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加賀 続編 2話

【教官室】

後藤
見合い?

颯馬
サトコさんが?

サトコ
「はい‥」

加賀
‥‥‥

室長からお見合いの話を持ちかけられた、その夜。
なんとなく肩身の狭い思いをしながら、教官室へとやってきた。

颯馬
どうしてまた、そんなことに

東雲
ずいぶん物好きがいたもんだね
ああ‥物好きは他にもいるんだっけ?

サトコ
「!?」

(し、知ってる?東雲教官、私と加賀教官のこと、知ってる‥?)

難波
今回は先方たっての希望だ
前に公安学校を見学に来た幹部候補生が、氷川に一目惚れした‥らしい

おお、と声をあげる東雲教官と颯馬教官のそばで、後藤教官が軽く目を見張る。
石神教官、そして加賀教官は、まったく興味がないと言うようにデスクで書類を見ていた。

サトコ
「一目惚れって‥私、その人と話したんですか?」

後藤
覚えてないのか

サトコ
「は、はい‥申し訳ないことに‥」

難波
ハンカチを落とした時、お前が親切に拾ってくれたって言ってたぞ

サトコ
「ハンカチ‥ハンカチ‥?」
「言われてみれば、そんなことがあったようななかったような、なかったような‥」

東雲
どっち?

サトコ
「ハンカチを拾ったのはなんとなく覚えてるんですけど、相手が男だったか女だったか」

東雲
記憶力悪すぎじゃない?
まあ、これだけ男ばっかりの中に女の子がいたら、3割増しくらいには見えるよね

後藤
3割で済むのか‥?

サトコ
「後藤教官、何気に傷つきますから‥」

颯馬
みんな嫉妬してるんですよ
サトコさんは気配りのできる優しい女性で、教官室の華ですから

(うう‥お世辞だとしても、今は颯馬教官の言葉に癒される‥)
(加賀教官は、全然こっち見てくれないし‥)

サトコ
「あの‥難波室長、そのお見合いって、絶対受けなきゃいけないんでしょうか?」

難波
まあ、最終的にはお前の判断だ
お偉いさんの息子だから、会わずに断ると、色々と面倒なことになるかもしれないが

東雲
会ってから断る方が、もっと面倒なことになるかもよ?

サトコ
「選択肢ないじゃないですか‥」

颯馬
会った方が話が合わなかったとか、色々と言いようもありますよ

サトコ
「あ!じゃあ勉強と補佐官の仕事で忙しいから会えない、っていうのは」

難波
先方は、お前の都合に合わせていつまでも待つそうだ

颯馬
サトコさん、かなり気に入られてますね‥

サトコ
「うう‥」

難波
ああ、そういや、これを預かってきた

難波室長が、私に一通の封筒を手渡す。

東雲
うわ、ラブレター?いまどき?

サトコ
「そ、そうみたいです‥」

東雲
開けて、読んでよ

サトコ
「ここでですか!?」

みんなの視線を感じながら封筒を開けると、几帳面な文字で書かれた手紙が出てきた。

(えっと‥『先日の見学の際は』)

その時、目の前からパッと手紙が消える。

東雲
『先日の見学の際は、丁寧に対応していただきありがとうございました』

サトコ
「わーっ!東雲教官、返してください!」

颯馬
歩、悪趣味ですよ
えーどれどれ。『僕にとってあの時のあなたは、天使のように見えて』

サトコ
「颯馬教官まで!!」

(たった今、悪趣味って言ったのに!)

サトコ
「や、やめてください!声に出して読まないでください!」

加賀
‥‥‥

慌てて颯馬教官に抱きつくように止める私に、加賀教官が冷たい視線を向ける。

(なんで‥怒ってる!?)

