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恋の秋 加賀2

加賀
おいクズ女

そう言って私を見下ろす彼の表情は、今までに見たことがないほどの、
意地悪な表情で‥。

サトコ
「むぐっ‥」

(な‥何!?)

驚く間もなく、何かを口に突っ込まれる。

加賀
うそつきクズ女は、それでも食っとけ

(ん‥甘い。これ‥芋の和菓子?突然突っ込まなくても‥)
(すごく‥美味しい‥けど)

甘い和菓子が口に溶けて行くように、先程までのイヤな緊張も解けていく。
けど、その時1つ大事なことに気が付いた。

サトコ
「‥って、ただの『クズ女』だけじゃなくて『うそつき』まで付いた気が‥」

加賀
本当の事だろうが

サトコ
「うぅ‥っ!東雲教官、やっぱり焼き芋もらっていいですか?」


はいはい、キミって本当に分かりやすいよね‥

颯馬
まあまあ、たまには痴話喧嘩もいいじゃないですか。ね、後藤?

後藤
‥‥

焼き芋を食べながら、チラリ、と加賀教官を見つめる。
さっきまでの怖い雰囲気は消えていて、優しい目で私を見つめていた。

(加賀教官、怒っていなかったんだ‥)
(考えすぎて、私が勝手に気まずくなっちゃってたんだ‥)

そう思うと、肩から力が抜けていくような感じだった。

加賀
明日の講演は最前列で待機しとけよ?

私が作った資料に目を通しながら、加賀教官が不敵に微笑んで呟く。

サトコ
「もちろんです!」
「加賀教官の講義が聞けるめったにない機会ですから、メモもしっかりとります!」

加賀
仕方ねーから、講師役しっかりと務めてやるよ

(‥意味深に聞こえるのは、気のせいかな‥)
(何か企んでいるような笑顔に見えるけど、私の気のせいだよね‥)

他の教官たちも何かを感じ取っているらしく、眉根を寄せながら首を傾げていた。

そしてイベント当日。
加賀教官の講演が聞けるということもあり、会場には多くの人が集まっている。

サトコ
「わぁ‥こんなに集まるなんてすごいですね」
「加賀教官、頑張ってください」

加賀
「お前に言われるまでもねぇよ」
‥けど、今日は面白いもんが見られるから楽しみにしとけ

(面白いもの‥?)

教官は不敵に微笑みながら、壇上へと上がる。
その瞬間、会場がピリッとした空気に包まれた。

(教官‥どんなありがたい講演をするつも‥)

加賀
今日はこの学校に入校を希望している奴もいるみてぇだが‥
最初に言っておく、この学校にクズは必要ねぇ
お偉いさんの息子だろうが成績が良かろうが、甘ったれたクズを指導する余裕はない

(加賀教官‥?)

暴言にも取れる言葉に、会場にいた人たちがざわめき始める。

加賀
公安の何たるかを学ぶのが、この公安学校だ
生半可な気持ちでやってる奴は、今すぐに消えろ、目障りだ

(ちょ‥偉い監査役の人も来てるのに!?)

加賀
今日の講演は俺がするとなっているが、もっと相応しい奴にやってもらう

(え?)

加賀
学んでいる生徒に講演してもらった方が、外部の人間には分かりやすいだろう

加賀教官の言葉を聞き、生徒たちはサッと視線を逸らし始める。

(視線を逸らしたくなる気持ちわかる‥)
(教官の視線は怖いし、こんな大勢の前で講義なんて絶対にしたくないもんね‥)

加賀
ったく‥どいつもこいつもだらしねぇな
自分からやって奴はいねぇのか、まぁ、最初から任せる相手は決めてるけどな

(ん‥なんか悪寒が‥)

加賀
氷川サトコ、お前がやれ

サトコ
「えぇっ!?わ‥私がですか!?」

早くしろとでも言いたげな教官の視線に促され、おずおずと教壇に上がる。
大勢の視線に足が竦みそうになるけど、グッと力を込めてその場に踏ん張った。

(教官‥聞いてないですよ!)

席の後ろの方を見ると、腕を組んだ監査の人たちが異様な存在感を放ってこちらを見ていた。

(私に‥公安学校への評価がかかってるなんて‥)
(いや、いま緊張しても仕方ない。こうなったら、いつも感じてることを話すだけ‥)

サトコ
「加賀教官が仰った通り、生半可な気持ちでは続かないと私も思います」
「教官の厳しさに耐えられないと思う人もいるかもしれません」
「けど、生半可な気持ちを持ったまま現場に出ても、迷惑にしかなりません」

自分の意気込み、公安学校の素晴らしさ、それが口からすらすらと出てくる。

(あれ?意外に話しやすい‥自分で作った資料だからかな?)

