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夜の学校はキスorミッション!? プロローグ

【教場】

本日最後の講義が終わると、緊張から解放された生徒たちはほっと息をつく。

鳴子
「今日もしんどかったね~」
「石神教官の講義に加賀教官の講義‥最後は座学ってところが眠気を誘うし‥」

同期A
「そうそう」
「しかも重要なところやってるから集中しなきゃいけないしで余計に疲れたよな」

同期B
「ふわぁ~、今日はよく眠れそうだな」

千葉
「はは、本当に眠そうだな」

サトコ
「講義は終わったし、この後は‥あれ?石神教官と東雲教官だ」

放課後で少し気の緩んだ同期たちと話をしていると、
石神教官と東雲教官が神妙な顔で教場に入ってきた。
急に訪れた緊張感に、私たちは再び背筋を伸ばす。

石神
一件、連絡事項だ
明日から二日間、特別カリキュラムの『24時間耐久訓練』を行う

同期A
「24時間耐久‥?」

同期B
「明日からって、いきなりだな‥」

鳴子
「ねぇ、サトコは知ってた?」

サトコ
「ううん、初めて聞いた‥」

石神教官の言葉に、同期たちはざわつき始める。

石神
まだ説明は終わっていない。静かにしろ

東雲
まあまあ、石神さん。いきなり言われたから皆驚いてるんですよ

東雲教官はにっこりと笑顔をつくりながら、説明を続けた。

東雲
毎年、この季節にやる行事なんだよ。とはいえ、俺たちも初めてなんだけどね

石神
私は数年前に経験している

東雲
へぇ、そうなんですか
その時はどんな感じでしたか?

石神
厳しいと言えば厳しいが
これについてこれない者はどのみち公安警察の一員になる資格はないだろう

(そ、そんなに厳しい訓練なの‥?)

東雲
そんなこと言われると、オレの方まで緊張しちゃいますよ

東雲教官は口ではそういうものの、その笑顔は少しも崩れない。

石神
これから資料を配る。明日までに頭に叩き込んでおけ

教官たちから資料を渡され、その内容に皆驚きの声を上げる。

鳴子
「この過密スケジュールは‥」

千葉
「合宿って明日から2日間だよね?」
「なのに、見間違いじゃなければ普段の3日分くらいあるな‥」

サトコ
「ほ、本当にこのスケジュールでやるのかな?」

(今までで一番ハードかも‥)

石神
訓練は明日の朝8時半から始める。各自、持ち物など準備しておくように

東雲
みんな、リタイアしないように頑張ってね

一通りの説明が終わると、その場は解散となる。
教官たちの姿が見えなくなると、同期たちは重いため息をついた。

【教官室】

放課後の自習を終え、私はレポートを提出するため、教官室にやってきた。

サトコ
「失礼します」

教官室には、教官たち全員がそろっている。

後藤
氷川か‥どうした?

サトコ
「レポートを提出に来ました」

東雲
お疲れ様、サトコちゃん

(せっかくだし、東雲教官に明日の訓練のこと詳しく聞いてみようかな?)

サトコ
「あの‥東雲教官、明日の訓練なんですが‥」

東雲
やることはいつもと変わらないよ
ただ夜まで勉強して、皆で夜も一緒に過ごすってだけだよ
サトコちゃんも、そういうの好きでしょ?

サトコ
「意味深な言い方しないで下さいよ‥」

颯馬
氷川さん、明日の訓練が不安なんですか?

サトコ
「不安というか‥」
「その‥資料を見たら、あまりにハードスケジュールだったので‥」

後藤
いつもの訓練の時間が長いだけだ
いくらハードスケジュールとはいえ
誰もついて来れないようなスケジュールは立てるわけないだろう

サトコ
「そ、そうですよね」

(後藤教官もこう言ってるし、きっと大丈夫だよね)

加賀
バカバカしいな。拘束したがりのクソメガネが考えそうなことだ

石神
俺の発案ではない。お前の物差しではかるな

加賀
はっ、どのみち間違ったことは言ってねぇだろ?

石神
‥‥‥

加賀
‥‥‥

一触即発状態の2人のことはさておきと言わんばかりに、颯馬教官が私に笑顔を見せる。

颯馬
2人はあんな感じですけど
みなさんと24時間も一緒に訓練できるの、楽しみですね

サトコ
「は、はい‥」

(颯馬教官は笑顔だけど、いつものごとく含みを感じる‥)

後藤
今から緊張していると身が持たないぞ?
今日は早く帰って明日の準備でもしてろ

東雲
後藤さんが女の子に優しい

後藤
何か言ったか?

東雲
さぁ?オレは思ったことを口にしただけなので

後藤
‥‥‥

東雲
そう睨まないでください
ほら、サトコちゃんが怖がってますよ?

