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加賀 出会い編 2話

加賀
専属奴隷になれと言った、何度も言わせるなクズが

専属補佐官になるはずが、専属奴隷になれと命じられた。

サトコ
「ど、奴隷なんて無理です!」

加賀
何が無理だ?補佐官とたいして違わない
それに、お前がやりたいと言い出しただろうが

(確かになんでもやるって言ったけど‥)

加賀
そういやまだ、あん時の落とし前つけてもらってなかったな

サトコ
「お、落とし前ですか‥‥」

加賀
お前がスリなんてクズに構ったせいでホシに感づかれた
詫びを入れるのがスジってもんだろ

(そのかわり、教官の奴隷になれってこと‥いや、でも!)

必死に抗議しようとすると、教官は少しだけ私の方へ体を傾けた。

加賀
やりたくねぇなら
お前の裏口入学のことバラしてもいいってわけだ

サトコ
「!」

加賀
お前地方公務員だろ

どこか含みのある言い方で、加賀教官が迫ってくる。

(確かにここは、本来ならキャリア組の集まりで、地方公務員の私がいられるような場所じゃない)
(今ここにいられるのは、上司が推薦してくれたから‥)

加賀
自分の置かれている状況、把握できたか?

サトコ
「だ、だけど‥それが裏口入学にあたるんですか‥‥」

加賀
さあな。他の連中に判断させてもいいが

<選択してください>

A:とにかく謝る

サトコ
「それは本当に、申し訳ありません‥!確かに、募集要項を事前に調べなかった私の‥」

加賀
口先だけの謝罪なんて何の意味もない
謝罪ってんなら、お前の経歴を盛りに盛った上司ににも責任がある

サトコ
「それは‥きっと、私のことを思って‥‥」
「責任なら上司じゃなくて私にあります。申し訳ありませんでした」

深く頭を下げる私を、加賀教官が冷たく見下ろす

加賀
責任が誰にあるのか、俺にはそんなことには興味ねぇ

B:知らなかったんです

(確かに、加賀教官の言う通りだ‥でも)

サトコ
「ここに来るまで、キャリア組しか申込み資格がないなんて知らなかったんです」
「だから上司が、きっと地方公務員でも書類審査をパスできるように、その‥‥」

加賀
お前の経歴を上司が盛りに盛ったことくらい、わかってる
だが、理由はどうであれ上司の口利きで入ったことには変わりねぇよな

(ダメだ‥返す言葉もない)

C:それと奴隷とは別じゃ

サトコ
「そ、それと奴隷になれっていうのは別の話じゃ」

加賀
別?今のお前に拒否権があるとおもうか

サトコ
「でも、だからって奴隷なんて‥!」

加賀
お前に残された選択肢は2つだ
退学するか、俺の奴隷になるか

ぐっと言葉に詰まった私を見て、加賀教官が口の端を持ち上げて笑う。

加賀
今からお前は俺の奴隷だ
しっかり尽くせよ

そう言うと、教官は電話をかけながらさっさと歩いて行ってしまった。

サトコ
「‥‥‥」

(これからどうしよう‥‥)

先のことを考えると、ついため息が漏れてしまう。

颯馬
もうため息ですか?

穏やかな口調に振り返ると、颯馬教官がこちらに歩いてくるのが見えた。

サトコ
「すみません‥その」

颯馬
いえ、なんとなく、何があったかはわかりますから
加賀さんは厳しいから、大変でしょう

サトコ
「大変どころか‥補佐官じゃなくて、奴隷にされました‥」

颯馬
奴隷?

颯馬教官が、軽く目をみはる。
でもすぐ、楽しそうに笑いだした。

サトコ
「わ、笑いごとじゃ‥」

颯馬
ふふ、失礼。でも最初に加賀さんを選んだだけでも、私はあなたの意気込みを買ってますよ

サトコ
「‥‥‥」

颯馬
あなたはなぜ、彼を選んだんですか?

サトコ
「それは‥‥」
「厳しい人なのは初日からわかったんですけど」
「そういう人の方が、きっと学べることは多いと思って」

私の返事に、颯馬教官が目を細めた。

颯馬
あなたや佐々木さんは、私か歩を選ぶと思っていました
女性はあまり厳しくない人間の方に惹かれるものですから
でもあなたは、自分が成長するために加賀教官を選んだ。その判断は正しい

サトコ
「颯馬教官‥‥」

(そうなのかな‥颯馬教官にそう言ってもらえると、ちょっとだけ慰められる‥)
(でもこんな優しい教官の補佐官だったら、奴隷になるなんてことなかったのにな)

