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今日は彼に甘えちゃおうキャンペーン 黒澤1話



インターホンに応じて玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは···

石神
黒澤を見なかったか!?

(な、なんで私の部屋に石神教官が···!?)

サトコ
「黒澤さん、また何かやらかしたんですか···?」

石神
俺と加賀が頼んだものを、わざとすり替えた
しかも、見た目にはわからないという巧妙さだ

サトコ
「それって···」

石神
あいつが頼りそうなのはお前くらいだからな
それに、匿いそうなのもお前くらいだ。黒澤はどこにいる?

サトコ
「し、知りません!本当です!」

石神
······そうか。もし見かけたら、すぐ出頭するように言え

(出頭···もはや犯罪者···)

私の返事も聞かず、石神教官はドアを閉めて出て行った。

サトコ
「石神教官と加賀教官が頼んだものをすり替えた、か···」
「頼んだものって、何だったんだろう?書類とか?」

コンコン、と窓の方から物音がした気がして、振り返る。
でも当然のことながら、窓の外には誰もいない。

(···まさか!)

慌てて窓を開けると、そこには寮の排水管にしがみついている黒澤さんがいた。

黒澤
こ、こんにちは~サトコさん、入れてもらえますか~?

サトコ
「黒澤さん!?何やってるんですか!」

黒澤
とにかく入れて~!このままだと落ち······
うわっ!!

サトコ
「わあっ!わかりました!つかまってください!」

手を差し伸べて、必死に黒澤さんを引き上げた。
部屋に入れると、どさりと床に尻もちをつく。

黒澤
はぁ~~···死ぬかと思った···

サトコ
「よくここまで登って来れましたね···っていうかあれ、普通にやったら不審者ですよ」

黒澤
いやぁ、サトコさんが優しい人で助かりました~
もうちょっと遅かったら、本当に誰かに通報されかねませんでした

サトコ
「落ちるほうが先だったと思いますよ···」

(それがわかってるのに、なんでわざわざこんな真似を···)

黒澤
まさかここまで追手が来るとは思ってなかったんで
窓の外から、玄関にいる黒澤さんの姿を見た時には焦りました

サトコ
「ものすごい形相で、黒澤さんのこと探してましたけど···」

黒澤
ええ、でもオレは信じてましたよ
サトコさんなら絶対、オレを裏切ったりしないって

サトコ
「···そういえば、石神教官と加賀教官が頼んだものを入れ替えた」
「って言ってましたけど」
「いったい、何をやったんですか?」

黒澤
ハハハ!いやあ~、ハハハ

(どういう誤魔化し方···)

黒澤
はー、寒かった
だいぶ暖かくなってきましたけど、夜はまだ冷えますからサトコさんも気を付けてください

サトコ
「ふふ、はい」

黒澤
ん···?紅茶の匂いがしますね

サトコ
「あ、ちょうど淹れてたところなんです。一緒にどうですか?」

黒澤
ありがとうございます、冷えた身体には紅茶はありがたいです!

早速、自分と黒澤さんの分のカップを用意して紅茶を淹れる。
ティーポットに入っている紅茶を見て、黒澤さんが目を丸くした。

黒澤
これ、全部ひとりで飲むつもりだったんですか?

サトコ
「え!?は、はい···まあ···」

黒澤
すごいですね~。よっぽど紅茶が好きと見ました

サトコ
「ハハハ···いやあ、ハハハ···」

黒澤
さっきのオレと同じ笑い方してますね~

(まさか、おまじないのために大量の茶葉が必要だった···なんて言えない)
(別に変なお願いをしたわけじゃないけど、知られるのはちょっと恥ずかしい···)

サトコ
「さ、さあ黒澤さん!そんなことはどうでもいいので、ぐいっとどうぞ!」

黒澤
···これ、紅茶ですよね?酒を勧められているような、妙な気持ちになるんですけど···
そうだ。サトコさん、3月14日って空いてます?

サトコ
「3月14日···?」

黒澤
デートしませんか?オレと

サトコ
「えっ!?」

黒澤
バレンタインに美味しいチョコをもらったお礼に、サトコさんを喜ばせたいなーと思いまして

(それってもしかして、ホワイトデーってこと···?)

けれど返事をする前に、玄関のドアがドンドンと激しく叩かれ始めた。

サトコ
「な、何!?」

黒澤
しまった···もう追手が来ましたか
それじゃ、サトコさん!14日のデート、約束ですからね!

サトコ
「えっ!?ど、どこへ···」

止める間もなく、黒澤さんは来たときと同じように窓を開けて出て行った。

黒澤
それと、一応忠告です!
ドアの外にいるのは、きっと強盗よりも恐ろしい人物ですよ~!

サトコ
「く、黒澤さん!?」

開いた窓を覗き込んだそのとき、玄関のドアが乱暴に開く。

サトコ
「きゃっ!?」

加賀
チィッ!遅かったか!

