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ふたりの卒業編 後藤1話



【街】

後藤さんと休みが合った休日。
私たちは久しぶりに買い物に出かけた。

サトコ
「素敵な服があってよかったですね」

後藤
ああ。気が付けば黒か青かボーダーの服しかないことに気付いた時は驚いた

後藤さんの部屋を片付けがてら、服の整理をしたのは少し前のこと。

(同じようなデザインでボーダーの幅だけが違う服が3枚出てきたときは、私も驚いたな)

整理すると着られる服が少ないということで、今日は後藤さんの服を買いに行ったというわけだ。

後藤
アンタと出掛けるようになるまで、私服を着る機会も少なかったからな
スーツと捜査用に支給された服で充分だったんだ

サトコ
「でも、後藤さんは格好いいから、どんな服でも似合います」

後藤
そう言うのは、アンタくらいだ

隣を歩く後藤さんが私を見てフッと笑う。

後藤
アンタが見立ててくれた服、着るのが楽しみだ

サトコ
「私も楽しみです!」

(次のデートがいつになるかわからないけど、楽しみがあれば訓練も仕事も頑張れるよね!)
(そろそろ卒業試験のことも視野に入れて行かなきゃいけないし···)

サトコ
「······」

後藤
どうした?急に黙り込んで

サトコ
「そろそろ卒業試験のことも考えなきゃなと思って」

後藤
ああ、もうそんな時期か···月日が経つのは、あっという間だな

サトコ
「卒業試験は当然厳しいんですよね」

後藤
それなりに厳しいだろうな

サトコ
「もちろんそうですよね······」

(公安学校の設立目的は、優秀な公安捜査員を養成するため···)
(卒業すれば、配属先は警察庁のエリートである公安課と決まってるんだから···)

卒業試験が厳しいのは、当然だ。

後藤
今のサトコなら大丈夫だ

私の不安を見越して、後藤さんが声を掛けてくれる。

後藤
これまでの経験と努力を信じて、アンタらしくしてれば問題ない

サトコ
「はい!後藤さんの補佐官として、恥ずかしくない結果を出せるように頑張ります!」

(卒業がゴールじゃなくて公安刑事としてのスタートなんだから、今から弱気じゃダメだよね!)

気合いを入れ直していると、信号が変わって私たちは足を止めた。
すると、街頭ビジョンに夕方のニュースが映し出される。

後藤
ここ最近は選挙の話ばかりだな

サトコ
「次の参院選は増税を左右する大きな選挙だと言われてますからね」

ニュースでは候補たちの選挙活動にスポットが当てられている。

サトコ
「あ···あの今映ってる政治家秘書の男性、最近よくテレビで見かけますよね」

後藤
···杉山卓也か

インタビューを受けている爽やかな男性の下には “イケメン敏腕秘書” というテロップが出ている。

サトコ
「この秘書がついた候補者は必ず当選するって言われてる人ですよね」

後藤
ああ

サトコ
「そんな人っているんですね。普通の秘書と何が違うんでしょうか」

後藤
······

サトコ
「後藤さん?」

返事のない彼を見上げると、後藤さんはビジョンに映る杉山秘書を見つめていた。

(やっぱり仕事柄、政治にも関心があるのかな)

後藤さんの横顔を見ていると、信号が変わり横断歩道の音楽が流れ始める。

後藤
···行こう

サトコ
「はい」

駅の方に歩き出し、私はこの後のことを考える。

(今日はここでお別れかな。もう少し後藤さんと一緒にいたいけど···)
(後藤さんは明日、忙しいかもしれないし)
(でも、午後からって可能性も···)

ひとりでぐるぐると考えていると、後藤さんが再び立ち止まった。

後藤
明日は講義も早くなかったよな?

サトコ
「え?はい。明日の一限は休講です」

後藤
なら、今日は泊まっていくか?

まるで私の希望を見透かしたように、後藤さんが私を見つける。

<選択してください>

A:素直に行きたいと答える

(私の気持ち通じてるんだ)

嬉しくて、私は即行で頷いてしまう。

サトコ
「実は私も、もう少し後藤さんと一緒にいたいなって思ってたんです」
「でも後藤さんは明日忙しいかもって、ひとりで考え込んじゃって」

後藤
そういう時は考え込まずに聞いてくれ
仕事の時は仕方ないが、それ以外は俺もアンタといたいと思ってる

サトコ
「後藤さん···」

B:心を読んだのか聞く

サトコ
「わ、私の心を読んだんですか!?」

後藤
はは、俺は石神さんじゃないからな。誰かの心を読むことは出来ない

サトコ
「石神教官、人の心読めるんですか!?」

後藤
ああ。はっきりと言われたことはないが、確実だな

サトコ
「やっぱり···」

後藤
それで、このあとはどうする?