颯馬
『男性の中で頑張る姿は、荒野に咲いた一輪のすずらんのように、可憐で美しく‥』

東雲
すずらんって、毒あるけどね

サトコ
「もう!東雲教官!」

難波
どうする?お前がどうしても無理っていうなら、俺から断っておく

サトコ
「はあ‥」

(だけど、そうなると室長の立場が悪くなるんじゃ)
(荒野に咲いた一輪の花、か‥嬉しいけど、でも‥)

加賀
よかったな。物好きがいて

いつの間にか私の後ろから手紙を覗き込んでいた加賀教官が、イヤミっぽく笑う。

<選択してください>

A:全然よくない

サトコ
「全然よくないですよ!知らない人にそんなこと言われても」

東雲
へえ、じゃあ誰から言われたかったの?

サトコ
「えっ?」

東雲
サトコちゃんだって、好きな人の一人や二人いるでしょ?

サトコ
「ふ、二人はいません!」

難波
なんだ、そういう相手がいるのか

サトコ
「いえ、その‥!」

B:気にならないの?

サトコ
「‥教官、気にならないんですか?」

小声でそう言うと、加賀教官が意地悪に笑った。

加賀
クズの恋愛事情なんざ、知らねぇな

東雲
サトコちゃんって、ほんとに乙女だよね

サトコ
「え‥」

見ると、東雲教官が私の心を見透かしたようにニヤニヤ笑ってる。

C:手紙を隠す

サトコ
「み、見ないでください!」

慌てて手紙を隠すと、教官が顔をしかめる。

加賀
見られて困るもんなのか?

サトコ
「そ、そうじゃないですけど‥恥ずかしくて」

東雲
確かに、いまどき『荒野に咲いた一輪の花』はないですよね~

(東雲教官、絶対わかってて言ってる‥!)

もう興味が薄れたのか、加賀教官がデスクに戻る。

(もう少しぐらい‥気にしてくれてもいいのに‥)

その背中を眺めながら、なんとなく、もやもやするのもを感じた。

【寮】

数日後、私たちはヘトヘトになりながら寮に戻ってきた。

千葉
「キツイ‥」

サトコ
「うん‥今すぐ部屋に帰って寝たい‥」

鳴子
「体力づくりのために20キロ走って、そのあと縄抜けの訓練とか、どんだけ鬼なの‥」

サトコ
「私、何度やっても縄抜けを習得できない‥」

千葉
「でも、鬼レベルで言ったらやっぱり加賀教官がダントツだよ」
「教官だったら、たぶん20キロ走って縄抜けしたあと、射撃訓練とかもやりそうだし」

サトコ
「射撃訓練か‥精神力を使うよね」

(加賀教官かあ‥あれから、お見合いの話は一度もされてないけど)
(どうしようかな‥教官と付き合ってるとは言えないし、なんとか断る方法は)

鳴子
「でも、なんでこんなに無茶な訓練ばっかり続けるんだろうね」

千葉
「体力がないと、現場はもちろん、長時間に及ぶ取り調べにも耐えられないから‥だって」
「確かに、被疑者を吐かせる前にこっちがダウンしたら、恰好つかないしね」

サトコ
「長時間に及ぶ取り調べ‥って、確か許可がないとダメなんじゃなかった?」

千葉
「まあ、規定ではそうなってるよね」
「でも、公安はその仕事の性質上、必ずしも規定を守ってるわけじゃ‥」

鳴子
「あっ!そういえば、この間の情報漏洩の話だけど」

何かを思い出したように、鳴子が千葉さんの言葉を遮る。

鳴子
「ハッカーが公安のセキュリティを破って、情報を持って行ったって聞いた?」

サトコ
「なにそれ、知らない‥!」

鳴子
「あくまで噂よ」
「でも事件!って感じがしていいよね」

千葉
「おいおい、不謹慎だぞ」
「それに、東雲教官の目をかいくぐれるハッカーなんているのか?」

鳴子
「別に東雲教官がセキュリティを作ったわけじゃないでしょー?」

千葉さんの言葉にうなずきながらも、ハッと大事なことを思い出した。

サトコ
「私、加賀教官に呼ばれてたんだ!」

鳴子
「ええ?これから?」

千葉
「うわ、おつかれ。頑張れよ」

サトコ
「ありがと!教官室行ってくる!」

2人と別れて、慌てて加賀教官の教官室へ向かった。



【街】

教官に言われた通り、着替えてから教官室に向かう。
そのまま車に乗せられ、少し遠くまでやってきた。

サトコ
「呼び出しって、デートだったんですね」

加賀
だらしねぇ顔するな

サトコ
「だって、嬉しくて‥」

(てっきり張り込みかと思って、動きやすい服装にしてきたけど)
(デートなら、もっと女の子らしい恰好してくればよかった‥)

