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加賀 エピローグ 2話

【車】

加賀教官の指示で、深夜とある男を車で尾行中。

(人相も悪かったし、指名手配中とか‥?いや、顔で判断しちゃいけないけど)
(でも、きっと重要な情報を持つ男なんだ)

サトコ
「でも、どうしてわざわざ私を呼んだんだろう‥」
「教官の顔は、向こうにもう割れてるとか‥?」

その時、男がとあるビルに入って行くのを確認した。

(一応、ビルの名前と場所は覚えたけど‥)
(仲間で行かなきゃ意味ないよね)

車を降りると、そっと、ビルの中へと男を追いかけた。

【ビル】

男が入って行ったビルは閑散としていて、少しカビ臭い匂いがした。

(雑居ビルだし、仕方ないかもしれないけど‥なんか陰湿な雰囲気だな)
(えっと、さっきの男は‥)

見知らぬ男1
「お嬢さん、何かお探しかな?」

見知らぬ男2
「ちょーっと来てもらえる?」

サトコ
「!」

肩をつかまれた瞬間、咄嗟に手を高く上げて男の手を外し、そのまま手刀で払って転ばせた。
振り返ると、明らかに一般人ではなさそうな男2人が立っている。

見知らぬ男1
「くそっ!女のくせに、下手な真似しやがって!」

一人を怯ませた直後、もう一人が襲い掛かってきた。

(まずい、避けきれないっ‥)

咄嗟に後ずさった後、男の後ろから誰かがその腕をひねり上げた。

見知らぬ男1
「痛ぇっ!なんだテメェ、離せよ!」

加賀
ったく、何やらかしてんだ

サトコ
「教官!」

加賀
お前ら2人ともブタ箱行きだ

手錠を取り出すと、2人を拘束する。

サトコ
「‥え?」

加賀
なんだ

サトコ
「だって‥さっき私が尾行していた男は」

加賀
あいつは別の組の下っ端だ
あんな雑魚、ハナっから相手にしてねぇ

サトコ
「でも、じゃあどうして尾行なんて‥」

加賀
お前を囮にすりゃ、こいつらが網に引っ掛かる
読み通りだったな。エサ役ご苦労

サトコ
「え、エサ役!?」

(じゃあ、最初から私を囮にするつもりで‥!?)

サトコ
「でも、私なんかがいなくても、このくらいなら教官一人でもどうにかなったんじゃ」

加賀
面倒事はさっさと終わらせた方がいい
エサのおかげで、今日中に片付いただろ

そのあと、教官は駆けつけた署員に男たちの身柄を引き渡し、
釈然としない私を連れて、車に乗り込んだのだった。

【ホテル】

署で報告を終える頃にはもう昼近い時間で、教官は近くのホテルにツインの部屋を取った。

サトコ
「あ、あの‥帰らないんですか?」

加賀
テメェが東京まで一人で運転するならな

サトコ
「む、無理です!」

(ほとんど完徹の状態で運転したら、たぶん途中で寝ちゃって大惨事になる‥)

部屋に入ると、教官はスーツの上着を脱ぎ捨てて、グイッとネクタイを緩めた。

加賀
いつまでそこに突っ立ってる

サトコ
「え?」

加賀
ドアの前で寝てぇってんなら、何も言わねぇがな

サトコ
「あ、いえ‥」

慌てて部屋に入ると、2つ並んだベッドが妙にリアルで恥ずかしい。

(でも、ダブルベッドじゃなくてよかった‥って、いや、そういうことじゃなくて)
(教官とホテルって‥は、初めてだよね。最初に任務でラブホに入ったことはあるけど)

なおさら気恥ずかしくなり、必死に話題を探した。

サトコ
「あの、教官は明日、講義はないですよね!」

加賀
それがどうした

サトコ
「い、いえ‥特に深い意味はないんですけど」
「そういえばこの前、石神教官の講義中に、鳴子が」

石神教官の名前を出した瞬間、加賀教官の表情が厳しくなった。

(雑談でも、石神教官の話題はご法度なんだ‥)
(それじゃ、他の話題、他の話題‥!)