サトコ
「あ!後藤さんと一緒にいたいです!」

後藤
なら、決まりだな

C:思わせぶりな態度をとる

(私の気持ちを見透かされたなら恥ずかしい!)
(ここは少し考える顔を見せた方がいいかな···)

サトコ
「どうしようかな···」

後藤
何か用事があるなら、寮の近くまで送ってく

サトコ
「い、いえ、特に用事はありませんけど···」

後藤
気が進まないなら、また今度に···

サトコ
「気が進まないわけじゃないです!私も後藤さんともっといたいです!」

後藤
無理してないか?

サトコ
「無理してません!」

(後藤さん相手に思わせぶりな態度をとる必要なんてないんだよね)
(思ったことを素直に伝えよう)

後藤
夕飯は食べて帰るか

サトコ
「何か作ってもいいですよ」

後藤
いや、今日はもう遅い。今日は飯より、アンタと過ごす時間が欲しい

面と向かって言われ、頬に血が上るのを感じた。


【後藤マンション】

夕飯をいつもの中華料理店で済ませ、私たちは後藤さんの部屋に帰ってきた。

後藤
食べてきて正解だった。この時間なら、まだゆっくりできる

サトコ
「最近、捜査や講義で忙しかったから、こうして二人で過ごすの久しぶりですね」

後藤
ああ。そうだな

ソファに並んで座ると、後藤さんに肩を抱き寄せられる。

サトコ
「この頃、後藤さんの部屋に帰ってきても、ホッとするんですよね」

後藤
この部屋に来るようになって、一年以上経つからな
もうひとつの家のようなものか

(後藤さんと付き合って、そろそろ一年半···長かったような、短かったような)

それでも後藤さんに出逢ってからの二年が濃厚なものであったことに間違いはない。

後藤
···アンタが卒業したらもう、教官と補佐官じゃなくなるのか

サトコ
「そうですね。当分は補佐官の気持ちが抜けなさそうですけど」

後藤
だが、卒業すれば堂々と一緒にいられる

サトコ
「あ···」

(そういうことになるのかな)

サトコ
「大丈夫なんですか?その、私たちの関係が知られてしまっても···」

後藤
問題ないんじゃないか?職場の恋愛が禁止されてるわけじゃない

サトコ
「そうですよね···」

後藤
公になれば、黒澤あたりが事あるごとにうるさそうだが···
それは前もって、何とかしておく

サトコ
「ふふ、お願いします」

(何となく、もうバレてるような気がしなくもないけど)
(後藤さんとおおっぴらに付き合えるのは嬉しいな)

後藤
アンタも一人前の公安刑事になる。頼りにしてるぞ

サトコ
「はい!後藤さんの相棒目指して頑張ります!」

後藤
···ああ

(ん?今、一瞬、妙な間があったような···)

後藤
隠す必要がなくなれば、一緒にいられる時間も増えるな

肩に回っていた手が私を抱き寄せる。
自然とその胸に身体を預けるような体勢になり、後藤さんの手が優しく私の髪に触れた。

サトコ
「後藤さん···」

後藤
サトコ···

そっと唇が触れ、それはすぐに深い口づけに変わる。

(私の気のせいかな···)

一瞬覚えた違和感は、口づけに消えていった。


【キッチン】

翌朝、後藤さんより早く起きた私は朝ご飯を作った。

(後藤さんの部屋の近くに24時間スーパーができて助かったな)

おみそ汁の具や卵など朝食に必要な材料を買うことができた。

後藤
この匂い······朝飯作ったのか?

