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恋敵編&卒業編 カレ目線 後藤1話



「一柳への嫉妬」

朝、目を覚ますことを恐れなくなったのは、いつからだろうか。
夏月を失ったあの日から、俺は眠ったあと目覚めるのが怖くなった。

(あの事件が夢だったら···と、何度あがいたことか···)

意識が覚醒するたびに、夏月の事件も現実だったのだと再認識させられる。
ならば、いっそのこと夢から覚めなければ···
そんなことを考えたが、見る夢も当時は悪夢ばかりだった。

【後藤マンション 寝室】

後藤
今日は晴れそうだな···

カーテンの隙間から射し込む朝日が一日の始まりを告げる。
それを受け止めることができるのは、数年前の俺から考えれば大きな進歩だった。

(洗濯したワイシャツが少なくなってきたな。そろそろクリーニングに出さないと···)

クローゼットからワイシャツを取り出しながら、
最近はクリーニングを使っていないことに気が付く。

後藤
···サトコがやってくれてるおかげか

目の前のワイシャツは、洗濯して綺麗にアイロンがけされている。
ふと見回せば、いつの間にか生活感を感じられる部屋になった。
キッチンには洗ってある食器、食材の入った冷蔵庫。
リビングにはちょっとした小物が置いてあって、それは俺以外の人の存在を示していた。

後藤
今日は、このハンカチにするか

昨日、サトコと共に買ったハンカチをスーツのポケットに入れる。

(サトコ···)

彼女の存在が感じられるこの部屋で、
俺は少しずつ過去を過去として受け止められるようになっていった。


【後藤マンション リビング】

その日の夜、俺の部屋にやって来たサトコは開口一番に一柳の名前を出した。

(室長から、あんな話があれば気持ちも分かるが···)

サトコ
「捜査情報を流すなんて···絶対に一柳教官が、そんなことをするはずありません!」
「どうしてあの時、後藤さんは何も言わなかったんですか?」

(とはいえ、サトコが一柳のことで、ここまで熱くなるとは思わなかった)

いささか興奮した様子で詰め寄るサトコに、俺の思考は冷静になっていく。

後藤
どんな捜査も頭から決めつけることはできない

サトコ
「それはそうかもしれませんけど···限度ってものがあります!」
「捜査情報の漏洩が本当なら、私たちがすべきことは真犯人を捜すことなんじゃ···」

後藤
頭を冷やせ。誰であろうと、刑事なら私情を挟むな

サトコを諭しながらも、半分は自分に言っているようなものだった。

(俺ひとりだったら、俺がサトコの立場で室長に食って掛かっていただろう)
(あの一柳に限って···)

自信家で、いつも上から目線の気に入らない男だ。
だが、ヤツが誰よりも自分に厳しい男だという事も俺は知っている。

(そもそも、あのカッコつけの一柳が罪など犯すか)

後藤
室長は証拠が出ていると言っていた。それを無視することはできない

サトコ
「でも···!」

(証拠が出ている以上、無実を証明するのにも証拠が必要だ)
(犯人が小細工を仕掛けてくるのならば、こちらもそれなりの姿勢で挑まなければいけない)

後藤
とにかく、今回のことはアンタは様子見でいい
必要があれば、俺が動く

サトコ
「······」

サトコは納得していない顔で口を引き結んだ。

(今回のことで一柳は孤立するだろう。だが、アンタがいれば···)

サトコが信じてくれていれば、どれほどの力になるか。
それは俺が身を持って知っている。

(一柳を信じる役目はアンタに任せる。その間に俺が捜査を進めておく)

このやり方でいいーーその時は、そう思っていたのだが···


【学校 廊下】

翌日の午後。

後藤
······

俺は先程、サトコと中庭で交わした会話を思い出しながら廊下を歩いていた、

サトコ
「···一柳教官に会ってきました」

後藤
一柳に?アイツは今、自宅謹慎中のはず···

サトコ
「最初、SPルームに会いに行ったんです。そこで広末さんに会って···」
「広末さんに一柳教官の家を聞いて行ってきました」

(まさか一柳の家にまで行くとは···)

行動力のあるヤツだとは思っていたが、昨日の今日でこんなことになるとは思わなかった。

(謹慎になった一柳にはいいフォローになったとは思うが)
(立場上、それを褒めることもできない)

できるのは、このことを誰にも言わずにおくことくらいだ。

(俺以外の男の家に行くな···とも言えないしな)

サトコが一柳の家で、ヤツと二人だけの時間を過ごした。
それを考えれば胸がざわつき、ぐっと胸が重くなる。
同時に頭を過る、サトコと一柳が並ぶ姿。

後藤
······

サトコ
「あ、あの、これは···っ」

一柳昴
「お前の補佐官、借りてるぞ」

(あれはサトコがケガをしていたからであって、二人の仲が特別というわけじゃない)
(一柳はチャラい男だからな。女相手に、大抵あんな感じだろう)

そう自分を納得させようと思っても、
一柳がサトコを気に入っていることは明白のように思えた。

(いや、今はそんなことを気にしている場合か?)
(サトコは刑事として、よくやってくれている)
(フォローに回っているという点でも、期待以上の働きだ)

こちらの計画通りに進んでいる、何の問題もない。

後藤
そうだ、これでいい···

小さく呟いた、次の瞬間。

ゴッ!

後藤
いっ···!

鈍い音が響き、頭がぐわっと揺れる。
目の前には教官室のドアがあり、考え事をするあまり頭をぶつけたのだと気が付いた、

(俺は何をやってるんだ···)


【教官室】

顔を押さえながら教官室の中に入ると、歩がこちらに顔を向ける。

東雲
後藤さん、今、ドアにぶつかりませんでした?

加賀
ぼんやりしてんじゃねぇ

(加賀さんもいたのか···)

後藤
ちょっと考え事をしていたもんで

東雲
ドアにぶつかっても、何も閃きませんよ

加賀
こっちまで暗くなるような辛気臭い顔を見せんじゃねぇ
ひとりで堂々巡りするくらいなら、クソメガネにでも話せ

後藤
···はい

加賀さんの言葉に頷きながらも、俺はそのまま自分の教官室に足を向ける。

(サトコが一柳の家に行ったことをグダグダと考えていたとは言えない)
(頭を冷やして、冷静にならなければいけないのは俺の方だな)

余計な事を考えている暇はないのだと自分を戒め、
今度はぶつからないように自分の教官室のドアを開けた。

to be continued



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