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恋の秋 後藤2

私は加賀教官の講演のため、講堂に向かっていた。

(加賀教官の講演、か‥今日は偉い人たちも来るから、いつも以上に緊張するかも‥)

そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえてくる。

黒澤
あっ、サトコさん!

サトコ
「黒澤さん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

黒澤
後藤さんに追われているんです!
オレはただ、写真を売っていただけなのに、ほんとに容赦ないんですよ!

(追われてるって‥後藤さん、案内の仕事はどうしたんだろう?)

黒澤
オレは教官たちの普段の姿を知ってもらって
もっと皆さんから身近に感じてもらえるようにって思ってやっただけなのに~!
サトコさんも、そう思いますよね?ねっ!?

サトコ
「え、えっと、私は‥」

黒澤
‥ハッ!こうやって話している間にも、後藤さんの足音が近づいて‥
それでは、サトコさん!失礼します!

黒澤さんはそう言って、全速力で廊下を駆けて行った。

サトコ
「行っちゃった‥ん?」

(写真が落ちてる‥黒澤さん、落としたのかな?)

サトコ
「この写真‥後藤さんの写真だ!」

写真に写っている後藤さんは、真剣な眼差しをしていた。

(後藤さん、かっこいいな‥って、そうじゃないよね!)
(どうしよう、黒澤さんを追いかけた方がいいかな?でも、この後は加賀教官の講義があるし‥)
(後藤さんの写真、か‥)

なんだかいけないことをしているような気持ちになりつつ、私はハンカチに写真を挟んだ。

(後で黒澤さんに会った時に、返せばいいかな?)

石神
‥氷川。そんなところで立ち止まって、何をしてるんだ?

サトコ
「い、石神教官!?い、いえ、これは‥」

(もしかして、見られてた‥?)

石神
‥‥‥

石神教官は、私の事をじっと見つめる。

サトコ
「石神教官‥?」

石神
あの分かりにくい男にあんな表情をさせるとは‥たいした補佐官だな

サトコ
「え?」

石神
‥いや、なんでもない
後藤ももっとしっかりしてほしいと思っただけだ

(あっ、後藤さんといったら‥)

サトコ
「あの‥さっき黒澤さんから、後藤教官に追われてるって聞いたんですが‥」

石神
ああ、後藤を案内係から外したからな

サトコ
「え?」

石神
まったく笑えなくなったんだ
笑おうとしても引きつった顔になるから、黒澤確保係に回した

サトコ
「そうだったんですか‥」

(笑えなくなったって、何かあったのかな‥?あとで後藤さんに会ったら、聞いてみよう)

石神
氷川はこれから加賀の講義だろう?

サトコ
「あっ、そうでした!」

(話してたら、時間ギリギリになっちゃった‥)

サトコ
「それでは教官、失礼します」

私は石神教官に頭を下げて、講堂へ急いだ。

講義が終わり、後藤さんと会うため待ち合わせ場所である中庭にやってきた。

サトコ
「えっと、後藤さんは‥」

辺りを見回すと、校舎の方から黒澤さんが走ってくる姿が目に入った。

黒澤
ご、後生ですから見逃してください~!

後藤
見逃す訳ないだろ!

黒澤
ちょっ、ちょっと!本当に待って‥
ぐえっ!

後藤さんは黒澤さんに追いつくと、腕を取り強引に地面に伏せる。

黒澤
ご、後藤さん!サトコさんの写真をプレゼントしますから‥!

(え?私の写真‥?)

後藤
‥‥‥

黒澤
あ、心が動きましたね?

後藤
‥動いてない

黒澤
またまた~。ちゃんと分かってますから、そんな遠慮しなくても‥

後藤
してない

黒澤
後藤さん、時には素直になることも大事で‥
うぐっ!

後藤
余計なことを話すな

颯馬
あ、後藤。無事に黒澤を捕まえたんだね

後藤さんが黒澤さんを取り押さえていると、颯馬教官がやってきた。

後藤
はい

颯馬
ふふ、お疲れ様。後は私に任せてください

後藤
よろしくお願いします

颯馬
それじゃあ、黒澤。行こうか

黒澤
ひえぇぇ!!周介さん、笑顔が怖いです~!

颯馬教官は怯える黒澤さんを、強引に連れて行った。

サトコ
「後藤さん‥」

後藤
!?あ、アンタか‥そういえば、約束の時間だったな

サトコ
「はい。あの‥黒澤さんが言ってた私の写真って‥」

後藤
‥アイツ、俺たちの写真だけじゃなくて、アンタの写真も撮ってたんだ
アンタだって、自分の写真が出回るのはイヤだろ?

