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カレ目線 黒澤5話

【電車】

入口そばの手すりによりかかって、ぼんやりと窓の外を眺める。
頭の中は、先ほど周介さんに告げられたことでいっぱいだ。

ーー『次の潜入捜査先は「黒和堂病院」でほぼ決まりのようですよ』

(ようやくだ)
(ようやく、チャンスが巡ってきた)

もしかしたら、これは天国の両親がくれたものかもしれない。
だって母の命日絡みで、しぶしぶ本家に顔を出したときにーー

黒澤幸成
『透、ちょっといいか?』
『お前に相談に乗ってほしいことがあるんだ』

そう声をかけてきた幸成兄さんの手には、見覚えのある週刊誌があった。

(あれは···たしか『連続不審死事件』を取り上げた号の···)

黒澤幸成
『この記事、読んだか?』

黒澤
え···
·········ううん、読んでないけど

黒澤幸成
『都内の病院で「連続不審死事件」が起きている、という記事だ』
『それで情けない話なんだが···』
『うちの病院でも、ここのところおかしなことが続いてな』
『警察に相談するべきか迷っているんだ』

チャンスだ、と思った。
だから、兄さんには「オレが内々に調べる」と伝えて、石神さんに相談した。

(潜入捜査が認められれば、病院内の資料を調べられる)
(それに、今回の「不審死事件」と伯父を絡めることができれば···)
(11年前のことも、引きずり出せるかもしれない)

そのための「潜入捜査の提案」が通った。
待ちに待った機会が、ようやくめぐってきたのだ。

(絶対に暴く)
(11年前のことを···父の死の真相を···)

だって、そのためにオレは警察官になったんだから。

翌日。
「黒和堂病院」への潜入が決まった、と正式に石神さんから伝えられた。
まさに思惑通りの展開。
うまくいきすぎて、ちょっと怖いくらいだ。

【車内】

ただひとつ、想定外のことといえばーー

サトコ
「···ここでいいです。後は寮まで歩きます」

黒澤
そうですか
では、明日も潜入捜査、頑張りましょうね
サトコさんが、もう鼻血を出さないように祈ってますんで

サトコ
「···っ、余計なお世話です!」
「それじゃ、失礼します!」

乱暴な音とともに、助手席のドアが閉まる。
憤りをにじませた足取りで去っていく彼女を、オレはただぼんやりと見送った。

(まいったなー)
(不満を言いたいのは、こっちだっての)

まさか、彼女と組まされるとは思ってもみなかった。
できればひとりが良かったし、組むとしても訓練生はないだろう。

(ああ、でも···)
(後藤さんや周介さんと組むよりはマシか)

優秀な人と組まされたら、オレの本当の目的がバレるかもしれない。
そういう意味では、まさに「不幸中の幸い」だ。

(ま、彼女には「噂集め」しか指示していないし)
(万が一、バレそうになったときは「遠ざける」ってことで)

そのための手段はわかっている。
「傷つけ、怒らせる」--
それが、彼女には一番効果的だ。

(駅のホームで、平手打ちを食らった時みたいに···)

ふと、先日周介さんに指摘されたことが頭を過った。

ーー『案外、乗り気だったのでは?』
ーー『「その他大勢」になるくらいなら「嫌われた方がいい」···』
ーー『不健全な思考ではありますが』

(不健全···か)

確かにその通りだ。
オレが「そんな風に考えている」のだとしたら。

(でも、違う)

オレが「嫌われたかった」のは、彼女のことが苦手だったから。
オレに向けられるまぶしいほどの好意が、鬱陶しかったからだ。

(そもそも「その他大勢になりたくない」って···)
(それじゃ、まるでオレが彼女のことを······)

黒澤
······

気付けば、彼女の背中は見えなくなっていた。
オレは、のろのろとレバーに手をかけた。



【黒和堂病院】

黒和堂病院への潜入を開始して、早くも数日が過ぎた。
オレは、事務員として働きながら、「本来の業務」を着々ことなしていた。

(意外と広まってるっぽいな、あの人の噂は)

オレの伯父である現院長の「黒い噂」
最初に耳にしたのは、ここにきて2日目のことだ。

(思っていた以上だ)

「診断書偽造」や「大っぴらにできない交友関係」
探れば、もっといろいろ出てきそうだ。

(できれば、平名織江との関係性も知りたいところだけど)
(さて、どうするか···)

黒澤幸成
「透」

よく知る声に、表情を改めた。
この人と接するときのオレは「義弟」でなくてはいけない。

黒澤
おつかれさま。兄さんも休憩?

