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ふたりの絆編エピローグ 後藤2話



【資料室】

後藤
ダンボール、ここに置いておけばいいか?

サトコ
「はい。すみませんでした。私が頼まれた仕事なのに···」

後藤
いや、気にするな。そういえば···メールは見たか?

サトコ
「あ、はい!週末のことですよね。水族館···」

後藤
通常営業のあとに見られるナイトツアーというのがあるらしいんだ
行ってみないか?

サトコ
「ぜひ!営業終了後の水族館なんて初めてです」

後藤
なら、予約しておく。それから···

後藤さんは手に提げていた小さなビニール袋から、パンの袋を取り出す。

後藤
昼、まだだろ?よかったら食べてくれ

サトコ
「こ、これは···近くのコンビニで売ってる、1日5個限定の “銀色のあんぱん” !」

(食べようと狙って数ヶ月···一度も買えたことがなかったのに!)

サトコ
「いいんですか?こんな貴重なパンを···」

後藤
アンタに食べさせたいと思って買ったんだ。気にせず食べてくれ
じゃあな。また週末のことが詳しく決まったら連絡する

(後藤さん、そんな爽やかな笑顔で “銀色のあんぱん” を渡して···)
(カッコいいけど···本当にどうしちゃったんだろう?)

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【水族館】

約束の週末。
私は後藤さんと営業終了後の水族館を訪れていた。

後藤
パンフレットをもらってきた。それから、こっちが館内マップだ
ついでにパンフレットの裏に、記念のラッコスタンプを押しておいた

サトコ
「わ、可愛い!ありがとうございます」

(なんか···この間から、後藤さんの優しさが増量されたままのような···)

後藤
ナイトツアーの館内は通常よりも照明が落とされていて、懐中電灯で進んでいくことになる

サトコ
「そうなんですね。こっちは···ブラックライトって書いてありますけど···」

後藤
ああ、ブラックライトで照らして楽しむ場所もあるらしい
楽しみだな

サトコ
「はい。懐中電灯で水族館に入るのは初めてです!」

(参加できるのは20組のみって書いてあったっけ)
(そのせいもあって、静か···)

館内は幻想的な雰囲気で、周りも大人のカップルばかりだ。

(なんか緊張する···)

後藤
行こう

サトコ
「はい···」

入場が始まり、歩き出すと後藤さんが私の手を取った。

サトコ
「あ···」

後藤
ここなら、知ってる人間に会うこともない。誰に遠慮することもないだろう

サトコ
「は、はい···!」

(水族館の雰囲気のせいなのかな···)
(後藤さんがいつもよりさらに、大人の男性に見える···)

優しく握られた手を意識しながら、大きな水槽の前にやって来る。

サトコ
「わぁ···昼間の水族館と、こんなに違うんですね···!」

後藤
圧倒されるものがあるな···

周囲が暗いせいもあって、水槽というより海の中にいるような錯覚を覚える。
ゆったりと泳ぐ魚たちを見ていると、自然と身体の力が抜けて······

サトコ
「リラックスって···こういうことを言うのかもしれませんね···」

後藤
俺たちの仕事は緊張の連続だからな
気を抜ける時に抜いておくのも大事だ

サトコ
「そうですよね。気を抜ける時があるから、また集中して頑張れる···」
「こういう時間も大切ですよね」

後藤
訓練生として、補佐官として···それから、ひとりの刑事として
日々大変だろうが、今は全部忘れろ

サトコ
「はい···」

(私をリラックスさせようと思って、ここを選んでくれたんだよね)
(私よりずっと、後藤さんの方が忙しくて大変なはずなのに···)

サトコ
「あ、あの魚···なんか顔が平べったくて可愛い···」
「面白い顔してると思いませんか?」

後藤さんを見上げると、後藤さんは水槽ではなく私を見ていた。

サトコ
「わ、私の顔になにかついてます!?」

慌てて頬を押さえると、小さく笑われる。

後藤
何もついてない。アンタを見ていたかっただけだ

サトコ
「!」

(ご、後藤さん···そういうことを不意打ちで···!)

さらに頭をポンッとされて、頬が熱くなるのを感じる。

(暗くてよかった···でも、本当にどうしたんだろ?)
(こういうこと、あんまり言ってくれないのかなって思ってたけど···)

後藤
この魚···黒澤を思い出すな···

サトコ
「え?どの魚ですか?」

後藤
この他の魚の周りをウロチョロしてるヤツだ

サトコ
「あ、2匹の間を行ったり来たりしてる···」
「ってことは、この2匹は後藤さんと石神教官ですね」

後藤
そうなるのか?

