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ヒミツの恋敵編 後藤3話



【教場】

翌日の1限は一柳教官の講義だった。

一柳昴
「警護対象には恋をしろなんて話があるが···まあ、実際のところ、それは無理だ」
「オレだって総理の警護をしたからって、総理に恋はできねぇしな」

笑いが起こる教場。
堅すぎない一柳教官の講義は訓練生たちにも好評だった。

(警官として仕事も教官としての講義も完璧···)
(警視庁の超エリートと呼ばれるだけあって、本当に何でもできる人だよね)

だから、後藤さんのことがわかるのかというと···きっと、そうではない。

(2人の信頼関係は2人が築いてきたもの)
(それなら···私には私の、後藤さんと積み重ねてきたものがあるんだから)

それを大切にして、刑事としての経験も積み重ねていきたい。

一柳昴
「今日はここまで。今日教えたことは頭に入ってる前提で次の講義をする」
「忘れねぇように、しっかり頭に叩き込んでおけよ」

(今日ノートにとったこと、後でちゃんと見直しておこう)

いつの間にか、びっしりとっていたノートを私は見つめる。

一柳昴
「オレの講義、真面目に受けてるようだな」

サトコ
「一柳教官!」

声をかけられ顔を上げると、いつのも笑みを浮かべて一柳教官が立っている。

サトコ
「一柳教官は私の目標なので!」

一柳昴
「へぇ···面白いこと言うな。これまでいろんな部下や後輩を持ったが···」
「オレが目標だと言い切ったのは、お前が初めてかもしれねぇな」

サトコ
「一柳教官が、それだけ大きな存在だってことだと思います」

一柳昴
「おだてて何もでねーぞ。ま、オレを目指すなら、死ぬ気で頑張るんだな」

サトコ
「はい!」

(そのためにも、一柳教官の講義はしっかり受けないと!)

そして2限目は岡田教官の情報管理の講義だった。

岡田
「今や情報が全てを統率していると言っても過言ではありません」
「情報管理は刑事としての必須のスキルになります」

実践的な技術を重点的に教える東雲教官に比べ、岡田教官はその必要性を説いてくれる。

岡田
「今の警察では···」

(実際の捜査での事例を多く出してくれるから、わかりやすい)

岡田教官の講義を聞いていると、岡田教官自身、努力してきた人のように感じられる。

(東雲教官は天才肌に見えるけど、岡田教官はまだ私たちに近いっていうか)
(見てる世界が同じような気がするんだよね)

岡田
「僕が個人的に分析した、ここ数年の事件の一覧を出します」
「この赤い枠が、収集したデータにより犯人を絞り込むことに成功した事件です」

(ここ数年で、あんなにあるんだ)
(現場に足を運ぶことが大事だと言われてきたけど、今はデータも重要なんだな)
(それをまた資料化した岡田教官もすごい···)

岡田教官の講義は私たち訓練生にとって、次のステップが見えるわかりやすい内容だった。


【廊下】

午前中の講義を終えて、午後の講義準備のために資料室に寄った帰り。
人気のない廊下の先で一柳教官の背中を見つけた。

(さっきは教場で返せなかったから···ハンカチ返さないと!)

サトコ
「一柳教官!」

一柳昴
「ん?···氷川か。どうした?」

サトコ
「先日お借りしたハンカチ···クリーニングから戻ってきたので、お返しします」

一柳昴
「そんなもん、気にしなくていいって言ったろ」

サトコ
「そういうわけにはいきませんよ。彼女さんの大切なハンカチなのに」

一柳昴
「彼女?」

サトコ
「彼女さんのハンカチですよね?これ」

一柳昴
「···ああ、まあな」

一柳教官は一瞬沈黙してから、ハンカチを受け取った。

一柳昴
「あれから足はどうだ?」

サトコ
「すぐに冷やしたおかげか、あの夜シップをして寝たら、すっかり痛みもなくなりました」
「今なら、全力で走れます!」

一柳昴
「お前、ほんといつも元気だな」

サトコ
「え?」

一柳教官は私を見て微苦笑を浮かべる。

一柳昴
「いつ会ってもぴょこぴょこ飛び跳ねてる印象っつーか」
「ああ、なんか···そうだ、ウサギっぽいんだな、お前」

サトコ
「ウサギ!」

その例えに、私は思わず目を輝かせる。

一柳昴
「···なんだよ、やけに嬉しそうな顔して」

サトコ
「これまで、そんな可愛らしい動物に例えられたことがなかったので···」

一柳昴
「何に例えられてたんだ?」

サトコ
「泳ぐのが得意だったので、 “長野のカッパ” とか」

一柳昴
「カッパ···」

サトコ
「あとは木登りが得意だったから、“長野のアイアイ” とか」

一柳昴
「アイアイは可愛いんじゃねーか?」

サトコ
「イラストでは可愛いですけど、本物って結構怖くないですか?」

一柳昴
「まあ···な···」

一柳教官はアイアイを思い出しているのか、軽くその首を傾げた。

サトコ
「なので、ウサギに例えられたのは、ちょっと感動でして」

素直に伝えると、一柳教官は私を見てぷっと吹き出した。

一柳昴
「カッパにアイアイ···ねぇ」

サトコ
「い、一柳教官?」

一柳教官はその身を屈め、ぐっと顔を近づけてくる。

一柳昴
「まあ、そそっかしさはアイアイに例えられなくもねぇが···カッパはちょっとな」
「お前、ウサギくらいには可愛いと思うぜ?」

サトコ
「!」

その手が伸びてきたかと思うと、髪をクシャっとされる。
同時にドキッと飛び跳ねる鼓動。

(いやいや!私には後藤さんがいるんだから!)