黒澤幸成
「ああ。ようやく昼ごはんを食べられるよ」

黒澤
昼ごはんって···もう3時だけど

黒澤幸成
「3時ならまだ昼だろ。夕飯じゃない」

おにぎりのフィルムを慣れた手つきで外して、一気に半分ほどかぶりつく。
幸成兄さんにとって、この時間は束の間の休息なのだろう。

黒澤
···大変だね

黒澤幸成
「そうでもないよ。僕は手術とかはしないし」
「それより、本当にすまない」
「せっかくの休暇なのに、こっちの事情に付き合わせて」

黒澤
いいって。オレが好きでやっていることだし

(それに楽しいんだ、兄さん)
(あの人の正体を、少しずつ暴いていくことが)

「義弟」の顔をしながら、胸の内でひっそりと呟く。
根っから優しいこの人は、真実を知ったらどんな顔をするだろう。

黒澤幸成
「それで、何か分かったことはあるか?」

黒澤
今のところ、まだなんとも言えないな
例の患者さんたちのことは、確かに気になる点もあるけど
もう少し慎重に調べてみたいんだ

黒澤幸成
「というと、具体的には?」

黒澤
そうだな、例えばだけど···
もっと古い資料も見せてほしいっていうか

黒澤幸成
「資料···カルテか?」

黒澤
それもそうだけど、例えば看護師さんたちに日誌とかさ
そういうものも調べられたらなぁって
ほら、そのほうが、いろいろな角度から判断できるからさ

黒澤幸成
「なるほど、確かにそうだな」

幸成兄さんは、あっさり同意してくれた。

黒澤幸成
「じゃあ、あとで倉庫に案内するよ」
「鍵も、お前が自由に使えるように手配しておく」

(···よし、予定通りだ)

黒澤
ありがとう、幸成兄さん。いろいろ助かるよ

黒澤幸成
「何言ってるんだ、お礼を言うのは僕の方だろ?」
「お前の善意に、こうして助けられているんだから」

(善意···ね)

ああ、なんて幸成兄さんらしい。
そういうところ、割と嫌いじゃないけれど。

黒澤
それじゃ、今日帰るまでに鍵を手配してもらってもいい?
それか明日の朝イチとか···

と、鉄製の重たいドアが開き、看護師が数名現れた。

看護師1
「あっ、先生!」

黒澤幸成
「おつかれさま。どうしたの?」

看護師1
「寄せ書き用の写真を撮りに来たんです。アキちゃん宛ての」

黒澤幸成
「ああ、たしか今週いっぱいだったっけ?」

看護師1
「そうなんです。よかったら先生も一緒に写りませんか?」
「そちらの、先生の弟さんも」

(···うん?)

黒澤幸成
「あれ、透のこと、知ってるの?」

看護師2
「知ってるも何も、噂になってますよ」
「先生の弟さん、超カッコイイって」

黒澤
そんなぁ、兄さんほどではないですよ?

黒澤幸成
「お、おい」

にこやかに対応しながら、看護師たちの顔を記憶していく。
もしかしたら、ひとりくらいは使える人物がいるかもしれない。

看護師1
「さ、先生たちも来てください」

黒澤幸成
「どうする、透」

黒澤
兄さんだけ行ってきなよ
『アキちゃん』とかいう看護師さん、オレ面識ないし
それより、オレが撮影しますよ。貸してください

看護師1
「えっ、でも···」

黒澤
遠慮しないで
オレ、写すの超うまいですよ?