サトコ
「あっ!」

加賀
うるせぇ

サトコ
「す、すみません!でも‥私、今日ってもしかして講義に出られないんですか‥!?」

加賀
無理だろうな

サトコ
「ど、どうしよう‥成田教官の講義を休んじゃった‥!」

成田教官は年配の男性で、少しでもミスするとねちねちイヤミを言われる。

(イヤミ言われるくらいだったら、教官みたいにバッサリ切ってくれた方が気が楽だよね‥)

加賀
成田か‥
まぁ、せいぜい頑張って今日の分を取り戻せ

簡単にそう言うと、教官はベッドにシャツを脱ぎ捨ててシャワールームへと消えた。

(今日の分を取り戻す前に、講義に出なかったこと、きっと色々いわれるんだろうな‥)
(教官の捜査に同行した、ってちゃんと報告してもいいんだよね)

考えこんでいるうちに、教官がシャワーから出て来る。

加賀
なんだ?健気に待ってたのか

サトコ
「え?」

加賀
誘ってんのかって聞いてんだ

ベッドに座っていた私を見て、教官が口の端を持ち上げた。

サトコ
「ち、違います!私もシャワー行ってきます!」

(はぁ、シャワー浴びてようやくちょっと落ち着いた‥)
(教官、起きてるかな‥さっきあんなこと言われて、どんな顔して行けば)

恐る恐る部屋に戻ると、教官が片方のベッドに身を投げ出すように横になっているのが見える。

(寝てる‥?そうだよね、捜査は今日だけじゃないし、毎晩、いろんなヤマを追ってるみたいだし)
(きっと疲れてるんだろうな‥このまま寝かせてあげたいけど、布団かけないと風邪ひいちゃう‥)

そっと近づき、足元の毛布をかけようとした瞬間、グイッと手首をつかまれた。
気が付いた時には、すぐ目の前に教官の顔が迫っている。

(えっ‥!)

加賀
寝込み襲おうとしてんのか

サトコ
「ち、ちがっ‥っていうか教官、起きてたんですか!?」

加賀
テメェより先に寝るわけねぇだろ

(でも、前に教官の部屋に泊めてもらった時は先に寝てたのに‥)

加賀
そんなに飢えてんなら相手してやる
そのかわり愉しませろよ?

サトコ
「う、飢えてなんていません!」

慌てて身を引くと、パッと手を離された。

加賀
素直に言えばかわいがってやったものを
つまんねぇ女だな

私がかけようとしていた毛布を引っ張り、そのまま向こうを向いてしまう。

サトコ
「‥‥‥」

(また、いつものようにからかわれただけ‥)
(‥教官の気持ちがわからないよ)
(1人でできるような簡単な任務に私を連れて来たり)

そうかと思えば、あの見知らぬ女性と懇意にしていたりする。

(教官は私のこと、どう思ってるんだろう‥)

(それともやっぱり、訓練生なのにこんなこと考える方がいけないのかな‥)



【カフェテラス】

その日の夕方近くに寮へと戻り、翌朝いつも通りに学校へ行くと、すぐに鳴子が飛んできた。

鳴子
「サトコ!昨日は何があったの!?」
「何度電話しても出ないし‥」

サトコ
「ご、ごめん‥携帯の電源切ってて‥」

千葉
「無断欠席者なんて初めてだから、みんなびっくりしてるよ」

サトコ
「無断欠席‥」

(そっか‥そういうことになるんだよね‥)
(連絡しようにも署で報告書造りに協力してたし、終わった時にはもうお昼だったし‥)
(って言い訳はよくない)

サトコ
「夜中に加賀教官に呼び出されて、ちょっと捜査の囮になって」

鳴子
「囮って‥!大丈夫だったの?」

サトコ
「うん。なんとか犯人は確保できたんだけど‥無断欠席はさすがにまずいよね」

千葉
「成田教官が教官たちと『大問題だ!』って大騒ぎしてるって聞いたけど」

サトコ
「成田教官‥」

(ねちねちイヤミ言われるくらいで済めばいいとは思ってたけど‥)

成田
『氷川サトコ、すぐに教官室・成田のところに来るように』

アナウンスがかかり、周りがざわめく。

サトコ
「あ‥」

鳴子
「教官室なら、加賀教官がいるじゃない?」

千葉
「いや、成田教官は古株だから、別の教官室じゃなかったかな」

サトコ
「と、とにかく行ってくるね」

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【常任教官室】

常任教官室へ行くと、奥の個室から出てきた成田教官にいつも以上の厳しい顔で迎えられた。

成田
「ここに呼ばれた理由はわかるな」

サトコ
「はい‥」

成田
「なぜ昨日の講義に出なかった。内容次第では処分も検討する」

サトコ
「あ、あの‥加賀教官の捜査に同行していました」
「犯人を確保したのが明け方で‥そのあと、署で報告書の作成を」

その瞬間、成田教官の眉間に皺が寄る。

成田
「加賀だとぉ?」
「そうか、お前は加賀の補佐官だったか」
「たいして使えないくせに、素人が捜査にノコノコついて行くな」

サトコ
「申し訳ありません‥」

成田
「だいたい、加賀はいつも勝手な行動ばかりで、手柄手柄と‥」

加賀
手柄のひとつも上げられない人間にとやかく言われる筋合いはねぇ

振り返ると、加賀教官がこちらを見ていた。

加賀
大先生は、生徒にイヤミを言って手柄を取ったおつもりで?

