カテゴリー

加賀 続編 ハッピーエンド



必死に首を振る私の頭を軽く小突くと、教官が歩き出す。

加賀
明日、出掛けるぞ

サトコ
「わかりました!捜査ですか?」

加賀
バカが

ニヤリと笑うと、すぐ手前の資料室のドアを開ける。

加賀
‥躾の時間だ

意味深な言葉と笑みを残して、教官は資料室の中へ消えた。

(し、躾‥!?なんで!?私、何かした!?)
(でもそういえば、実家から帰ってきたあと)
(『あとでたっぷり躾けてやる』って言われたような‥)

身震いした時、校内にチャイムの音が響き渡った。
急いで教場へ向かう私に、教官から待ち合わせの時間と場所を告げるメールが入る。

(怖い‥!けど、行かないわけにいかない)
(勝手に退学届なんて出して実家に帰ったツケが、こんなところで回ってくるなんて‥!)



【教場】

講義が始まっても、私は落ち着かない気持ちを抱えたままだった。

(躾の時間‥なんて言われたけど、でも一応、デートだよね‥)
(教官とデートなんて、いつ以来だろう?どんな服着て行こうかな‥)

スコーン!

サトコ
「痛っ!」

加賀
ボサッとしてんじゃねぇ

痛みを覚えた額を押さえた時、私の手元にコロコロとホワイトボードのマーカーが転がってきた。

(また!?またこれぶつけられたの!?)

同僚男性1
「おい、また命中だぞ‥どんなコントロールしてんだよ」

同僚男性2
「さすが専属補佐官だけあって、氷川には容赦ないよな、加賀教官‥」

そんなヒソヒソ話も、教官がマーカーを拾い上げてみんなをぐるりと見た瞬間、ピタリと止んだ‥



【教官室】

講義が終わると、教官室で今日の予定を調べる。
加賀教官は半休を取っており、講義が終わり次第帰宅となっていた。

(っていうことは、必然的に私の仕事もない‥きょうはこれで終わり)
(今から家に帰って、シャワー浴びて着替えて‥バッチリ、待ち合わせに間に合う!)

東雲
キミさ、どうしたの?ニヤニヤして、気色悪いよ

サトコ
「あの‥せめて『気持ち悪い』って言ってもらえませんか」
「気色悪いって、なんか傷つくんですけど‥」

東雲
そう?どっちにしても、傷ついた方が良さそうだよね

サトコ
「う‥」

東雲
ところで‥さっさと帰ったら?
兵吾さんを待たせたら、お仕置きや教育どころじゃなくなると思うけど

サトコ
「え!?」

(東雲教官、今日は加賀教官とデートだって気づいてる!?)
(なんか、教官たちには隠し事ができない気がする‥)

サトコ
「えーと‥それじゃ私、お先に失礼します‥」

東雲
兵吾さんによろしくね

サトコ
「な、何を仰っているのやら‥」

逃げるように、教官室を出た。

【寮 自室】

急いでシャワーを浴び終え、いくつも服を並べて教官好みのものを考える。

(変にかっちりした服だと、『脱がせにくい』って怒られそうだし)
(‥いや!脱がされるって決まったわけじゃないんだけど!)

サトコ
「ダメだ‥久しぶりのデートで、テンションがおかしい」
「もう準備もできたし、そろそろ出よう!」

ソワソワしながら、部屋を出た。

ポイントサイトのポイントインカム

【駅】

待ち合わせの駅前についた時には、約束の時間の1時間前だった。

(さすがにこれは、テンション上がり過ぎだよ‥)
(よし、教官を待つ間に、ちょっと気持ちを落ち着かせよう。深呼吸、深呼吸‥)

見知らぬ男
「ねー、お姉さん、一人?」

サトコ
「え?」

見知らぬ男
「さっきからソワソワしてるけど、もしかしてナンパ待ち?」
「よかったら、一緒にメシでもどう?」

(これってもしかして、ナンパ?)
(地元にいた頃は警官だってみんなに知られてたし、ナンパされたことなんてなかったな)

ナンパ男
「ねー、どうしたの?返事してよ」

サトコ
「あ‥ごめんなさい。人を待ってるので」

ナンパ男
「まったまた~、焦らさなくていいよ。ナンパ待ちだったんでしょ?」

サトコ
「いえ、本当に待ち合わせで」

ナンパ男
「お姉さん、いくつ?俺、大学3年生なんだけどー」

(大学生‥年下かぁ)
(だからかな。この軽いノリについていけない‥教官だったら絶対舌打ちとかしてるよね)

