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加賀 続編 シークレット 3話

【モニタールーム】

サトコ
「私‥昭夫くんの様子を見てきます!」
「真犯人が昭夫くんに何かしたら、里田さんはずっと、真相を喋らないかも‥!」

昭夫の身を案じたサトコに、歩の勧めもあり昭夫のもとへ行かせた。

(‥お前は、昭夫が心配だって言ってたが)
(こっちは、別の心配があるんだがな)

加賀
‥尾行訓練で、良の成績を収めたのは‥

東雲
上位者なら、飯田と工藤ですよ。サトコちゃんを追わせますか?

俺の考えを読んだかのように、歩がパソコンから目を離して振り返る。

加賀
‥そうだな

東雲
サトコちゃん、1%も疑ってないですからね、カレのこと

加賀
それが、あいつのいいところだ

東雲
え?今のってノロケですか?

加賀
さっさと動け

東雲
了解

息抜きがてら、歩が飯田と工藤に指示を出しに行った。

東雲
定期的に、携帯で報告させます

加賀
ああ

東雲
昭夫がサトコちゃんの正義感に感銘を受けて、全部自白‥
‥なんてことになってくれたら、万々歳なんですけどね

加賀
‥‥‥

(歩も、昭夫が黒だと思ってる‥か)

言わなくても、お互いが考えていることはなんとなくわかる。

(証拠がない‥だが考えてみれば、LIDEなんざガキのツールだ)
(だからこそ、俺たちも見逃した‥)

歩が犯人の足取りを追いかけている間に、石神と後藤がモニタールームに入ってきた。

石神
どうなってる?

東雲
サトコちゃんに、里田昭夫の様子を見に行かせました

後藤
‥大丈夫なのか?

東雲
サトコちゃんなら、たぶん俺たちが行くよりは、昭夫を刺激しないと思いますよ

歩がこれまでの捜査状況を2人に説明する。
それが終わった頃、サトコを尾行している2人から何度か連絡が入った。

東雲
サトコちゃん、里田家の前で昭夫に接触したそうです

加賀
‥そうか

後藤
‥加賀さん

加賀
なんだ

後藤
一人で行かせてよかったんですか?

加賀
‥あいつも刑事だ。いつまでも俺たちのお守りはいらねぇだろ

石神
ずいぶんと信頼しているんだな

メガネが物珍しげにこっちを見た時、歩のスマホに何度目かの報告の電話が入る。
だが、相手の言葉を二、三言聞いた直後、歩の顔色が変わった。

東雲
‥サトコちゃんを、見失ったそうです

加賀
‥なんだと?

東雲
家の前で、突然昭夫が持っていた工具でサトコちゃんを殴ったって

加賀
なんでその時に知らせてこねぇ!

後藤

思わず声を荒げた俺を、後藤が振り返る。

石神
‥焦って、そんな余裕もなかったんだろう。尾行しているのはうちの生徒なんだろう?

加賀
‥‥っ!

東雲
昭夫はいったん、サトコちゃんを家の中に連れて行ったそうなんですけど
そのあとは裏口かどこかから出たらしくて‥尾行に気づかれてたな、これ

加賀
‥クソが!

東雲
ったく‥これじゃ、なんのために2人組で行かせたのかわかんないな

冷静な歩に苛立つ余裕さえない。
サトコが連れ去られたという事実だけで、何もかもわからなくなる。

加賀
俺が行く!歩、昭夫の居場所を割り出せたら連絡しろ!

石神
お前が言ってどうする!

加賀
氷川を連れ戻す

後藤
俺が行きます

加賀
その必要はねぇ

2人を振り切り、モニタールームのドアに手をかける。
その時、歩の静かな声が聞こえてきた。

東雲
その必要はないんじゃないですか?

悠然と、歩がおもしろいものでも見るように俺を笑う。

東雲
らしくないですよ、兵吾さん

加賀
うるせぇ。今はてめぇの遊びに付き合ってる暇は‥

東雲
たかが補佐官一人、でしょ?

後藤
歩!

思わず、歩の胸倉をつかんだ。

加賀
てめぇっ‥

石神
加賀、東雲を離せ

東雲
いいんです。でも、俺を殴ってもサトコちゃんは帰ってきませんよ?
今、兵吾さんが一人で勝手に動いて何のメリットがあるんですか?