早くなりそうな鼓動を抑えるために、私は違うことを必死に考える。
そして口に出た言葉は······

<選択してください>

 A:一柳教官はネコですね!

サトコ
「一柳教官はネコみたいですね!」

一柳昴
「ネコ?オレが?」

(あ、つい適当なことを言ってしまった···)

サトコ
「ネコと言ってもペルシャネコとか、豪華な感じのネコです!」
「華やかな雰囲気が似てるというか···」

一柳昴
「ネコっぽいって言われたのは初めてだな」
「お前って、変な女」

 B:一柳教官はオオカミですね!

サトコ
「一柳教官はオオカミみたいですね!」

一柳昴
「オオカミ?」

サトコ
「シュッとカッコいいところがオオカミを連想させるかなって」

一柳昴
「シュッ···とねぇ···。お前、面白い例え方するよな」
「お前って、変な女」

 C:一柳教官もウサギですね!

サトコ
「一柳教官もウサギですね!」

一柳昴
「ウサギ?オレが?」

(あ、思わず口に出ちゃったけど、ウサギはなかったかな···)

サトコ
「イケメンのウサギもいいかなって···」
「カッコいいとなんでも似合いますし!ウサ耳も似合うかも!」

一柳昴
「···まあ、なんでもいいけどよ」

(あれ?意外にまんざらでもなさそうな顔で笑ってる?)
(ウサギ、好きなのかな···)

一柳昴
「お前って、変な女」

私を見つめ、一柳教官は小さく笑う。
その笑顔は思わず見惚れてしまいそうなほど魅力的だった。

サトコ
「そうでしょうか?」

一柳昴
「まあ、多少変じゃねぇと、後藤の補佐官なんてやってらんねぇか」
「これ、わざわざありがとな」

一柳教官は私が返したハンカチをポケットにしまって去っていく。

(一柳教官が人気ある理由、わかるなぁ。オーラからしてモテそうっていうか)
(刑事課時代とか···後藤さん派と一柳教官派で盛り上がったりしなかったのかな?)

私は一柳教官を見ると、どうしても後藤さんのことを考えてしまう。

(後藤さん、会いたいな···)

ここしばらく、後藤さんとゆっくり会う時間は取れていなかった。


【ラーメン店】

数日後の休日。
久しぶりに休みが取れた後藤さんと一緒に私は出かけていた。

サトコ
「今日、本当に大丈夫なんですか?」

後藤
ああ。時間が取れたんだ。気にしないでいい

サトコ
「それにしても、ウワサ以上にすごい行列ですね!」

後藤
黒澤の言う通りだったな

私たちが並んでいるのは、駅前にオープンしたばかりのラーメン屋さん。
絶品だと言う話を後藤さんが黒澤さんから聞き、私たちもやって来たというわけだ。

後藤
ラーメン屋は長居する場所でもないから、そんなに時間はかからないと思うが···

後藤さんが列の先を見て、気にする様子を見せる。

サトコ
「後藤さんとなら待っている時間も楽しいから大丈夫ですよ」

後藤
まあ···俺もアンタとなら待ち時間は気にならない

(こうやって一緒にいられるだけで、充分嬉しいよね)

サトコ
「この間、目の前で見て思ったんですけど···」

後藤
ん?

サトコ
「やっぱり仕事になると、後藤さんと一柳教官のコンビネーションは最高ですね」

後藤
そうか?

後藤さんはその眉間にシワを寄せる。

サトコ
「そう言われるのは嫌ですか?」

後藤
嫌というわけじゃないが···別に好んでいるわけじゃないんだ
だが···

後藤さんは、何かを思うように一点を見つめる。

後藤
一柳が仕事ができるのは認めている
ケンカするほど仲がいいとは言えないが···ケンカするほど、わかることもあるのかもしれない

サトコ
「そうなんですね···」

<選択してください>

 A:一柳教官が羨ましい

サトコ
「一柳教官が羨ましいです」

後藤
羨ましい?一柳が?

サトコ
「はい。後藤さんにそこまで言ってもらえる一柳教官が羨ましいです」

後藤
別にアンタが羨ましがる必要はないと思うが···

サトコ
「でも羨ましいんです」

(この感じ、本人たちにはわからないのかな)
(2人の関係を羨ましがってる人は、たくさんいると思うけど)

 B:私たちも、もっとケンカを

サトコ
「私たちも、もっとケンカをしましょう!」

後藤
いや、ケンカはしない方がいいんじゃないか?