スマホを受け取るついでに、看護師のIDカードを確認する。

(···残念、部署違い)
(でも、いちおうチェック···と)

あとは「気さくな好青年」を装えばいい。
相手に好印象を残すのは、情報収集をするうえでは大事なことだ。

黒澤
それじゃ、撮りますよー
はーい、笑ってー

撮影はすぐに終わり、彼女たちは笑顔で戻っていった。
あとは、そのなかのひとりに偶然を装って接触を試みるだけだ。

(無難なのは「食堂」だよな)
(それでダメなら、担当病棟をわざと通るとかして···)

黒澤幸成
「まだ苦手なのか?」

黒澤
ん?なにが···

黒澤幸成
「写真だよ」
「撮られるの、まだ苦手なのか?」

困惑した。
それ、兄さんに話したことあったっけ?

黒澤幸成
「···なんだ、忘れたのか?昔、話してくれただろう」
「『思い出を上書きされるみたいで、好きじゃない』って」

黒澤
······それ、いつの話?

黒澤幸成
「そうだなぁ、中学生···いや、もう高校にあがっていたかなぁ」

黒澤
ちょっ···そんなの忘れてよ。お子様がカッコつけてただけじゃん
そんな恥ずかしいこと、もう考えてないって~



【カラオケ】

(···なーんて)

また嘘をついた。
だからって「胸が痛む」とか、そんなことはなんだけど。

(まさか、幸成兄さんが覚えていたなんてなぁ)

写真を撮るのは楽しい。
でも、映るのは苦手だ。
新しい写真が増えれば増えるほど、古い記憶が追いやられていく気がして。

(冗談じゃない、忘れてたまるか)
(あのときの「怒り」も「憎しみ」も、どれだけ時間が経ったとしても、絶対に···)

コンコン、と控えめなノックが聞こえてきた。

サトコ
「すみません、遅くなりました」

黒澤
いえ。それじゃ、ミーティングを始めましょう
飲み物は頼んでおきましたから

サトコ
「······ありがとうございます」

感情のこもらないお礼を口にして、彼女はいつも通り視線を落とした。
と思いきや、どういうわけか今日はこちらを見ていた。

黒澤
···なにか?

サトコ
「えっ」

黒澤
今、ものすごーく熱い視線を感じたんですけど

わざと茶化したのに、彼女の目は困惑したように揺れた。
ああ、マズイ。
これ、余計なこと言ったかも···

サトコ
「何かありましたか?」

ほら、きた。

黒澤
どうしてですか?

サトコ
「···っ、それは、その···っ」
「特に深い意味はないですけど!」

黒澤
······

サトコ
「なんとなく、その···いつもと違うような気がして···」

黒澤
だから心配してくれたんですか?
うわー透、照れちゃう

ふざけて身体をくねらせると、今度こそ彼女はまなじりをつりあげた。

サトコ
「心配なんかしていません!」
「誰が、黒澤さんのことなんか···っ」

黒澤
えー

サトコ
「それより今日の報告をさせてください」
「さっさと帰りたいので」

彼女は荒っぽい手つきで鞄を開けた。
おそらく、スマホか手帳を出すつもりなのだろう。

(そうそう、その調子でお願いしますよ)

気遣いはいらない。
そんなものは求めていない。

(あなたはオレの邪魔さえしなければいいんですから)

その後の調査は、途中まではかなり順調に進んだ。
なにせ、幸成兄さんのおかげで古い資料は閲覧し放題。
平名織江に関する情報も、屋上で知り合った看護師たちが教えてくれた。

(あとは決め手だ)

必要なのは、逮捕状を取れる証拠。

というところで、行き詰った。

(···ダメだ、どれも決定打に繋がらない)

つい最近、教団関係者が婦人科に入院したが、重要度はそれほど高くない。
念のため、サトコさんに監視を頼んでおいたけど。

(それより証拠だ)

伯父の「黒い噂」を決定づける証拠。
あるいは、伯父と平名織江との接点。

(なんとしても、それらを見つけ出さないと···)



【個別教官室】

突破口は、意外にもサトコさんによってもたらされた。
「平名織江はただの派遣看護師ではない」というものだ。

サトコ
「看護師さんたちが噂してたんですけど···」
「なんでも『おエライさんのコネ』で入ったとか···」

黒澤
『おエライさん』?