後藤さんは少しだけ照れくさそうに、そっぽを向きながら言う。

サトコ
「‥はい、ありがとうございます」

(後藤さんは私の写真を守ってくれたんだ‥黒澤さんには悪いけど、うれしいかも‥)

後藤
それに、アイツは人の写真を売りさばいていたからな
周さんにこってり絞られて反省するといいだろ

(あっ、後藤さん汗かいてる。黒澤さんを追いかけてたから‥)

サトコ
「後藤さん、よかったらこのハンカチ使ってください」

後藤
ああ、悪いな‥
ん?今、ハンカチから何か落ちて‥

サトコ
「あっ、それは‥!」

(後藤さんの写真!)

後藤さんは写真を拾うと、すっと眉間にシワを寄せる。

後藤
俺の写真‥?

サトコ
「あ、あの!これはその‥」

(たかが写真って、呆れられるかな‥)

<選択してください>

A:黒澤さんが落としたのを拾った

サトコ
「黒澤さんが落としたのを拾ったんです。あっ、もちろん後で返すつもりでいましたよ!」
「だ、だから、写真を持っていたのは偶然というか‥」

後藤
偶然、な‥

サトコ
「そ、そうです!偶然なんです!後藤さんの写真を見ることができて、うれしいなんて‥ハッ!」

(わ、私は何を言ってるの?)

B:一柳教官の写真と交換した

サトコ
「さ、さっき、黒澤さんのお店で写真を買った人と交換したんです!」

後藤
交換って‥

サトコ
「一柳教官と後藤さんの写真をです!その方は一柳教官の写真がほしいって言ってて、それで‥」

(‥って、これ言い訳にすらなってない!?)

サトコ
「あ、あの‥本当は、黒澤さんが落としたのを拾って、それで‥」

C:気づいたら持っていたんです!

サトコ
「そ、その写真は‥気づいたら持っていたんです!」
「おかしいな~さっきまでは持っていなかったはずなのに‥」

後藤
‥‥‥

(さ、さすがに、この言い訳は苦しいよね)

サトコ
「‥すみません。本当は黒澤さんが落としたのを拾ったんです」
「あとで返そうと思ってたんです!だから‥」

後藤
フッ‥そんなに慌てなくてもいいだろ

後藤さんは私を見て、優しい笑みを浮かべる。

サトコ
「あ‥」

(練習した時と同じ‥優しい笑顔だ‥)

サトコ
「‥笑顔が戻りましたね」

後藤
は?笑顔‥?

サトコ
「はい。石神教官から、後藤さんが笑えなくなったって聞いたんです」
「それで、案内係を外されたって‥」
「急に笑えなくなってどうしたんだろうって‥心配していたんですよ?」

後藤
それは‥

サトコ
「あ、無理に話さなくても‥」

後藤
いや、アンタは心配してくれたんだろ?‥ちゃんと話す
アンタが一柳の写真を持ってて‥それが頭から離れなくなったんだ
そしたら急に笑えなくなって‥
案内係から外された

サトコ
「もしかして‥」

(それって、嫉妬‥?しかも、無自覚‥?)

後藤さんが嫉妬してくれたことに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

後藤
‥‥‥

後藤さんは少しだけ恥ずかしそうに、私から視線をそらした。

(私も、一柳教官の写真を持っていた理由とか、女性のお客さんに嫉妬してたこととか‥)
(ちゃんと後藤さんに話さなかったから、誤解が生まれたんだ)

サトコ
「‥後藤さん、私も同じです」
「後藤さんが案内している姿を見て、女の人たちがかっこいいって言ってて‥」
「お仕事だって分かってたのに、ちょっぴり嫉妬してしまいました」
「それに、一柳教官の写真を持っていたときだって‥本当は後藤さんの写真を買ったんです」
「でも、入っていたのは一柳教官の写真で‥」
「結局、恥ずかしくて言い出せなくて‥すみませんでした」

後藤
そうか‥

後藤さんはもう一度あの時のような優しい笑みを浮かべ、私の頭にポンッと手を乗せる。

(後藤さんの手、安心する‥。ちゃんと言葉にするって、大切なことなんだ‥)