サトコ
「でも、ケンカするほどわかるってこともあるなら、ケンカも大事なのかなって」

後藤
できればケンカしないで分かり合うのが一番だと思うが···

サトコ
「あ···それはそうですね!」

 C:夫婦みたいですね

サトコ
「後藤さんと一柳教官って夫婦みたいですね」

後藤
···本気で言ってるのか?

サトコ
「え、あ···ケンカするほどわかることがあるって夫婦っぽいなと···」
「あくまで例えです!」

後藤
例えでもやめてくれ

サトコ
「すみません···」

後藤
いや、俺の言い方も悪かった。気にしないでくれ

サトコ
「後藤さんと一柳教官の場合は付き合いの長さもあるんですよね」
「初めて会ったのは、いつなんですか?」

後藤
俺が初めて一柳に会ったのは···

後藤さんがそう言いかけた時、ぽんっと横から肩を叩かれた。

広末そら
「やっぱり、サトコちゃん!」

サトコ
「広末さん!」

一柳昴
「お前らも並んでんのか。暇人だな」

サトコ
「一柳教官も···」

後藤
ウワサをすれば···だな

一柳昴
「ウワサ?誰のウワサだよ」

後藤
さあな。それより、なんでお前らがこんなとこにいるんだ

広末そら
「黒澤から、ここのラーメンが美味いって聞いて」

後藤
なら、お前らも並んだんじゃないのか?

一柳昴
「オレがそんな時間の無駄をするわけねーだろ」

広末そら
「開店して一番乗りで来たんだよ」

後藤
ラーメン屋に一番乗りで行く方が、よっぽど恥ずかしいと思うがな

一柳昴
「それよりラーメン屋でデートって···」

一柳教官が私の方に顔を寄せる。

一柳昴
「ここのラーメンも美味かったけど···」
「お前には今度、ラーメン以外の美味いメシをオレが作ってやるよ」

サトコ
「え!」

一柳昴
「それより、手作りの特盛餃子がいいか?」

サトコ
「う···」

(そういえば、前に一柳教官には特盛餃子を食べるところを見られてるんだっけ···)

後藤
一柳!

一柳昴
「じゃあな」

広末そら
「昴さんがメシ作るときはオレも呼んでくださいよ」

一柳昴
「お前は呼ばねー」

広末そら
「えー、昴さんのケチ」

一柳教官は広末さんと話しながら去っていく。

後藤
一柳のヤツ···

サトコ
「一柳教官には、すぐからかわれちゃって···」

後藤
···よく、あんなこと言われるのか?

サトコ
「いえ、よくってほどじゃないです。本当にたまに···ですよ」
「後藤さんの前だから、からかってくるのかも」

後藤
あいつはガキだからな

サトコ
「あ、もうお店に入れるみたいですよ」

後藤
いつの間にか順番が回って来たのか

私たちはラーメン屋さんの中に入った。

【店内】

一番人気のラーメンと餃子のセットを注文すると、すぐに出て来た。

サトコ
「いい匂い···美味しそうですね!」

後藤
本当に、ここでよかったのか?他の店でもよかったんだぞ

熱いラーメンを冷ましながら、後藤さんが尋ねてくる。

(さっき一柳教官が言ったこと気にしてるのかな?)

サトコ
「大好きなラーメンと餃子を大好きな人と食べられるなんて嬉しいです!」

後藤
···そうか

(猫舌なのに、一生懸命ラーメンを食べる後藤さんを見られるなんて幸せだよね)

私の答えに、後藤さんは少し照れた顔を見せた。

後藤
余計なことを考えるのはやめる。さっきはアイツに邪魔されたから、仕切り直しだ

サトコ
「美味しいものを食べれば、気分も変わりますよ」

ゆっくり食べる後藤さんに合わせて、私もじっくりラーメンを楽しんだ。

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【雑貨屋】

サトコ
「こんなところに雑貨屋さんができたんですね」

後藤
小さいが、店の中には商品が随分並んでるな

私たちはラーメン屋さん近くにある雑貨屋さんを見つけて入ってみた。

後藤
ここなら、サボテンに合ういい鉢が見つかるかもしれない

サトコ
「観葉植物の鉢も売ってますね。あ、このハンカチ可愛い」

観葉植物のコーナーに向かう途中で、私は足を止める。

後藤
2枚セットなのか?

サトコ
「こっちが男性用でこっちが女性用みたいですね」

後藤
ペアのハンカチなんてあるんだな

後藤さんはめずらしそうに見ながら、ハンカチを手にとった。

サトコ
「後藤さん、それ···」

後藤
この間、ハンカチが1枚行方不明になって新しいのが欲しかったんだ
1枚はアンタが使うだろ?

(後藤さんとペアのハンカチ!)

サトコ
「はい!」

後藤さんは小ぶりなサボテンの鉢と一緒にペアのハンカチを買ってくれた。

to be continued



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