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加賀 カレ目線 4話

『初めての独占欲と恋の自覚』

【バー】

莉子の策略で石神と、そしてなぜかサトコまで一緒に飲むことになった。

(莉子に、情報の横流しを頼むのは今に始まったことじゃねぇが)
(その見返りにクソメガネと飲まなきゃなんねぇのは、今までで一番の代償だな)
(それにしても、何が楽しくてこのメガネを見ながら飲まなきゃならねぇ‥)

いま追ってるヤマの裏の捜査情報を、情報部にバレないように手に入れるには、
莉子の提示する条件を呑むしかない。

(それに、証拠を鑑識してもらうには科捜研にいる莉子に頼むのが一番早ぇ)
(にしても‥)

チラリとサトコを見ると、なぜか石神と莉子の間に収まってやがる。

(てめぇの場所はそこじゃねぇだろうが)
(だいたい、なに他の男にホイホイついて来てんだ)

石神が勝手にサトコを連れてきたことも気に食わない。
そして、俺の許可も得ずに連れて帰ろうとしたことにもムカついている。

莉子
「でも傑作よね。私が兵ちゃんの彼女と間違われるなんて」

サトコ
「すみません、でも、あの‥すごくお似合いな2人に見えたから」

(‥安心したような顔しやがって)
(莉子が俺の女じゃなかったことが、そんなに嬉しかったのか)

石神
だが、ホテルの前でお前を見かけたときは我が目を疑った

莉子
「兵ちゃんを尾行するなんて、勇気あるじゃない」

サトコ
「夢中で‥というか、知らないうちに‥」

加賀
おい

気が付いた時には、サトコを睨みつけていた。

サトコ
「は、はい」

加賀
てめぇのあの尾行の仕方はなんだ
あれじゃ、相手に気づいてくれって言ってるようなもんだろ

サトコ
「すみません‥でも教官、一度も私の方を見てないですよね?」

加賀
見たら、てめぇの尾行に気づいてることがバレるだろうが
そんなこともわかんねぇくせに尾行なんざ百年早ぇんだよ

苛立ちを隠さない俺と縮こまるサトコを見比べて、莉子が笑う。

莉子
「兵ちゃんって、案外コドモだったのね」

加賀
あ?

石神
自分の感情も抑えられないのか

加賀
なんの話してやがる

莉子
「兵ちゃんに独占欲なんて感情があったとは、驚きよね」

石神
それを自覚していないところが、また笑えるな

(‥独占欲?この俺が?)

サトコ
「あ、あの‥」

加賀
余計なこと喋るんじゃねぇ

サトコ
「まだ何も言ってないですよ‥」

加賀
クズは黙ってろ

莉子
「何よ、サトコちゃんが他の人と話すのすら嫌なの?」

石神
重症だな

莉子とクソメガネの愉快な声色に腹が立つ。
サトコはそんな2人に囲まれ、半信半疑のような、複雑そうな顔を浮かべている。

(こいつ相手に、たまにらしくねぇ自分になるのはわかってたが‥)

まさかここまでとは、自分でも驚いてしまう。

サトコ
「あの‥教官、まだ怒ってます‥?」

加賀
出来の悪い奴隷を持って後悔してるところだ

サトコ
「うう‥」

莉子
「ほら、いじめないの」

莉子によしよしと頭を撫でられるサトコを見ながら、自覚した自分の嫉妬心に舌打ちをする。

(とりあえず‥今のこいつには、自分が誰の駒なのかしっかりわからせてやるとするか)

そう思うと、勝手に口の端が持ち上がるのが分かった。

【倉庫】

浜口良美に襲われたその夜、泣き崩れる被疑者を置いていったん倉庫を出た。


兵吾さん、こっちこっち!

