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恋の行方編 黒澤6話

黒和堂病院に潜入して5日目。
私の任務は、今のところ驚くほど順調だ。
というのも···

門村吉明
「ココだけのハナシ···」
「先生方に人気があるのは、外科病棟の酒井さんなの」
「でも、患者に人気なのは江本さんなのよねぇ」

サトコ
「江本さんって、確か新人の?」

門村吉明
「ええ。初々しくていかにも『白衣の天使』って感じでしょ」
「男ってバカだから、ああいうタイプにコロッと騙されるのよ」

サトコ
「はぁ···」

(ほんと、すごいな···門村さんの情報網)
(まさに「噂好きの近所のおばちゃん」って感じ)

でも、だからこそ、私としては有り難いわけで···

サトコ
「そういえば、あの人はどうなんですか?」
「同じ外科病棟の···ええと···平名さん···」

門村吉明
「ああ···あの人も評判いいのよねぇ。『控えめな美人』って感じで」

(そうなんだ···「評判良し」「控えめな美人」···)
(って、容姿についての報告はいらないか···)

門村吉明
「でも、どうして?」

サトコ
「えっ···」

門村吉明
「どうして平名さんに注目したの?」
「そういえば、この間も平名さんのことを聞かれた気が···」

(マズい···!)

サトコ
「え···ええと、その···」
「そうだ!私、こっちの病棟のリネン回収してきますね!」

門村吉明
「ちょっと!待ちなさいよーっ」

(···あぶない、あぶない。ちょっと露骨すぎたかな)
(今度から聴きかたを変えないと···)

サトコ
「うわっ」

謎の少女
「······」

サトコ
「ご、ごめん、ぶつかるところだったよね?」

(···あれ?)
(この子、たしかリネン室で歌を歌ってた···)

謎の少女
「······」

(やっぱり···私が「幽霊」と間違えた子だ!)

サトコ
「え、ええと···大丈夫だったかな?」

謎の少女
「······」

サトコ
「もしかして、どこかぶつけてたとか?」

謎の少女
「······」

サトコ
「あの···?」

???
「サユミ!」

不意に大声がして、父親らしい男性が駆けつけてきた。

サユミの父
「またお前は勝手に出歩いて···」
「早く病室に戻りなさい!」

(行っちゃった···)
(なにもあんなに怒らなくても···)

門村吉明
「ヤダわぁ、怖い怖い」

(ぎゃっ!)

門村吉明
「あれじゃ、あの子も喋れなくなるわよね」
「パパがあんなに怖いんじゃ···」

サトコ
「怖いのは門村さんですよ!いつの間に後ろに···」

(···うん?待って)

サトコ
「あの子、喋れないんですか?」

門村吉明
「そうなのよぉココだけのハナシ···」
「ある日、急に声が出なくなったんですって」
「きっと、怖ーいパパに怒られ続けたせいだわ」

(え、でも···)

サトコ
「あの子、前に歌を歌ってましたよね?リネン室で···」

門村吉明
「歌?」

サトコ
「例の『幽霊の出る』って噂のリネン室で!」

門村吉明
「ええ?あの時歌声なんて聞こえなかったけど」

(えええええっ!?)

【食堂】

サトコ
「嘘ですよね?嘘だって言ってください!」
「じゃないと、あれ『幽霊の歌声』になるじゃないですか!」

門村吉明
「そんなこと言われても困るわよぉ」
「アタシにはさっぱり聞こえなかったんだもの」

サトコ
「そんなぁ···」

(どうして門村さんには聞こえなかったんだろう)
(私なんて、まだしっかり覚えてるのに)
(♪ルル···ルルル···ってメロディー···)

門村
「あら、珍しい」
「幽霊より怖い人のお出ましだわ」

(えっ)

門村吉明
「ほら、中庭」

サトコ
「あの人は···」

門村吉明
「やだ、院長に決まってるじゃない、この病院の」

サトコ
「へぇ、院長···」
「って、あの人がですか!?」

(じゃあ、あの人が黒澤さんのお父さん···)
(なんていうか···親子の割に全然似てない気が······)

サトコ
「あ···」

(今、平名織江に声をかけた?)
(他にも看護師はいるのに、どうして彼女にだけ···)

門村吉明
「ところで、あの噂本当かしら」
「院長にまつわる黒い噂···」

サトコ
「えっ?」

門村吉明
「ココだけのハナシ···」
「院長には、だいぶ前からヤバめの組織がついていて···」
「病院経営にも口出ししてるらしいわ」

(ヤバめの組織···それって、まさか例の···)

(どうしよう···このこと、黒澤さんに報告するべき?)

