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加賀 出会い編 7話

【加賀マンション】

私のせいで捜査に失敗した夜、教官に連れて行かれるままマンションの一室にお邪魔した。

(ここが教官の家‥す、すごい高級マンションなんだけど)
(こんな広い部屋で一人暮らししてるんだ‥)

加賀
そこに座れ

サトコ
「は、はい‥」

皮張りのソファに、腰掛けるのすら遠慮してしまいそうになる。
どこからか救急箱を持ってきた加賀教官が、私の長いスカートを持ち上げる。

サトコ
「!?」

驚く私に構わず、足を軽く動かす。

サトコ
「いたっ‥」

加賀
軽い捻挫だな

軽く擦り傷もあり、その状態も確認してくれる。

サトコ
「あの、手当なら大丈夫です。自分でできますので‥」

加賀
黙ってろ

サトコ
「ハイ‥」

消毒液を乱暴にコットンにかけて、傷口を拭いてくれる。
ピリッとした痛みが走ったけど、ぐっと耐えた。

加賀
適当に貼っとくぞ

サトコ
「はい。ありがとうございます。すみません‥」

湿布と絆創膏を貼り終えた加賀教官の手がふくらはぎで止まる。

加賀
‥‥‥

サトコ
「‥教官?」

そのまま無言でふくらはぎをつまむ。

サトコ
「!?」

加賀
‥‥‥

サトコ
「ちょ‥な!?」

どことなく満足そうな顔でぷにぷにと私の肌をつまんだり、
指でつついたりする教官を、呆然と見つめた。

サトコ
「や、やめてください!」

加賀
手当してやっただろ

サトコ
「そうですけど‥何してるんですか!」

加賀
それに減るもんじゃねぇ

そう言いながら、教官の手がさらに太ももへ上がってくる。

サトコ
「せ、セクハラです!」

加賀
うるせぇ、喚くな。俺は感触を楽しんでんだ

サトコ
「そんな自信満々に言われても‥‥」

そして、しばらくして加賀教官は足から手を離してくれた。

加賀
俺は風呂に入る。その間に夜食でも作って待ってろ

サトコ
「私がですか?」

加賀
他に誰がいる

サトコ
「材料は‥」

加賀
冷蔵庫の中のもん適当に使え
それとも、一緒に入るか?

サトコ
「は!?」

意地悪に口を持ち上げて、加賀教官が笑った。

<選択してください>

A:絶対に無理です

サトコ
「ほ、奉仕なんて‥絶対無理です!」

加賀
奴隷が口ごたえするとは、いい身分だな
躾けのなってねぇ奴隷には仕置きが必要か

(教官が言うと本当っぽくて怖い‥‥)

B:何をすればいいの?

サトコ
「お風呂でご奉仕って‥何をすればいいんですか?」

加賀
そうだな‥俺を満足させてみろよ

サトコ
「満足って‥‥」

加賀
お前のこの体なら悪くねぇと思えてきた

相変わらずぷにぷにと、教官が私の肌をつねる。

サトコ
「だからやめてください‥!」

C:奴隷を卒業させてください

サトコ
「あの‥そろそろ、奴隷を卒業させてもらえませんか」

加賀
お前が奴隷を卒業するイコール、公安学校を卒業するってことだ
それか、俺に切られて学校を立ち去る時だな

(それってつまり、学校にいる間はずっと教官の奴隷ってことなんじゃ‥)

加賀
まあいい、メシ、風呂から上がってくるまでに作っとけよ

サトコ
「あ‥はい」

(冗談と本気の区別がつかない‥)

サトコ
「はぁ‥」

教官がバスルームに向かうのを見届けてから、しぶしぶキッチンへと足を運んだ。

【キッチン】

冷蔵庫を開けると、中には食材と呼べるものはほとんどなかった。

(予想通りというか、なんというか‥)

サトコ
「野菜がない‥」

でもそのかわりに、冷凍庫には様々な味の桜見大福がところ狭しと入っている。

(これって、確かご当地とコラボもしてるスイーツだよね)
(他にも、スイーツだらけ‥加賀教官って、やっぱり甘いものが好きなんだ)

あの教官が甘いもの好きなのだと思うと、ついニヤけてしまいそうだった。

サトコ
「さてと‥」

(ここにある材料で作れるものと言えば‥)
(海苔とひき肉とニンニクはある‥海苔を皮の代わりに使えば餃子ならなんとか作れるかな)
(野菜なしの餃子になるけど‥)

サトコ
「よし、そうと決まれば急ごう」

【リビング】

ちょうど餃子が焼きあがる頃、教官がお風呂から戻ってきた。

(髪下してる教官って、普段と全然雰囲気が違ってやっぱり色っぽい‥)

何も言わない私を不思議に思ったのか、加賀教官は眉をひそめる。

加賀
おい、何ボサッとしてる

サトコ
「す、すみません!今ちょうどできあがったんです」

加賀
「‥餃子?

