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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 東雲1話



(うわっ)

サトコ
「どうしたんですか、こんな時間に」

東雲
予定は?今週土曜日

サトコ
「土曜日ですか?ええと···」
「特に何もないです。24時間オールフリーです!」

東雲
駅前、10時30分

サトコ
「!」

東雲
それと考えておいて。行きたい場所

サトコ
「!!」

東雲
それじゃ

(···今のってデートの約束だよね?)
(しかも、時期的にホワイトデーの···)
(すごい···早くもおまじないの効果が···)

東雲
ああ、それと
眉カットしすぎ

(うっ)

東雲
消えてるじゃん、半分

サトコ
「こ、これはお手入れにちょっと失敗しただけです!」
「普段はちゃんと描き足してますんで!」

東雲
あっそう
それじゃ

(びっくりした···いきなり戻って来るとか···)
(しかも···)

サトコ
「まさかの眉チェック···」

(さすが教官、女子力高すぎ)
(土曜日までに伸びるといいな)


さて、デート当日ーー

サトコ
「うーんっ、いいお天気!」

(よし、お弁当を作ろう)
(この日のために用意した···)

サトコ
「じゃーん!」

(100均で買った恐竜の型抜き、今日こそ使わないとね)
(まずは、ご飯におかかを混ぜて···型抜きで抜いて···)

サトコ
「うんうん、いい感じ」

(次は、チーズでキバを作って···)
(海苔で、目と眉毛を···)

サトコ
「···うん、眉毛?」

(恐竜って眉毛あったっけ?)
(ないよね···どう考えても···)

サトコ
「ていうか、私の眉毛···」

(さすがに、これなら問題ないよね)
(薄い部分だけ、ちょっと描き足せば···)

プスプスプス···

サトコ
「···え」

(なんか、焦げ臭いにおいが···)

サトコ
「ああっ、エビフライ!!」

(なんで!?今日のはレンジでチンするタイプだったのに)
(これで焦げるって聞いたことないんですけど!)

サトコ
「と、とりあえず誤魔化そう!」
「ええと···スマホ、スマホ···何かいい方法は···」

バサッ···

(あれ?今、なにか落ちなかった?)

慌てて、テーブル周辺を見回してみる。
けれども、床の上には特に何も落ちていない。

(···なんだ、気のせいか)

サトコ
「って、それより検索!」
「『エビフライ焦げた誤魔化す』···」

そんなトラブルがありながらも、なんとか無事にお弁当を完成させて···


【駅前】

(よかった···待ち合わせ5分前だ)

サトコ
「メイクよし、眉毛よし」
「お弁当···よし!」

(一時はどうなるかと思ったけど、これも「おまじない効果」なのかも)

あの夜···
私が「おまじない」でお願いしたのは、今日のデートのことだ。

(そう···今日は絶対教官に···)

東雲
お待たせ

サトコ
「おつかれさまです!」

東雲
······

(な、なに?ジッと見て···)

東雲
······

(まさか、また眉毛チェック···)

東雲
···ふーん
悪くないじゃん。今日は

サトコ
「!!」

東雲
ま、キミがどうっていうより、単にワンピースが良いだけ···

サトコ
「教官ーーっ」

東雲
ちょ···

サトコ
「ありがとうございます!」
「『可愛い』って言ってくれてありがとうございます!」

東雲
言ってない!
さっさと離れろ、スッポン!

(うっ、冷たい···)
(でも、デートはこれからだから)
(おまじないもしてきたし、今日はきっと素敵な展開が···)

東雲
で、行き先は?
キミに任せたはずだけど

サトコ
「はい!まずは···」


【公園】

東雲
へぇ···公園ね

サトコ
「たまには、こういうところでゆっくりしたいなぁと思って」
「太陽の下で、お互い心を開いて···」

(そして、思う存分、教官に···)

東雲
あ、ボートあるじゃん

サトコ
「えっ···」

(ま、待って!)
(そのボート、カップルで乗るのはマズかった気が···)

東雲
はい、チケット

サトコ
「あ、あの···」
「ボートに乗るのは、なんていうか、その···」

東雲
···なに?
イヤなの、オレとふたりきりなるの

サトコ
「!」

東雲
へー···ふーん···
キミ、オレとふたりきりになるのはイヤ···

サトコ
「なります!」
「ボートで、教官とふたりきりになります!」

東雲
そう。じゃあ···

【ボート】

サトコ
「うんせ···うんせ···」

東雲
下手すぎ
もっとゆっくり漕いで
じゃないと寛げない

サトコ
「了解です!うんせ···うんせ···」

(うう···ボートを漕ぐのって結構力がいるんだな)
(でも、たしかにふたりきりだし、ある意味チャンスかも)

サトコ
「あの、教官···」
「最近、何か困っている事とかありませんか?」

東雲
オレが?