後藤
お前な‥

(教官たち、相変わらずだな‥)
(レポートは提出したし、このまま寮に戻ろう)

サトコ
「それでは、失礼しました」

私は一礼すると、教官室を後にした。



【訓練場】

翌朝。
私たち訓練生は、訓練場に集まった。

石神
これから24時間耐久訓練を行う。各自、最後までついてくるように

(成長するいい機会だ、ついていけるか不安だけど頑張らなきゃ!)

鳴子
「おっ、サトコ気合い入ってるね」
「私もサトコに負けないようにしなきゃ」

同期A
「そうだな。最後まで頑張ろうぜ」

鳴子
「うん!みんなで頑張って乗り切ろう!」

訓練生たち
「おー!!」

こうして、24時間耐久訓練が始まった。
いつも以上の過酷な訓練に、私たちは負けじとついていく。
そして、10時間後‥‥

【グラウンド】

サトコ
「つ、疲れた‥」

千葉
「ま、まさかここまで過酷だったとは思わなかった‥」

同期A
「こんな鬼訓練考えられる人が、同じ人間だとは思えない‥」

同期B
「今、何時間経ったんだ?」

鳴子
「えっと、あの資料が正しければ‥」

今日の分の訓練が終わり、私たちは訓練場にぐったりと倒れ込んだ。

加賀
おい、なにへばってる

サトコ
「加賀教官‥」

加賀
こんなんで音をあげて本当に卒業する気あんのか?

サトコ
「も、もちろんです!」
「確かに教官たちについていくのでやっとでしたが‥」
「刑事になりたい気持ちは誰にも負けません!」

加賀
だったら、口じゃなくて行動で示せ

サトコ
「はい!」

(加賀教官はいつも厳しいけど、間違ったことは言ってない)
(認めてもらえるように、もっと頑張らなきゃ!)

颯馬
加賀さん、少しくらい大目に見てあげたらどうですか?
一人の脱落者を出すこともなく、皆ここまで頑張ったんですから

後藤
周さん、ここは加賀さんの言う通りです
これくらいの訓練クリアできなかったら、どのみち石神班で死ぬことになりますよ

東雲
そんなこと言ってますけど
後藤さんは皆ちゃんとクリア出来るか気にしてましたよね

後藤
‥‥‥

(教官たちも同じ訓練してたはずなのに、なんであんなに余裕があるんだろう‥)

石神
今日はここまでだ
全員食堂へ移動しろ

訓練生たち
「はい!」

同期A
「はぁ、やっと終わった‥」

同期B
「これ、明日まで続くんだぜ‥」

サトコ
「そうだね‥だけど今日はここまでって言ってたし、明日も頑張ろう!」

鳴子
「サトコのその前向きなところ、本当尊敬するわ」

私たちは疲れた身体に鞭打ちながら、這うように夕食会場へ移動した。



【カフェテラス】

食事を終えると、黒澤さんが食堂にやってきた。

黒澤
皆さ~ん!お疲れ様で~す!

同期A
「お、お疲れ様です」

同期B
「えっと、あなたは‥?」

黒澤
初めての方もいますね!俺は公安課石神班の巡査部長、黒澤透です
気軽に黒澤さんや透さんって呼んでください
あ、女性の方は透くんって呼んでくれても‥

後藤
黒澤、何しに来たんだ?

黒澤
後藤さん、お疲れ様です!
‥って、せっかく今フレンドリーに自己紹介してたところだったのに‥!

黒澤さんはわかりやすくむくれて見せる。

鳴子
「黒澤さんって面白い人だね」

サトコ
「うん、そうだね」

(黒澤さんとは、今までにも何度か会ってるんだよね)

黒澤さんは気難しい教官たちにもフレンドリーに接していて、私は密かに尊敬している。

黒澤
ちなみに俺がここに来た目的は
頑張る皆さんに差し入れをプレゼントするためなんですよ~
よかったら食べてくださいね
あっ、こっちのは公安課からの差し入れです!

颯馬
黒澤、いろいろありがとう。これだけの量、重かっただろうに

黒澤
いえいえ!皆さんの訓練に比べたらこれくらいなんてことないですよ

東雲
ふーん。黒澤も一緒に訓練受けたらどう?
たまには爽やかな汗を流すのもいいと思うよ

黒澤
訓練って‥うわさに聞く、あの石神さんが考えたとかいう過酷な訓練ですか!?

東雲
大丈夫、大丈夫。噂が独り歩きしてるだけだから
ね、サトコちゃん?

サトコ
「え、えっと‥」

東雲教官はいたずらな笑みを浮かべる。

(って、どうしてここで私に話を振るの!?)

サトコ
「わ、私にとっては過酷というか‥教官たちについていくのでやっとでした‥」

黒澤
ほら、やっぱり!

颯馬
だけど、歩の言う通り黒澤も訓練受けてみるのもいいんじゃない?

