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加賀 出会い編 3話

加賀教官と、密室の取調室で2人きり。
静まり返ったその空間で、緊張に心臓が激しく鼓動していた。

加賀
お前がやったんだろ?

ゆっくりと、加賀教官が私の顔を覗き込む。

サトコ
「‥‥‥」

(動揺しないように、じっと耐えなきゃ‥!)

口を割らない私を見て、教官の表情が変わった。

加賀
なるほどな‥

今までと声色が変わった気がして、ハッと顔をあげようとした瞬間ーー

腕を強く引っ張られ、もつれ合うように近くの壁に追い込まれた。

サトコ
「‥‥っ!」

加賀
ネタは上がってんだよ
俺が女だからって容赦するような男に見えるか?

体全体で私の動きを封じるように加賀教官が密着してくる。

(う、動けない‥!それに、ちょっとでも動いたら、教官の唇が‥‥)

加賀
それとも、見逃してやるかわりにお前が愉しませてくれんのか?

サトコ
「き、教官‥!」

加賀
俺は別にそれでもいいが

教官の、本気なのか冗談なのかもわからないような雰囲気に戸惑う。
けだるように笑う教官の吐息が、耳にかかった。

加賀
どうする。この間のようにされたいか?

サトコ
「この間って‥」

加賀
ラブホで押し倒された時、興奮してただろ

サトコ
「し、してませんっ‥!」

(ダメだ‥いつの間にか黙秘できなくなってる)
(これじゃ、加賀教官の思うつぼだ‥もう絶対喋らない!)

加賀
この前の続き、してほしいのか?

サトコ
「‥‥っ!」

加賀
そうか

横を向いて必死に耐えている私の顎を掴み、いとも簡単に自分の方を向かせる。
整った顔が目の前に迫り、心臓はもう限界だった。

サトコ
「こっ‥降参です!」

加賀
ようやくか。クズが手間かけさせやがって

サトコ
「い、今のはずるいです!」

加賀
捜査にずるいも卑怯もあるか。口を割らせたもん勝ちだ
しかしよかったな、お前は俺たちにはない武器を持ってる

サトコ
「武器?」

加賀
カラダだよ。その時になりゃ、男の容疑者なんて一発で落ちる

サトコ
「!」

加賀
まぁ、それにはもっと色気が必要だがな
お前は取り調べの訓練より、そっちの方が必要なんじゃねぇか?

<選択してください>

A:セクハラです!

サトコ
「そ、それセクハラですよ!」

加賀
セクハラが怖いなら、刑事なんてさっさと諦めるんだな
男社会に入ってきてセクハラだなんだって喚いても、誰も相手にしねぇよ

(確かに、そうかもしれないけど‥‥)

B:必要ならその訓練もします

サトコ
「‥必要があるなら、その訓練もします」

加賀
ほう‥いい根性だな
その言葉が本心かどうか、今から確かめてやるよ

ゆっくりと、教官の手が私の顎を持ち上げる

サトコ
「け、結構です‥‥」

C:色仕掛けってこと?

サトコ
「それって‥色仕掛けってことですか?」

加賀
場合によってはそういう捜査も必要になってくる
色気が出てきたら、その駒にしてやってもいい

(そんな駒に何てなりたくない‥‥)

結局なにも言い返せないまま、その日の取り調べ講義は終わってしまった。

【教官室】

一部の生徒の間で、『加賀教官の奴隷』という妙な噂が流れてしまった私は、
翌日から何かあれば教官に呼び出されるハメになった。

サトコ
「失礼します!遅れてすみません!」

加賀
遅ぇ。どれだけ待たせるつもりだ

サトコ
「ま、まだ約束の時間を3分しか過ぎてな‥‥」

加賀
‥‥‥

サトコ
「すみません」

いつものように冷たく見下ろされ、慌てて口をつぐむ。

加賀
チッ‥使えねぇ
まあいい、この資料、明日中にまとめとけ

ドサッと、持っていた大量の書類を私の前に投げ渡す。

サトコ
「これは‥‥」

加賀
公安が追ってる事件の過去の資料だ
事件別にまとめてファイリングしろ。間に合うならデータベース化も

(こ、これを明日までに!?何時間かかるんだろう‥)

加賀
文句がありそうな面だな

サトコ
「い、いえ‥‥」

(文句じゃなくて、明日までに終わらせられるか不安の方が大きい‥‥)
(でもやるしかない‥きっと私に拒否権はないんだから)

