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恋の秋 颯馬2



子ども
「キノコー!」

準備室に向かうとき、子どもの声が聞こえ、そちらに視線を向けると‥


勝手に動き回るのはいいけど、何かあってもオレ責任取らないよー
キミたちに怪我とかあったらオレが困るし、勝手に動き回らないでねー

子どもたちに変なあだ名をつけられ、面倒くさそうにつぶやく東雲教官の姿があった。

(た、大変そう‥)



颯馬
私は機材を取りに行ってきますので、ここで待っていてくださいね

サトコ
「はい」

後藤
おい!黒澤を見なかったか!?

颯馬教官が出て行ってから少し経った頃、後藤教官が血相を変えて入ってくる。
いつも冷静な後藤教官を見てるせいか、こんなに慌てた様子を見るのは少し驚いた。

サトコ
「何かあったんですか?」

後藤
黒澤が俺たちの写真をこっそりとって、無断で販売してたんだ
俺だけじゃなくて、石神さんや加賀さんの写真も撮っていたらしい

サトコ
「えぇ!?ブロマイドってことですか!?」

(颯馬さんのもあるのかな?それだったら、欲しい‥じゃなくて!)

サトコ
「でも、この部屋に来たとき、黒澤さんなんて‥」

ガタンッ!

黒澤
やばっ‥

後藤
黒澤!お前、ここに隠れていたのか‥

(いたの!?)

後藤
警察官でありながら盗撮など‥自分を恥ずかしいと思わないのか!

黒澤
だってウソみたいに売れるんですよ!
後藤さんの写真が1番売れ行き良いですけど!
いや、一柳さんかな‥?

後藤
そういう問題じゃない‥っ!

黒澤
ちょ、ま‥うわあああっ!

後藤
待て!逃げるな!

黒澤
追いかけられて逃げないなんて人はいませんって!

(お、追いかけけっこ!?)

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください。ふたりとも、落ち着いて‥」

後藤
うお‥っ!

サトコ
「きゃっ‥!」

後藤教官の足に延長コードが絡まり、私の方へ倒れてくる!

(こ、これじゃ‥っ)

ドシンッ‥!

と、後藤さんと床に倒れ込んだ。

サトコ
「痛‥っ」

後藤
‥っ悪い、氷川!大丈夫か?

黒澤
‥い、今のうちに!
さよなら、後藤さん!

後藤
お、おい!黒澤!

颯馬
おっと、相変わらず元気ですね‥

黒澤
そ、颯馬さん!?
おふたりさんが、仲良しでした!
ではっ!

颯馬
おふたりさんが仲良し?って‥え?

黒澤さんは颯馬教官の言葉を聞く間もなく、瞬く間に走り去っていった。
そして、残されたのは‥
後藤教官に押し倒された私、という状態で‥

<選択してください>

A:弁解する

サトコ
「ほ、本当に何でもないんです!」
「これは、後藤教官が黒澤さんを追いかける時に転んでしまって‥」

颯馬
ふふ、そんなに慌てて弁解されると余計に怪しんでしまいますよ?
まぁ、想像していたようなことはないと信じていますけどね

B:何も言えない

(どうしよう、どんなことを言えばいいのか分かんないよ)

後藤
周さん、勘違いはしないでもらいたい
黒澤を追いかけていたら俺がコケてしまっただけだから‥

颯馬
‥そうですか

(颯馬教官の視線が痛い‥)
(後藤教官に説明してもらうより、自分で説明した方が良かったかな‥?)

C:護身術の練習をしてました

サトコ

これは護身術の練習なんです!」

色々考えた挙句、私の口から出たのはそんなものだった。

後藤
‥さすがにそれは苦しすぎだろう

颯馬
確かに。下手な言い訳は逆に怪しまれる原因になりますよ?

サトコ
「うっ‥」

颯馬
‥‥‥

後藤
あ‥いや、これは‥

私の上から後藤教官がのっそりと立ち上がる。

後藤
ただ、転んで氷川を巻き込んでしまっただけです
誤解しないでください

サトコ
「ほ、本当です!」

颯馬
ふふ、そんなに慌てなくてもいいですよ
それに‥
ふたりの関係について、どうこう言える立場ではありませんから

(え‥)

颯馬教官はにっこりと笑みを浮かべながら答えてくる。
そして、後藤教官が慌てて離れ、悪かったと謝りながら黒澤さんを追いかけて行った。

(そうだよね‥後藤教官に付き合っていること、知られるわけにはいかないし‥)

颯馬
大丈夫ですか?

サトコ
「はい‥」

差し出された手は、立ち上がった瞬間、ハッと離された。
その仕草に、どことなく違和感を覚える。

颯馬
気を付けてくださいね
では、作業に戻りましょうか

かけられた優しい言葉とは裏腹に、颯馬教官はこちらを見てくれなかった。

忙しかったイベントも無事終わりを告げた。
けど、私と颯馬教官の微妙な空気は相変わらず続いている。

颯馬
どうかしましたか?