サトコ
「あ‥そういえば、寮でも噂になってます。情報漏洩の話」

加賀
‥‥‥

サトコ
「スパイが潜んでるとか、ハッカーがセキュリティを破って情報を持って行ったとか」

加賀
‥なるほどな

サトコ
「もしかして、何かわかったんですか?」

加賀
‥お前はやっぱりクズだってことはわかった

サトコ
「え?」

加賀
今は捜査中か?講義中か?実地指導中か?

サトコ
「い、いえ‥」

加賀
捜査官としては、勘も働くようになったらしいがな
女としての魅力は下がってんじゃねぇか?

サトコ
「ええっ!?」

立ち止まり、教官がクイッと私の顎を持ち上げる。

加賀
デートだってのに、なんだこの色気のねぇ服は

サトコ
「こ、これは‥てっきり、張り込みか何かだと思って」

加賀
なるほどな
で?デートだと喜んだ直後、もう頭ん中は事件のことでいっぱいなわけだ
随分と刑事として成長してんじゃねぇか

サトコ
「ち、違うんです‥でも、どうしても気になっちゃって」

加賀
それのどこが違う?

(ああ‥明らかに不機嫌になってる!)

サトコ
「お、女としても頑張りますから‥許してください!」

加賀
なにをどう頑張る?

サトコ

「それは‥」

言いよどむ私の腕を掴み、教官がすぐ近くの小道を曲がった。



【路地】

ひと気のない道に入るとすぐ、教官が私の背中を壁に押し付けて、深く口づける。

サトコ
「!?」

加賀
ほら、ちゃんと応えろよ

突然、塞がれた唇は少し離れただけで‥
教官がしゃべる度に、息をする度に、微かにそれは触れ合っている。

サトコ
「な、何を‥」

加賀
そんなこともわかんねぇなら、今すぐ寮に戻って寝ちまえ

サトコ
「で、でも‥外ですし‥」

加賀
誰も見ちゃいねぇ

サトコ
「だ、だけど‥」

加賀
これ以上、焦らすとどうなるかわかんねぇぞ?ああ?

サトコ
「‥っ!ズルいんだから‥!」

震える手を教官の腕に添えて、自分から唇を重ねる。
恐る恐る舌を絡めると、教官が私の腰を抱き寄せた。

加賀
‥もっと俺に教えろよ
お前が女だって

サトコ
「あ‥」

加賀
‥来い

私の返事を聞かず、教官はさらに路地の奥へと向かった。

【ホテル】

近くのホテルに部屋を取ると、教官はスーツをベッドに脱ぎ捨てた。
戸惑う私をベッドに押し倒し、さっきよりもさらに激しく唇を貪られる。

サトコ
「きょ、教官っ‥」

加賀
もう、終わりか?

サトコ
「え‥」

加賀
お前の頑張りはこの程度か

私の唇の端に指を差し入れると、教官が微かに口を開けさせる。
触れ合う熱が、僅かな隙間から漏れる息が、お互いの気持ちを煽った。

サトコ
「ま、待って‥シャワーぐらい‥」

加賀
待てねぇ

焦らすように、教官が私の服の裾から手を差し入れる。
直接肌を撫でられて、甘い吐息が漏れそうになるのを必死に我慢した。

加賀
聞かせろよ

サトコ
「でも‥」

加賀
それも男を煽るって、わかってねぇのか

温かい手が素肌に触れて、体が震える。
まくり上げられた服から覗いた肌を、教官の唇が這っていく‥

サトコ
「っ‥‥!」

加賀
我慢すんなって言ってんだろ
それとも‥俺よりも事件の解決が大切なら、学校に戻るか?