サトコ
「‥後藤さん、これからはお互いの間に秘密はなしにしませんか?」
「そうすれば、今回みたいに誤解が生まれることはないと思うんです」

後藤
そうだな‥公安の極秘任務以外は、な

サトコ
「っ、はい!」

後藤さんは私の頭から手を離すと、背を向ける。

後藤
‥そろそろ、行くか

私たちはイベントを見て回るため、校舎に向かった。



私たちは人気のない展示室にやってきた。
展示室には、普段私たちが受けている訓練が事細かに掲載されている。

サトコ
「後藤さん、案内係は大丈夫なんですか?」

後藤
ああ。歩が代わってくれたんだ。後で礼を言っておかないとな‥

(後藤さんは笑えなくなったから、案内係から外されたんだよね)
(また笑えるようになってよかったな)
(そういえば、後藤さんって自然に笑えないから笑顔の練習をしていたんだよね‥)

サトコ
「あの‥後藤さん」

後藤
なんだ?

サトコ
「笑顔の練習をした時、後藤さんは何を想像したんですか?」

後藤
それは‥黙秘だ

ふっと後藤さんが目をそらす。

<選択してください>

A:どうしても教えてくれませんか?

サトコ
「どうしても教えてくれませんか?」

後藤
‥別に、なんだっていいだろ

サトコ
「気になります」

後藤
‥‥‥

(ここまで言わないなんて、どうしても言えない理由なのかな‥?)

後藤
‥寝顔

サトコ
「え?」

後藤
‥アンタの寝顔

サトコ
「私の寝顔‥」

(そ、それって‥!)

B:さっき、約束しましたよね?

サトコ
「さっき、約束しましたよね?お互いの間に『秘密はなし』って」

後藤
‥‥‥

サトコ
「それとも、想像したのは公安の極秘任務の何かなんですか?」

後藤
‥アンタ、そんなことはないと分かってて言ってるだろ

サトコ
「だって‥」

後藤
はぁ‥分かった。言えばいいんだろ?
アンタの‥寝顔を想像したんだ

サトコ
「っ!!」

(わ、私の寝顔って‥ど、どうしよう、恥ずかしい‥!)

C:無理に聞かない方がいいかな‥

(どうしても言いたくないなら、無理に聞かない方がいいかな‥)

サトコ
「そうですか‥」

後藤
‥気になるなら、さっきの約束のことを持ち出せばいいだろ?

サトコ
「え?」

後藤
『秘密はなし』アンタが提案していたやつだ

サトコ
「そうですけど‥だからって、無理に聞き出すのはちがうかなって思ったんです」

後藤
「本当、お人好しだな‥」
「‥アンタの寝顔だ」

サトコ
「え?」

後藤
俺が想像したのは‥アンタの寝顔なんだ

サトコ
「私の、寝顔‥」

(私の寝顔を想像して、後藤さんは‥)

後藤さんの言葉に、顔が赤くなる。

サトコ
「そ、そんな変な顔、想像しないでください!」

後藤
アンタの顔だから‥俺は笑えたんだ

サトコ
「あ‥」

後藤さんは私を、そのたくましい腕の中に閉じ込める。

サトコ
「ご、後藤さん、こんなところで‥もし、誰か来たら‥」

後藤
展示なんかより‥もっと他のとこ回るだろ

サトコ
「ん‥」

私の唇をそっと撫でると、後藤さんはそのままキスを落とした。

サトコ
「後藤さん‥」

唇から後藤さんの温もりを感じ、彼の背中に腕を回した。

サトコ
「‥もう少しだけ、後藤さんの腕の中にいたいです」

後藤
っ‥

サトコ
「後藤さん‥?ん‥」

後藤さんは私の額にキスを落とすと、ぽつりとつぶやく。

後藤
アンタが素直なのも、困りものだな‥歯止めがきかなくなる‥

サトコ
「んっ‥」

私の頭に手を添え、後藤さんは先ほどよりも深いキスをしてくる。
何度も角度を変え息もできないようなキスに、私は思わず後藤さんの胸を軽く押した。

サトコ
「っ‥」

だけど私の力ではビクともせず、キスはどんどんと深くなっていく。

サトコ
「後藤、さん‥」

ようやく唇が離れると、はぁと息をつく。
後藤さんの吐息がかかり、胸が高鳴った。

後藤
もう少しだけ、いいか‥?

サトコ
「はい‥」

私がこくりとうなずくと、後藤さんはもう一度私の唇にキスをする。
ふたりだけの展示室で、何よりも甘いキスを私たちは何度も繰り返した‥‥

Happy End

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