浜口良美に撃たれた脇腹が傷んだが、気を失ったサトコを抱きかかえて歩のところへ急ぐ


大丈夫ですか?浜口良美に撃たれたって‥

加賀
かすり傷だ。それより、こいつを莉子の知り合いの医者がいる病院へ回せ
関係者だとわかれば、優先的に処置してくれる


兵吾さんは?

加賀
俺は浜口良美を保護する

サトコを車の後部座席に乗せると、踵を返して倉庫へと歩き出す。
後ろから、歩の呆れたような声が聞こえてきた。


電話で話を聞いた様子じゃ、浜口良美は逃亡の恐れもなさそうだし
サトコちゃんもそうだけど、兵吾さんも病院に行った方がいいんじゃないですか?

加賀
何度も言わせるな。かすり傷だ


どっちかと言えば、サトコちゃんより兵吾さんの方が重傷に見えるけど

加賀
浜口良美は、なんとしても確保する必要がある
あの女に拳銃を送った人間の手に渡ったら、消されるのがオチだ


まさか、浜口良美の心配をしてるんですか?

その言葉に、歩を振り返った。

加賀
あの女がどうなろうと、知ったこっちゃねぇ
だが、こいつの初手柄になるかもしれねぇからな


へぇ、兵吾さんが他人の手柄の心配をするなんてね

笑う歩から目をそらし、倉庫へと歩き出す。

(‥我ながら、クソみてぇな言葉だな)
(歩が言うように、他人の手柄なんざどうでもいい‥むしろそれを勝ち取るのが俺のやり方だ)

加賀
‥そこで眠りこけてるクズ女のバカがうつったのかもしれねぇな


まぁ、そういうことにしておきますよ

憎まれ口をたたきながら、歩が病院へと車を発進させた。



【病室】

ふと目を覚ますと、病院のベッドの隣のパイプいすに座っていた。

(サトコの病室で寝ちまったのか‥)

サトコ
「あの、教官の怪我は‥」


うーん、どっちかっていうとキミより要安静かな

サトコ
「じゃ、じゃあ急いで病室に戻ってもらわなきゃ」


いや、それ無駄

サトコ
「無駄?」


何度言っても『たいしたことねぇ』って寝ようとしないんだよね
とりあえず弾はかすっただけで貫通もしてないし、こんなのかすり傷だからって

サトコと歩の小さなやり取りに、再び目を閉じる。

(‥ったく歩のやつ、余計なこと言いやがって)

だがサトコの声を聞いて、
さっきまでの落ち着かない、ざわざわした感情がようやく収まり始めた。

(ここまでペラペラ喋れんなら怪我は問題ねぇな)
(‥この俺が、誰かの心配して‥無事を確認してホッとするなんざ、今までならありえねぇ)

サトコのことになると妙に胸がざわついたのも、どうやらこの感情が関係していたらしい。
それを実感すればするほど、自分に笑ってしまう。

(‥俺がこんなクズに惚れるとはな)

やがて歩が病室から出ていき、サトコと小さな声で言葉を交わす。

加賀
頭、痛くねぇのか

サトコ
「はい。動かさなければ大丈夫です。でも、教官だって無理して‥」

加賀
お前とは鍛え方が違うからな

サトコ
「それじゃ私も、教官くらい鍛えますね」

加賀
前に行ったこと、もう忘れたのか

二の腕をつまんでやると、拒否しながらもサトコはどこか嬉しそうだった。

(こんな他愛のない会話ひとつひとつに、居心地のよさを感じる)
(こんな俺を知ったら、浜口たちはどう思う‥笑うか、呆れるか)

だがサトコへの気持ちを自覚しても、特に動揺はなかった。

(結局、俺もどうしようもねぇクズだってことだ)
(自分でも呆れるほど、こいつに惚れてるんだからな‥)

俺に触れられて真っ赤になりながら困り果てるサトコを見ると、口元に笑みが浮かぶ。
だがこの休息がそう長くは続かないだろうことを、俺の勘が告げていた。

to be continued

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