最初はざわついていたけど、話を続けるうちに真剣に私の話を皆が聞いてくれている。

サトコ
「‥以上、ご清聴ありがとうございました」

深く頭を下げると、割れんばかりの拍手に私はホッと安堵の息を吐いた。

(お、終わった‥)

石神
良かったんじゃないか?
突然の代理で驚いたが、加賀が講演するよりよっぽどマシだな

サトコ
「あ、ありがとうございます!」

その時、会場の後ろの席で腕を組んで聞いていた監査の男性が近づいてきた。

男性
「女性が公安などと偏見を持ってい部分があったが‥それはすべて振り払われたよ」
「キミのような女性が公安に入るなら、公安の将来も楽しみだな」

サトコ
「あ、あの!それじゃ公安学校はなくなりませんか?」

石神
‥公安学校がなくなる?

男性
「何処からそんな話を?」

サトコ
「え?だって、監査に来られた方‥ですよね?」

男性
「いや、私たちはただ視察に来ただけだよ」

(し、視察!?それじゃ公安学校がなくなるっていうのは、ただの噂だったってこと?)

加賀
まぁ、マシな講演だったんじゃねぇか?
テメェにしては上手くやったと褒めてやる

サトコ
「教官!あ、ありがとうございます‥!」

男性
「彼女はキミの補佐官かね、有能な補佐官だ」

加賀
ありがとうございます

石神
有能な補佐官を持って鼻が高いことだろうな、しかもわざわざ迎えか?

加賀
うるせぇよ

(‥加賀教官、少し照れてる?)

<選択してください>

A:もしかして、本当に‥?

(もしかして、本当に迎えに来てくれたのかな?)

加賀
んなわけねぇだろ

サトコ
「いたっ、こ、小突かなくてもいいじゃないですか」
「しかも、私まだ何も言ってませんよね‥!?」

加賀
聞かなくても分かるくらいだらしねぇツラしてんぞ

B加賀教官に限って、それは‥

サトコ
「いえ、加賀教官に限ってそれはないですよ」

石神
‥お前も中々報われんな

加賀
ほっとけ。おい、後でお仕置きしてやるから覚悟しろよ

(えぇっ、私何か機嫌を損ねること言っちゃったかな‥)

C:聞いてみようかな

(加賀教官に聞いてみようかな‥)

サトコ
「あの‥」

加賀
黙れ

サトコ
「‥酷い、質問すら受け付けてくれないなんて」

(あれ?でも、加賀教官の顔、少しだけ赤いような‥?)

サトコ
「ところで、教官はこれが監察じゃなくて視察だって知っていたんですか?

加賀
さぁな

(絶対知ってたよ、この顔‥!)
(あれがただの噂だったなんて‥何のために睡眠時間を削ったんだ、私‥)
(けど、どうして私に講演なんか‥)

加賀
行くぞ

加賀教官は私の考えを遮るように、すたすたと歩き始めてしまう。

サトコ
「行くって?ちょ、ちょっと待ってください‥!」

石神教官と視察の方に頭を下げた後、私は慌てて加賀教官を追いかけた。



首を傾げながら加賀教官の後をついていくと、そこには即席で作られた簡易会場が広がっていた。

サトコ
「なんか、すごく賑やかですけど‥こんな催し、予定にありましたっけ?」

黒澤
はいはい、それではお楽しみ抽選会を始めまーす!
色々と豪華景品を用意してるので、みなさんふるってご参加くださーい!
まだ紙を取っていない人は取りに来てくださいね!
あ、加賀さんもどうぞー!

会場はいろんな人たちでごった返していて、加賀教官は面倒そうに深いため息を吐いている。


兵吾さん、サトコちゃんも連れてきたんだ?

加賀
面倒だが、コイツにうってつけだしな

(え?もしかして私のため‥?)

加賀教官とイベントを回る暇はないと思っていたから、余計にその優しさが嬉しかった。

黒澤
はい、まずは23番の方!サツマイモセットをプレゼントしまーす!
あ、重いですけど大丈夫ですか?
けど、お姉ちゃん逞しそうだから大丈夫かな!
おっと、いい意味ですからね!?綺麗で逞しい女性って最高じゃないですか!

(‥黒澤さんの叩き売りが始まった?)

酷い、と反論する女性に対して、黒澤さんが慌てたようにフォローを入れる。

黒澤
次は3番!
おおっと、加賀さんですか!

サトコ
「えっ、教官!何か当たったみたいですよ!」

加賀
叫ぶな。聞こえてる

黒澤
加賀さんには栗をプレゼント!甘い栗と加賀さん、何か似合わないですよね!