加賀
‥‥‥

東雲
気持ちはわかりますけど、大丈夫です
この手のイタイ系犯人は、一応『計画』通りに動くはずですから
どんな稚拙な『計画』でも、自分が考えたものが一番だって盲信するタイプ

歩から手を離すと、服を整えて歩がパソコンのキーボードを叩く。

東雲
だから、速攻で殺される確率は極めて低いです

加賀
‥‥‥

東雲
言ったでしょ、ずさんな計画って

パソコンの画面には、地図が映し出されていた。

東雲
LIDEを使うときに、現在地を知らせるGPSはオフにしたみたいだけど
携帯自体をWi-Fi使用で所在地を特定させる機能は、拒否んなかったみたいですね
IPアドレスから割り出せれば‥

加賀
‥居場所がつかめるか?

東雲
もちろん

タン!

歩がエンターキーを押すと、画面上の地図の一部が大きく表示された。

加賀
‥港?

東雲
みたいですね

後藤
この港‥使っていない船がそのままになってると、苦情が来ているところだな

加賀
所轄に連絡する
‥歩

東雲
はい?

まだパソコンを操作しながら、歩が振り返る。

加賀
「‥助かった

東雲
‥‥‥
‥いーえ。兵吾さんには、いつもお世話になってますからね

加賀
相変わらず食えねぇな、お前は

東雲
あ、じゃあ今度ラーメンおごってくださいね

加賀
‥チッ

(あいつの命は、ラーメン程度か‥)

所轄に連絡しながら、モニタールームを飛び出した。



【教官室】

港でサトコと昭夫の身柄を確保すると、そのあとは捜査も順調に進み‥
里田昭夫の自供が取れて、事件も解決へと動き出した。

サトコ
「加賀教官、言われた資料持ってきました」

加賀
遅ぇ

サトコ
「だって、こんな膨大な量ですよ!」
「鬼!」

加賀
ああ?もっと躾られたいか?

サトコ
「め、滅相もないです!」

慌てる姿を見て、喉の奥で、くっと笑う。

サトコ
『公安刑事として‥私を鍛えてください』
『自分で判断できるようになるまで、もっともっと頑張りますから!』

(あの宣言は、悪くなかったな‥)
(その後の言葉には‥)

サトコ
『私を助けに来てくれた時‥教官は間違いなく、私の正義のヒーローでした』

(悪かねぇな、ヒーローってのも‥)

ドアが開いて、珍しく難波さんが顔を出す。

難波
氷川はいるか?

サトコ
「はい!なんでしょう?」

難波
あの話、どうなった?

サトコ
「あの話?」

難波
見合いだ

サトコ
「!?」

バサバサバサ!

サトコの手から、持っていた資料のファイルが落ちて床に散らばった。

サトコ
「あ、あの‥それは」

加賀
‥‥‥

サトコ
「ち、違うんです‥!いろんなことがあって忘れてて」

泣きそうな顔になりながら、サトコがあたふたする。

(‥躾がどうやら、足りなかったようだな)
(他の男への尻尾の振り方なんざ、どこで覚えてきやがったんだ、ったく‥)

一瞬焦ったものの、俺に誤解されまいと必死なサトコを見てそう思っていると、
歩と透がニヤニヤしていることに気づいた。

加賀
‥なんだ

東雲
もう、いっそのこと兵吾さんから断っちゃっていいんじゃないですか?

黒澤
ですよねー。大事な大事なサトコさん‥
‥という名の専属補佐官がお見合いなんてしたら、仕事に支障が出ますしねっ!

がっと、黒澤の顔面を片手でつかんだ。

加賀
てめぇは毎回、ココに来すぎだ、あぁ?とっとと自部署に行って仕事しろ‥っ!

黒澤
ああ、加賀さんの愛が痛い‥!

難波
まあ、氷川も最初から乗り気じゃなかったしな。先方にはそれとなく伝えてはあるが
でもやっぱり、お前から正式に返事をしないことにはなぁ

サトコ
「あのですねっ、その、お断りを‥と思っ」

???
「失礼します!」

振り返ると、見たことのねぇ男が教官室に入ってくるところだった。

難波
キミは‥

???
「仕事中に申し訳ありません。氷川さんがこちらにいると伺って」

サトコ
「さ、サトルさん!?」

サトコと難波さんの様子から、
どうやらこいつがサトコの見合い相手なのだと見当がついた。

(ずいぶんと爽やかなナリしてんじゃねぇか)
(にしても、サトルだぁ?)
(俺の名前はまともに呼ばねぇくせに‥!)

黒澤
歩さん!これはもしかして‥いわゆるひとつの、修羅場ってヤツですか!?

東雲
うわー。この目でリアル修羅場を拝めるなんて思ってなかったな

黒澤
どうしましょう!俺、胸の高鳴りが止まりません!

相変わらずコソコソうるせぇ2人に、構ってる暇もない。

難波
えーと‥ここには、なんの用で?

