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カレKiss×加賀 1話


部屋に差し込む微かな明かり。
そこに集まる者たちの顔はよく見えないが、目には仄暗いものが宿っていた。

???
「今夜、俺たちは日本に革命を起こすーーー」

【街】

加賀さんと非番が重なった日、束の間のふたりきりの時間を楽しんでいた。

サトコ
「加賀さん、見てください!あのペットショップ!」
「豆柴がいます!ポチがいますよ!」

加賀
勝手に名前つけんじゃねぇ

サトコ
「だって、あのストレスボールと似てませんか···!?」
「ああ、この顔を加賀さんがにぎにぎしてると思うと」

加賀
何なら、テメェの顔を握りつぶしてやろうか

ぎゅっとアイアンクローの態勢になり、息が止まった。

サトコ
「加賀さん···そうならないように、デスクに置いたんですよ」

加賀
それがどうした

サトコ
「ポチと違って、私は力任せに握ると···」

加賀
脳みそ砕けるんだろ

サトコ
「エグイ!」

ようやく加賀さんの手が離れたその時、スマホにLIDEが来た。

(うっ、津軽さんから···なんてタイミングの悪い)
(非番とか関係なく業務連絡してくるの、教官たちと似てるな···)

そこには、“こういう3点セット買ってきて” というメッセージと写真が添付されている。
女性ものの清楚系の服で、見た瞬間にピンときた。

(きっと、今度の潜入捜査用だ)
(···ってことは、私のサイズでいいのかな)

いま私たちが抱えているのは、反日思想を唱えている大学生グループの捜査だ。
公安が見過ごすには危険な思想と判断され、近々潜入する予定が立っている。

(今はまだ、自分たちの考えを声高に唱えてるだけだけど)
(いつ、過激な行動に出るかわからない···その前に止めないと、彼らの将来にも関わってくる)

サトコ
「加賀さん、ちょっとそこの服屋さん見てもいいですか?」

加賀
好きにしろ


【服屋】

津軽さんから添付されてきた写真を思い出しながら、着やすそうな服を選ぶ。

(潜入捜査用なら、動きやすいほうがいいな···でもそれだと、写真とのイメージが)

加賀
······

服を選ぶ私を、加賀さんが怪訝そうに見ている。

サトコ
「どうしたんですか?」

加賀
···そんなの着るのか

サトコ
「あ···た、たまにはいいかなって」

加賀
テメェのとこの班長が好きそうな服だ

サトコ
「えっ!?」

ビクッと震えた私に、加賀さんが口元を歪める。
でもそれは間違っても、“笑顔” ではない。

(お怒り···!?)

加賀
俺といるときに他の男の事なんざ考えるとは、偉くなったもんだな

サトコ
「ち、違うんです!これは···」

加賀
そんなんじゃ、向こうも口割らねぇだろ
どうせなら、脱がせたくなる服にしとけ

サトコ
「別に、ハニートラップ仕掛けるわけじゃないんですよ···たぶん」

加賀
まあガキ相手なら、駄犬の色気程度でも通じるかもしれねぇが

サトコ
「ぐっ···私だって、その気になれば大人の色気くらい···」
「あれ?加賀さん、どうして私の次の仕事のこと···」

言いかけて、慌てて口を押える。
でもそのときにはもう、加賀さんの鋭い視線がこちらを向いていた。

加賀
テメェは、この2年で何を学んできた

サトコ
「すみません···!加賀さんだと思うと、気が緩んで」

加賀
敵同士だと何度言やわかる

サトコ
「ぎゃっ!結局アイアンクロー!」

顔面をつかまれ、必死にもがく。

(っていうか今のって、誘導尋問じゃ···!)
(いや、引っかかった私も悪いけど!)

ようやく解放されると、領収書をもらってそそくさとお店を出た。


【公安課ルーム】

翌日、買った服をもって公安課ルームに出勤した。
経費書類を作成していると、通りかかった百瀬さんがチラリと袋を見る。

百瀬
「···」

サトコ
「百瀬さん···通りすがりに嫌な顔するのやめてください」

百瀬
「これ、アレだろ」

サトコ
「そうです、アレです。私のサイズでいいんですよね?」

百瀬
「知らね。指示がねーならそうなんだろ」
「···絶対似合わねぇ」

サトコ
「百瀬さん?聞こえるように言うならもっと堂々と」

百瀬
「気持ち悪ぃ」

サトコ
「わあ、辛口···」

(確かに自分でも、似合うかと言われれば微妙なのはわかってる···)

サトコ
「それにしても、大学生は勉強が本分なんじゃないんですかね」

百瀬
「カシコイ奴らは、他のこと考える余裕もあるんだろ」

津軽
お疲れ。アレ、買ってきてくれた?

サトコ
「はい、これでいいですか?」

津軽
うんうん、かわいい。ウサちゃんに似合いそう

百瀬
「······」

(百瀬さん、胡散臭そうな顔してる···)
(加賀さんも微妙な反応だったし、間違いなく似合わないだろうな)

サトコ
「津軽さんは、こういうのがお好みですか···?」

津軽
あれ?なんか、どっかの班長みたいな質問だね?