サトコ
「い、いえ‥」

優しいのに、どこか距離を感じる仕草。
例えようのない寂しさが心に募っていく。

サトコ
「あの、今日は‥」

颯馬
すみません
ちょっと仕事が残っているので教官室に戻りますね、貴女は先に帰っていいですよ

やんわりと避けるように、颯馬教官が私の言葉を遮る。

サトコ
「‥‥」

颯馬
サトコさん?

サトコ
「‥颯馬教官、やっぱりさっきのこと、怒ってますか?」

颯馬
え‥

サトコ
「私‥このまま‥こんな風なまま、颯馬教官とケンカするの‥嫌です」

颯馬
‥‥

颯馬教官は苦しそうに眉根を寄せた後、強く私の腕を引いて歩き始めた。

サトコ
「颯馬教官?」

颯馬
‥‥‥

ずんずんと歩く背中からは、僅かに怒りが滲み出ている気がして、私は委縮してしまう。

(余計、怒らせちゃったかもしれない‥)

颯馬教官に連れて来られたのは、私の部屋だった。
けど、部屋の中に入っても颯馬教官は何も言わず乱暴にベッドへ腰をおろした。
続く沈黙‥
自分の部屋なのに、居場所がわからなくて‥

(どうしよう、気まずい‥)

<選択してください>

A:謝る

(やっぱり謝ろう‥!)

サトコ
「あの、ごめんなさい」

颯馬
‥すみません

気が付くと、私たちは同時に謝っていた。

颯馬
サトコさん、こっちに来てもらえますか?

サトコ
「‥はい」

B:颯馬に近づく

(このままこうしているわけにもいかないし、とりあえず颯馬さんの隣に座ろう)

少し歩みを進めた時、颯馬教官が私の手を取った。

サトコ

「‥え?」
颯馬
‥‥‥

C:お茶を淹れる

サトコ
「えっと、お茶でも淹れますね」

颯馬
必要ありません
‥お茶より、少し私の側に来てもらえますか?

サトコ
「‥はい」

颯馬
‥貴女は無防備なんです
その気がないとわかっていても‥
まるで私を試しているようで‥

告げられた言葉の内容は予想もしていなかったもの。

サトコ
「そんな、颯馬さんを試すだなんて‥」

颯馬
自分でもちゃんと理解しました‥貴女のことになると、我慢にも限界があると
私の前で石神さんたちを『カッコイイ』と言ってみたり‥
加賀さんには腰を抱き寄せられていましたね‥
サトコは私を妬かせたいんですか?

加賀教官といっしょにいたところも見られていたことに驚き、私は目を丸く見開いた。
悪いことをしていたわけじゃないけど、あの場面はあまり見られたくなかったと思う。

サトコ
「あ、あれは‥!加賀教官が女性に追われていて‥」
「それに、写真のことだって!あれは、颯馬さんの写真が素敵だったから‥」

颯馬
知ってますよ
けど、納得はできない
オレの‥オレだけのサトコなのに

颯馬教官は私を引き寄せ、ゆっくりと口づけてくる。
独占欲に満ちた言葉を囁く唇なのに、触れた感触はどこまでも優しい。

颯馬
‥オレだけのサトコ、だろ?
あまり、簡単に他の男を見たり、他の男に触れさせたりしないで

そう呟きながら、もう一度キスを落としてきた。

サトコ
「颯馬さんだって‥」

颯馬教官の独占欲に触れ、私の心にも同じ気持ちがこみ上げてくる。

サトコ
「‥颯馬さんも、私の、じゃないといやです‥」

恥ずかしかったけど、私は自分から颯馬さんの唇に自分の唇を重ねた。

颯馬
‥っ

颯馬さんの驚いた表情が視界に入ってきて、
私は恥ずかしさを隠すように、颯馬さんの胸で自分の顔を隠した。

颯馬
隠すのは‥ダメです

サトコ
「あっ‥」

私の頬を両手で挟み、ゆっくりと視線を合わせるように颯馬教官が顔を覗き込んでくる。

(この覗き込んでくるのは、颯馬さんのクセなのかな?)

颯馬
妬かせた罰ですよ。ちゃんとその顔を見せて‥

コツンとぶつかったおでこから、熱が伝わる。
鼓動が徐々に早まっていく。

颯馬
今日は優しくなんてしてあげられない
わかってますよね?誘ったのはサトコだから

颯馬教官は意地悪な笑みを浮かべた後、少しだけ強引なキスをしてくる。
いつもみたいにゆっくりと深くなっていくのではなく、今日は初めから深いキス。

サトコ
「‥っ」

唇が触れる距離で、好きだ、と吐息で呟かれた。
その目には熱がこもっていて、その視線だけでくらくらとしてしまいそうになる。

サトコ
「あっ‥」

深すぎるキスに力が抜けそうになったけど、その前に颯馬さんが私を抱きかかえてくれる。

颯馬
自分で脱げますよね?