冷たい言葉の中に、どこか普段とは違う響きを感じた。

<選択してください>

A:戻りません

サトコ
「‥戻りません」

加賀
‥‥‥

サトコ
「教官と‥一緒に‥いたいです‥」

加賀
んなこと、とっくにわかってる

B:嫉妬ですか?

サトコ
「も、もしかして‥事件に嫉妬してるんですか?」

加賀
‥‥‥
いい度胸してんな

ニヤリと笑い、教官がさらにきつく肌に吸い付いた。

サトコ
「きゃ‥っ!」

C:戻っていいの?

サトコ
「‥戻っていいんですか?」

教官はそれでいいのか、と聞きたかったけど、別の意味に捉えられてしまったらしい。
教官はおもしろくなさそうな顔をすると、少し強引に唇を重ねた。

加賀
‥戻りたきゃ戻れよ

サトコ
「戻らないです‥」

加賀
もっと啼かせてやる。俺が満足するまでな

サトコ
「教官、待っ‥‥」

そのまま、一緒にベッドへと沈み込んだ‥

教官の腕の中でまどろんでいると、不意に首筋に冷たい感覚を覚えて目が覚めた。

サトコ
「ん‥?」

加賀
寝過ぎだ

サトコ
「え‥?ご、5分くらいうとうとしただけですよ」
「それより今、何か‥」

さっきのことを思い出して、何気なく胸元を見る。
そこには、細いチェーンの先に小さなハートと宝石がついている、繊細なネックレスがあった。

サトコ
「これ‥」

スマホ 050

加賀
首輪だ

サトコ
「く、首輪!?」

加賀
これからも、しっかり働いてご主人様のご機嫌を取れよ、クズ

サトコ
「首輪なのに、犬じゃなくてやっぱりクズなんですね‥」

加賀
犬の方がよかったか?マゾ

サトコ
「マゾじゃないですよ!教官がサドなだけで」

思わずそう言ってから、慌てて口をつぐむ。
教官は顔をしかめるように笑っただけで、何も言わなかった。

サトコ
「ありがとうございます‥すごく嬉しいです」
「でも、どうして急に‥」

加賀
‥見合い

サトコ
「えっ?」

加賀
決めたのか?

サトコ
「え‥あの、その‥」
「私も、どうしていいかわからなくて‥」
「でも、難波室長の立場が悪くなると困るし、とりあえず会うだけでもした方がいいのかなって」

加賀
そうだな

短く教官が答える。

サトコ
「‥教官は、それでもい‥」

加賀
見合いしたからって、どうってことはねぇ
お前には、他の男になんざ尻尾振ったらどうなるか、今までその体に教え込んできたからな

サトコ
「!?」

加賀
難波さんの顔を潰せねぇのは、俺も感じてる
見合いぐらい、とっとと済ませてさっさと帰って来い

サトコ
「‥はい!」

(教官は、私のことを信用してくれてるからお見合いの話に何も言わなかったんだ)
(『帰って来い』って‥『自分のところに』ってことだよね)

加賀
ニヤけてんじゃねぇ

サトコ
「だって‥まさか教官が、そんなふうに思ってくれてたなんて」

加賀
これだけ躾けても、まだわかんねぇのか、うちの犬は

嬉しくて、自分から教官の背中に腕を回す。
再びその唇を全身に感じ、さっきよりも甘い刺激に身を震わせた。



【学校 廊下】

翌日、学校に行くと普段よりも校内が騒がしいことに気づいた。

(なんだろう?また何かあったのかな)

鳴子
「いたいた!サトコ、大変大変!」

サトコ
「鳴子、おはよう。どうしたの?」

鳴子
「教官たちから何も聞いてない?また、情報漏洩だって!」

サトコ
「え!?」

鳴子
「今度は、半年後に控えてるサミットの警備態勢がネットで拡散」
「構想段階の情報まで漏れたから、やっぱり犯人は内部なんじゃないかって‥」

内部。
その一言に、背筋をゾクリとした感覚が走り、鳥肌が立った。

to be continued

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