サトコ
「そうやって揺さぶりかけるのやめてください···」

津軽
まあそれはそれとして、件の大学生たちだけど
最近、大衆居酒屋でよく集まるって話なんだよね

サトコ
「それが、事実上の “集会” でしょうか」

津軽
周りの目もあるから、表立っては話してないだろうけど
それで次の集会は、週末

サトコ
「わかりました」

あの清楚系の服に視線を落とし、津軽さんにうなずいてみせた。


【居酒屋】

そして週末。
津軽さんに指定された居酒屋に行くと、老若男女問わず色々な人たちが語り合っていた。

(大学だから、若い子ばかりだと思ってたけど)
(意外と年配の人もいるな···それに、私くらいの人たちも)

さりげなく、大学生たちの輪に入る。
ふと、隣に座っていた女性が私に気づいた。

女性
「あれ?あなた、見かけない顔だけど」

サトコ
「初めまして、萌木芽衣です」
「実は最近、この集まりの話を聞いて」

女性
「そうなの。まあ集まりって言っても、ただ飲んで騒いでるだけなんだけどね」

男性
「そうそう。それで、自分たちの好きな話で盛り上がるだけのサークル」

(なるほど、表向きは飲み会サークルみたいな感じなのかな)
(その “好きな話” っていうのが、危険思想なんだろうけど···)

しばらくは聞き役に徹したものの、さすがにそう簡単には反日感情を口にしている様子はない。

(それらしい話を振っても思ったほどの反応はない)
(今日突然参加した人間に、自分たちの身が危うくなるようなことを軽々しく話すわけないし)
(これは、時間をかけて懐柔しなきゃいけなそう···)

でもつまり、それだけ彼らが本気だということの表れだ。
ちょっとした世間話にはできないような、強い思いもあるのだろう。

女性
「ねえ、水戸~。この間の件、どうなってるの?」

水戸
「ああ、場所は確保したよ。あとは参加者を募る感じかな」

男性
「水戸!先週のアレ、どうする?」

水戸
「ああ、アレなら···」

観察してみると、水戸、という男性がこの “サークル” の中心人物らしい。

(ということは、あの人が一番、このサークルの内情に詳しいのかも)
(まだ不確かだけど、要注意人物···)

水戸とかいう学生の顔をしっかり覚え、その後もひそかに調査を続けた。


【公安課ルーム】

翌日、津軽さんに昨日の潜入捜査の報告をした。

津軽
一日の捜査ならそんなところだろうね

サトコ
「大学に潜入して、少し様子を見たほうがいいと思います」
「時間をかけないと、内情は話してもらえなそうなので」

津軽
了解。じゃあ準備するから、君はすぐ動けるようにしておいて

サトコ
「わかりました」

津軽さんに頭を下げて、自分のデスクに戻る。
早速パソコンで潜入先の大学を調べ、必要なものをリストアップした。

(昨日の感じだと、私よりも年上の人もいたし、大丈夫そうだけど)
(できるだけ浮かないように目立たないように、溶け込まないと)

サトコ
「あとは、大学に通ってる理由も考えなきゃダメか···」
「それに···そうだ、あのサークルに参加することになった出来事とか」

私が潜入捜査で名乗ってる、 “萌木芽衣(もえぎめい)” 。
いざというときに困らないよう、基本的な “設定” がある。

(でも、その時に応じて細かい “設定” を変えていかないと···)
(今回は、反日活動に共感してるっていう立場だから)

国を恨む、それなりの根拠が必要だ。
データベースに登録されている資料から、該当しそうなモデルケースを探す。

サトコ
「父親が経営していた会社が倒産して、一家離散···」
「借金を返すために身売りしてお金を稼いだけど、返済の目途は立たず···」

(この人のケース、年齢も私と変わらないし使えるかも)
(ちょっとドロドロしてるけど、そのほうが信ぴょう性がありそうだし)
(こういう生い立ちも起因して、民主主義国家に反感を持ってるっていう設定でいこう)

視線を感じて顔を上げると、いつの間にか東雲教官が立っていた。

サトコ
「お、お疲れ様です···」

東雲
お疲れ
役に立つといいね。それ

満面の笑みで言われて、咄嗟に “萌木芽衣” の設定資料を隠した。

(なんか、全部知ってますって顔してたな、東雲教官···)
(加賀さんといい、なんで別の班の捜査を把握してるんだろ···!?)

そのあと、津軽さんが用意してくれた学生証などを受け取り、潜入に備えた。


【大学】

翌日から、さっそく大学に潜入した。

(まずはあの『水戸』を見つけないと)

百瀬さんにお願いして、彼が所属している学部などを調べてもらっていた。
そのあたりを歩いていると、向こうから水戸くんが歩いてくる。

水戸
「あれ?君、もしかして···」

サトコ
「こんにちは。最近編入してきた、萌木芽衣です」

水戸
「覚えてるよ。この前の飲み会にいたよね?」

サトコ
「覚えててくれたんですね。あの飲み会、飛び入り参加も多くいたので···」

水戸
「人の話を熱心に聞く子だなって、目についたよ」

(よし)

あの大人数のなか、どうやら向こうも 『萌木芽衣』を認識していたらしい。
水戸くんの表情からも、印象は悪くなさそうだ。

(マルタイとの接触、無事完了)

潜入捜査、開始。
ターゲットとの接触が多くなるここから、より一層気を引き締めた。

to be continued



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