サトコ
「あの、そろそろ彼氏が来ますから」

ナンパ男
「なんで?メシくらい奢るよー。そのあとはカラオケとかどう?」

(‥話、噛みあってない)
(どうしようかな‥なんか、面倒な人に絡まれたような)

ナンパの男
「この先にいい店があるんだよねー。俺の先輩がやってるんだけど」
「そこなら邪魔されず2人きりになれるしさ。ほら、行こうよ」

サトコ
「あの!いい加減に‥」

加賀
俺の女になんの用だ?

低い声に振り返ると、加賀教官が男を見下ろすように眺めていた。

サトコ
「あ‥」

ナンパ男
「え!?彼氏と待ち合わせってマジだったの?」

サトコ
「だから、何度もそう言ってるのに‥」

ナンパ男
「なんだ~、それならそうと早く言ってよ。俺、てっきり‥」

加賀
喚くな

教官の一声に、男が真っ青になって押し黙る。
そして、必死に頭を下げながら逃げるように走り去った。

加賀
あの程度で逃げるなんざ、捨て駒にもなんねぇな

サトコ
「そういう基準で一般市民を見るのはやめてください‥」

加賀
てめぇも、雑魚に絡まれ過ぎだ

(でもさっき、『俺の女』って言ってくれた‥?)
(は、初めて言われた‥もう一回言ってくれないかな)

加賀
‥何ニヤけてやがる

サトコ
「あの、さっきの、もう一回‥」

言いかけた瞬間、ジロリと睨まれて慌てて首を振る。

サトコ
「なんでもないです‥」

加賀
他の男に尻尾振るなと、何度躾けてもわからねぇらしいな

サトコ
「誤解です!向こうから勝手に話しかけてきたんですよ!」
「でも、あの‥教官、もしかしてちょっと嫉妬とかしてますか‥?」

恐る恐る尋ねると、教官が私から目を逸らした。

加賀
ペットが飼い主じゃねぇ奴にじゃれ付いてたら、面白くねぇだろ

サトコ
「そ、それを世間では嫉妬、ヤキモチと言いまして‥!」

加賀
うるせぇ

コツン、と頭を小突かれ、そのまま手を引かれて歩き出す。

(いつもなら『もっと躾けてやる』とか『捨て駒にするぞ』とか言われるのに‥)
(今日の加賀教官、もしかして甘い感じ‥?)

【電車】

改札をくぐると、行き先を告げられないまま教官と一緒に電車に乗り込んだ。

サトコ
「す、すごく混んでますね‥!」

加賀
帰宅ラッシュだからな。この時間は常識だ
学校と寮の往復で、麻痺してんじゃねぇか?

蔑むように笑いながらも、教官が私の腕を引っ張って壁に寄りかからせてくれる。
そして、周りから守るように私の両脇に手をついた。

サトコ
「ありがとうございます」

加賀
先は長いからな。このあと、バスに乗り換えだ

サトコ
「どこに行くのか、まだ教えてもらえないんですか?」

加賀
言ってもわかんねぇだろ

(言ってもわからない場所‥?どういうことだろう?)
(でも、楽しみだな。教官がサプライズでデートに連れて行ってくれるなんて、初めてだよね)

【港】

1時間ほど乗り継いでようやくたどり着いたのは、大きな港だった。

サトコ
「ここって‥」

目の前には、大きな客船が停泊している。

(ま、まさか‥豪華客船でディナークルーズとか‥!?)
(でも、教官がそんなこと‥!?なんか、ピンと来ないかも)

加賀
クズが。こっちだ

サトコ
「え?」

振り返ると、教官が向かった先には、小さな屋形船が停まっていた。

サトコ
「わあ‥雰囲気ありますね!」

加賀
乗るぞ

サトコ
「は、はい!」

教官に手を貸してもらい、波に揺れる屋形船に、恐る恐る乗り込んだ。

【屋形船】

船には、私たち以外のお客さんはいなかった。

サトコ
「もしかして、貸切ですか?」

加賀
知らねぇ奴と乗り合わせるなんて、冗談じゃねぇからな

サトコ
「でも、どうして屋形船なんて‥」

問いかけた時、前方から船頭さんの声が聞こえてきた。

船頭
「この屋形船はこれから、まずは運河の方へ向かいます」

進路を説明してくれているらしかったけど、土地勘がないので地名を聞いてもまったくわからない。

(でも、この穏やかな揺れ‥なんだか落ち着くな)
(豪華クルーズよりも、こっちの方が教官らしい、って感じがするし)