サトコ
「はい!それか『悩み事』とか···」

東雲
ないけど。べつに

(うっ···)

サトコ
「そ、そう言わずに、どうぞ遠慮なく···」

東雲
ないから。なにも

サトコ
「じゃあ、『最近疲れたなぁ』とか···」

東雲
ない

サトコ
「『肩もみ希望』とか、腰のマッサージとか···」

東雲
エロ···

サトコ
「···っ、違います!下心で言ってるんじゃなくて」
「じゃあ、私にしてほしいことはありませんか?」

東雲
······

サトコ
「あるんですか!?あるんですね!?」
「それっていったい···」

東雲
ねぇ、あれだよね。弁財天が奉られてる神社って

いきなり、教官がななめ先にある社を指さした。

サトコ
「そ、そうですけど···」

(マズい···たしかあの弁天様だよね、「別れるジンクス」の原因って)
(嫉妬深い神様だから、カップルがイチャつくと引き離されるって···)

東雲
抱きついてみる?試しに

サトコ
「イヤです!絶対お断りです!」

(ていうか、まさか···)

サトコ
「知ってたんですか!?このボートのジンクス」

東雲
当然
有名だし。その話

サトコ
「じゃあ、どうして···」

東雲
面白そうじゃん
都市伝説のくだらなさを証明するのって

(···え)

東雲
キミが、オレから離れるわけないし
引き離されそうになったら、スッポン並に食らいついてきそうだし

サトコ
「!」

東雲
ま、最後は根負けするんじゃない?
弁財天のほうが、キミの必死さに

(そうです···そのとおりです!)
(教官···)

サトコ
「教か···っ」
「うわっ」

両手を広げて抱きつこうとした途端、足元が大きくぐらりと揺れた。

東雲
バカ!
ここ、ボートの上···っ

サトコ
「すみません!つい···」

慌てて、座り直そうとして···
今度は、鞄を蹴飛ばしてしまった。

(ああっ、中身が···)

東雲
ちょっと···キミ···

サトコ
「す、すみません!すぐに片付けます!」

(手帳にポーチに···お弁当箱まで飛び出して···)
(せっかくの恐竜弁当、今のでグチャグチャになったかも···)
(···うん?)

東雲
······

サトコ
「教官?どうかしましたか?」

東雲

いや···
べつに······

サトコ
「??そうですか」

(なんか様子がおかしかったような···気のせいかな)

東雲
それより貸して。オール

サトコ
「えっ、どうして···」

東雲
漕ぐから

サトコ
「いいですよ!このままで···」

東雲
いいから
危なっかしいし、キミ···

サトコ
「大丈夫です!次からは気を付けます!」

東雲
いや、でも···

サトコ
「それじゃ···再開します」
「うんせ、うんせ···」

(よし···調子出てきた)
(これなら、教官も安心して乗ってくれるよね)

東雲
······

サトコ
「ふう···いい汗かきましたね!」

東雲
キミがね。主に
ハイ、飲み物

サトコ
「うわぁ、ありがとうござ···」

(えっ···)
(こ、これって「幻のピーチネクター」···)

東雲
···なに
しないの?水分補給

サトコ
「します!でも、これって教官が飲むんじゃ···」

東雲
べつに
2本飲んだから。今朝

(なるほど···さすがの教官も1日に3本飲むのはキツイのかな)
(じゃあ、遠慮なく···)

サトコ
「はぁぁ···美味しい」
「運動後のピーチネクター、最高ですね!」

東雲
当然
で、このあとは?

サトコ
「もちろん、お弁当タイムです」
「今日はキャラ弁作ってきましたから!」

東雲
え、無···

サトコ
「『無理』って言わないでください」
「今回のはかなりの力作です。絶対気に入ってくれるはずです!」

(とはいえ、ちょっと不安なんだよね)
(さっき、鞄を倒した時、グチャグチャになった可能性も···)

サトコ
「···っ」

(ダメダメ、不安になるな)
(大丈夫···おまじないをしてきたから、きっと大丈夫···)

東雲
···で、どれ?
ご自慢のキャラ弁は

サトコ
「これです」

(はぁぁ···ドキドキしてきた···)
(どうか···どうか無事でありますように···)

祈る私に気付く様子もなく、教官はあっさりお弁当のフタを開けた。

東雲

(やったー!無事だったーーー!!)
(ありがとう、おまじない!ありがとう、ありがとう!!)

サトコ
「どうですか!?感想は」

東雲
······まぁ
悪くないんじゃない?

(きた!「悪くない」いただきましたー!!)

東雲
······

(味付けも、満足してるっぽいよね)
(よし···次は「アレ」に挑戦···)

東雲
···なにこれ、玉子焼き?

サトコ
「!!」

(しまった、もうひとつの懸念事項が···)

サトコ
「え、ええと···その玉子焼きは私専用で···」

東雲
あっそう
じゃあ、横取りってことで

(ちょ···)

サトコ
「待っ···」

ガリッ···

東雲
!!

(今、明らかにおかしな音が···)

東雲
············ねぇ
この玉子焼き、ブラックタイガーの味がするんだけど···

サトコ
「気のせいです!」
「あくまで、よくある、ありきたりな、普通の玉子焼きです!」

東雲
ふーん···じゃあ···
試してみる?

サトコ
「!?」

(こ、これは···キッスの距離···?)
(教官が···野外で···こんな昼間から?)
(ないない!)
(絶対ないってば!)

サトコ
「だ···騙されませんからね」

東雲
···は?

サトコ
「そうやって、キッスのふりして···」
「最後の最後で鼻を摘むんですよね?」

東雲
······

サトコ
「あっ、それとも唇ですか!?」
「最後の最後で、唇をギューッ···」

東雲
うるさい

(えっ、まさか···)

サトコ
「ん···っ」

(えええっ!?)

東雲
···伝わった?
ブラックタイガー味

サトコ
「は···はい···たぶん······」

東雲
そう···
よかったじゃん

(よかった···けど···)
(キッスは嬉しい···けど···)
(なんか違う···っていうか···)
(おまじないと真逆に突き進み始めてるんですけど!?)

to be continued



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