けれども、私が調べるように言われたのは「平名織江」のことだけだ。
それに、院長は黒澤さんの父親なわけで···

(私だったら、身内の悪い噂なんて聞きたくない)
(でも「ヤバい組織」が、例の宗教団体だったとしたら···)

サトコ
「!」

ドキリとした。
向こうから、ちょうど黒澤さんがやってくるのが見えたからだ。

(なんでこんなタイミングで···)
(って、焦るな···)

周囲には、他に人もいる。
話しかけられることはないはずだ。

(ただ、普通にすれ違えばいい···)

サトコ
「!」

驚いて、息を呑んだ。
すれ違いざま、脇腹を触られた気がしたからだ。

(な、なんで脇腹に···っ)
(···うん?)

作業着のポケットに、いつの間にかメモが入っていた。

サトコ
「『1800···B1女子更衣室』···?」



【更衣室】

そんなわけで17時55分···

(「B1」···「地下1階」で更衣室があるのは、このエリアだよね)
(全然人の気配がしないんですけど···)

サトコ
「ここだ、更衣室···」

(ドア、開くのかな)
(あ···大丈夫っぽい···)

そっと足を踏み入れると、奥の方で光が点滅した。

サトコ
「···おつかれさまです」

黒澤
こちらへ。明かりは点けずに

言われた通り、薄暗い部屋の中をそろそろと進む。
だいぶ近づいたところで、再び光が点灯した。
どうやらスマホのバックライトのようだ。

黒澤
おつかれさまです。まずはこの記録メディアを

サトコ
「これは?」

黒澤
この数日調べた調査結果です。石神さんに渡してください
今晩は寮で宿直と聞いていますので

サトコ
「···わかりました」

黒澤
それと、オレへの報告があれば、今お願いします
今日と明日は時間が取れそうにないので

(えっ、いきなり?)

黒澤
重要そうなものだけでいいです
それ以外は週明けにまとめて聞きます

サトコ
「え、ええと···」
「『平名織江は患者の評判がいい』という噂を聞きましたが···」
「それについては、もう少し調べてから報告します」

黒澤
わかりました。他には?

(他···)
(院長のことはどうしよう···「黒い噂」云々は···)
(身内のことだし、黒澤さんより石神教官に報告するべき?)
(でも、それはそれでなんていうか···)

黒澤
オレに言いにくいことですか?
じゃなければ、すぐに報告できるでしょう?

(うっ、バレてる···)
(でも、やっぱり「黒い噂」のことを伝えるのは···)

サトコ
「その···大したことじゃないんです···」
「平名織江と院長が、今日話をしていたなぁと思って···」

黒澤
それはいつですか?

サトコ
「えっ」

黒澤
いつ、どこで?

サトコ
「え、ええと···昼休みに中庭で···」

黒澤
待って

ふいに、口をふさがれた。

黒澤
···誰か来る

(えっ)

黒澤
入って!この中に!

(ちょ···ええっ!?)
(なに、この状況!?)
(なんで、こんなことに···)

サトコ
「!」

(足音···人が来た···本当に···)

パチン、と音がしてロッカーの中に光がこぼれてきた。
どうやら誰かが電灯をつけたようだ。

(たぶん女性···だよね)
(まさか、平名織江なんてことは···)

冷たい汗が、背中を滑り落ちる。
うまく呼吸できなくて、口の中がすでにカラカラだ。

(どうしよう···見つかったら···)
(すこしでも物音を立てて、この扉を開けられたりしたら···)
(しかも、その相手が平名織江だったら···)

黒澤
大丈夫、落ち着いて

サトコ
「!」

黒澤
大丈夫···大丈夫ですから···

かすかな光の中で、目が合った。
早鐘のようだった鼓動が、少しずつ落ちていくのがわかった。

(嘘みたいだ···)
(黒澤さんと目が合っただけで、こんなに安心するなんて)

バタン、とロッカーの閉まる音がした。
続いて室内の電灯が消え、ドアの閉まる音が聞こえた。
再び訪れた静寂。
遠ざかってゆく、誰かの足音···

黒澤
···出ましょうか
もう大丈夫そうですし

黒澤
はぁぁ···
いやぁ、さすがに今のは緊張しましたねー

サトコ
「どうして···」

黒澤
はい?