(人事では「派遣看護師」扱いなのに?)

ふと、ある可能性が頭に浮かんだ。

(「派遣会社を通せ」というのが、その「おエライさん」の提案だとしたら?)

縁故採用を誤魔化すため。
つまりは、自分と彼女の接点を知られないため「派遣会社」を通したとしたら?

黒澤
それ、誰ですか?

サトコ
「え?」

黒澤
『おエライさん』です。誰のことを指していましたか?

サトコ
「え、ええと···そこまでは···」

黒澤
ちゃんと思い出してください!大事なことです!

自分でも、驚くほどの大声が出た。

黒澤
『おエライさん』は誰ですか?
もしかして『院長』ということは···

サトコ
「違います!」

ものすごい力で突き飛ばされた。
そこでようやく自分がサトコさんに詰め寄っていたことに気が付いた。

サトコ
「院長の名前は出て来ていません!」
「私が聞いたのは、あくまで『おエライさん』ってことだけです!」

黒澤
······

サトコ
「院長に限らず、具体的な名前は聞いていません」

黒澤
···だとしても、ほぼ確定でしょう
相手は『あの人』だって

そうだ、他にはいない。
伯父以外には。

黒澤
まあ、いいです
今日の報告は以上ですか?

サトコ
「······はい」

次回のミーティング日と場所を確認して、この日はお開きになった。
ひとりになったことで、ようやく少し冷静さが戻ってきた。

(···失敗した)

つい感情的になってしまった。
こういうときほど「いつもの黒澤さん」でいなければいけなかったのに。

黒澤
···っ

(フォローしておこう)
(さっきのは「ちょっと虫の居所が悪かった」ってことにすれば···)

オレは、急いでサトコさんの後を追った。
けれども、結局声をかけることはできなかった。

(あれは···サトコさんと難波さん?)

ふたりが話している内容は、全く聞こえない。
ただ、何となく嫌な予感がした。

【黒和堂病院】

そして、そういう予感は得てしてよく当たるものなのだ。

(···よし、この書類を届ければあがりだ)

今日は、このあと幸成兄さんと約束があった。
表向きは「調査の報告」。
けれども、本当の目的は伯父と平名織江の関係性を探ることだった。

(兄さんが把握しているかは分からないけど)
(もしかしたら、意外な情報を持っていることだって···)

黒澤
···うん?

向こうからサトコさんがやってきた。
鞄を持っているあたり、今日の業務を一足先に終えたのだろう。
すれ違う時に目が合わないように、オレはそれとなく視線を外した。
それなのに···

(え、来ない?)

怪訝に思って、再び視線を上げる。
彼女は、いつの間にか別方向に向かって歩いていた。

(···もしかして、避けられた?)

もちろん、それ自体は構わない。
なのに、この「嫌な感じ」はなんなのか。

黒澤
······

オレは、スマホに手を伸ばした。

黒澤
···もしもし、兄さん?
ごめん、今日の約束だけど、21時にしてもらってもいい?

【寮 談話室】

病院を出ると、オレは公安学校の寮に向かった。
するとーー

鳴子
「サトコですか?まだ帰ってきてないと思いますけど···」

千葉
「あ、氷川なら、ついさっき出て行きましたよ」

黒澤
出て行った?

千葉
「はい。調べたいことがどうのこうのって」
「でも、そうして室長の写真が必要だったんだろう」

鳴子
「室長の?なにそれ」

千葉
「ほら、例の···室長が新人だった時の、飲み会の写真」
「あのデータを送ってほしいって、氷川が」

(写真···難波さんが新人の頃の···)
(·····まさか!)