サトコ
「はい。簡単なものですけど···」

後藤
冷蔵庫の中、カラだったろ

サトコ
「ミネラルウォーターとカロリーブロックがありましたよ」

後藤
それが俺のいつもの朝飯だからな

サトコ
「だと思いました。だから、近くの24時間スーパーで買ってきたんです」

後藤
あのスーパーは、そんなに有能だったのか···

サトコ
「便利なスーパーだと思いますけど。朝方でも新鮮なものが置いてありますし」

後藤
俺が行く売場は限られてるからな···あそこはレトルトや栄養補助食品の類が弱いんだ

サトコ
「行く売場が違うと、全然違って見えるんですね···」

後藤
どんな物事でも、そうなんだよな
見方や立場が違えば、物事も全く違って見える

(後藤さん···朝から、今日はどこか物憂げな···)

寝ぼけているわけではなく、なんとなくその顔が憂いをたたえているように見える。

サトコ
「後藤さん、何かありましたか?」

後藤
いや、朝から豪華な朝飯に感動していただけだ
ありがとな、サトコ

後藤さんが私の髪に軽いキスを落とした。

後藤
顔洗ってくる

サトコ
「はい···」

頷きながらも、後藤さんの態度が気になる私は······

<選択してください>

A:洗面所についていく

(何か、離れがたいな)

洗面所に向かう後藤さんのあとについていく。

後藤
どうした?

サトコ
「え···あ、ええと、後藤さんの寝グセを直そうかと思って」

後藤
寝グセついてるか?寝グセがわからない髪型にしてるつもりなんだが···

サトコ
「後ろがちょっとハネてるだけだから、簡単に直ると思います」

私はてぐしで後藤さんの髪を整える。

B:おはようのキスをする

(後藤さん···)

私は後藤さんの手を掴むと引き留める。

後藤
サトコ?

サトコ
「忘れ物です」

私は背伸びすると、自分から口づける。
唇が触れると、後藤さんが驚くのが気配で伝わってきた。

後藤
···どうした?

サトコ
「こうすれば目が覚めるかなと思って」

後藤
ああ···でも、それにはまだ足りないな

サトコ
「え?んっ···」

今度は後藤さんからキスをされる。

サトコ
「後藤、さん···」

(朝から、こんなキス···)

後藤
これで目が覚めた

間近で微笑む後藤さんに赤い顔で頷くのが精一杯だった。

C:お味噌汁を温め直す

サトコ
「お味噌汁温め直しておきますね」

後藤
ああ

サトコ
「ご飯は普通に盛っていいですか?」

後藤
いや···味噌汁があるなら、多めに盛ってくれ

サトコ
「はい!」

(食欲があるなら大丈夫かな)

(まだ眠いだけなのかも)

いつものように微笑む後藤さんに、私はその背を見送った。

【リビング】

後藤
いただきます

サトコ
「いただきます」

後藤
ん···今日の味噌汁はネギと豆腐か。アンタの味噌汁は、やっぱり美味い
味噌汁は冷凍でとっておけないのが残念だ

サトコ
「ふふ、そんなことないですよ」

後藤
味噌汁も冷凍できるのか?

箸を止めて顔を上げる後藤さんに渡しは得意げに微笑む。

サトコ
「味噌汁に出汁と具材を入れてラップを丸めておく、味噌汁玉っていうのを作ってみたんです」

後藤
味噌汁玉?

サトコ
「はい。お味噌汁一回分になってるので、その味噌汁玉をお椀に入れて熱湯を注いでください」
「すぐにひとり分のお味噌汁が出来ますよ」

後藤
アンタ···すごいな。プロの料理人みたいだ

サトコ
「ふふ、ネットでレシピを見て作っただけですよ」

後藤
アンタがいない朝も味噌汁を飲めるのか。それは有り難い

後藤さんの笑顔に作ってみて良かったと思っていると、
つけていた朝のニュースから速報の音が流れた。

サトコ
「ニュース速報···何があったんでしょうか?」

後藤
テロップが出た。···選挙デモ中に、警察官が一名負傷?

サトコ
「え···」

私たちは食事の手を止めてニュースに見入る。

テレビ
『ただ今入ったニュースです。選挙デモの対応に当たっていた警察官が何者かに撃たれました』
『犯人は捕まっておらず、詳細は不明ですが···撃たれた警察官は重体とのことです』

サトコ
「重体···」

後藤
······

テレビ
『こちらのニュースは速報が入り次第、お伝えします』

サトコ
「大変な事件になりそうですね」

後藤
ああ

テレビには慌ただしく動く警察官が映し出され、物々しい雰囲気を伝えている。

後藤
今朝はゆっくりできると思ってたが、早く出た方がよさそうだな

サトコ
「そうですね」

(警察官が撃たれるなんて···どんな事件なんだろう)
(過激なデモ参加者の突発的な犯行か、それとも···)

考えながら後藤さんの顔を見ると、彼の顔にも緊張が走っているのがわかる。
朝の和やかな雰囲気は消え、私たちは手早く食事を終えると出かける準備を始めた。

to be continued



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