後藤
そうですね。黒澤もこの機会に初心に帰って、帰ってこれなくなるといい

黒澤
俺なら大丈夫です!いつでも初心で仕事に打ち込んでますから~!

加賀
「お前らうるせぇな」
‥黒澤、来てたのか

黒澤
加賀さん、お疲れ様です!差し入れを持ってきたので、よかったらどうぞ!

加賀
あの程度の訓練に差し入れとはな‥

黒澤
疲れには甘いものがいいということで、名店のお饅頭を買ってきました!

加賀
‥仕方ねぇ、1つもらうか

黒澤
どうぞどうぞ!

東雲
俺ももらおっかな
後藤さんも食べます?

後藤
俺はいい
俺の分は‥お前たちにやる

後藤教官はそう言いながら、私たち訓練生に箱を差し出す。

サトコ
「後藤教官‥ありがとうございます」

黒澤
後藤さんは相変わらず優しいですね

東雲
特にサトコちゃんには

後藤
「‥何か言ったか?

黒澤
いえ!なんでもありません!

颯馬
サトコさん、食べないんですか?

加賀
食わねぇなら、俺がもらうぞ

サトコ
「い、いえ!いただきます」

私はお饅頭を1つとり、口に運ぶ。

サトコ
「あ、おいしい」

鳴子
「本当だ。甘すぎないし、ちょうどいい大きさだし」

颯馬
それはよかったですね
‥あ、サトコさん。口元についてますよ

サトコ
「え‥?」

颯馬教官が私の口元をそっと指で拭ってくれる。

サトコ
「す、すみません‥ありがとうございます」

東雲
サトコちゃん、赤くなってるよ
もしかして、颯馬さんのこと意識した?

サトコ
「し、東雲教官!意識なんてしてません!」

東雲
ははっ、慌てると余計怪しく感じるよ

颯馬
こら、歩。サトコさんをからかうのはやめなよ?

東雲
サトコちゃんが勝手に慌ててるだけですけどね

(うぅ‥やっぱり、からかわれてたか‥)

皆で差し入れを食べていると、石神教官が食堂にやってきた。

石神
食事を済ませた者から教場に戻れ。夜間訓練を開始する

同期A
「訓練って‥これからですか!?」

同期B
「もう夜の9時ですよ!?」

黒澤
そうですよ、石神さん!これから訓練だなんて‥!

石神
‥騒がしいと思ったら、黒澤が来ていたのか

黒澤
って、そんなにイヤそうな目で見ないでください

石神
せっかく泊まり込みの集中訓練だ。夜もやらないわけがないだろう

黒澤
そんな!皆さんこんなに頑張ってるんですよ!
このまま朝までやったら、いつかの俺みたいに生きるゾンビになっちゃいます!

石神
お前は部外者だろう。口を挟むな

黒澤
また部外者って言われた‥
せっかく皆さんのために、夜をもっと楽しめる企画をたくさん考えてきたのに‥

サトコ
「夜をもっと楽しめる企画‥」

(なぜだろう、楽しそうだけど危ない匂いしかしない‥)

石神
‥氷川、黒澤の言葉に反応しているようだな

サトコ
「え?」

石神
氷川は訓練より、黒澤の企画の方がいいと思うのか?

サトコ
「それは‥」

チラリと同期たちの方を伺うと、
訓練で疲れているのか黒澤さんを応援したいという雰囲気がにじみ出ていた。

石神
氷川は今日の訓練に限らず、いつも精一杯やっている点は評価している
少しでも力を伸ばしたいと思っているなら
このまま訓練を続けた方がいいことくらい、わかるだろう?

サトコ
「え‥?」

(石神教官‥私のこと、見ててくれてたんだ‥」

東雲
石神さん、夜くらい、いいんじゃないですか?
黒澤も楽しそうなこと考えてるみたいだし

加賀
俺はハナから参加する気はねぇ

颯馬
ふふっ、黒澤のせいで面白くなってきましたね

後藤
‥周さんも楽しんでますね

颯馬
そんなことはないよ?
ただ、黒澤の企画がどんなものか気になってるだけ

後藤
それを楽しむというんじゃ‥

颯馬
ほらほら。キリもないし、生徒と教官の多数決で決めましょうか?
石神さんの夜間訓練がいいか、黒澤の考えた夜の面白企画がいいか

颯馬教官の言葉に、皆はどちらがいいかとざわつき始める。

石神
仕方ない

加賀
俺はどっちでもいい。早く決めろ

東雲
どちらが選ばれても、面白そうだな

颯馬
皆さん、自分がやりたい方を選んでくださいね

鳴子
「ねえ、サトコ。サトコはどっちを選ぶ?」

サトコ
「私は‥」

<選択してください>

石神の訓練

黒澤の企画

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