加賀
‥ほぅ?

黒澤
じょ、冗談ですって‥

(いや‥実はとってもお似合いなんだけどな‥)
(‥っていうか、サツマイモや栗‥最近、どこかで見たような‥)

サトコ
「あっ」
「東雲教官、もしかしてあのサツマイモや栗って、警護課の部長から先日届いたって言う、あの‥」


しー

私の言葉を途中で遮り、人差し指を口元に当てて『秘密』と伝えてくる。


資源は有効活用しないと、ね?

サトコ
「そ、そうですね‥」

段ボール箱いっぱいに詰め込まれた秋の味覚。
いくら5人の大人が集まったからと言って、簡単に消費できるようなものじゃない。

(焼き芋にしたりして食べていたみたいだけど、結局食べきれなかったんだ‥)

加賀
おい、お前が持ってろ

サトコ
「え?」

加賀教官の声が聞こえて振り向くと、ドサッと何かが目の前に置かれる。

サトコ
「こ、これ‥まさか全部栗ですか?」


よりによって一番量の多いものが当たるなんて‥
兵吾さんって、運がいいのか悪いのかどっちかわかんないですね

加賀
うるせぇ
おい、さっさと行くぞ

サトコ
「は、はい‥!」
「‥って、これ本当に重いですよ!?」

加賀
しっかり持てよ、『有能な』補佐官

(うぅ、都合のいい時ばかり有能とかデキるとか言うんだから‥!)



それから学校を出て、加賀教官の自宅へと招かれた。
どうして私が招かれたのかというと‥

加賀
まだか?

サトコ
「‥もう少しです」

当たってしまった大量の栗を消費するため、いま私は栗ご飯を作っている。

(‥部屋に呼ばれた時、もしかして甘い時間を過ごせるのかなって思ったけど)
(甘かったのは私の考えだった‥)

部屋について早々、栗ご飯を作れ、と言われた時はさすがにだけど‥
抽選会場を出る時、東雲教官が気になることを言っていた。


兵吾さんの講演、オレも聞きたかったなー
けど、兵吾さんから抽選はもう少し待てっていきなり連絡きたんだよね
最初は何でって思ったけど、多分あれってサトコちゃんのためだったんだね

(まさか私のために抽選時間を遅らせてくれたなんて‥)
(加賀教官、なんだかんだ言っても私の事を結構考えてくれているんだよね)

加賀
何ニヤけてんだ、気持ち悪い

(‥辛辣なのは相変わらずだけど)

サトコ
「あの、抽選を遅らせろって東雲教官に伝えるために、講演代理をさせたんですか?」

加賀
あ?お前の頭はほんと出来が悪ぃな‥ちげぇよ

サトコ
「じゃあ、どうして‥」

その時、自分の作った資料だから講演がしやすかったことを思い出した。

(あの講演があったから、視察の方にも褒めてもらえたし‥)
(もしかして、最初からそのつもりで‥?)

加賀
補佐官の株は教官の株、つまり俺の株が上がったってことだ

<選択してください>

A:自分のためですか‥

サトコ
「結局自分のためってことですか‥」

(けど、その割には優しい表情なんだよね)
(多分、言葉では素っ気なく言ってるけど、私の言った通りなんだろうなぁ)

加賀
ニヤけんなっつっただろ
思い出し笑いなんて、てめぇは変態か

サトコ
「ヒドイですよ‥」

B:嘘つきですね

サトコ
「加賀教官って、実は嘘吐きですよね」

加賀
あぁ?ケンカ売ってんのか、テメェ

からかうように言うと、凄味のある視線と口調で言葉を返される。

(うぅ、もう素直じゃないんだから‥!)

C:本当ですか?

サトコ
「本当ですか?」

加賀
俺の言葉を疑うとは大した『有能補佐官』だな?

(素直に言ってくれればいいのに‥)
(加賀教官って結構な天邪鬼だよね)

加賀
テメェ、失礼なこと考えてんだろ

サトコ
「め、滅相もないです」

教官の優しさが垣間見えてしまったからか、どんなにきつい言葉も全く怖くない。

(私も心底、教官の事が大好きだな‥)

サトコ
「加賀教官、栗ごはん炊けましたよ」

加賀
‥ここは学校じゃねぇだろ

サトコ
「え?」

加賀
学校以外で『教官』なんて呼ばれたくねぇんだよ

(‥あっ‥そっか‥)

サトコ
「すみません。加賀さん」

加賀
‥テメェ、なんも分かってねぇだろ
ちっ、まぁいい。今回は見逃してやるよ

(よ、よく分かんないけど見逃されちゃったよ‥)

呆れたように呟いた後、加賀さんは椅子に腰かけ、ジッと栗ご飯を見つめる。

サトコ
「上手に炊けたかは自信ないですけど‥」

加賀
不味かったらお仕置きだからな

(ええっ‥)

加賀さんの物騒な言葉に、ドキドキしながら栗ご飯を食べる姿を見つめる。

(あれ?)