サトコ
「どうしてわかったんですか。人が入ってくるって」

黒澤
ああ···足音が聞こえたんですよ
このフロア、すごく静かだから、いろんな音が聞こえますし
実際サトコさんにも聞こえたでしょう、去っていく足音は

(···たしかに)

でも、ここに来る時の足音は聞こえなかった···
ううん、「聞いていなかった」のだ。

(悔しい···)
(すごく悔しい···けど···)

サトコ
「やっぱりすごいです」

黒澤
何がですか?

サトコ
「黒澤さんの気の配り方です」
「ちゃんと廊下にまで意識を向けていて···」
「私は、報告するだけで精一杯だったのに」

黒澤
これくらい当然ですよ、公安刑事としては

サトコ
「!」

黒澤
でも、今のサトコさんにできないのも仕方のないことです
まだ訓練生ですし

サトコ
「そんなの関係ないです」
「仕事として、潜入しているのに」

黒澤
···だったら、きちんと報告してください
院長のこと···本当はもっと報告するべきことがあるのでは?

(それは···)

<選択してください>

ないわけではない

サトコ
「ないわけではありません」
「ただ、もう少し調べてから報告させてください」

黒澤
······

サトコ
「私が聞いたのは、まだ報告に値しないものだと思いますから」

黒澤
···なるほど

なにもありません

(···ダメだ、やっぱり今は言えないよ)
(報告するにしても、もう少し調べてからでないと···)

サトコ
「なにもありません」

黒澤
······

サトコ
「本当に、今は何も···」

······

サトコ
「······」

黒澤
サトコさん、答えてください

(そんなこと言われても、やっぱり言えないよ)
(せめて、もう少し調べてからでないと)

黒澤
···そうですか

黒澤
わかりました。今回はあなたの意思を尊重しましょう
ただ、オレは『訓練生』ではなく、現場にいる『刑事』です
仕事とプライベートの切り分けくらい当然できます

サトコ
「······」

黒澤
オレに遠慮する必要はありません
次からはどんなことでも報告してください
それが、どんなに『黒い噂』だったとしても

(······黒澤さん?)



【電車】

(「どんなに悪い噂でも」か)
(すごいな、そんなふうに言い切れるなんて)

なのに不安が拭えない。
黒澤さんの様子が、これまでとは少し違う気がして···

(どうしてこんなふうに思うんだろう)
(黒澤さんは、ずっと冷静だったのに)

むしろ、いっぱいいっぱいだったのは私の方だ。

(報告することだけに気を取られて···)
(黒澤さんが、ロッカーに連れ込んでくれなかったらどうなっていたか···)

あの時の光景が脳裏を過る。
狭い空間のなか、大きな手に口を覆われて···
呼吸が頬を掠める距離に、黒澤さんの気配を感じて···

(あんなに近かったの···あの夜の時以来···)

サトコ
「···っ」

(仕事、仕事!)
(今日のは、仕事上、しかたのないことだったんだから!)



【寮】

(じゃなかったら、黒澤さんとあんなに接近するわけないし!)
(本来は、口もききたくないくらいで···)

サトコ
「失礼します、氷川です」

【寮監室】

颯馬
ああ、おつかれさまです

(えっ、颯馬教官?)

サトコ
「おつかれさまです。あの、石神教官は···」

颯馬
外出していますよ。何か用ですか?

サトコ
「黒澤さんから預かりものがあるんです」
「石神教官に渡してほしい、って」

颯馬
それなら私が預かりますよ。こちらへの戻りは遅いようなので

サトコ
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「では、失礼いたします···」

颯馬
ああ、ちょっと待ってください
明後日はお休みですか?

サトコ
「はい、そうですけど···」

颯馬
では、パフェはお好きですか?

サトコ
「嫌いではないです···」

颯馬
ジャンボパフェは?

(ジャンボパフェ?)