サトコ
「では‥失礼します」

慌てて資料を抱え、一礼して教官室を出た。

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【廊下】

教官室を出ると、鳴子が待っていた。

鳴子
「わっ、その資料、どうしたの!?」

サトコ
「明日までにファイリングしろって‥」

鳴子
「明日まで!?間に合うの?」

サトコ
「学校が終わってすぐ取りかかっても、ギリギリ間に合うかどうか‥くらいかな」

鳴子
「大変そうだね‥私でよかったら」

加賀
他の奴に手伝わせたら、わかってるな

いつの間にか教官室から出てきた加賀教官が、私の横を通りすぎながら釘を刺していく。

サトコ
「教官、どこに行くんですか?」

加賀
お前には関係ねぇ

サトコ
「でも今日は、公安課の方の捜査はないって‥」

加賀
クズは黙ってろ

(またクズ呼ばわり‥加賀教官に認めてもらえる日なんて、来るのかな)

【階段】

あの後、寮に戻る途中同期の男の子たちと会い、4人で部屋へと向かった。

鳴子
「加賀教官って怖い!けど、ここがいい!」

男性同期A
「いくら加賀教官が怖いって言っても、無理なもんは無理だろ」
「もしかして‥あの奴隷疑惑は本当なのか?」

サトコ
「ち、違うよ!無理って言うと『じゃあ学校から出ていけ』って言われるから」

男性同期B
「でもその分、加賀教官を近くで観察できるよな」
「加賀教官って、なんでも勘で行動するって本当なのか?」

サトコ
「うん‥たぶんさっき言ってた捜査も、勘だと思う」

実際、加賀教官は突然、予定にない行動をとることが多い。

サトコ
「なんの根拠もないことをする時もあるし‥でも『俺の勘だ』としか言わないんだよね」

鳴子
「勘で予定を全部変更されるのは大変そうだね」
「だけどみんな羨ましがってるよ。あの優秀な加賀刑事のそばで学べるなんてって」

(確かに‥最初の頃だって、訓練をやらずに潜入捜査したのはどうかと思ったけど)
(そのおかげで盗聴して証拠を取れたみたいだし)

男性同期A
「あの取り調べは怖かったけど」
「加賀教官が取調べすると、99%、自供が取れるらしいな」

サトコ
「うん‥なんかわかる気がする」

(いくら雑用とはいえ、こんなに実力も実績もある人の近くで学べるのはすごいことだよね)
(文句ばっかり言ってないで、私も加賀教官から色々吸収されてもらおう‥)

【中庭】

数日後、私は加賀教官に呼び出され、一緒に次の講義の資料を運んでいるところだった。

サトコ
「運ぶ資料はこれで全部ですか?」

加賀
運び足りなきゃ、他の仕事をいくらでも手伝わせてやる

サトコ
「いえ‥講義に間に合わなくなってしまうので‥‥」

加賀
講義なんかより、実地で学んだ方が経験になる

(講義『なんか』か‥‥)
(でも最近は、加賀教官のこういう言い方にも、だんだん慣れて来たかも)

裏庭を通りかかったとき、教官の携帯が鳴った。

加賀
歩か。どうした

眉をひそめる加賀教官の表情に、なんかトラブルがあったことが窺える。

加賀
そんなくだねぇミス、てめぇで尻拭いさせろ
ああ、クズは切れ。後は任せる


『わー怖い怖い。了解でーす』

顔色ひとつ変えない加賀教官の携帯から、東雲教官のゆるい声が漏れてきた。

(『切れ』って‥クビにしろってこと、だよね)

電話を切った加賀教官が、私の視線に気付いたように一瞥する。

加賀
なんか言いたそうだな

<選択してください>

A:なんでもありません

サトコ
「‥なんでもありません」

加賀
ならもの言いたげに見てくるな。言えねぇなら黙ってろ

サトコ
「‥すみません」

加賀
言いたいことも言えねぇのか。お前もその辺のクズと同じだな

吐き捨てるように、加賀教官が私を見下ろした。

B:あんな言い方ないと思う

サトコ
「あんな言い方、ないんじゃないかと思って‥」

加賀
クズと言われるのが悔しけりゃ、相応の結果を残せばいい
それもできねぇくせにただ不満ばっかほざいてる奴は、結局クズ止まりだ

(確かに、不満ばかり言うのはどうかと思うけど、でも‥‥)

C:私もミスしたら切られるの?