サトコ
「教官はよくこの屋形船に乗るんですか?」

加賀
前に何度かな
そろそろか‥窓、開けてみろ

言われるまま、閉まっていた窓を開けてみる。

そこには、驚くほどキラキラと輝く夜景が広がっていた。

サトコ
「えっ‥あれって」

加賀
工場の明かりだ

サトコ
「工場!?すごく綺麗‥!こんなの、初めて見ました!」

加賀
当然だが、工場によって形も高さも、光の種類も異なる
ここは、かなり見栄えがいい工場地帯だ

サトコ
「そうなんですね‥」

(って、教官、すごく詳しい‥もしかして、『工場萌え』とかっていうアレ‥?)

加賀
悪くねぇだろ

サトコ
「はい!びっくりしました」

加賀
だが、お前には豪華客船の方がよかったか

サトコ
「いえ、こっちの方が‥教官の新しい一面も見れたし、嬉しいです!」

思わず笑顔で答えると、教官が私の肩を抱き寄せて耳たぶを食むように口づけた。

加賀
船頭がいなけりゃ、今ここで抱いてるところだ

サトコ
「な‥!?」

加賀
こういうところで、ってのも一興だろ

サトコ
「だ、ダメですよっ‥!」

真っ赤になって慌てる私を、教官はいつまでも抱きしめてくれていた。



【ホテル】

屋形船と工場地帯の夜景を楽しんだ後は、家に帰って2人でのんびり‥

(だとおもったのに‥な、なんでこんなことに!?)
(家どころかホテルに連れて来られて‥もしかして部屋からの夜景を楽しむのかと思ったら)

あれよあれよという間に服を脱がされて、今に至る。
湯船で、教官に後ろから抱きしめられて恥ずかしさに縮こまりながら、
私はひたすらうつむいて、恥ずかしさに耐えていた。

加賀
なんでさっきから、こっちを見ねぇ

サトコ
「だ、だって‥」

加賀
もっとこっちに来い

後ろから回ってきた手にウエストを支えられ、引き寄せられる。
教官のたくましい体と密着して、なおさら心臓がうるさく鳴り出した。

サトコ
「あ、あの‥あまり、手を動かさないでもらえると」

加賀
ご主人様に牙向けるつもりか?

サトコ
「き、牙だなんて‥」

加賀
‥来い

腕を引っ張られて湯船から出ると、洗い場の椅子に座らされた。

サトコ
「な、なんですか‥!?」

加賀
黙ってろ

シャワーで優しく髪を濡らされると、教官がシャンプーしてくれる。
綺麗に洗い流して、今度は手に泡をすくい取ると、肌に伸ばし始めた。

サトコ
「あ、あの‥」

加賀
いちいちビクついてんじゃねぇ
言っただろ、躾の時間だって

サトコ
「でも、これじゃ全然躾じゃないんじゃ」

加賀
厳しくするだけじゃ、躾けにならねぇ

なぞるように肌を撫でて行く手に、体が震える。

加賀
褒美も躾のうちだ

教官が囁く色気のある声に、バスルームの熱に、身体が侵されていく。

(やっぱり、今日の教官‥優しくて、甘い)
(私も、教官に何かしてあげたい‥喜んでほしい)

サトコ
「私も‥教官の髪、洗っていいですか‥?」

加賀
‥‥‥

泡をすすいでくれると、教官がニヤリと笑った。

スマホ 051

加賀
なら、たっぷり奉仕してもらおうじゃねぇか
俺が、満足するまで‥な

私を自分の方へ向かわせると、教官が唇を重ねる。
舌を絡め取られ、濡れた髪から雫が肌を伝う‥

(今はまだ、教官にとっては『躾が必要な犬』かもしれないけど‥)

(いつか、教官に頼りにしてもらえるパートナーになれたら‥)

綺麗な指に翻弄されて、頭がぼんやりし始める。
私たちのひそやかな声は、水音と湯気の中に消えていった。

Happy End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする