返事をするんだろう。
なんて、俺の心をしっかりと掴むんだろう。

サトコ
「もちろん、公安刑事として···警官として、私は未熟です」
「大事な人を失ったことがないから、私の言うことは理想論なのかもしれませんけど···」

(言うなよ、言うな···)
(それ以上言われたら、戻らないと決めた心が崩れてしまいそうになる)

自然と拳に力がこもる。

サトコ
「私は、そばで全力を尽くしたいと思います」

サトコの言葉に、頑なに閉ざした心の殻がひび割れていくのが分かる。

サトコ
「後藤さんは私を守ってくれたじゃないですか···」
「だから、私は今ここにいるんです」

後藤
······

サトコ
「後藤さんは大切なもの、ちゃんと守れてます」
「石神教官も意識を取り戻したし、金山も捕まえた···」
「私も、そんな後藤さんのように···後藤さんを守りたいんです」

(サトコ、震えているのか···?)

背中に感じる温もり。
それは心地良いけど、かすかに震えていることに気付いた。

(こんなにも情けなくて、ちっぽけな俺を捕まえようと必死になって···)

振り返って、思い切り抱きしめたい······

(その権利を、まだ俺にくれるのか?)

サトコ
「 “絶対” なんて存在しないのはわかってます」
「でも···私は最後まで後藤さんと一緒に立っていたいです。刑事として···恋人として」

その言葉に、完全に俺の決意は壊されてしまった。

【後藤 実家】

あれから、サトコは『帰ります』という言葉通りに帰って行った。

(どっちが補佐官なんだか···)

去っていくサトコは俺が思っていたよりも成長していて驚いた。

後藤
いっそのこと、俺を憎んでくれたら良かったのに

ポツリと零れた言葉に答える者はいない。
何も言わずに去った俺を憎んでくれたら、ここまで悩まずに済んだはずだ。
人の心をこんなにもかき乱した挙句、颯爽と去って行ったサトコの背中を、今の俺は追えない。
微塵も···震えていたことを感じさせない、あの姿。

(ある意味では刑事として有望なのかもしれないな)

他人の立場に立って物事を考えられ、他人を優先する姿は刑事の理想像なんだろう。

(···それに、あの震える身体を)
(抱きしめたい)

サトコの不安を全部取り払って、もう大丈夫だから、といって安心させたい。

後藤
···やられた

これはもう帰るしかないじゃないか。
あの場所に戻らない限り、この悶々とした悩みは消えてくれないだろうから···

(···さて、石神さんはもちろん、加賀さんや周さんに会うのが怖いな)

一体、どんなことを言われるやら···
この時の俺はたぶん苦笑いではなく、心からの笑みを浮かべていたんだろうと思う。



【駅】

そんなに長く離れていたわけではないのに、東京に戻ってきた途端、妙な懐かしさを覚えた。

(まずは石神さんのところに行って、辞表を取り下げてもらえるように頼んでみるか···)
(たとえ受理されていたとしても、また最初から這い上がるだけだ)

駅から出ようとした時、携帯の着信音が鳴り響く。
画面を見ると『石神さん』と表示され、嫌な予感がしながら通話ボタンを押した。

後藤
はい、後藤で···

石神
東京タワーだ

俺の言葉を遮り、石神さんが告げてくる。

後藤
は···?

石神
金山が護送中に逃げた。ヤツは東京タワーに逃げ込んだらしい

後藤
ですが、俺は···

石神
事件発生時にぐだぐだと言う無能な部下を持った覚えはない
何かあるなら後で聞いてやる。今お前がやるべきことを成せ!

後藤
···了解です!

俺は小さく深呼吸をした後、東京タワーへと急いだ。

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【東京タワー】

後藤
人が多すぎだな

ため息混じりに呟いた時、タワー内部から周さんが出てくるのが見えた。

後藤
周さん!

颯馬
後藤···!

後藤
石神さんから聞きました。金山が逃げたと

颯馬
オプションとしてプラスチック爆弾も所持しています
···それが爆発したら、ここだけではなく、この辺一帯が吹き飛ぶでしょう

周さんは険しい表情を見せながら、SATと爆弾処理班に指示を出していく。

後藤
···周さん、氷川は?

颯馬
彼女は金山を追ってタワー内部に

後藤
なっ!それを早く言ってください!

周さんの言葉を聞き、俺はタワー内部の入り口に向かって走り出す。

颯馬
後藤!

後藤
行かせてください!

颯馬
···はぁ、しょうがないですね。これを持っていきなさい!
携帯していないでしょうから

周さんが自分の所持している拳銃を渡してくる。
俺はそれを受け取り、軽く礼を言いながらタワー内部を目指した。

【タワー内】

金山
「ここで全てをオワリにしてやる!!」

タワー内部で金山とサトコを発見したが···
サトコは爆弾が入っているであろうリュックめがけて飛び込んでいく。

(アンタが “いろんな人” を守ろうとするなら···)
(アンタが俺を守ると言うなら···)
(俺が “サトコ” を守る!)

周さんから渡された拳銃を構え、俺は躊躇うことなく引き金を引いた。



【教官室】

事件も無事に解決して、俺は再び今までのように公安刑事として働けることになった。

(見限られても仕方ないと思っていたのに、本当にここの人たちには頭が上がらないな···)

ただ、ひとつだけ気になることがある。

颯馬
プラスチック爆弾の入ったリュックに飛び込もうとしたんですって?

東雲
キミが身体を張っても爆発は止められないんだけどねー

サトコ
「うっ、あの時は無我夢中で···」

石神
無我夢中でもドラマじゃないんだ、身体を張って爆弾を止められるはずがない

加賀
それとも殉職二階級特進を狙ってたのか?
クズにしてはまともな考えだな、クズ

サトコ
「に、2度もクズって言わないでください···!」

東雲
キミが二階級特進しても、おおって思うような位置じゃないよね···

サトコ
「狙ってません!私は生きて出世していくんです!」

颯馬
まぁ、夢は大きく持っていた方がいいですからね

サトコ
「颯馬教官、私の出世は大きな夢になるんですか···」

サトコと他の教官たちとの距離が一気に縮まっていることだ。

(本人は気付いていないだろうが···)

俺を連れ戻したこと、事件解決への姿勢···青臭さは残るものの、評価は高いようだ。

(不安···っていうのは、こういう気持ちなのか?)

サトコ
「あっ、千葉さんと鳴子とお昼を食べる約束をしていたんだった···!」
「失礼します···!」

(はぁ、忙しいヤツだ···)
(その素直さが可愛いんだが)

そんな行動でさえ、愛おしいと思ってしまう。
サトコを自分のものにしたい、という感情が湧き出てくる。

(卒業までって約束だったはずなんだが···)

そんな自分にため息すら漏れる。
けど、それをどこか楽しんでいる自分がいることにも気づいていた。
もう震える身体を抱きしめるだけじゃ、満足できない。
自分が守る大切な人を、もっと感じたい。

(アンタは···受け入れてくれるか?)

今度、本気半分冗談半分で聞いてみようか。
そんなことを考えながら、俺も教官室を出た······

Secret End

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