成田
「なんだと!?貴様、誰に向かってそんな口を‥」

加賀
行くぞ。仕事だ

サトコ
「え!?あの‥」

慌てる私に構わず、教官はさっさと教官室を出て行ってしまった。

サトコ
「し、失礼します!」

成田
「待て、加賀‥!」

【廊下】

急いで教官を追いかけると、ようやく追いついた私に振り向きもせず、教官が口を開く。

加賀
クズが

サトコ
「す、すみません‥あの、助けていただいてありがとうございました」

加賀
余計な時間を取らせるな
テメェは俺の駒だってこと、もう一度その体に叩き込んでやろうか

サトコ
「そ、それはもう重々承知してますから‥!」

加賀
あんな雑魚に手間取ってんじゃねぇ

サトコ
「でも、放送で呼び出されたら行かないわけには」

加賀
あんな小物、適当にあしらっとけ
それより行くぞ。横分け野郎のせいでとんだロスだ

舌打ちしながら、教官が廊下を歩き続ける。

(仕事のためとはいえ、わざわざ成田教官のところまで迎えにきてくれた‥)
(相変わらず怖いし、『駒』だけど‥)
(なんか、嬉しいな)

【教官室】

その日の夕方、教官との操作が終わり、報告書を作成するために教官室に向かった。


サトコちゃん、お疲れさま
あれ、兵吾さんは?

サトコ
「別件の捜査があるからって、また行っちゃいました」


そっか。大変だったねサトコちゃん

サトコ
「いえ、報告書の作成はもう慣れてますから」


そのことじゃなくて、成田教官に呼び出しされてたでしょ
あ、でも兵吾さんが助けてくれたんだっけ

サトコ
「はい。成田教官はカンカンでしたけど‥」


よかったね。兵吾さんが助け舟出してくれるのなんて、チーム内でもめったにないよ

サトコ
「でも、そのあとすぐ捜査に出たので‥たぶんそのためだったんだと思います」


そうかな。もしかして兵吾さんなりの愛情表現だったりしてね

サトコ
「あ、愛情!?」

東雲教官の言葉に、一気に鼓動が跳ね上がる。

(仕事のためだからだと思ってたけど‥)
(もしかして、本当に私を助けに来てくれたのかな)

サトコ
「でも、余計な手間を取らせるなとか、助けたわけじゃない、とか言われたし‥」
「いやだけど、東雲教官がそう言ってくれるなら‥」


サトコちゃん、心の声漏れてるよ

サトコ
「え!?」


ハハ、ほんとおもしろいよね

(加賀教官の愛情表現か‥本当にそうなら嬉しいんだけどな)

【食堂】

その夜、食事を済ませて食器を下げると、いつも顔を合わせるおばちゃんに呼び止められた。

おばちゃん
「サトコちゃん、今日も加賀教官の部屋に夕食持って行ってくれる?」

サトコ
「えっ?教官、まだ食べてないんですか?」

おばちゃん
「届けて欲しいって連絡が入ったのよ。はいこれ、よろしくね」

トレイを渡され、その足で教官の部屋に向かった。

【寮監室】

食事を持っていくと、教官はシャワーを浴びたあとらしく、まだ少し髪が濡れていた。
咄嗟に目を逸らすと、教官は不機嫌そうに言った。

加賀
今度から、野菜は抜いて持って来い

サトコ
「え?」

あからさまに、ほうれん草のあえ物や味噌汁の中の玉ねぎを残している。

(玉ねぎだけ避けるって、逆にすごいな‥)

サトコ
「でも、バランスよく食べた方が‥」

加賀
チッ

サトコ
「教官って、どうしてそんなに野菜が苦手なんですか?」

加賀
見た目が鮮やか過ぎる

サトコ

「でも、そうじゃない野菜も」

加賀
草食ってる気分だ

サトコ
「草‥」

(うーん、頑なだ‥)

食べながら書類に目を通す教官を眺めていると、不意にまた2人きりなのだと気づいた。

(私のことどう思ってるのか、今なら聞ける‥かも)
(捜査でたまに役立つ、都合のいい『駒』なのか‥)

加賀
なんだ

サトコ
「あの‥教官に聞きたいことがあるんです」

加賀
暇じゃねぇ。手短に話せ

書類から目を離さないまま、教官が答える。

サトコ
「私は、教官にとってーー」

to be continued

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