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恋の秋 後藤1



【寮 廊下】

夜になり寮に戻った私は、宿直中の後藤さんに報告書を届けに行こうと廊下に出た。

(感謝祭、か。学校の存続がかかっているから、気を引き締めていかないと‥)

後藤さんの部屋につくと、ノックをしてドアを開ける。

サトコ
「失礼しま‥」

後藤
‥‥‥

扉の先では、後藤さんが鏡に向かってぎこちない笑みを浮かべていた。

(後藤さん!?な、何をやってるの‥?)

後藤
‥‥‥

私に気づいてないのか、後藤さんは首をかしげながらもう一度笑みを浮かべる。

(み、見なかったことにした方がいいよね‥?報告書はまた後で持ってこよう‥)

後藤さんに気づかれないように、そっとドアを閉めようとする。

後藤
‥おい

サトコ
「きゃっ!ご、後藤さん‥」

(き、気づかれちゃった‥)

後藤
‥サトコ、いつからいた?

サトコ
「え、えっと‥」

後藤
‥‥‥

(うぅ‥逃げられない‥素直に言った方がいいよね)

サトコ
「その、後藤さんが鏡に向かって笑顔を向けているところから‥」

後藤
そうか‥とりあえず、入れ

サトコ
「は、はい‥」

後藤さんはため息をつくと、私を部屋に案内した。

サトコ
「あ、これ‥報告書です」

後藤
ああ

サトコ
「‥‥‥」

後藤
‥‥‥

サトコ
「あの‥さっきのは‥」

後藤
‥案内係としての練習だ

サトコ
「練習、ですか?」

後藤
案内係として心証を悪くしないよう、笑顔の練習をしろと石神さんから言われた

(そういえば後藤さん、感謝祭では案内係担当だったっけ?)

後藤
俺が案内係なんて、どう考えても人選ミスだろ‥

(後藤さん、不満そうだけど‥なんだかちょっと可愛いかも‥)

普段見ない後藤さんの表情に、思わず胸が高鳴る。

(‥なんて思ってたら、後藤さんに失礼だよね)

<選択してください>

A:そんなことありません

サトコ
「そんなことありません。後藤さんだったら、絶対にできますよ!」

後藤
‥その根拠のない自信はどこからくるんだ?

サトコ
「だって、後藤さんはどんな任務もこなしてきましたし‥今回だって、絶対に大丈夫だと思います」

後藤
‥不思議だな。アンタにそう言われると、そんな気がしてくる

B:今から相談してみては?

サトコ
「今から石神教官に相談してみるのはどうですか?」
「もしかしたら、代えてもらえるもらえるかも‥」

後藤
いや、一度決められたことだからな。最後までやり通す

(後藤さんって真面目だな‥)

C:もっと練習するのは?

サトコ
「それじゃあ、もっと練習すればいいと思います。そうすれば、きっと自然な笑顔になれますよ!」
「一度、やってもらってもいいですか?」

後藤
あ、ああ‥
‥‥‥

(まだぎこちない‥)

後藤
‥笑顔ってのは、こんなに難しいもんなのか‥

後藤
どうすれば自然な笑顔になれるんだ‥

(自然な笑顔、か‥)

サトコ
「無理に笑おうとするから、ぎこちなくなるのかも‥」
「好きなものを想像してみたら、自然な笑顔になれるんじゃないですか?」

後藤
好きなもの‥

サトコ

「何でもいいんです。食べ物とか、お気に入りの音楽とか‥」

後藤さんは一度言葉を切り、好きなものを考えているようだった。
そして後藤さんは、フッと優しい笑みを浮かべる。

サトコ
「っ!」

後藤
‥ダメ、だったか?

サトコ
「い、いえ‥」

(あまりにも優しい笑顔だったから、ドキッとしちゃった‥)

サトコ
「今の笑顔は完璧だったと思います!本番も今みたいにやれば大丈夫ですよ」

後藤
そうか‥

サトコ
「あの‥今、何を想像したか聞いてもいいですか?」

後藤
‥別に、なんでもいいだろ

後藤さんは、そっけなく言う。

(教えてくれてもいいのに‥ネコでも想像したのかな?)
(後藤さんを一発で笑顔にするなんて‥ちょっとだけ、うらやましい‥)

後藤
アンタのおかげで、当日もうまくいきそうだ。ありがとな

サトコ
「あっ‥」

後藤さんが私をそっと抱きしめる。

後藤
‥少しの間、こうしててもいいか?

サトコ
「はい‥」

私は後藤さんの胸に顔を埋めた。
後藤さんの匂いが鼻腔をつき、なんだか心が安らいでいくように感じた。

(後藤さんはどんな不服な仕事もやってるし‥私も見習わなきゃ)
(せっかくのイベントだから、後藤さんと回れたらって思うけど‥‥)
(今回の感謝祭は学校の存続危機がかかってるし、しっかりやらなきゃ)

そんなことを考えていると、思わず後藤さんの服をギュッと掴んでしまう。

後藤
どうした?

