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加賀 カレ目線 3話



『生意気な奴隷には‥』

【ホテル】

絶えず爆発音が聞こえてくる中を、歩が見つけ出した入口へと急ぐ。

サトコ
「教官!私もう、一人で歩けますから‥!」

加賀
うるせぇ、喚くな

サトコ
「だって、急がないと!もしホテルに仕掛けられた爆弾まで爆発したら‥!」

颯馬
ホテル内部の爆発物は、まだ犯人が起動させていないので大丈夫です

後藤
それより、優先すべきは無事に退避することだ

加賀
このまま巻き込まれちゃ、あのクソメガネにどんな嫌味言われるかわかったもんじゃねぇからな

そのまま廊下を進み、辛うじてホテルの外へと脱出することができた。



【ホテル外】

今は使われていない裏口から出ると、待機していた歩たちが一斉に駆け寄ってくる。


兵吾さん!サトコちゃん!

サトコ
「東雲教官‥」

後藤
氷川は負傷している。すぐ救護班のところへ連れて行ってくれ

サトコ
「あの、平気です。これは今回のじゃなくて、前に竹田の尾行で失敗したときの‥」

加賀
いいから診てもらえ

一言そう告げると、サトコが大人しくなる。

加賀
いつまでも足引きずってるような奴隷は、捨て駒以上に使えねぇからな


ほらほら、兵吾さんの優しさに甘えて

ニヤニヤしながら、歩がサトコを連れて行く。

(‥何が優しさだ)

それでも、歩や颯馬に連れられてサトコが救護班のところへ向かう様子を見ていると、
言い知れない安堵感が全身を満たしていくのがわかった。

(‥全員、生きてる)

そう実感したとき、初めて肩の力が抜けた。

(二次災害も出てねぇ‥刑事、生徒、客‥みんな無事だ)

ぐるりと辺りを見回し、最後にもう一度、救護班のところにいるサトコを見た。

(‥今回の事件は、5年前と似すぎてた)
(仲間‥爆弾‥全部を失うかもしれない状況‥)

あの時は、仲間を犠牲にして事件を解決させた。
それが間違っていたとは、今も思っていない。

(あれが唯一の方法だった。あれ以外に事件を解決できる策はなかった)
(それがわかってたから、浜口たちも最後、俺に託した‥)

だが、同じ爆弾事件で、今回は一人の犠牲も出さずに終われた。

(‥これが、あいつらへの贖罪になるなんてくだらねぇ感傷に浸るつもりはねぇが)
(それでも、少しは肩の荷が下りたか‥)

自分が知らないところで、
ほんの少しでも、あいつらに対して悪いとかいう気持ちがあったのかもしれない。

(歩が脱出経路を見つけ出して、それを信じて後藤と颯馬が助けに来た)
(‥石神があの時、俺に『手柄を捨てて戻ってこい』と無理にでも命じていたら)

もちろん、そんなクソみてぇな言葉に従うつもりはさらさらない。
だが、その言葉ひとつで後藤や颯馬たちの行動は変わっただろうし、歩の動きも制限されたはずだ。

(‥仲間、か)

手当てしてもらいながらホッとしたように笑っているサトコを眺め、
さっき、無意識にサトコを『仲間』だと認めていた自分に気づく。

(‥いや、それともーー)

ゆっくりと、救護班の方へと歩き出す。
手当てを終えて立ち上がったサトコが、微かによろけるのが見えた。

(クズが)

咄嗟に走り出し、手を伸ばしてその体を支える。

サトコ
「きょ、教官!?すみません‥」

加賀
なんで怪我してる方の足に体重かけてんだ

サトコ
「無意識のうちに‥なんだか安心しちゃって」

加賀
だからお前はクズだって言ってんだ
だが‥クズはクズなりに、よくやった

サトコ
「え?」

加賀
上出来だ

その言葉に、サトコが大きく目を見開き‥嬉しそうな笑顔を浮かべた。

(‥それとも、こいつと一緒に死線を越えて)
(こいつが無事だったこと‥それに、この安心して緩んだ面を見れて嬉しいのか)

今、自分中にある感情がなんなのかわからないし、知ろうとするつもりもない。

(だが‥)

悪くないと思えた。

何年かぶりに、晴れ晴れとした気分だった。

【寮前】

あの爆弾解除の時に約束した通り、サトコを行きつけのカフェに連れて行ってやった。

サトコ
「あのお店のケーキ、すごくおいしかったです!」

加賀
「あの店はメニューも雰囲気も悪くねぇ」
‥ひとつ問題があるとすれば、たまにクソメガネに会うことくらいだ

サトコ
「石神教官も行きつけなんですか?」

加賀
プリンが絶品だとかほざいてたな

俺の話に笑っていたサトコが、不意にぐらりとフラつく。
慣れたように抱きとめてやると、真っ赤になって頭を下げた。

サトコ

「す、すみません‥!」

加賀
バカが。お前は無理しすぎだ

そのまま抱き寄せると、柔らかい身体が心地いい。

サトコ
「きょ、教官?」

加賀
頑丈なところだけがお前の取り柄だが、だらしないところも多い
たとえば‥

二の腕をつまんでやると、心外だとでも言うように、さらに赤くなった。

サトコ
「や、やめてください!」

加賀
俺に無断で、体を鍛えたりするなよ
この触り心地をキープできねぇなら、即捨て駒行きだ

サトコ
「そんな‥!」

俺の手の感触に焦ったように身じろぎする。
頬を赤く染め、うるんだ目と視線が合った瞬間、身を引きそうになった。

(‥なんだ、これは)

密着した体を通じて、サトコの心臓の音が響いてくる。
その音がこっちにまでうつったのか、ほんの一瞬、心臓が大きな音を立てた気がした。

(奴隷の分際で‥)
(‥いや、俺のお気に入りの駒、か)

加賀
‥バカが

サトコ
「え!?な、なんでですか」

視線が絡み合うと、さっき感じた心臓の音がさらにはっきり聞こえる気がした。
それがサトコのものなのか、それとも自分のものなのかわからない。

サトコ
「きょ、教官‥?」

じっと見つめ返してくるサトコを見ていると、嗜虐心が沸いてくる。
無性に優しくしてやりたくなるような、いじめ抜いて泣かせてやりたいような。
自分でも感じたことのない感情に、微かに戸惑いを覚えた。

(だが‥それをこいつに教えるには早すぎる)

ゆっくりと顔を近づけると、サトコがそっと目を閉じた。

(‥お前が俺を誘おうなんざ、百年早ぇって言ってんだろ)

額に唇を押し付けると、微かにサトコの肩が震えた。
そして驚いたように目を見張り、再び見つめ返してくる。

加賀
ここにされると思ったか?

サトコ
「!?」
「か、からかったんですか!?」

加賀
そんなに暇じゃねぇよ

身体を離して歩き出すと、慌てたように追いかけてくる足音が聞こえる。

サトコ
「ま、待ってください!」

(待ってください、か‥)
(誰が待ってやるか。てめぇが必死に食らいついてこい)

そう思うのに、あとをついてくるサトコに歩く速度を緩める自分がいる。

(これは‥なんだろうな)
(まぁ、これも一興か)

自分の中の感情を、まだ深く追求するつもりはない。
ただ、サトコの存在が最初の頃よりもずいぶんと大きくなっていることはわかる。

(今は、それだけで充分だ)

to be continued

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