(ヤラれた)

たぶん、難波さんの入れ知恵だ。
あの人は、父の現役時代を知っている。
昨日彼女と話していたのも、おそらくそのことだったのだろう。

(冗談じゃない)
(部外者に、首を突っ込まれてたまるか)

大丈夫、彼女を遠ざける方法はわかっている。
「父の死」について打ち明けて、同情させてーー
そのあと、傷つけて、彼女の怒りをあおればいい。

(いつかの、あの駅のホームの時みたいに)

作戦はうまくいった。
案の定は、彼女はまたオレに向かって右手を振り上げた。
打ち明け話で同情させておいて、
「嘘ですよー」と笑ったオレのことが、心底許せなかったのだろう。
怒りに満ちた目は、あの夜と全く同じだ。
けれども、二度目の平手打ちは放たれなかった。
だって、「あの夜」とは違ってーー
彼女は、泣き出してしまったから。

黒澤
······

(うわー)

ズルいでしょ、このタイミングで。
うっかり動揺しちゃったじゃん。
しかも、彼女は涙で濡れた目を逸らそうとしない。
眼差しからあふれる怒りを、これでもかとぶつけてくる。

(容赦ないなー、ほんと)

でも、そう仕向けたのはオレか。
オレだよなぁ。

(だったら仕方ないかー)

最後に「失礼します」と頭を下げて、彼女は足早に去っていった。
PCに目を向けると、閲覧資料がまだ表示されたままだった。

黒澤
あららー、ちゃんと閉じないと
石神さんにバレたら、叱られますよーっと

???
「で、優しい黒澤は、代わりに消してあげるわけですね」

黒澤
!!!

颯馬
優しい先輩ですね、黒澤は

驚いた、なんてものじゃない。
だって、今の今まで何の気配も感じなかったんだから。

黒澤
いつからそこにいたんですか

颯馬
貴方がここに来る前からですよ
訓練生の様子が少しおかしかったので、様子を窺っていました
これでも、この学校の教官ですので

黒澤
だったら、もっと早く咎めるべきでしょう?
彼女が、授業や任務と関係ない資料を閲覧している時点で

ああ、ダメだ。
うまく取り繕えない。
イライラする自分とは対照的に、周介さんの微笑みは決して崩れない。

颯馬
確かにその主張も一理ありますが
貴方のほうこそ、少しお喋りが過ぎたのではありませんか?

黒澤

颯馬
大方、彼女を傷つけて遠ざけたかったのでしょうが
私なら、あそこまで赤裸々に自分の過去を話したりしません
相手に、自分の過去を『知ってほしい』と望まない限りは

黒澤
···っ

違う、そんなことはない。
オレはそんなの、望んでなんかいない!

黒澤
やだなー、周介さんってば。ずっと聞いてたんでしょう?
あの話は『嘘』ですってば!ただの嘘

そうだ、笑え。
今こそ、笑ってやり過ごせ。

颯馬
では、あれも『嘘』ですか?

黒澤
ハイ?

颯馬
彼女に、貴方のお父さんのことを語った後···

黒澤
基本、オレは誰のことも信じていません
でも、サトコさんなら信じてもいいと思えるんです
あの夜···黙ってオレを受け止めてくれたアナタのことなら···

颯馬
そう語っていた、貴方のあの言葉は···

黒澤
何言ってるんですか。そんなの決まってるでしょう
嘘ですよ。大嘘

颯馬
······

黒澤
ああいう言葉、サトコさん好きそうだなーと思って

颯馬
······なるほど

周介さんの目に、なぜか哀れむような色が滲んだ。

颯馬
本当に、損するタイプですね。貴方という人は

翌朝ーー
いつもより早い電車に乗った。
それなのに、彼女とバッタリ遭遇した。

(ああ、目が赤い)

でも、気付かなかったことにした。
気付いてしまったら、必要のないことを口にしてしまいそうだったから。

to be continued

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