サトコ
「‥感謝祭、頑張らなきゃいけないなって思ったんです」

後藤
上が来るとは言え、そこまで肩を張るようなもんじゃないだろ

サトコ
「でも、学校の存続がかかってるんですよね?」

後藤
何?

サトコ
「今回のイベントが成功しなかったら、学校がなくなるかもしれないって噂になってるんです」

後藤
‥それはただの噂だ。少なくとも、俺たち教官はそんな話聞いていない

サトコ
「えっ、そうなんですか!?皆がそう話していたから、てっきり‥」
「よかったぁ‥もし学校がなくなったら、どうしようかと思いました」

(刑事になる夢を諦めるのも、後藤さんと離れるのもイヤだから‥)

ほっと息をつく私に、後藤さんは抱きしめる力を強くする。

後藤
‥案内係が終わったら、一緒に回らないか?

サトコ
「え?」

後藤
係りが終わるのは夕方になると思う。それでもよければだが‥

サトコ
「はい!一緒に回りたいです!」

後藤
そうか‥それじゃあ、約束だ

サトコ
「ん‥‥」

後藤さんは先ほどの優しい笑みと浮かべ、私の唇にキスを落とした。



【学校】

大感謝祭、当日。

後藤
まずは、講堂を案内します

後藤さんはこの前練習した時のように、自然な笑顔で対応していた。

颯馬
後藤があんなに笑顔で対応するなんて‥正直、驚きました

石神
‥‥‥


‥あれ、本当に後藤さんですか?

後藤さんの笑顔を見て、教官たちは驚きの声を上げる。


「なんか悪いもんでも食ったんだろ?」
「いくら仕事とはいえ、アイツが笑顔になるなんてな‥」

サトコ
「あ、一柳教官。教官もいらしてたんですね」


「ああ。ちょっと見物にな。にしても、あんな珍しいもんが見れるなんて思わなかったぜ」

女性客1
「ねえねえ、あの人超かっこよくない!?」

女性客2
「うんうん、すごくかっこいいよね!彼女とかいるのかな?」

近くを通りかかった女性客が、後藤さんを見て黄色い声を上げる。

(後藤さんかっこいいから、女の人の目を引くよね‥)

女性客の反応を見て、少しだけ胸が痛んだ。

(‥ううん。後藤さんだって努力してあそこまで笑顔になれたんだし‥)
(今は仕事中だから‥こんなこと考えるのはよそう)

私は小さな胸の痛みに蓋をして、その場を後にした。

【廊下】

廊下を歩いていると、女性の人だかりが出来ているのを見つけた。

(ん?なんだろう、あの人だかり‥女の人ばかりだけど‥)

???
公安学校のイケメン教官!彼らが普段見せない姿が見れちゃいますよ~!

女性客1
「私、この2人‥後藤さんと颯馬さんのほしぃ~!」

女性客2
「私は加賀さんと石神さん‥あと、東雲さんも気になる~」

女性客3
「私は一柳さん一筋!」

???
はいはい、押さないでくださいね~。写真はまだまだたくさんありますから!

近くに行くと、女性たちの中心に黒澤さんがいた。

サトコ
「黒澤さん‥?」

黒澤
あ、サトコさん、こんにちは!
サトコさんもよかったらどうですか?

サトコ
「えっと、これは‥」

黒澤
教官たちの写真を売ってるんです。いや~、これがもうバカ売れで、笑いが止まりませんよ!
さすが、ここの教官たちはイケメンなだけありますね!

サトコ
「あの‥許可は取ってるんですか?」

黒澤
そんなの、もちろん‥非公式に決まってるじゃないですか!
教官たちにバレたら、何をされるか‥
あ、サトコさんもどうですか?後藤さんのいい写真ありますよ!

サトコ
「えっ、後藤さんの‥‥?」

(ど、どうしよう‥ほしいかも‥でも、手を出したらダメだよね)

サトコ
「‥わ、私なら大丈夫です」

黒澤
え~、本当にいいんですか?
サトコさんの知らない、あ~んな後藤さんやこ~んな後藤さんを見れるチャンスですよ!

サトコ
「!!」

(そ、そんな言い方‥ず、ズルい!)

<選択してください>

A:後藤さんの写真を買う

(でも、やっぱり気になる‥)

サトコ
「あ、あの‥黒澤さん。その、写真、なんですけど‥」

黒澤
はいはい、後藤さんの写真ですよね?
お買い上げ、ありがとうございまーす!