サトル
「ずっと氷川さんからの返事を待っていたんですが、我慢できなくなってしまい‥」
「会えない時間に想いが募って、気が付いたらここまで来てしまったんです」

石神
‥あれが、氷川を天使だか妖怪だかと見間違えたという男か

後藤
荒野に咲いた一輪のすずらん‥

颯馬
ハンカチのキミですね

(‥こいつら、楽しんでやがるな)

サトルとかいう男は、もうサトコしか見えてないのか、周りの声など気にしていない。

サトル
「やはりここは男らしく、直接お返事を聞くべきかと!」

サトコ
「あの、その‥」

サトル
「氷川サトコさん!」

サトコ
「は、はい!」

(おい、なに律儀に返事してやがる)

サトル
「僕と、結婚を前提に正式にお付き合‥」

加賀
ちょっとツラ貸せ

サトコとサトルの間に割り込み、サトルを見下ろす。
告白を停められたサトルが猛然と抗議してこようとして、俺を見上げ‥言葉を失った。

黒澤
加賀さんのあの顔‥

東雲
完全にご立腹じゃない?

後藤
‥面倒なことになりそうだな

颯馬
いえ、一瞬でカタがつくかもしれませんよ

難波
まあ、あとは当事者同士で

石神
何かあったら、お前が全力で止めろ、氷川。いいな

サトコ
「そ、そんな!」

相変わらずヒソヒソと声が聞こえる教官室を、サトルを連れて出た。



【裏庭】

裏庭まで連れ出すと、サトルは明らかに不満げだった。

サトル
「失礼ですが、あなたは?氷川さんの上司ですか?」

加賀
公安課の加賀だ

サトル
「ああ、公安学校では、現役の刑事が教鞭を執っているいるそうですね」
「では氷川さんは、あなたの‥」

加賀
専属補佐官だ

幹部の息子で、自分も幹部候補生という立場のせいか、
刑事が目の前にいても、怖気づくどころか堂々としたものだった。

(普段なら、経験もねぇガキが粋がってんじゃねぇ‥なんて思うところだが)
(今はそんなことはどうでもいい。あいつが誰もものか‥はっきりさせてやる)

サトル
「すみませんが、いくら上司でも、部下のプライベートに口出しするのはいかがなものかと」

加賀
ただの部下じゃねぇ
あいつは‥俺の女だ

サトル
「!?」

加賀
だから、お前には渡せねぇ

サトル
「きょ、教官が生徒に手を出していいんですか!?ふしだらだ!」
「このことが上層部やうちの父に知れたら、あなたの立場は‥っ」

加賀
覚悟の上だ

サトル
「!」

加賀
でなきゃ、あんな面倒な女、そばに置こうなん思わねぇ

サトルが、言葉もなく俺を見つめる。

加賀
あいつがいい女になるのも、人を助ける立派な刑事になるのも
‥全部、俺のそばだけだ

サトル
「面倒だと言うのなら、僕に譲ってください」
「今まで、あんなに優しくて純粋な女性には会ったことがないんです」

加賀
奇遇だな。俺もだ

サトル
「!」

加賀
悪いが‥何があっても譲るつもりはねぇ

サトルが、悔しそうに唇を噛みしめる。
それから、俺に背を向けて小さく言った。

サトル
「‥必ず、幸せにしてあげてください」

加賀
‥さあな

サトル
「あなたは‥!」

加賀
あいつは、俺がどうこうしなくても、てめぇの力で幸せになる
その時、俺が隣にいるだけの話だ

不意に、難波さんの言葉が頭を過った。

難波
お前が思ってるより‥氷川は、弱くない
もう少し、あいつを信じてやれ

(‥ああ、信じてる)
(あいつが幸せになるのは、俺の隣だ)

【教官室】

教官室に戻ると、サトコが一人で取り残されていた。

サトコ
「み、みなさんお仕事で出かけてしまって‥」
「あの‥サトルさんは」

加賀
うるせぇ

指で額を弾いても、サトコは不安そうな顔を崩さない。

加賀
‥なんつー顔だ

サトコ
「私‥」

加賀
わかってる

サトコ
「え?」

加賀
長いこと一緒にいりゃ、犬の気持ちもわかってくるだろ

サトコ
「あの‥いつになったら飼い犬から卒業できるんでしょうか」

加賀
さあな

(早くいい女になれ)
(俺が、背中を預けられるほどにな)

加賀
仕事、するぞ

サトコ
「‥はい!」

個人教官室のドアを開けると、サトコがついてくる。

(俺が育ててやるよ、お前を一人前の刑事に‥それに)
(‥最高の女に、な)

End

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