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カレKiss×加賀 5話



【公安課ルーム】

大学生による反日活動から、数日後。

サトコ
「津軽さん、チェックお願いします」

津軽
うわあ···

この1カ月まったく顔を出していなかった分、書類の仕事が溜まっていた。
ようやく報告書を書き終えて提出すると、津軽さんがめんどくさそうな顔になる。

津軽
ウサちゃん、まっじめ。全部持ってこないでよ

サトコ
「大量にすみません。家でも書いてたんですけど···持ってくる機会がなくて」

津軽
俺の指示で出禁くらってたもんね

サトコ
「久しぶりに百瀬さん見ましたよ」

百瀬
「······」

(あ、このガン無視も久しぶり···)

報告書の束を津軽さんのデスクに置き、頭を下げる。

サトコ
「今回は、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」

百瀬
「···」

津軽
ん?何、改まって

サトコ
「実感したんです。ほんの一瞬の油断が、今回のミスにつながったって」
「少しずつ仕事に慣れて、慢心していたのかもしれません」

津軽
ま、助かったんだからいいんじゃない
兵吾くんと秀樹くんなら、始末書とか書かされそうだけどね

(気絶させられて身バレしそうになるなんて、始末書を書けって言われても仕方ない···)
(津軽さんは気にしてなさそうに見えるけど···でも、私のミスには違いない)

サトコ
「次は、もっと頑張ります。津軽さん、百瀬さん」
「今後ともご指導よろしくお願いします!」

津軽
······

敬礼して公安課ルームを出ようとした私に、津軽さんがほんの一瞬、鋭い視線を投げてきた。

津軽
“次” があるだけ、幸せだと思って

サトコ
「はい!」

その言葉に気を引き締め、もう一度頭を下げる。
今度こそ公安課ルームを出ようとすると···

津軽
サトコちゃん
でも、君なりに頑張ったのは本当だよね
そこは、胸張ってもいいよ

サトコ
「···あ···」
「ありがとうございますっっ!!!」

百瀬
「るっせえ!!!」

津軽
「あはは、2人とも声のボリュームぶっ壊れてるな~」


【勾留所】

(“次” があるだけ幸せ、か···)

勾留所を訪れながら、津軽さんに言われた言葉を思い出していた。
あれはつまり、公安刑事として “次” の仕事を任されるかどうか、という意味だ。

(それに···命があって “次” のことを話せる幸せ)
(津軽さんのことだから、きっとそれを言いたかったんだ)

そのとき、面会所のドアが開いて水戸くんが入ってきた。
私を見て、大きく目を見開く。

水戸
「···記者さんが、なんの用」

サトコ
「水戸くんは、私の顔なんて見たくなかっただろうけど」

結局水戸くんには、私の素性は知らせていない。
本来なら、被疑者に会いに来ることは許されなかった。

(わかってる···だけど、どうしてももう一度話したかった)
(最後まで騙したままなのは、気が引けるけど)

サトコ
「水戸くん以外の人は、釈放されたんだね」

水戸
「任意同行って、拒否もできるんでしょ」
「まあ、みんなビビっちゃって素直に応じたみたいだから」

それで “逃走の恐れなし” とされたらしい。
でも主犯格の水戸くんだけは、勾留期限いっぱいまで拘束されることになった。

水戸
「···本気で、日本を変えたかったんだ」

サトコ
「水戸くんは、どうしてそこまで···」

水戸
「アンタと似たようなもんだよ」
「ああ···アンタの話は、俺たちを騙す嘘だったのか」

サトコ
「···ごめんなさい」

水戸
「別に、アンタはアンタの仕事をしただけだろ。わかってる」
「···怪我、大丈夫?」

サトコ
「え?」

(もしかして、あのときの···?)

サトコ
「···うん。もうすっかり治ったよ」

水戸
「そう···」
「俺は今でも、自分が間違ってるとは思ってない」
「でも、怪我させたのは···アンタの嘘を信じたから···」
「ただ、感情に振り回された結果だ」

そこは反省しているのか、水戸くんが申し訳なさそうに頭を下げた。

(···悪い人じゃない)
(私が自分の正義を持っているように、水戸くんもそれを貫きたかっただけだ)

それを “是” とはいえない。
実際、水戸くんたちが爆弾を使っていれば怪我人も出て、日本は混乱しただろう。

(だけど···価値観の違いがあるのは、仕方ない)

その点においては、水戸くんたちと分かり合える日は来ないだろう。
そのあと少し話すと、水戸くんに別れを告げて勾留所を後にした。

勾留所を出ると、加賀さんの車が停まっていた。

サトコ
「どうして···もしかして、まだ見張ってるんですか···」

加賀
······

顎で助手席を示され、無言で従う。
話を聞かなくても、態度だけで加賀さんの微かな怒りが伝わってきた。

(でも···お叱りは甘んじて受けよう)
(私は、それだけのことをしたんだから)

加賀さんの車に乗り込むと、開口一番、舌打ちされた。

加賀
クズ

サトコ
「すみません···でも、どうしても···」

加賀
テメェのそれは、自己満足だ

サトコ
「わかってます」

(ただの自己満足···水戸くんと話して、自分の中で決着つけたかっただけだ)
(だけどそれでも、あの人に会わなきゃ先へ進めない気がした)

