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恋の行方編 黒澤5話

ーー「今から出かける」
ーー「時間があるならついてこい」

石神教官にそう告げられて、ついてきた私だったけど···

(すごい···大学生だらけ···)
(そういえば、このあたりって大きな大学がいくつかあるんだっけ)

大声で騒ぐ学生たちの間を、石神教官は平然と歩いていく。
周囲の喧騒なんて、まるで耳に入っていないみたいだ。

(どうして、こんなところに来たんだろう)
(まさか、居酒屋でお説教?)
(特別訓練の結果···やっぱりアレだとマズかったとか···)

石神
ここだ。入るぞ

サトコ
「えっ」

(ここって···カラオケ店?)



店員
「お待たせしましたー」
「ウーロン茶とプリンシェイクです」

店員さんは、私の前にプリンシェイクのグラスをドンッと置いた。

サトコ
「···あの、シェイクどうぞ」

石神
ああ

(飲んでる···シェイクを、教官が···)
(もしかして甘党なのかな)
(それか、ものすごく疲れていて、甘いものが欲しかったとか?)

石神
1曲入れろ

サトコ
「えっ」

石神
なんでもいい。好きな曲を入れろ

(そ、そうだよね。カラオケなんだから1曲歌わないと)
(長野にいたころは、部長の好きな80年代アイドルソングばかりで···)

石神
早くしろ

サトコ
「じゃあ、あの···『学院天国』を···」

リクエスト番号を送信すると、スピーカーから派手なイントロが流れてきた。

(え、ええと···なんだっけ、歌いだしは···)

サトコ
「『♪アー・ユー・ハッピー?』···」

???
「イエーイ!!」

(ぎゃっ!)

黒澤
『♪イエーイイエーイイエーイ、イエーイイエーイ』···

サトコ
「···」

黒澤
···あれ、歌わないんですか?
オレ、『学院天国』好きなんですけど

石神
遅いぞ、黒澤

黒澤
すみませーん、調べものに手間取ってしまって

(なんでここに黒澤さんが?)
(ていうか私、どうすれば···)

石神
氷川はそのまま歌っていろ
黒澤、報告を

黒澤
了解です。まずは···

(え、なにこの羞恥プレイ)
(訓練で結果を出せなかったから?だとしても居たたまれなさすぎ···)

結局、誰も聞いていないアイドルソングを、私は3曲続けて歌うことになり···

(さすがに、心が折れそうになるんですけど)
(こうなったら、次はビジュアル系バンドの曲でも入れて···)

石神
···報告は以上か?

黒澤
はい

石神
では、この件は今後颯馬に任せる

(あ、やっと終わっ···)

石神
氷川、適当に10曲ほどリクエストを入れろ

(ええっ!?)

石神
それが終わったらこっちに来い
今から任務の説明をする

(······え?)

石神
時間がない。早くしろ

サトコ
「は、はい!」

(任務って、私が?)
(訓練で成果を挙げられなかったのに?)

いくつもの疑問を抱えたまま、片っ端から曲をリクエストする。
最初に演歌のイントロが流れてきたところで、教官の隣に腰を下ろした。

石神
君には、明後日から潜入捜査に参加してもらう
これが潜入先とターゲットだ
必要なデータは、この場ですべて頭に入れろ

サトコ
「は、はい!」

(潜入先···「黒和堂病院」···)
(ターゲットは···)

サトコ
「平名織江・32歳···看護師···」

石神
今は『黒和堂病院』に勤務しているが
半年前まで、先日黒澤が入院していた病院に勤務していた

サトコ
「えっ、じゃあ···」

石神
薬物売買で捕まった首藤ミナカの元同僚。そして···
例の『連続不審死事件』に関わっている可能性がある

サトコ
「!!」

(そうだ···私が首藤ミナカと関わることになったのって···)
(元はといえば「連続不審死事件」について調べていたからで···)

けれども、首藤ミナカが認めたのは「薬物売買」だけ。
「連続不審死事件」への関与は、未だ否定をしていた。

サトコ
「じゃあ、この平名織江が『連続不審死事件』の···」

石神
被疑者の可能性がある
そのための潜入捜査だ

こくん、と息を呑んだ。
まだ説明を聞いている段階なのに、口の中がカラカラだ。

黒澤
そんなに緊張しなくてもいいですよー
サトコさんからターゲットと絡むことはほぼありませんから

サトコ
「えっ」

石神
氷川の役目は黒澤のサポートだ

サトコ
「!」

黒澤
期間は2週間です。一緒に仲良く頑張りましょうね

(そんな···よりによって黒澤さんと?)
(サイアクだ···なんで一番一緒にいたくない人と···)

サトコ
「···」

(ダメだ、これは仕事なんだ)
(仕事、仕事、仕事!)