サトコ
「えっ‥」

颯馬
オレを妬かせたんだから‥ほら、自分でやってみて?

けど、こういう笑顔を見せる颯馬教官は何を言っても聞いてくれないと分かっている。

颯馬
うつむくのは禁止ですよ
貴女の照れる顔も恥ずかしがる顔も‥この時の表情はすべて、オレだけのものなんですから‥

ゆっくりと自分のシャツのボタンに手を掛ける。

(‥けど、自分で脱ぐなんて‥っ)

ボタンを幾つか外すことはできたけど、それ以上は手が震えてできない。
緊張からか、それとも期待からなのか‥

颯馬
外せない?

(またこの‥覗き込む仕草だ‥)

小さく頷くと、優しい声が聞こえてきた。

颯馬
仕方ない‥
脱がせてあげます
そして、サトコのすべてをオレだけのものにしますから

その言葉と同時に、ゆっくりとベッドに押し倒される。
そして、近づいてくる颯馬さんの顔に、私もゆっくりと目を閉じた‥

イベントも終わって数日が経ち、学校はいつも通りの日常を取り戻していた。

鳴子
「サトコ!」

サトコ
「わっ!?びっくりした、驚かさないでよ」

鳴子
「ごめんごめん‥」
「って、驚いたのはこっち!」
「これ、どういうこと?」

バンッ!と出された公安広報誌。
その表紙を飾っていたのは‥元気よくたこ焼きを頬張る私だった。

サトコ
「!?」

鳴子
「表紙になるって決まってるなら教えてよ!」
「あー、すごい!これでサトコも一躍有名人ね!」

サトコ
「ちょ、ちょっと待って!なに、コレ!どこで手に入れたの!?」

鳴子
「どこって‥配布してるわよ、校内で」

サトコ
「え!?」

鳴子
「たぶん、各警察署内でも配られてると思うけど‥」

サトコ
「ええ!?」

鳴子
「入学案内のパンフレットにも折り込むんじゃないかなぁ?」

サトコ
「ええええ!?」

鳴子
「幸せそうに食べちゃって~」
「‥って、ちょ、ちょっとサトコ!?」
「あっ、ど、どこに行くのよーっ!」

サトコ
「颯馬教官!」

教室を飛び出してやってきたのは、もちろん教官室。
5人の教官たちが広報誌を見ているのが分かった。

颯馬
どうしました?そんなに慌てて

サトコ
「どうしました、じゃないですよ!慌てるに決まって‥」

加賀
食い意地の張ったマヌケ面が来たな

石神
‥哀れだな、まさかこんな写真が使われるとは思わなかっただろう

後藤
石神さん、それではまるで写真写りが悪いように聞こえますよ

加賀
後藤、何気にお前の言葉が一番酷いからな


あの様子を見ると、この写真が使われるって知らなかったみたいだね

東雲教官は広報誌の表紙を見ながら、からかうように話しかけてくる。

サトコ
「颯馬教官っ!」
「加賀教官が言うように、食い意地が張ってるようにしか見えないですよ‥」

たこ焼きを食べている私の写真は、これ以上なく幸せそうに写っている。

サトコ
「もっと可愛い写真、使ってくれたって‥」

颯馬
充分、可愛いじゃないですか
公安学校で楽しそうにしている、いい宣伝になると思うんですけどね

加賀
学校の宣伝じゃなくて、たこ焼きの宣伝だろ

石神
‥まぁ、ここまで美味しそうに食べてもらえれば、たこ焼き屋も本望だろうな

(い、石神教官まで‥)

加賀
しかし、もっときれいに化粧できねぇのか

サトコ
「!」


寝不足とかで肌荒れが酷いし‥見てて、とことん気の毒

サトコ
「!?」

颯馬
広報係で忙しかったですからね、そのせいですよ

サトコ
「!!?」

(‥化粧のあら探しまでされてる)
(私って、一体なんだろう‥)

肩を落として教官室を出ると、後ろから颯馬教官もついてくる。

颯馬
すみません、黙っていて

サトコ
「‥ひどいです、消してくれると思っていたのに」

颯馬
自慢したくなったんですよ、可愛い私の恋人を

サトコ
「え‥」

颯馬
それに‥

颯馬教官が広報誌の表紙を見つめなおす。

颯馬
この表紙も可愛いですけど‥
貴女の一番可愛い姿は、私しか知りませんけどね

サトコ
「‥っ!?」

耳元で囁くように呟かれ、私は頬に熱が一気に集まってくる。
そんな一言で許してしまいたくなる自分は、
到底、颯馬教官には敵わないのだと思い知らされたのだった。

Happy End

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