危うくまたため息をつきそうになる私を、颯馬教官が笑う。

颯馬
2ヶ月後、私たち教官による審査があります

サトコ
「審査?」

颯馬
強制脱落もあり得ます

一瞬見せられた颯馬教官のその冷たい表情に、背筋が冷たくなる気がした。
でもすぐに、さっきまでの優しい笑顔を浮かべる。

颯馬
加賀教官のもとでしっかり学べば、確実に他の生徒たちより成長は早いと思いますよ

サトコ

「は、はい‥ありがとうございます」

頭を下げると、颯馬教官は笑顔のまま立ち去った。

【中庭】

気持ちを落ち着かせるために校舎から出ると、鳴子が他の同期たちと話しているところだった。

鳴子
「あ、サトコ!さっきの呼び出し、教官の専属補佐官になる話だったってほんと!?」

サトコ
「うん‥もう広まってるの?」

鳴子
「その話題で持ち切りだよ!サトコは誰の補佐官になったの?」

サトコ
「それが‥‥加賀教官」

その名前を言った瞬間、鳴子以外の同僚たちがざわめいた。

男性同期A
「気の毒だな‥よりにもよって加賀教官か」

男性同期B
「でもそういえば、氷川は最初の訓練も加賀教官を選んでたっけ。勇気あるよな」

サトコ
「厳しそうだけど、勉強できるかなって思って‥‥」

(だけど奴隷にされたことを考えると、ちょっと早まったかもしれない‥‥)

鳴子
「でもその加賀教官の補佐官に選ばれたってことは、教官に気に入られたんじゃない?」

サトコ
「ううん‥挨拶に行ったら、補佐官は置かないから帰れって言われた‥‥」

鳴子
「そうなの!?」
「さすが鬼教官、厳し~い」

(って言ってるわりに、なぜか鳴子、うっとりしてる‥‥)

男性同期B
「いやでも、鬼教官ならまだマシだよな」

サトコ
「どういうこと?」

男性同期B
「知らないのか?加賀教官の異名。俺も他の奴から聞いたんだけど」
「あの人、すごい優秀でいろんなヤマを一人で解決してるらいいけど」
「裏では、『仲間殺し』って噂だぜ」

サトコ
「仲間殺し‥‥?」

鳴子
「何その物騒なの」

男性同期B
「嘘か本当かもわかんないけど」

男性同期A
「でも確かに、あの人だったら自分の手柄のために仲間の命さえも犠牲にしそうだよな」

男性同期B
「はは、言えてる」

鳴子
「影のある男‥‥」
「それも素敵」

男性同期B
「佐々木にとってはなんでも素敵なんだろ」

(手柄のためなら、仲間の命も犠牲にする‥)
(噂で人を判断するのはよくないけど)
(加賀教官なら、そういう噂があってもおかしくない気がする)

サトコ
「そんな人の奴隷になった私って‥‥」

鳴子
「え?何?」

サトコ
「あ、ううん‥それより、さっき颯馬教官に聞いたんだけど」
「2ヶ月後に教官による審査があって、基準に満たない人は強制脱落だって」

男性同期
「強制脱落か‥思ってた以上に厳しいよな」

(加賀教官なら、全員が基準に満たないって言いだしそうな気もするけど)
(でも今は誰が教官だとしても、刑事になる夢に向かって頑張るしかないよね)

そう思って、自分を奮い立たせる私だった。



【教場】

数日後、加賀教官による取り調べの実地講義が行われた。

加賀
今日は俺が実際に行った取り調べの映像を見せる
相手にもよるが、俺は基本、口を割らない相手には実力行使だ

教官がスイッチを入れると、スクリーンに取調べの様子が流れ始めた。

加賀
さっさと吐け

犯人
『‥‥っ』

加賀
黙秘でどこまで耐えられるか、楽しみだ

ガシャン!という音と共に、映像の中で椅子が吹っ飛ぶ。

(け、蹴り飛ばした‥)

犯人
『ま、待ってくれ!俺はなにも‥‥』

加賀
黙れ

犯人の胸倉をつかむと、加賀教官が冷たく言い放った。

加賀
吐かねぇ奴には用はねぇ

犯人
『ちょっ‥‥』

ゾッとするような笑みを浮かべ、教官が腕を振り上げる。
そしてなんの迷いもなく、犯人に向かって振り下ろした。

犯人
『わかった、話すっ!話すからやめてくれ!!』

その言葉に教官の手が犯人の頬寸前で止まる。

加賀
もう遅ぇ

犯人
『知ってることは全部吐く。頼むから‥‥!っ!』

犯人の言葉になど聞く耳持たず、教官は犯人が座っている椅子も蹴り飛ばした。
犯人が床に突っ伏し、教室がざわめき始める。

男性同期
「あの‥犯人はもう自白の意志があったのに、あそこまでする必要は‥‥」

加賀
言っただろ、相手にもよるってな
あいつには前科があった。前に捕まった時には証拠を全部喋らず、保釈になってる
だが最初に恐怖心を植え付けておけば、今回はそれじゃすまねぇってのがわかるだろ

(確かに‥で、でもここまでする必要が本当にあるの?)