サトコ
「ま、まだ何も言って‥」

黒澤
後藤さん、結構人気なんですよね~。迷ってるうちになくなっちゃうかも‥

サトコ
「か、買います!買わせてください!」

B:他の教官の写真と一緒に買う

(他の教官の写真と一緒に買えば、怪しまれないよね‥?)

サトコ
「黒澤さん、教官‥全員分の写真をもらえますか?」

黒澤
えっ、全員分ですか!?
うちの教官はイケメンばかりですからね~気になってる教官がたくさんいるんですね!

サトコ
「そ、そういうわけじゃなくて‥」

黒澤
なんて、冗談ですよ
サトコさんのお目当ては後藤さんだけだって、ちゃんと分かってますから

C:買わない

(すごくほしいけど‥やっぱり、諦めよう)

黒澤
あれれ?サトコさん、買って行かないんですか?

サトコ
「はい。やっぱり、こういうのは‥」

黒澤
え~。本当にいいんですか?後悔しません?
すっごく頑張って撮ったレアショットもあるのにな~

サトコ
「‥‥‥」

黒澤
後藤さんは人気あるし、この写真は他の女の人の手に‥

サトコ

「‥か、買います」

黒澤
お買い上げ、ありがとうございま~す!

黒澤さんから写真が入った封筒を渡される。

(後藤さんの写真‥)

いけないと思いつつも、ワクワクしながら封を切ると‥

サトコ
「‥あれ?これ、一柳教官の写真だ‥」


「俺の写真がなんだって?」

サトコ
「っ、一柳教官!?」

石神
何の騒ぎだ

颯馬
女性が多いようですが‥

後藤
黒澤が元凶か‥?

黒澤
わ、まずい!

そこに、騒ぎを聞きつけた教官たちがやってきた。


「へぇ、教官の写真を売って一儲けか」

黒澤
こ、これはですね‥


「それで、お前はオレの写真を買ったと?」

サトコ
「そ、それは‥」

(私は後藤さんの写真を買ったハズなのに‥!)
(っていうか、教官たちに写真を買ったこと知られちゃった‥恥ずかしい‥)

黒澤
それじゃ、俺はここで失礼します!

石神
おい、黒澤!‥逃げ足の速い奴だ

颯馬
へぇ、氷川さんは昴の写真を買ったんですか。意外でしたね

サトコ
「‥‥‥」

(本当は後藤さんの写真がほしかったけど、恥ずかしくて言えない‥)
(でも、後藤さんに一柳教官が好きだって勘違いされたら、どうしよう‥)


「まあ、オレみたいな男の写真を持っていたい女心もわかるけどな」

後藤
勘違いは顔だけにしておけ


「嫌味にすらなってねーよ、パジャマ野郎」

後藤
ローズマリーのくせに、いきがるな


「なんだと?」

後藤
本当のことを言っただけだ

石神
はぁ、くだらない

颯馬
昴の写真を大事そうに持ってるなんて‥後藤、補佐官に愛想をつかれたようだね

後藤
‥別に、たかが写真ですよ。氷川が一柳の写真を持っていようがいまいが関係ありません

後藤さんは顔色一つ変えずに、言い放つ。

(よかった、後藤さん気にしていないみたい‥)
(でも、何とも思われないのは、それはそれでちょっと寂しいかも‥)
(‥そう思うなんて、ちょっと自分勝手かな)

石神
お前たち、そろそろ持ち場に戻れ

颯馬
そうですね。私もまだやることが残ってますし。後藤も案内の途中だろうし

後藤
はい


「それじゃ、俺はもうちょっと見て回るか。じゃあな、サトコ」

教官たちは、それぞれ自分の持ち場に戻って行った。

サトコ
「はぁ‥」

(この写真、どうしよう‥)

女性客1
「あ~、さっきの写真売ってる人、いなくなっちゃったの?」

女性客2
「ほしい写真でもあったの?だから、さっき買っておけばよかったのに」

女性客1
「だって、イケメンがいっぱいで迷ってたんだもん。あ~あ、一柳さんの写真ほしかったなぁ」

サトコ
「‥あの、よかったこの写真いりますか?」

女性客1
「あっ、一柳さんの写真だ!もらっていいの!?」

サトコ
「はい、どうぞ」

女性客1
「ありがとう!」

女性客はうれしそうにお礼を言うと、一柳教官の写真を眺めながら去って行った。

(後藤さんの写真が買えなくて残念だったけど、仕方ないか‥)
(そろそろ加賀教官の講演だっけ。少し早いけど、向かおうかな)

私は少しだけ落胆しながら、講堂に向かった。

to be continued

【管理人の独り言】

昴とごとーちゃんの会話んとき、ごとーちゃんの絵が 制服→スーツ→制服 と1会話ごとに変わるのが笑えた。

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