サトコ
「はい!私の大好物なんです!今日は海苔を代用したので海苔巻き餃子ですかね」
「教官の家の冷蔵庫、野菜がまったくなくて‥野菜なしの餃子ですけど」

加賀
野菜なんて食わなくても死なねぇ

(前にも同じこと言ってた‥)

加賀
それにしても、なんで餃子なんだよ

サトコ
「私の一番の得意料理がこれなんですよ」

加賀
夜食に餃子作る女なんていねぇだろ

サトコ
「今日は海苔を使ってるのでヘルシーですよ」

文句を言いながらも教官は餃子を頬張る。
ひろつ、またひとつと箸を伸ばして、結局全部食べてくれた。

サトコ
「味、大丈夫でしたか?」

加賀
海苔だったからマシだったが、この時間にはちょっと重い

サトコ
「そうですよね‥すみません。あんまり料理が得意じゃなくて」

加賀
そういや、お前の分は

サトコ
「今ので全部です。でも私、あまりおなか空いてないので‥」

加賀
‥‥‥

教官は私を睨んだ後、冷蔵庫へと向かった。
そして戻ってくると、その手に桜見大福が2つ乗っていた。

加賀
お前はこれでも食ってろ

サトコ
「いいんですか?私なんかが頂いて」

加賀
これはまだ買い置きがある。なくなったまた買えばいい

再びソファに座ると、教官も持ってきた桜見大福の封を開ける。
教官に倣って私も封を開けながら、その見たことのないパッケージに驚いた。

サトコ
「これ、ご当地のレア味じゃないですか!?」

加賀
「‥よく知ってるな

サトコ
「CMで見たんですけど、あまりの人気でどこも売り切れで‥」
「教官、よく買えましたね!」

加賀
コンビニで見つけるたびに買い占めてたからな

(そ、そんなに!?)
(今日は手当してくれたり、スイーツを分けてくれたり‥)
(なんだか、私に知ってる教官じゃないみたい)

加賀
なんだ、食わねぇならよこせ
それとも、さっきみたいに食わせてやろうか?

その言葉に、スイーツバーで教官がケーキを食べさせてくれたことを思い出した。

サトコ
「じ、自分で食べれますから!」

加賀
当然だ。俺に食わせてもらおうなんて千年早ぇ

サトコ
「食べさせてくれるって言ったのは教官なのに‥‥」

加賀
あぁ?なんか言ったか

思わずツッコむと、教官が微かに笑ったような気がした。
ハッと見ると、その表情はいつもの冷たいものに戻っている。

(でも、自分の家だからかな。いつもより雰囲気が穏やかっていうか)
(リラックスしてるのがわかる‥今は仕事モードじゃないのかも)

加賀
まあいい。それ食ったら、さっさと寝ろよ

サトコ
「はい。すみませんが、ソファお借りします」

加賀
お前はベッドで寝ろ

サトコ
「え!?そ、そういうわけには‥」

加賀
いいって言ってんだろ。無駄な遠慮なんていらねぇんだよ

<選択してください>

A:遠慮なんてしてない

サトコ
「え、遠慮なんてしてません!泊まらせていただくのに、この上ベッドまでおかりするなんて」

加賀
そうかよ。なら今から寮に帰れ

サトコ
「え?」

加賀
中途半端に遠慮されても、こっちも気分悪ぃからな

(ほ、本当にソファでいいのに‥)

B:お言葉に甘えて

サトコ
「それじゃ‥お言葉に甘えて」
「でも、本当にいいんですか?ここは教官の部屋なのに」

加賀
ダメならベッドで寝ろなんて言わねぇ

(だけどやっぱり、気が引けるな‥)

C:教官の方が疲れてるのに

サトコ
「だけど、教官の方が疲れてるのに‥ソファじゃ疲れなんて取れませんよ」

加賀
俺は疲れてねぇ。お前は精神的にも参ってるだろ

(もしかして、私の心配してくれてる‥?)