サトコ
「か、加賀教官!?」

加賀
あいつはどこへ行った?
隠し立てするようなら、テメェにも地獄を見せてやる

サトコ
「ま、待ってください!黒澤さんは、一体何の容疑で」

黒澤
ぎゃーーー!石神さん、お許しを!どうか、どうか!

石神
手間を掛けさせるな!さっさと来い!

窓の外から聞こえたのは、黒澤さんの悲鳴と石神教官の怒声だ。

加賀
···終わったか

サトコ
「あ、あの···黒澤さん、何をやらかしたんですか?」

加賀
···口にするのもおぞましいが
俺にはプリン大福、サイボーグ野郎には和風プリンを買ってきやがった
パッと見、どっちも中身はわかんねぇからな

サトコ
「なるほど···それで教官おふたりは、それを食べてしまったと」

加賀
あの野郎···生きていることを後悔させてやる

(相当ご立腹だ···)
(ホワイトデーの約束したのはいいけど、それまで無事でいてくれるかな···)


【教官室】

翌日、いつものように講義が終わったあとに教官室へとやってきた。

後藤
ちょうどよかった。氷川、これを頼む

サトコ
「わかりました」

後藤教官から書類を受け取りながらも、昨日の黒澤さんの言葉が頭を離れない。

(っていうか···ホワイトデーにお誘いって···)

サトコ
「いや、そんなわけない。違う違う」

後藤
なんだ?何か不備があったか?

サトコ
「あ、いえ、違うんです。すみません」

(返事なんて···だって、まだ告白すら···)

バレンタインに渡したチョコも、“本命” とは言っていない。

(黒澤さんにだけは気持ちを込めて作りました、とは言ったけど)

そもそも、私と黒澤さんはどういう関係なのだろう。

石神
あいつが頼りそうなのはお前くらいだからな

(···本当にそうなら、嬉しいけど)
(はぁ···ホワイトデーに、この気持ちに決着がつくのかな)

複雑な気持ちのまま、ホワイトデーまで過ごすしかなかった。

【カフェテラス】

ホワイトデーも来週に迫った、週末。

鳴子
「今年はお返しくれるかな~、一柳さん」

サトコ
「鳴子、今年は一柳さんと颯馬教官にあげたんだっけ?」

鳴子
「そうそう」
「えげつないほどもらってるから難しいかな···」

(えげつないほどチョコをもらうってすごすぎる···)

千葉
「そう言えばアレ、氷川も行くんだっけ?」

サトコ
「アレって?」

鳴子
「もう、この間LIDEしたの忘れちゃったの?」

鳴子
「予定がなければ、ホワイトデーにみんなでボウリング行こうって誘ったじゃん」

サトコ
「あっ、そういえば···」

(忙しくて返事するの忘れてて、今に至る···)
(しかも、ホワイトデーは···)

サトコ
「ごめん、実はちょっと、約束が」

鳴子
「もしかして、デート!?」

サトコ
「え!?」

千葉
「え!?」

サトコ
「えっ?」

千葉
「あ、いや···」

思わず振り返ると、目を輝かせる鳴子と気まずそうな千葉さんが、こっちを見ていた。

(デート···デート、だよね···黒澤さんもそう言ってたし)

ふたりには適当に誤魔化しつつ、心の中で悶える私だった。


【駅前】

ホワイトデー当日、学校が終わって待ち合わせ場所へ来ると、黒澤さんが先に待っていた。

黒澤
では発表します!

サトコ
「は、発表?」

黒澤
今日のテーマですよ
せっかく一緒に過ごすんですから、テーマがあった方がいいでしょ?

サトコ
「はぁ···」

(テーマ?デートで···?)
(もしかして、『デート』というのは口実で、実は何かの罰ゲームとか···)

黒澤
じゃじゃーん!サトコさんには、これを贈呈します!
今日一日、オレに甘え放題券!

サトコ
「···えっ?」

手作りの紙には、“黒澤透に甘えられる券一日フリーパス” という文字が躍っている。

サトコ
「えっと···これは?」

黒澤
サトコさん、毎日補佐官の仕事して大変じゃないですか
あんな人たちにコキ使われて、なんなら命の危険にまでさらされて···

サトコ
「いや、まあ···それは否定しませんけど」
「でも、毎日勉強になりますよ。憧れの刑事になるためですから」

黒澤
そんな優しくて健気なアナタに、オレからのホワイトデーのお返しです
アナタの疲れを癒したい!そのためなら、なんでもしますよ

サトコ
「私を、癒す···」

(そういえば、バレンタインのときに私も同じこと思ったっけ)
(まさか、黒澤さんまで同じように思ってくれてたなんて)

黒澤
サトコさん?どうかしましたか?

サトコ
「いえ···私も先日、黒澤さんを癒してあげたいって思ったんです」

黒澤
え···

サトコ
「私たち、似た者同士ですね」

黒澤
そうですね···それはそれで···なんていうか

(あ···黒澤さん、照れてる?)
(···ちょっと嬉しいかも)

黒澤
じゃあとりあえず、行きましょうか

お互いに照れながら逃げるようにしてその場を後にし、デートをスタートさせた。

to be continued



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