サトコ
「···私のこと、いつから見張ってたんですか?」

加賀
······

答えてくれないだろうと、わかっていた。
それでも、聞かずにはいられなかった。

サトコ
「私、全然気づかなくて」

加賀
テメェに気付かれるほど間抜けじゃねぇ

サトコ
「ごもっともです···」
「でも···マルタイに、き、キスなんてしちゃってよかったんですか?」

答えてくれない仕返しのつもりで、思い切って尋ねてみる。
それでも加賀さんは、前を見たまま表情を変えない。

サトコ
「それともあれは、懐柔作戦···?」

加賀
さあな

(やっぱり答えてもらえない···)

加賀
今さら懐柔の必要もねぇだろ

サトコ
「まあ、そうなんですけど···」

加賀
それとも、鞭のほうがよかったか?

サトコ
「あ、アメがいいです···!」

ようやく、加賀さんが纏う空気が緩んだ気がした。

加賀
あんときは、ずいぶんと喜んでたように見えたがな

サトコ
「うっ···だって、そりゃ···」
「あの時のキスは···加賀さんが応援してくれてるみたいに思えたんです」

加賀
···誘ってんのか

サトコ
「誘っ···!?」

からかい色の含んだ言葉に、ぐっと言葉に詰まってから前のめりになった。

サトコ
「さ、誘ってますけど!何かっ!?」

加賀
······
何逆切れしてんだ

サトコ
「だ、だって···最近ずっと、会えなかったし···」
「もう、全然···全然、足りないです···兵吾さんが···」

加賀
···クズが

その “クズ” は、なんだかとっても優しく響いた気がした。


【加賀マンション】

急遽加賀さんの部屋に泊まることになったその夜、散々いじめ抜かれた。

(あの時のキスみたいに、優しく情熱的に···って思ったのに)
(とんでもなかった···)

ここ1カ月ほど捜査に集中していたこともあり、こうして加賀さんの部屋に来るのも久しぶりだ。
そのせいか、今夜の加賀さんは容赦ない。

サトコ
「もうちょっと手加減してくれても···」

加賀
なんだかんだ言って、いつも悦んでんじゃねぇか

サトコ
「そ、それはですね···!」

加賀さんの腕枕も久しぶりで、なんだか心が解きほぐされていくような気がする。
見慣れた天井を見つめながら、思い出すのは “同志” たちのこと。

サトコ
「あの人たち···水戸くん以外は今後要注意、で終わるんでしょうか」

加賀
どうだかな。あいつの証言にもよる
あの人数を、水戸ひとりで掌握してたわけじゃねぇだろ

確かに、水戸くんと一緒に動いてた人も数人いる。
リーダーの水戸くんだけど、その補佐役が何人かいたのは事実だった。

サトコ
「···あの人たちが、実行に移す前に止めたかったんです」
「結局は、私が背中を押した形になって···」

加賀
······

サトコ
「私が救える···なんて、思ってたわけじゃないです」
「だけど···」

加賀
テメェはこの2年間、何学んできたんだ
疑わしきは罰する。それが公安の鉄則だ

事件を未然に防ぐには、それが正しい。
罰することはできなくても、常に見張って、事件を起こさないように···
それでも、難しい分かっていても、考えを変えてくれるのがベストだと思っていた。

サトコ
「···でも···これが、今の私の考えです···」

加賀
······
裸の女が、何言ってやがる

そう言われると急に恥ずかしくなり、すごすごと服に手を伸ばす。
でもその手に、加賀さんの大きな手が重なった。

加賀
なんのつもりだ

サトコ
「また理不尽に怒られてる···!」
「加賀さんが、服着ろって言ったんじゃないですか」

加賀
んなことは一言も言ってねぇ

両手を押さえつけられ、頭の上でまとめられる。
加賀さんの唇が脇から胸元、ウエストへとなぞるように這った。

サトコ
「···ぁっ···」

加賀
···痕、つけられやがって

サトコ
「も、もう、そんな目立ってな···」

加賀
黙れ
···テメェの身体をいじっていいのは、俺だけだろうが

サトコ
「---!」

甘く鋭い刺激と快感に、びくりと腰が震えた。
満足げに、加賀さんがさらに舌と指先で私の傷跡をなぶる。

加賀
二度はねぇ

サトコ
「わ、わかり、ました···からっ···」

加賀
···車乗るのもしんどいくらい、痛めつけられやがって
そいつを心配して会いに行くなんざ、テメェは甘すぎだ

(車に乗るのもしんどい、って···)

サトコ
「もしかして···あのとき、心配してくれてたんですか···?」

加賀
あ゛?

サトコ
「···」
「なんでもないです、へへ···」

加賀
気味悪ぃ笑い方やめろ

サトコ
「彼女に言う発言じゃないですよ、それ」

ちゅっと私の肌に吸い付き、加賀さんがニヤリと笑う。

加賀
口が過ぎるな。仕置きが望みか?

サトコ
「ち、ちが···」

首を振っても、加賀さんからのお仕置きの手は緩まない。

(でも···これはきっと、加賀さんなりのご褒美だから)

それを余すところなく受け止めようと、必死に加賀さんにしがみついた夜だったーーー

Happy End



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