颯馬
······なるほど
失礼しました。お相手は貴女ではないようですね

サトコ
「?? なんのですか?」

颯馬
黒澤のデートのお相手です

サトコ
「!」

颯馬
なんでも、明後日『ジャンボパフェ』を食べに行くのだとか
あまりにも楽しみにしているようだったので
てっきりサトコさんと出かけるのかと···

サトコ
「あり得ません!」
「黒澤さんとデートなんて絶対しません!!」
「それじゃ、失礼します!!!」

颯馬
······おや

(関係ない···関係ない···)
(黒澤さんが誰とデートしようが知ったことじゃないし)
(そんなのどうだっていいし)
(ジャンボパフェも、ぜんっぜん好きじゃないし!!)

サトコ
「私は、仕事に生きるんだからーーー!!!」

と言いつつ、ジャンボパフェは後に美味しくいただくわけなんだけど···


【リネン室】

それはともかく月曜日···

門村吉明
「情報通に?アナタが?」

サトコ
「はい。なんていうか、私···」
「目覚めたんです!門村さんのような情報通になりたいって」

門村吉明
「あら···」

サトコ
「だって、面白いじゃないですか!特に下世話な噂とか···」

門村吉明
「そうそう、そうなのよぉ!」
「やっぱり『人の噂』って蜜の味よねぇ、グフフ」

(···よし、のってきた)

サトコ
「それで、質問なんですけど···」
「門村さんって、どこで情報収集してるんですか?」

門村吉明
「あら!それは企業秘密よぉ」
「そういうのは自分で見つけないと···」

サトコ
「教えてください!ちょっとだけでいいですから!」

門村吉明
「······」

サトコ
「よっ、師匠!」

門村吉明
「まぁ、そこまで言われたら···ねぇ」

門村さんはグフフと笑うと、少しだけ声を潜めた。

門村吉明
「こういう仕事をしてると自然に聞こえてくるでしょ、いろんな噂」
「『〇号室の患者が口説いてくる』とか『あの研修医は使えない』とか」

サトコ
「はい、まぁ···」

門村吉明
「どうしてだと思う?」

サトコ
「え、ええと···」

門村吉明
「『風景』だと思われてるのよ、アタシたち」
「だからみんな、アタシたちの前でお喋りをやめないの」
「先生方も看護師も、患者さんたちも」

(···たしかに)

門村吉明
「で、どこで情報収集するかっていうと···」
「患者同士の噂を聞くには、各病棟の間にある『視聴スペース』」
「職員同士なら、関係者専用の『外通路』ね」
「あそこ、喫煙者のたまり場だから」

(なるほど···)

門村吉明
「でも、一番狙い目なのは···」

(外科病棟の休憩室···ここだ···)
(で、会話を聞くには、隣の男子トイレに入って···)

(窓を開ける···と···)

看護師1
「そうそう、それそれ!」

看護師2
「困るんだよねー、そういうの」

(ほんとだ···会話、丸聞こえ)
(ここなら面白い情報が聞けるかも!)

問題は「男子トイレ」とういうことだけど、背に腹は替えられない。

(潜入期間はあと1週間···)
(それまでに、絶対有益な情報を手に入れないと···)

看護師1
「あーでも、どう思う?」
「幸成センセ、やっぱ女いるよねー」

(あ、幸成さんの話題だ···)

看護師2
「そりゃ、いるでしょ」

看護師1
「だよねー。医者で、お金持ちで、次期院長!」

看護師2
「ねぇ、それって確定なの?『次期院長』っての」

看護師1
「確定でしょー。院長の一人息子だもん」

(···うん?「一人息子」?)
(あ、でも「院長」を継げるのは「一人だけ」ってことかも···)

看護師1
「っていうか聞いた?院長の噂···」

看護師2
「聞いた聞いた!」
「アレでしょ、『ヤバい人たち』と付き合いがあるっていう···」

サトコ
「!!」

(「例の噂」だ!この間、門村さんが話してた···)

看護師1
「え、私が聞いたのは別の方だけど···」
「『診断書を偽造した』っていう···」

サトコ
「!?」

(なにそれ、初耳···)

看護師1
「しかも、その偽装したのってさー、何ヶ月か前の···」

告げらた患者の名前に、ドキッとした。

(知ってる···その人···)
(潜入捜査前に渡された資料に書いてあった···)

そうだ、間違いない。
「不審死事件」の被害者とされている人物の名前だ。



【屋上】

サトコ
「はぁぁ···」

(さっきの噂···黒澤さんはもう知ってるのかな)

報告するのは気が重い。
とはいえ、黒澤さんにはすでに一度くぎを刺されている。

(···そうだ、私も切り分けないと)
(ちゃんと「仕事」として割り切って···)

???
「···あれ、長野さん?」

(うん?)