加賀教官の恐ろしいまでの取り調べの映像が終わると、教場の空気がさら張りつめた。

加賀
以上が参考資料だ。全員頭に叩き込んだな
これから容疑者役と刑事役に分かれてシミュレーションを行う

(シミュレーション‥?)

加賀
ああ、けどお前ら奇数か‥一人余るな
この中で一人、俺と組ませてやる

その言葉に、再び教場がざわつき始める。

(みんな、加賀教官とは絶対組みたくない、って思ってるな‥)

加賀
俺と組む奴は、特別に本物の取調室でやらせてやる

みんな、教官と目を合わせないようにパッとうつむく。
その風景に加賀教官は舌打ちをした。

加賀
クズ共が。この程度もできねぇのか
立候補者がいねぇなら、ここにいる奴らは全員脱落だ

(ぜ、全員脱落!?)

目を伏せるのも忘れていた私は、次の瞬間教官と目が合ってしまった。

加賀
フン、お前か

サトコ
「!」

加賀
奴隷、早く来い

<選択してください>

A:奴隷って呼ばないで

サトコ
「ど、奴隷って呼ばないでください」

慌てて加賀教官に駆け寄り、小さく抗議する。

加賀
専任補佐官

(今さら何度言い直されたって、絶対さっきの、みんなに聞こえてたよ‥)

鳴子
「サトコ‥奴隷って」

サトコ
「な、なんのことかな!?」

加賀
‥‥‥

(加賀教官のあの笑顔‥!絶対私が困ってるの楽しんでる‥)

B:私でいいんですか?

サトコ
「あの‥私でいいんですか?」

加賀
お前でなきゃダメってわけじゃねぇ。別に誰でもいい

(うう‥なんで私ももっと早く目をそらさなかったんだろう)

C:ここでやってください

サトコ
「あ、あの‥できればここでやってほしいです」

加賀
教官に指図すんのか

サトコ
「だって、私だけ取調室だなんて‥」

加賀
わかってねぇようだがな、お前には決定権も拒否権もねぇ

加賀
残りの奴らは勝手にペア組んで、容疑者と犯人役に分かれとけ
あとはお前が指導しとけ

加賀の部下
「わかりました」

加賀
行くぞ。ダラダラするな

サトコ
「ま、待ってください!」

男性同期A
「なあ‥さっき『奴隷』って呼ばれてなかったか‥?」

男性同期B
「ああ‥俺も聞こえた気がする」

(さ、最悪だ‥!)

みんなの視線を感じながら、私は加賀教官を追いかけた。



【取調室】

取調室に入ると、加賀教官は鍵を閉めた。

加賀
お前が刑事役、俺が容疑者役だ
さっきの俺の取り調べの様子を参考に、お前なりにやってみろ

サトコ
「やってみろって‥いきなりですか?」

加賀
当たり前だろ。いちいち予行練習なんかやるかよ

(実際はそうかもしれないけど、これは授業だし‥‥)

緊張のあまり、手の平にじわりと汗がにじむ。
加賀教官はドサッと椅子に座ると、腕を組んでじっと私を見つめた。

加賀
始めろ

サトコ
「は、はい‥」

(と、とにかく聴取しなきゃ‥‥)

サトコ
「‥あなたが犯行に及んだという証拠は、こちらもすでにつかんでいます」
「そろそろ、本当のことを教えてくれてもいいんじゃないですか?」

加賀
‥‥‥

サトコ
「‥あなたの家族が知ったら、悲しみますよ」

加賀
‥‥‥

その後、何を言っても加賀教官はまったく目を合わせず、口も開いてくれない。
ただ時間だけが過ぎて行き、最終的に私は何も言えなくなった。

加賀
降参か

サトコ
「‥はい」

(何も聞き出せなかった‥‥)
(教官も、授業なんだからもう少し話してくれてもいいのに‥‥)

加賀
公安が扱う事件の容疑者は大抵こんなもんだ
喜んで口を割ってくれる人間なんかいねぇ

サトコ
「それはそうかもしれませんけど‥‥」

加賀
交代だ。今度はお前が容疑者役をやれ

サトコ
「‥はい」

改めて目の前にいる教官を見据える。

(あの映像‥加賀教官、すごい取り調べの仕方だった)
(でも、私だって同じように黙秘権を行使すればいいんだ)

ぎゅっと口をつぐむと、さっきの加賀教官のようにだんまりを決め込む。

加賀
さて‥

教官はゆったりとしたしぐさで私の顔を覗き込んでくる。
動けば唇が触れてしまいそうな近さに思わず固まる。

サトコ
「‥‥っ」

(ち、近いっ‥でもこれも取り調べの一環で‥‥)

私は慌てた内心を隠すように、ただただ教官の目を見つめることしかできなかった。

to be continued

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