サトコ
「黒澤さんはお2人といることが多いので···」

後藤
となると、こっちの大きな魚と小さな魚のコンビは加賀さんと歩か···

サトコ
「ふふっ、確かに···大きな魚の方は目つきが悪い···いえ、鋭いですし!」

後藤
小さい方の魚はヒレの丸みがキノコを思い出させるな···

サトコ
「それで、あそこで優雅に泳いでるのが···」

後藤
周さんか

サトコ
「はい!」

顔を見合わせて、私たちは笑い合う。

サトコ
「私に似てる魚はいませんかね?」

後藤
アンタは···アレだな

後藤さんが指差した魚は、私がさっき後藤さんだと言った魚に寄り添っている1匹。

後藤
いつも傍にいてくれる···大事な存在だ

サトコ
「いなくていいって言われても、追いかけて行きますから」

後藤
ああ···そんなアンタがいてくれてよかった

私を見つめる目が優しくなり、自然と距離も近くなる。

(学校にいる時とは違う後藤さん···)

そんな彼に癒されているのを感じる。

(私も後藤さんのこと、癒せる存在になれたらいいな···)



【デパ地下】

水族館を出て、私たちは閉店間際のデパートにやってきた。

サトコ
「夕飯、本当に作らなくていいんですか?」

後藤
この時間からじゃ大変だろ。外で食べてもいいが···惣菜でもいいか?

サトコ
「私は構いませんよ。でも、食べる場所は···」

(寮の部屋ってことはないし、教官室?)
(それとも···)

後藤
俺の部屋でいいか?

サトコ
「いいんですか?」

後藤
明日も休みだ、ゆっくりしていけばいい

サトコ
「は、はい···!」

(ってことは···やっぱりお泊りになるんだよね?)

ひとり胸をドキドキさせていると、後藤さんはデパ地下の総菜コーナーに向かう。

サトコ
「わ、すごい人ですね···!」

後藤
閉店時間が近いから、セールをやっているのか···

サトコ
「セール···!本当だ、高級ローストビーフが半額になってます!」

(東京のデパ地下って高いから、あんまり近寄ってなかったけど)
(半額だったら、好きなものが食べられるかも···!)

サトコ
「···私たちも戦場に行きましょう」

後藤
戦場···

???
「お前ら、どこに行くつもりなんだよ」

(ん?この声、どこかで聞いたことあるような···)

隣の後藤さんが眉をひそめるのがわかる。
振り返ると、そこに立っていたのは······

サトコ
「一柳教官!···と、広末さん!」

一柳昴
「お前らの戦場は現場じゃなくて、惣菜コーナーなのか?」

広末そら
「気持ちは分かるけどね。覚悟決めないと、中には入っていけなさそうだけど」

サトコ
「ご無沙汰しています。その節は色々とお世話になりました!」

一柳昴
「後藤の下じゃ、お前も大変だろうな」

後藤
お前に言われる筋合いはない
そもそもお前らこそ、何でこんな所にいる

広末そら
「今日は待機時間長くなりそうだから、夜食の調達」

サトコ
「遅くまでお疲れさまです」

一柳昴
「そういえば、東京の観光情報は役に立ったのかよ」

後藤

広末そら
「そういえば後藤さん、やけに熱心に情報集めてたよね」

サトコ
「観光情報に詳しい人がいるから、聞いてくれたって言ってましたけど···」
「桂木班の皆さんから聞いてくれてたんですか?」

後藤
書類を持っていったついでに聞いただけだ

一柳昴
「なんだ···コイツのためか?」

広末そら
「へえ···女の子のために、そーいうことするようになったんだぁ」

後藤
······

一柳教官と広末さんが後藤さんを見てニヤニヤとする。

(後藤さん···わざわざ私のために、一柳教官に聞いてくれたんだ···)

サトコ
「わ、私がお願いしたんです!」
「田舎の母が出てくるので、観光スポットを教えてほしいって···」

後藤
いいんだ、氷川

サトコ
「後藤さん···」

後藤さんが1歩前に出て、振り向き微笑んだ。
そして···

後藤
氷川のお母さんを少しでも喜ばせたかっただけだ
お前たちは外国の要人警護で、人気の観光スポットも熟知しているだろう
必要な情報を引き出せるところから、手に入れただけのことだ