黒澤幸成
「やっぱりそうだ。休憩中ですか?」

サトコ
「はい、まぁ···」

黒澤幸成
「僕もです。ちょっと外の空気を吸いたくて」

幸成さんは大きく背伸びをすると、私と並ぶように壁に寄り掛かった。

黒澤幸成
「ところで、捜査は進んでいますか?」

サトコ
「そうですね、その···それなりに···」
「ただ、今はまだ報告できる段階ではなくて···」

黒澤幸成
「···そうですか」
「何か不便なことがあったら言ってくださいね」
「できる限り、協力するつもりでいますから」

サトコ
「···ありがとうございます」

(協力···か)
(診断書偽装の噂···本当だったらどうしよう)

百歩譲って、黒澤さんは「仕事」だと割り切れたとして···
幸成さんはどうなのだろう。

(自分の父親が、連続不審死事件に関わっていたとしたら···)
(きっとショックだろうな)

黒澤幸成
「ところで、その···」
「今回の調査とは、関係のないことなんですが···」

サトコ
「はい、なにか?」

黒澤幸成
「透は、警察組織でうまくやっていけていますか?」

(······え?)

黒澤幸成
「あいつは、人懐っこそうに思われがちですけど···」
「実際は繊細で、昔から感受性も強くて···」

(繊細?黒澤さんが?)

黒澤幸成
「警察組織はいろいろ厳しいって聞きますし」
「あいつが周囲とうまくやっていけているのか、実は心配で···」

(え、ええと···)

サトコ
「特に問題ないと思いますよ」

<選択してください>

優秀な人なので

サトコ
「黒澤さんは、優秀な人なので」

黒澤幸成
「わかります」
「透は本っっっ当に昔から頭のいい子だったんです!」

(···うん?)

黒澤幸成
「3歳で『リンゴはアップル』って覚えて···」
「7歳で『寿限無』の半分が言えて···」
「10歳で『エクスザイル』のグルグル回るダンスができたんです!!」

サトコ
「は、はぁ···」

(最後のは、頭の良し悪しと関係ないような···)

みんなに好かれているので

サトコ
「黒澤さん、みんなに好かれているようなので」

黒澤幸成
「でも、先日こぼしていたんです」
「よく『同じ班の先輩たちから、LIDEをブロックされる』って」

サトコ
「ええと、それは···」
「あくまで一時的なことだと思いますよ」
「たとえば、短期間に大量のメッセージを送ったとか」

(たしか入院した時も、誰かに「ブロックされた」って言ってたよね)
(大量のメッセージを送ったせいで···)

黒澤幸成
「そうですか···それならよいのですが」

とんだ嘘つきですけど

サトコ
「とんだ嘘つきですけど」

黒澤幸成
「えっ、嘘つき?」

(しまった、つい本心が···)

サトコ
「い、今のは『誉め言葉』なんです!」
「刑事は、時に嘘をつくことも必要ですから!!」
「それだけ『黒澤さんは素晴らしい』ってことで···」

黒澤幸成
「なるほど···」
「奥が深いですね、警察組織は」

サトコ
「は、はい···まぁ···」

黒澤幸成
「でも、うまくやっているなら良かった」
「父は、透にも医者になって欲しかったようですが」
「叔父のことを考えれば、仕方のないことですし」

サトコ
「そうですか···」

(···うん?「叔父さん」?)

黒澤幸成
「たまに考えるんです。『僕が透の立場だったら』って」
「それなら、やっぱり警察官を目指すかもしれない···」
「誰に何を言われようと、そこに自分の道を見出したのなら」
「僕だって自分の信じる道を···」

サトコ
「ま、待ってください!」
「今おっしゃった『叔父』というのは···」

黒澤幸成
「ああ、もちろん、透の父親···」

サトコ
「父親!?」

(黒澤さんのお父さんは「院長」じゃないの?)

黒澤幸成
「···もしかして、透から聞いていませんか?」
「僕たちが、本当はいとこ同士だってこと」

サトコ
「は、はい···」

黒澤幸成
「そうですか···まいったな···」

幸成さんは、困惑したように頭をかいた。

黒澤幸成
「すみません、今のは忘れてください」
「では、失礼します」

(えっ、ちょ···)
(忘れろって言われても、ムリなんですけど!)

to be continued

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