サトコ
「加賀さん、もしかして‥もしかしなくても、甘い栗とか好きですよね?」

加賀
‥別に

そう言いながらも、加賀さんは栗ご飯の栗ばかりを先に食べている。
曖昧に濁しているけど、多分甘い栗は加賀さんが好きな物の1つなんだと思う。

(ふふっ‥口に合って良かった)



そして夜。

(今日はお泊りかな?)
(でも、今まで忘れてたけどこの前拒否っちゃったし‥私から言うのも‥)
(いやいや、講演の後だし、加賀さんも疲れてるよね‥)

若干落ち着かない気持ちを抱えながら、私は食器を洗っていた。

加賀
お前、素直じゃねぇな

サトコ
「え?」

加賀
‥本当は俺から離れられないくせに

サトコ
「あっ‥」

言葉を返すより、加賀さんが私の唇を奪う方が早かった。
それまで色々と考えていたけど、加賀さんのキスで完全に思考が止まってしまう。

加賀
何も考えず、俺に流されていればいいんだよ

加賀さんは不敵に微笑んだ後、再び顔を近づけてきて、私も目を閉じた。

この前愛し合えなかった分、私たちはもつれ合うようにお互いを求め合う。

加賀
‥へたくそ

加賀さんは自分の胸元についているキスマークを、とんとんと指で叩きながら呟く。

サトコ
「う‥難しいんですよ!慣れてないし‥」

加賀
慣れてたら、許さねぇよ

サトコ
「もう‥どうしろっていうんですか‥」

加賀
手本がほしいってか?

再びベッドに縫いとめられ、胸元に加賀さんが顔を埋める。
ちくっとした痛みの後、私の肌の上に艶やかな花のようなキスマークがつけられる。

サトコ
「ん‥っ」

加賀
そういえば、お前は面白いことを言ってたな‥

こつん、とおでこを合わせながら加賀さんが意地悪な笑みを浮かべる。

加賀
俺のどこが女心をわかってないって?

サトコ
「それは‥あっ」

口を開こうとするが、加賀さんの甘い攻めに漏れ出すのは吐息ばかり。

サトコ
「うっ‥」

加賀
まあいい。で、今は?ちゃんと女心読めてるか?

サトコ
「い‥意地悪‥」

加賀
言えよ

サトコ
「ん‥っ。読めてます‥っ」

加賀
まぁ、俺は別に『女心』を分かりたいと思わねぇけどな
そんなもんより、サトコのことだけ分かっていればいい

サトコ
「‥っ」

私の表情に満足したらしく、加賀さんは優しく抱きしめる。
私は一晩中、加賀さんからたくさんの愛をもらいながら、そのぬくもりに酔いしれたのだった。



そして翌日。

(加賀さんに抱きしめられて‥幸せだったな‥)

機嫌が良い私は朝から栗ご飯を作っていた。

サトコ
「おはようございます!」

加賀
また栗かよ

(眉根を寄せて呟いているけど、何となく嬉しそうに見えるのは気のせいじゃないはず‥)

サトコ
「あ!」

加賀
どうした‥

サトコ
「加賀さん、この栗見てください!」
「栗の形がハート型ですよ、何だか食べるのがもったいないですね」

(昨日あんなに甘い夜を過ごして、朝からこんな事があるなんて)
(なんかロマンチック‥)

加賀
‥ふっ

加賀さんは意地悪そうに微笑むと、ハート型の栗を箸で真っ二つに割ってしまう。

サトコ
「あぁっ‥」

加賀
ほんとお前、くだらねぇな
ほら、食えよ

二つに割ったハートの栗の片方を私に差し出してきて、私はぱくりとそれを食べる。

(うぅ‥甘い‥美味しい‥)

加賀
バカ面

(あ‥)

ハート型の栗の、もう片方を加賀さんが食べながら呟く。
その表情はとても優しいもので‥

(加賀さんが女心を分かっていないなんて、今後絶対に思わない)
(‥だって、悔しいけど加賀さんには私の事なんて筒抜けなんだから)
(いつだって意地悪だけど、私が喜ぶ事を分かってくれている‥)

これからもきっと意地悪な加賀さんに翻弄されるだろうけど、
それも悪くない、と思える秋の朝だった‥

Happy End

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