カテゴリー

加賀 続編 7話

加賀
ガキが他人のもんに手を出すとは、親の躾が足りねぇな
コイツは俺のもんだ。悪いが、返してもらうぞ

ドアを蹴破って入ってきた加賀教官が、私の前に立ちはだかる。

サトコ
「教官‥」

加賀
世話焼かせんな、クズが

厳しい言葉のように聞こえるけど、教官の表情はどこか切ない。

(心配してくれてたんだ‥)
(あんなに口が悪くて怖いのに、教官こそが正義のヒーローみたい‥)

しゃがみ込み、教官が私の涙を拭う。
拾い上げたナイフで私の縄を切ってくれると、銃を下した。

加賀
ガキが、粋がりすぎたな
あんまり“オトナ”を舐めんじゃねぇ

昭夫
「‥あんただって、他の大人と同じだよ」
「結局は自分が一番かわいいんだ。この腐った世の中に満足してる」

加賀
てめぇがどう思おうと、知ったこっちゃねぇがな

後藤
加賀さん!氷川は無事ですか!?

加賀
ああ、ここでだらしなく転がってやがる
そのガキを連れてけ

入ってきた後藤教官に昭夫くんを引き渡すと、船内に2人きりになる。
その瞬間、教官が私をきつく抱きしめた。

サトコ
「教官‥」

加賀
駄犬が主人に心配かけんじゃねぇ

サトコ
「すみません‥」

加賀
‥‥‥

加賀教官の腕に力がこもる。

サトコ
「でも、どうしてここがわかったんですか?」

加賀
お前が出て行ったあと、歩がLIDEからIPアドレスを割り出した
足がつかねぇように誤魔化してたらしいが‥
所詮、素人は素人だ

サトコ
「それってやっぱり、里田さんの‥」

加賀
ああ、奴の自宅のIPだった
すぐに後藤たちと踏み込んだが、いたのは再婚相手だけだった

そのあと、昭夫くんの部屋のパソコンに残っていた、この廃船の情報を頼りに、
私を探して、みんなで駆けつけてくれたらしい。

サトコ
「じゃあ、私が昭夫くんのところへ行かなければ、もっと早く解決してたんですね‥」

加賀
さあな。勘付かれて逃げられてた可能性もある
お前が他の人間に尻尾振ってじゃれついたおかげで、確保できたと言えなくもねぇ

褒められているような気はするものの、教官の言葉にはトゲがある。

(一人で突っ走ったこと、やっぱり怒ってる‥!)
(でも、どんなに怒られても‥教官が、私の正義のヒーローだったんだ)

船から脱出すると、昭夫くんは後藤教官たちに手錠をかけられているところだった。
私を見ると、悪びれもせず鼻で笑う。

昭夫
「‥ゲームオーバー、か」

サトコ
「昭夫くん‥」

(この子は、このままじゃダメだ‥全然反省なんてしない)

昭夫
「それで?ボクはこれから尋問されるわけ?」

颯馬
ずいぶんと素直ですね

昭夫
「ボクが捕まっても、世の中は何も変わらないよ」
「ボクはバカな大人にわからせてやったんだ。子どもだって世の中を変えられるって」

加賀
クソが。てめぇが一番くだらねぇよ
それで世の中を動かしたつもりか?確かに、てめぇが言うように何も変わらねぇ
結局、この世を変えていくのは、てめぇがバカにしてる大人だ

昭夫
「だけど、世間はどう思うだろうね?」
「ただの高校生のボクが公安の機密情報を手に入れて、それを流したって知ったら」
「あんたたちの信頼はガタ落ちだよ。子どもに負けたキャリア組ってね」