私は黒澤さんに向き直ると、精いっぱいの強い視線で見つめ返した。

サトコ
「勉強させていただきます。よろしくお願いします」

黒澤
ハハッ、マジメですねー、サトコさんは

石神
茶化すな、黒澤

黒澤
すみませーん
でも、サトコさんって、からかうと面白くて

(余計なお世話···!)

石神
···では、あとは任せた
資料は必ず回収して、明日俺のところに持ってくるように

黒澤
了解でーす。おつかれさまでしたー

(えっ、石神教官!?)
(待っ···ちょ······ええ····っ!?)

黒澤
······さて、ふたりきりになったことですし
息抜きにカラオケでもしましょうか

サトコ
「いえ。それより任務について説明してください」

黒澤
えーダメですか?
サトコさんが2曲目に歌った『ダンシング・ヒーローズ』···
一緒に歌いたかったのになぁ

<選択してください>

お断りします

黒澤
嫌いですか?デュエット

サトコ
「······」

黒澤
それとも···
オレと歌うのがイヤだったりして?

(その通りです)
(100%、間違いなくその通りです!)

聴いていたんですか!?

サトコ
「まさか聴いていたんですか!?」

黒澤
ええ

サトコ
「でも、あのときって石神教官とミーティング中だったんじゃ···」

黒澤
まぁ、そうなんですけど
サトコさん、結構ノリノリで歌うから、途中から気になっちゃって

サトコ
「!」

黒澤
石神さんも、ひそかに笑いを堪えてましたし

サトコ
「!!」

(うそだ···あの石神教官が···)
(って、ダメだってば、黒澤さんのペースに巻き込まれたら)
(ここはひとまず落ち着いて···)

からかわないで

サトコ
「からかわないでください」

黒澤
からかってなんかいませんよ
だってオレ、大好きですから

サトコ
「カラオケがですか?」
「それとも『ダンシング・ヒーローズ』が?」

黒澤
さあ、どっちでしょう
···案外どっちも違っていたりして?

サトコ
「·········」

私は、わざと腕時計を確認するふりをした。

サトコ
「すみません。早く帰りたいので、任務の説明をお願いします」

黒澤
わかりました。じゃあ···
資料の1枚目をめくってください

黒澤さんの声音が、ようやくマジメなものへと切り替わった。

黒澤
そこに記載されているのは···
今回のターゲット・平名織江が関わっている組織です

サトコ
「宗教団体『終末の泉』···」

概要や沿革、代表者の名前に目を通す。
と、ある1行に聞き覚えのある名称が記されていた。

サトコ
「黒澤さん、この関連組織にある『セミナー』って···」

黒澤
首藤ナミカが通っていた自己啓発セミナーです
ちなみに、彼女が通うようになったキッカケは···
平名織江に勧められたから、だそうですよ

(そんな···)



【学校 資料室】

帰宅して荷物を置くなり、学校の資料室へと足を運んだ。

サトコ
「あった···宗教団体『終末の泉』のサイト···」

(こうして見る分には、ごく普通の宗教団体のサイトだよね)
(信仰対象が特殊なくらいで)

けれども、資料にはなかなかエグい内情が書いてあった。
それもあって「金銭トラブル」と「脱会トラブル」はかなり多いらしい。

(そうだ···今起きている「連続不審死事件」だって···)

黒澤
この事件は、もともと刑事部が捜査していたわけですが···
その過程で、亡くなった人たちの共通点が見つかりまして

サトコ
「それが、この『終末の泉』ですか?」

黒澤
ええ。信者の親族だったり、元信者だったり
ちなみに、5枚目の資料に記されている男性2名ですが···
この5ヶ月の間に、黒和堂病院内で不審な死を遂げています

サトコ
「! じゃあ、この人たちも···」

黒澤
1人はまだ調査中ですが、もう1人は信者の身内です
ね、なかなか物騒な話でしょう?