一柳昴
「カッコつけやがって···初めから、コイツのために調べてるって言えっての」

広末そら
「でも、その手のことに詳しいのは本当だから、今度は直接サトコちゃんが聞きに来てよ」

サトコ
「あ、ありがとうございます···」

広末そら
「ちなみに、ここでオススメなのは角の和食屋の野菜のあんかけ」

一柳昴
「そこの店の冷製ロールキャベツもいける。タレはごまだれの方が美味い」

サトコ
「野菜のあんかけと冷製ロールキャベツですね。勝って帰ります!」

後藤
行くぞ

サトコ
「では、また。いろいろありがとうございました!」

二人に頭を下げている途中で、後藤さんは私の手を引いていく。

(後藤さんと一柳教官って、基本的に仲良くないのに···)
(観光情報を聞いてくれたんだ···)

サトコ
「あの、後藤さん···」
「私のお母さんのために···ありがとうございました」

後藤
気にするな。役に立ったなら、それでいい

サトコ
「いつか···後藤さんのお母さんが東京に出てくる時があったら···」
「その時は、私に案内させてください!」

後藤
···あの人が観光に行くと、大変なことになるぞ?はしゃぎぶりが···
それから、目的地に着く前に土産物まみれになる

サトコ
「私も同じように楽しんじゃうので、大丈夫です!」

後藤
···そうか

店員
「間もなく最後のタイムセールが始まりまーす!」

サトコ
「最後のタイムセール!行きましょう!」

後藤
ああ

私たちは気合いを入れると、人並みに切り込んでいった。

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【後藤 マンション】

後藤さんの部屋に一緒に帰ってきて、私は食卓に戦利品のお惣菜を並べる。

(食卓が輝いてる···!閉店間際って素晴らしい!)

サトコ
「用意できました。お味噌汁、一応作りましたので」

後藤
味噌汁が飲めるのは嬉しい。結構品数あるな

サトコ
「ちょっと買い過ぎましたかね」

後藤
これくらいなら食べきるだろう。いただきます

サトコ
「いただきます!ん···この野菜のあんかけ美味しい···!」

(さすが広末さんのオススメ···)
(こっちの、一柳教官オススメの冷製ロールキャベツも美味しいんだろうな)

後藤
···水族館は楽しかったか?

サトコ
「はい、もちろんです!人も少なくて、ゆっくりと回れたし···」
「素敵なイベントに連れて行ってくれて、ありがとうございました」

後藤
それならよかった

(素敵なデートをして、美味しいものを一緒に食べられて···)
(これ以上望むことなんて、何もないって感じ···)

サトコ
「私、幸せですね···」

後藤
そんなに飯が美味いか?

サトコ
「ご飯も美味しいですけど、それだけじゃなくて···」
「とても大切にしてもらってるなって···」

箸を置いて、私は照れながら後藤さんに顔を向ける。

サトコ
「後藤さんも忙しくて疲れてるはずなのに···いつもありがとうございます」

(最近、妙に優しくされてるような気がしてたけど)
(忙しくても、後藤さんが私との時間を大切にしてくれるのは、前からだもんね)

後藤
···好きな女を大切にするのは当然だろ?

サトコ
「そう言ってもらえるのが、すごく幸せなんです!」

後藤
それに、サトコと過ごす時間には俺も助けられてる

サトコ
「本当ですか···?」

後藤
アンタの笑顔に何度救われてるか、わからない

サトコ
「よかった···後藤さんの役に立ててるのか、いつも気になってたから···」
「刑事としてもパートナーとしても、助けてもらってばかりで」

後藤
何を言ってるんだ。アンタは俺の力になってくれてるだろう

お味噌汁を飲んで、後藤さんが私を見つめる。

サトコ
「これから、もっと力になれるように頑張りますね!」
「刑事としても、恋人としても···後藤さんは私の目標で理想ですから」

後藤
···そうか

サトコ
「はい!」

後藤
······

後藤さんの箸がほっけの塩焼きの上で止まった。

(ん?骨でもあったかな?)

サトコ
「骨だったら取りましょうか?これでも骨取り名人の異名をとったことも···」

後藤
···1つだけ聞いてもいいか?

サトコ
「え?はい···」

(骨取り名人についてかな···小学校の給食での話なんだけど···)

後藤
まだ···

サトコ
「まだ?」

後藤
······

言いにくそうに後藤さんが唇を惑わせる。

(後藤さん?)

後藤
まだ、お母さんには会わせられないか?

サトコ
「え?お母さん···?」

後藤さんから言われた言葉の意味がわからず、同じ言葉を繰り返す。
シン···と食卓に沈黙がおりた。

to be continued



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