石神
今回の情報漏洩に関しては、すでに報道規制を敷いている

まったく表情を変えず、石神教官が冷たく言い放った。

昭夫
「な‥!」

石神
これ以上、世間を騒がせる必要はない
キミがLIDEというツールを使って流した情報も、すでに削除済だ

昭夫
「なんで‥なんでボクがやったって報道しないんだ!」

サトコ
「昭夫くん‥どうしてそんなに、自分を報道してほしいの?」

昭夫
「ボクがやったんだって、世間にしらしめてやりたい」
「その邪魔をするな!ボクはこの世の上に立つ『悪』になるんだ!」

加賀
どこまでもくだらねぇ雑魚だな、お前は

面倒なものを見るような目で、教官が言葉を吐き捨てる。

加賀
それで、てめぇは何になりたい?そのためにてめぇは何をした?
他力本願もいいところだな。反吐が出る

昭夫
「この世は所詮、犯罪に踊らされてるんだ!」
「この世から悪がなくなったら、正義なんて成り立たない」

そう言って、昭夫くんは勝ち誇ったように私を見た。

昭夫
「いいの?悪がいなくなったら、あんただって正義のヒーローでいられなくなるよ」

<選択してください>

A:私はヒーローじゃない

サトコ
「‥私は、ヒーローなんかじゃないよ」

昭夫
「よく言うよ。ボクにそう言われた時、まんざらでもない顔したくせに」

(確かに、正義のヒーローみたいって言われた時は嬉しかった‥)
(ヒーローに憧れてたことも、そういう刑事になりたかったのも事実だけど)

B:悪は必要ない

サトコ
「この世に開くなんて必要ない」
「悪がいなければヒーローになれない世界なんて、おかしいよ」

昭夫
「でも実際はそうだろ?平和な世界になったら、正義なんていらなくなる」

サトコ
「悪がなくなって平和な世界になるために、私たちは毎日仕事してる」

C:悪はなくならない

サトコ
「きっといつになっても、この世から悪はなくならないよ」

昭夫
「そうだろうね。あんたたちみたいなくだらない大人がいる限り」

加賀
違うな。てめぇみたいな浅はかなガキがいなくならねぇ限り、だ

昭夫
「嬉しいでしょ?だからあんたたちは、正義のヒーロー気取りでいられるんだから」

昭夫くんから視線をそらし、加賀教官を見る。

サトコ
「‥弱い人たちを守るのが、自分の役目だと思ってた」
「だから、不正は許せなかったし‥正しい行為で、犯人を捕まえたかった」
「でも‥」

加賀
‥‥‥

(教官たちは、事件を未然に防いだ‥自分たちがどうなろうと構わないっていう信念を持って)
(私に足りなかったのは、覚悟だ‥何をしても絶対犯人を捕まえる、っていう)

サトコ
「正義だとか悪だとかにこだわってるけど」
「昭夫くんを助けてくれたのは、お父さんの『正義』と『悪』だよ」

昭夫
「なんで、今あいつが出てくんの?」

サトコ
「お父さんが昭夫くんをかばって黙秘してるのは、罰せられなきゃいけない『悪』だけど」
「でも‥それはきっと、お父さんにとっては子どもを守る『正義』じゃないかな」

昭夫
「あいつが、ボクのために黙秘してるって?自分の身がかわいいからだろ」
「不倫して母さんに離婚されて、その不倫相手と再婚して」
「ボクの気持ちなんてどうでもいいんだ。結局、自分が一番かわいいんだよ」

加賀
ただ喚き散らして、どこまでガキだ

昭夫
「そのガキに踊らされたのはあんたたちだ!」

加賀
だが、バカにしてる『正義』に負けたのはてめぇだ

教官が、口の端を持ち上げて私を見る。

加賀
確かに、こいつの言う『正義』はくだらねぇ。ガキが口にするような青臭い理想だ
だが‥それが必要な時もあんだよ

サトコ
「‥教官」

加賀
コイツの正義に、てめぇの父親は命を拾われたんだろ

(それって‥あの取り調べの時の話‥?)

加賀
まっすぐな正義と、曲がったどす黒い正義‥どっちも必要だ
少なくとも、てめぇみてぇに自分で何もせず喚いてるよりはマシだ

昭夫
「‥‥‥」

教官の言葉に、昭夫くんはじっとうつむいたままだった。



【教官室】

昭夫くんの事情聴取が終わって戻ってくると、教官室に難波室長がやってきた。

難波
どうだ?吐いたか?

石神
こちらが驚くほどおとなしく、今までの経緯を全部話しました

難波
なら、里田は釈放だな

颯馬
息子が捕まり、自分が釈放される‥複雑な心境でしょうね

サトコ
「あの‥難波室長」

気まずい中、難波室長に駆け寄る。

サトコ
「色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「あんなものを出しておきながら、勝手なことを言ってるとわかってます。でも‥」

難波
ああ、あの紙キレか
あれな、もうとっくに破いて捨てた

サトコ
「え!?」

難波
加賀に教育されても音をあげない奴が、考え方の違いで辞めるとは思えないからな
そういう奴は、巡り巡ってちゃんと自分の答えに行きつくもんだ

満足そうに微笑んだ後、難波室長がふと思い出したように少しめんどくさそうな表情になった。

難波
それより、お前は始末書な

サトコ
「へ?」

難波
里田昭夫を犯人だと決めつけて、一人で身柄の確保に向かった
本来なら、上官である加賀に許可を取って行くべきだ‥規律違反だ

サトコ
「え!?私、別に昭夫くんを確保しに行ったわけじゃ」
「あれは、里田さんがもしかして昭夫くんを人質に取られてるんじゃないかと思って‥」

言いかけて、思わず言葉を止める。

難波
どうした?