(もし、本当に連続不審死事件に「終末の泉」が関わっているとしたら···)
(「自分たちに逆らうものを殺す集団」ってことになる···)

では、彼らが「国家」や「国民」を「自分たちに逆らう者」と判断したら?
「自分たちの信仰に邪魔な存在」と考えたら?

サトコ
「···ダメだ。絶対に阻止しないと」

(そのためにも、まずは平名織江が事件に関わっている証拠を見つける)
(そして、彼女の逮捕を足掛かりに、宗教団体を捜査する)


【黒和堂病院】

(それが、今回「黒和堂病院」へ潜入する目的ーー)

サトコ
「···よし」

(頑張ろう!!)
(必ず成果を挙げて、それで···)

サトコ
「ぶ···っ」

裏玄関から出てきた人と、思い切りぶつかってしまった。

サトコ
「す、すみません!」

医者
「いえ、こちらこそ」

(うう···鼻が潰れた···)
(って、痛がってる場合じゃない!)
(ここからは気合を入れて行かないと)

リーダー
「今日から一緒に働くことになった長野さんです」

サトコ
「長野です。よろしくお願いします」

「長野かっぱ」の表向きの仕事は「リネン類の管理スタッフ」だ。
けれども、本当の任務は···

(ターゲット···平名織江の「院内での噂」を集めること)
(そして、それを黒澤さんに報告すること)

リーダー
「それじゃ、まずはシーツの回収からはじめてもらおうかしら」
「門村さん、今日は長野さんと組んでください」

門村吉明
「ハーイ、門村でーす。よろしくね」

サトコ
「!?」

門村
「あら、どうかした?」

サトコ
「い、いえ···よろしくお願いします」

(なんか···ずいぶん濃い人だな···)

門村
「消毒は、しつこいくらいにやってね」
「それと『感染リネン』に触るときは必ず手袋を忘れないこと」

サトコ
「あの···『感染リネン』っていうのは···」

門村
「血液とか、吐いたものがついてるリネンのこと」
「ここ病院だから、結構あるのよねぇ」

メモ帳に業務内容を書き込みながらも、それとなく周囲に視線を走らせる。

(そろそろ外科病棟だ)
(平名織江は、普段はここにいるはず···)

サトコ
「!!」

(···いた!まさか、こんなにあっさり遭遇するなんて)
(落ちつけ···ジロジロ見るな···)
(平常心···あくまでさりげなくすれ違って···)

門村
「あっ!」

(ぎゃっ!?)

門村
「やだー、1カ所寄るの忘れてたわ」
「あそこ、怖いからつい避けちゃうのよねぇ」

(···怖い?)

門村
「よいしょ···っと」
「ほら···この部屋、ドアも重いし、中も薄暗いでしょ」

サトコ
「あの···電気は?」

門村
「それが、電球切れちゃってて」
「この部屋だけ、何度取り換えてもすぐに切れちゃうのよねぇ」
「まぁ、いわくありの部屋だから仕方ないけど」

(い、いわくあり?)

門村
「ココだけのハナシ···」
「幽霊が出るらしいのよ、この部屋」

サトコ
「ま、まさか···」

門村
「ほんとよぉ」
「以前、歌の大好きな女の子がこの部屋で亡くなってね」
「それ以来、丑三つ時になると、その子の歌声が···」

???
「♪る···るる······」

サトコ
「!?」

???
「♪る···るるる···るるる···」

(ま、まさか···)

ガタガタガタッ···

女の子
「♪る···るる······」

サトコ
「ぎゃーーっ!!!」



【カラオケ店】

黒澤
アハハハハッ

サトコ
「······」

黒澤
卒倒···患者を幽霊と勘違いして卒倒······

サトコ
「卒倒はしていません」

黒澤
ハハッ···そうでしたね
卒倒しかけて、棚にぶつかって、鼻血を出したんでしたっけ?

サトコ
「······」

黒澤
で、その幽霊の正体は?

サトコ
「小児科に入院している女の子です」
「なんであんなトコにいたのか、いまいち謎ですけど···」

(って、そんな話をしに来たんじゃなくて!)

サトコ
「あの!今日の報告をしたいんですけど!」

黒澤
何かありますか?鼻血以外に

(ぐ···っ)

サトコ
「噂は、まだなにも掴めていません」
「ただ勤務年数の長いスタッフは多いようなので」
「それとなく話を聞きだしてみようかと思います」

黒澤
いいですねー。ぜひ頑張ってください
それと『噂好き』な人もチェックしておくといいですよ
うまく水を向けると。好きなだけ情報提供してくれますから

サトコ
「···わかりました」

(そうだ···それって「基本中の基本」だ)
(まずはそうした人物を探さないと)

黒澤
報告は以上ですか?

サトコ
「はい」

黒澤
じゃあ、ご飯を食べに行きましょう

(···え?)

黒澤
あ···結構時間ギリギリですね
渋滞に引っかからないといいけどなー

サトコ
「待ってください!私、行くなんて一言も···」

黒澤
協力者を紹介したいんです。今回の潜入捜査の

サトコ
「!」

黒澤
つまり、これも仕事の一環ですよ
さあ、行きましょう

サトコ
「······」


【車内】

黒澤
♪あ~ハムと呼ばれて幾年月~
♪だけどプリンが好きなのよ~

鼻歌を口ずさむ黒澤さんに背を向けて、私は窓の外を睨みつけた。

(仕事仕事···これは仕事なんだ···)
(じゃなかったら、誰が黒澤さんと食事なんて···)

黒澤
怖い顔してますねー

サトコ
「!」

黒澤
もっと笑顔を見せないと。協力者がビックリしますよー

(余計なお世話···!)

黒澤
そうだ、ひとつお願いがあります
オレが『公安刑事』だってこと、協力者には絶対言わないでください

(えっ?)

サトコ
「どういうことですか?」

黒澤
ちょっといろいろありまして
協力者は、オレが『警察庁勤務』ってことしか知らないんです

サトコ
「······」

黒澤
オレも公安の人間だってことを明かすつもりはありません
なので、よろしくお願いします

サトコ
「···わかりました」

(とは言ってみたものの···)
(どうして伝えてないんだろう?)
(以前会った協力者は、黒澤さんが公安だって知っていたのに···)

黒澤
ああ、つきましたよ。降りてください

サトコ
「はい···」

(えっ、ここ!?)



【料亭】

(ここって、いわゆる「料亭」だよね)
(うわ···なんか緊張···)

黒澤
ふわあぁ···

(あくび!?どれだけ寛いでるの、この人)
(そりゃ黒澤さんって何事にも物怖じしない人っぽいけど···)

???
「ごめん、待たせたよな」

(来た···!)
(ってこの人、どこかで見たような···)

黒澤
めずらしいね、遅れてくるなんて

???
「出かけに少しバタバタしてね」

黒澤
急患?

???
「まぁ、そんなところかな」

(思い出した!この人、今朝裏玄関でぶつかったお医者さんだ)
(そっか、この人が今回の「協力者」···)

黒澤
兄さん、彼女が長野さん

(えっ?)

黒澤
オレと同じ警察官
彼女にも、2週間有休を取ってもらったから

医師
「そう」

(待って···今「兄さん」って···)

黒澤幸成
「はじめまして。黒澤幸成です」

サトコ
「は、はじめまして。長野です」

(落ち着け···落ち着こう)
(同じ「黒澤」で「兄さん」って呼んでいたってことは···)

ようやく「今回の協力者は公安刑事だと知らない」の意味が分かった。

(兄弟だから、か)
(そうだよね···私も家族に「公安を目指してる」って打ち明けてないもん)

黒澤
ちなみに、幸成兄さんは看護師さんたちの中で···
『お嫁さんになりたい男性医師ナンバー1』なんですよ

黒澤幸成
「またお前は適当なことを···」

黒澤
適当じゃないって
顔良し・頭良し・性格良し
長野さんも好きでしょ、兄さんみたいな人

(ちょっ、なんで私に振って···)

<選択してください>

かなり好みです

サトコ
「そうですね···かなり好みですね」

黒澤
やっぱり
ちなみに一番好みなのは『顔』ですか?

サトコ
「!」

黒澤
それとも『性格』?『優しそうな雰囲気』?
それとも···

黙秘権を行使する

サトコ
「黙秘権を行使します」

黒澤
えー教えてほしいなー
興味あるんだけどなー

(···ウソばっかり)
(私のことなんて、全然興味ないくせに)

(無視しよう)

(もういいや。ここは無視して···)

黒澤
あれー、長野さん、聞こえてます?

サトコ
「······」

黒澤
長野さーん···長野さーん、寝てます?

サトコ
「寝てません!」

黒澤
あ、やっと答えてくれましたねー

(しまった!つい···)

黒澤幸成
「···よさないか、透」
「長野さんが困っているだろう」

黒澤
だってー、兄さんがー、自分のスペックの高さをー、認めないからー

黒澤幸成
「べつに高くないよ、僕は」

黒澤
ほら、またー
これで『次期院長』なんてオプションまであるんだから

黒澤幸成
「今はまだ『院長候補』だよ」

黒澤
でも『現院長』はその気だと思うけどなー
なにせ『自慢の息子』なわけだし?

(えっ···)
(じゃあ、黒和堂病院の「院長」って黒澤さんの···)

黒澤幸成
「···お前が医者になっていたら、父さんはお前も候補にしていたよ」

黒澤
ムリムリ
オレ、医者になれるほど優秀じゃないもん

黒澤幸成
「警察官僚も立派なものだろう?」

黒澤
下っ端も下っ端だけどねー
黒澤家のお役に立てるかどうか···

黒澤幸成
「十分立っているだろう」
「こうして極秘裏に院内のことを調べようとしてくれているんだから」

(···極秘裏に?)

黒澤幸成
「本当は、こんな風にお前にこそこそ頼まないで」
「正式に警察に届け出るべきなんだろうが···」

黒澤
マジメだなー、兄さんは
そんなことする必要ないって
まだ『不審死』って確定したわけじゃないんだから

黒澤幸成
「けど···」

黒澤
今、警察が捜査に入ったら、間違いなく変な噂が立つ
そのあとで『問題ありませんでした』って言われても噂は消せないよ
だから、父さんもずっと渋ってたわけでさー

黒澤幸成
「···そうだったな」

それでもどこか苦し気な幸成さんに、黒澤さんは優しく微笑みかけた。

黒澤
大丈夫。オレがちゃんと調べるから
そのうえで『やっぱり事件性があるっぽい』ってことになったら···
そのときこそ、ちゃんと警察に届け出ればいいんじゃない?

黒澤幸成
「···ああ、そうだな」

黒澤
でも、まぁ···信じてるけどね、オレは
父さんの病院で不審死なんてありえない···って

(······黒澤さん?)


【車内】

サトコ
「本当はどう思っているんですか?不審死のこと」

黒澤
······

サトコ
「『ありえない』って、本気で思っているんですか?」

黒澤
まさか。平名織江の勤務先ですよ
おそらく『クロ』でしょうね、残念ですが

(···やっぱり)

サトコ
「じゃあ、どうして幸成さんにあんなことを···」

黒澤
決まってるじゃないですか
今、兄さんに所轄に駆け込まれたら困るからですよ

サトコ
「『困る』って···」

黒澤
だって、そんなことになったら
刑事部の皆さんが、間違いなく駆けつけてくるでしょ
こっちの捜査が終わるまでは、ゴチャつきたくないんですよねー
オレ、平和主義者なんで

サトコ
「······」

黒澤さんの主張におかしなところはない。
幸成さんにいろいろ嘘をついているのも、いちおう理解できる。

(でも、なんだろう···この引っかかる感じ···)
(違和感っていうか···腑に落ちない感じっていうか···)

釈然としないまま、車は夜の幹線道路を走り抜けてゆく。
運転席の黒澤さんは、今はもう「いつもどおりの黒澤さん」だった。

to be continued

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