加賀
まだぐだぐだ言うなら、今すぐ部屋から追い出すぞ

サトコ
「い、言いません!お借りします!」

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【寝室】

押し切られるようにベッドへ向かったけど、なんとなくソファの方が気になる。

加賀
なんだよ。じろじろ見やがって

サトコ
「いえ‥」

加賀
寝込み襲ってほしいのか

サトコ
「そんなこと言ってないです‥」

加賀
なら、添い寝をご所望か

サトコ
「しょ、所望なんてしてません!」

(きっと何を言っても、私がベッドで寝ないと納得しないんだろうな)
(これも教官の優しさだと思って、ありがたく甘えよう)

ベッドに横になりしばらくすると、教官が微かにうごめく気配がする。
でも、私が眠りにつく前にその気配がなくなった。

(もしかして‥教官、寝ちゃった?)

そっと起き上がり、静かにベッドへ向かう。
疲れ果てたように、教官はベッドに手足を投げ出して眠っていた。

(‥教官の寝顔を見るなんて、不思議な気分)
(布団、落ちちゃってる‥こんなに早く寝るなんて、本当に疲れたんだろうな)

落ちた毛布を教官の肩にかけてあげながら、
普段なら決して見ることのできない安心しきった寝顔に、思わず見惚れる。

(この前は、自分の手柄を捨ててまで、捜査員を助けに行った)
(今日は、ミスした私を助けて、こうして部屋に止めてくれた‥)

そんな人が仲間殺しと言われてるなんて、やっぱり信じられない。

(あんなの、きっとただの噂だよね‥加賀教官は怖いから、噂が独り歩きしてるんだ)
(‥私もそろそろ寝なきゃ。明日は教官より早く起きないと)

サトコ
「ん?」

再びベッドに向かいかけて、ふと脇の隙間に何かが落ちていることに気づいた。

(隣のサイドボードから落ちたのかな‥でも埃かぶってる‥)

拾い上げてみると、それはヒビの入った写真立てだった。

(ヒビのせいで、よく見えないけど‥スーツを着た加賀教官と何人かの男性)
(石神教官たちではないみたい‥なんの写真だろう?)

写真立てをサイドボードに置いてベッドに横になった。

(今日はいろんなことがあった‥それに、やっちゃいけないミスも犯した)
(だけど、落ち込んでても仕方ない‥今日の失敗を挽回して、教官の力になれるように頑張ろう)

そう思いながら、私はいつの間にか眠りについていた。

【カフェテラス】

翌朝、教官と時間をズラして別々に登校した。

(シャワーまで借りちゃったし、あとで教官にお礼言わないとな)

鳴子
「サトコ、おはよう」
「あ、朝っぱらから長電話しちゃってごめんね」

サトコ
「ううん、大丈夫だよ」

(あの電話中は危なかったけど、教官といたのはバレてないみたいでよかった‥)

鳴子
「あれ?でも今日は寮からじゃなかったんだ?」

サトコ
「あ‥それが昨日の訓練で失敗して、終電がなくなって‥」

鳴子
「失敗って‥サトコ、確か加賀教官と恋人役で潜入したんでしょ?」
「もしかして昨日の夜は‥!」

(失敗の方じゃなくて、そっちに興味を持つのが鳴子らしい‥)

サトコ
「えーと‥それは」

鳴子
「教官の部屋に2人きり‥疲れ切った体を癒すため、自然とお互いの肌を求め合う」
「そして2人の影が重なり‥」

サトコ
「いやいやいや!」

慌てて鳴子の妄想をストップさせたけど、鋭い鳴子の言葉に頬の熱が収まらない。

(昨日の、加賀教官のお風呂上りの姿‥)
(それに、普段よりもちょっとだけ優しかったり)

それを思い出すと、どうしても頬が緩むのを押さえることができなかった。

【廊下】

その日の放課後、いつものように竹田の事件の捜査会議のため、教官室を訪れた。

(まだ足が痛いな‥でも早く治さないと、訓練に影響しちゃう)

【教官室】

サトコ
「失礼します」

教官室に入ると、他の教官に頭を下げながら足を引きずってるのがバレないように早足で歩く。
そのまま加賀教官のもとへ向かい、目の前まで行って深々と頭を下げた。

サトコ
「加賀教官、昨日はご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!」

謝罪する私に目もくれず、加賀教官は目の前の書類に向かったまま。

サトコ
「教官?」

加賀
お前のせいで、捜査は振り出しに戻った
使えないクズはいらねぇ

サトコ
「はい‥本当にすみませんでした‥っ!今後は気を付けますので‥」

加賀
お前はもう来なくていい、消えろ

突然投げつけられた冷たい言葉と、今までとは違う空気。
カチッと、私の中の時計が止まった気がした。

to be continued

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