サトコ
「私もミスしたら容赦なく切られるんですよね」

加賀
当然だ。奴隷は探せばいくらでもいる
クズ呼ばわりが嫌なら、お前じゃなきゃダメだって言われるような仕事でもしてみろ

(私じゃなきゃダメ‥できることなら私だってそんな刑事になりたい)

サトコ
「その‥一度のミスで切られるっていうのは、納得がいきません」
「そうやって経験を積んで、教官のような刑事になれるものだと思うし‥」

加賀
ずいぶん綺麗ごとを並べるもんだな
お前はその一度のミスで、誰かが死んだらどうする?

サトコ
「私は‥‥」

思わず顔を上げると、教官は顔をしかめながらも、まっすぐに私を見つめていた。

加賀
その甘さが命取りになる
手柄を逃さねぇためにも、いらねぇ奴には消えてもらう

(“いらない”‥“クズ”‥)
(教官の言うこともわかる‥でも結局は、手柄のためだなんて)

さっさと先に行ってしまう背中を、思わず睨むように見つめた。

(確かに加賀教官は優秀で、すごい刑事なのかもしれない)
(だけど、人間としては‥結局みんなが言うように、手柄のことしか考えてない人‥)

【寮 談話ルーム】

数日後、加賀教官が担当の夜間講義が終わり、鳴子と一緒に談話ルームへ向かった。

サトコ
「うわ、こうこんな時間‥」

鳴子
「今日も疲れた‥あ、聞いた?玄関で加賀教官を見た人がいるんだって!」

サトコ
「加賀教官がなんで寮に?」

鳴子
「今日は教官が泊まりなんじゃない?夜間講義もあったし」
「私たちは寮生活だけど、教官たちは普段は自宅に帰るもんね」

男性同僚A
「加賀教官が泊まりか‥なんか気が引き締まるな」

男性同僚B
「誰か、教官のプライベートの話とか聞いて来いよ」

鳴子
「いいなー、私も聞きたい!ねぇ、サトコ行ってきてよ」

サトコ
「なんで私!?」

男性同僚A
「だって氷川は加賀教官の奴隷だろ?」

男性同僚B
「そうそう、みんなそう言ってるもんな」

サトコ
「いや本当に、その噂を信じるのはやめてください」

鳴子
「でも加賀教官ってモテモテそうだよね。怖いけど、そこがいいっていうか」

男性同僚A
「佐々木はずっとそれだな」

男性同僚C
「まぁ、教官たちの中でも一番威厳あるし」

(確かにそうかもしれないけど、でも私たちのことはすぐ『クズ』呼ばわりだし)
(小さなミスでも切って捨てるような、最低な人だし)

みんなには言えないけど、心の中でそう叫んだ。


【食堂】

雑談しながら、談話ルームから食堂へと向かう。
すると、いつも気さくに話しかけてくれる食堂のおばちゃんに声をかけられた。

おばちゃん
「ねえサトコちゃん、悪いんだけど加賀さんとこに夜食を届けてくれない?」

サトコ
「夜食‥って、私がですか?」

おばちゃん
「教官の部屋は最上階だから、よろしくね」

断る間もなく、おばちゃんにトレイを渡される。

鳴子
「深夜‥教官と2人っきりの密室」

サトコ
「な、鳴子‥?」

鳴子
「雑用係だった生徒が、お気に入りの奴隷‥そして女になる瞬間」
「教官と生徒が禁断の関係に」

サトコ
「ちょっと、お、落ち着いて!」

鳴子
「頑張ってねサトコ!」

そう言って颯爽と去って行った。

サトコ
「‥‥‥」

(『禁断』よりも、『危険』の方が近い気がする‥‥)
(夜食受け取っちゃったし、とにかく教官の部屋に行かなきゃ)



【廊下】

トレイを持って、最上階の部屋の前までやってきた。

(ここが、加賀教官が寝泊まりしている部屋‥‥)

大きく深呼吸すると、意を決してドアをノックする。

(あれ?返事がない)

何度かノックしてみたけど、やっぱり中から返事はなかった。

(このままじゃ、せっかくの夜食が冷めちゃうし‥)

恐る恐るドアを開けて、中へと足を踏み入れた。

【寮監室】

部屋を覗いたが、中には加賀教官の姿はなかった。

(よかった‥いないなら仕方ないし、食事を置いて戻ろう)

テーブルにトレイを置いた時、背後に人の気配を感じた。

加賀
ここで何してる

サトコ
「あっ、私、教官に夜食を‥」

(って‥え!?き、教官‥‥!)

to be continued

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