サトコ
「いえ、あの‥」

(これって、誤解を解いた方がいいの?解かない方がいいの?)
(公安としては、『実は昭夫くんをマークしてた』って言っておいた方がいいし)
(でも、別に手柄とかそういうのは‥)
(だけど公安の評価が上がれば、教官たちも)

難波
‥お前、いつもそうなのか?

サトコ
「え?」

難波
考えてることが、だだ漏れだな

ハッと気づくと、教官たちが苦笑いしてる。

サトコ
「す、すみません!あの‥とにかく、始末書書きます!」

難波
ああ。それでな‥

加賀
難波さん、いいですか?

教官が私の腕を取り、室長から引き離す。

加賀
できねぇ部下の教育の時間なもんで

難波
ああ、悪かったな

サトコ
「教育‥!?」

(躾とかお仕置きの間違いじゃなくて‥!?)

みんなに見送られながら、加賀教官に連れられて、私は教官室を出た。



【屋上】

教官に連れられてやってきたのは、学校の屋上にある庭園だった。

(そういえば今まで、何度もここで教官と話をしたよね)
(付き合う前も、クズとか雑魚とか、色々罵られたけど)

加賀
おい

サトコ
「教官‥私、頑張ろうと思います」

加賀
あ?

サトコ
「色々考えて、悩んで‥きっと私の考えは、これからも変えられないと思うけど」
「でも、変えないまま‥私の正義を貫こうって思うんです」

加賀
あの甘ったるい、クソみてぇな正義か

<選択してください>

A:必要なんですよね?

サトコ
「甘くて子どもみたいな正義でも‥たまに、必要になる時があるんですよね?」

加賀
‥‥‥

チッ、と教官の舌打ちが聞こえて、思わず笑ってしまう。

加賀
いらねぇことは忘れろ

サトコ
「無理です。ずっと覚えてます」

B:甘くてもいいんです

サトコ
「甘くてもいいんです。教官が必要としてくれるなら」

加賀
俺がいらねぇって言えば捨てんのか?

サトコ
「それは‥わかりませんけど」

(ううん、きっと捨てられない‥これが、私の考え方だから)

C:変えた方がいいですか?

サトコ
「‥やっぱり、考え方を変えた方がいいですか?」

加賀
変えろって言われて変えられるもんなら、とっとと捨てちまえ
そんなもんは正義感でもなんでもねぇ。てめぇの自己満だ

(確かに、捨てようと思っても捨てられないのが、本当の正義だよね‥)

サトコ
「甘いことを言ってるのはわかってます」
「まだまだ経験も足りないし、自分の『正義』だけで判断できない事の方が多いのも」

加賀
それを自覚できただけでも、成長だな

サトコ
「だから、これから公安のこと、警察のこと‥もっと知りたいんです」
「その上で、自分はどう動くのかを決めたいって」

加賀
‥‥‥

真っ直ぐに見つめる私に、教官も真っ直ぐな視線を返してくれる。

サトコ
「公安刑事として‥私を鍛えて下さい」
「自分で判断できるようになるまで、もっともっと頑張りますから!」

加賀
これ以上、いじめられてぇのか

ニヤリと笑い、教官が私の顎を持ち上げる。

加賀
てめぇは、どこまでもマゾだな

サトコ
「サドの教官と、相性いいと思います」

フッと、一瞬だけど教官が笑った気がした。

加賀
クズなりに、使えるようになってきたか

サトコ
「私‥教官みたいになりたいんです」

加賀
あ?

サトコ
「船まで、私を助けに来てくれた時‥教官は間違いなく、私の正義のヒーローでした」

加賀
柄じゃねぇ

サトコ
「だけど‥私も、そうやって誰かを助けられる人になりたいんです」
「教官みたいに、確固たる信念を持った刑事に」

加賀
‥覚悟しとけ

サトコ
「え?」

加賀
「叩き込んでやるよ、お前の体に」
‥影の正義、ってやつをな

私の返事は、教官のキスに吸い込まれる。
うなずくかわりに、教官の背中に、そっと手を回した‥

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする