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合宿 難波1話

(加賀教官は‥)

加賀
おい、クズ共。俺のカレーはどこだ

男子訓練生A
「こ、こちらです」

(‥大丈夫だよね。じゃあ、東雲教官は‥)

鳴子
「教官ー。カレーをどうぞ」

東雲
ありがとう
鳴子ちゃん、隣で一緒に食べる?

鳴子
「はい、ぜひ!」

(‥鳴子が持って行ったんだ)
(じゃあ、このカレーは私が‥)

???
「なんだ、カレーか」

(ん?)

サトコ
「あ‥おつかれさまです」

難波
おつかれー
ん?ちょっと待て
『カレー』‥『おつかれー』‥
これ、オヤジギャグか?

サトコ
「さ、さぁ‥」

(私に聞かれても答えにくいんですけど‥)

難波
‥まあ、いいか
ところで、そのカレーもらってもいいか?

サトコ
「あ、はい。福神漬けはいりますか?」

難波
おお、気が利くなー

室長はスプーンいっぱいに福神漬けをすくうと、豪快にカレーの上に乗せた。

難波
ま、こんなもんか。ありがとさん
氷川はきっといい嫁さんになるな

(えっ、嫁?)

<選択してください>

A:ありがとうございます

サトコ
「えっと‥ありがとうございます」

難波
‥ん?なにがだ?

(‥もしかして褒められたわけじゃなかったのかな?)
(ってことはただの冗談?)

B:私がですか?

サトコ
「私がですか?」

難波
ん?

サトコ
「その‥『いいお嫁さんになる』って‥」

難波
‥ああ
そうだな、なるなる

サトコ
「‥‥‥」

(‥もしかして深い意味はなかったのかな)

C:照れて難波の肩を叩く

サトコ
「嫁って、そんなー」

照れ臭くなった私は、つい室長の肩をバンバン叩いてしまった。

難波
お、肩もみか
それならもう少し内側だなー

サトコ
「了解でーす」

(ってなんか違うような‥)

難波
それにしても、うまいな、このカレー
隠し味とか入れてるのか?

サトコ
「そうなんです。実はポイントは人参でして」
「ただ乱切りにしないですりおろしにして甘さをアップさせて‥」
「さらにそこにインスタントコーヒーを隠し味として投入‥」

(って、いない!?)
(いったい、どこに‥)

難波
おつかれー

鳴子
「おつかれさまです。室長、お茶いりますか?」

難波
おお、気が利くな。佐々木はいい嫁になるぞー

東雲
室長‥それ、事務の子にも言ってましたよね

難波
んーそうだったか?

サトコ
「‥‥‥」
「‥ま、いっか」

(私も早く食べよう。午後からの訓練も厳しそうだし)
(カレー、カレーっと‥)

サトコ
「!?」

加賀
なんだ、クズ

サトコ
「いえ、その‥カレーを食べようかと‥」

加賀
カレーはもうねぇ。これが最後だ

サトコ
「ええっ」

(そんなぁ‥)

加賀
‥‥文句あるか?

サトコ
「ありません!まったくありません!」

(ああ、私の昼食が‥)

サトコ
「はぁぁ‥」

(ダメだ‥身体に力が入らない‥)
(そりゃそうだよね。結局、お昼は福神漬けしか‥)

サトコ
「‥ダメダメ!」

(今は尾行訓練中なんだから。もっとしっかりしないと!)

ぎゅるる‥

(うう‥でもお腹が‥)

サトコ
「!?」

目の前に、いきなり知らない男の子が立ちはだかった。

サトコ
「あの‥キミはいったい‥」

男の子
「おねーちゃん、何してんの?」

サトコ
「えっ」

男の子
「かくれんぼしてるの?大人のくせにへんなのー」

サトコ
「ちょ‥声大きいから!」
「しーっ、しーっ」

加賀
訓練中になにしてやがる

(ひっ!)

加賀
暑さでテメェの頭ん中も融けたか?あぁ?

ドンッ!

男の子
「ああっ、『壁ドン』だ!『壁ドン』!」
「おねーちゃん、ドキドキする?」

(し‥してるよ、まったく別の意味で‥)

こうして尾行訓練は開始5分で失敗に終わってしまい‥

サトコ
「まいったな‥」

(罰として夕飯の買い出しと、明日のお昼に追加訓練か‥)
(仕方ないよね。「5分で失敗」なんて私だけだもん)

サトコ
「でも、いい勉強になったよ、うん!」

(実際の尾行中でも、ああいうことがあるかもしれないし!)
(次からは、誰かに話しかけられてもうまく逃げて‥)

???
「はははっ」

不意に、土手下から笑い声が聞こえてきて、私は足を止めた。
みると、室長とさっきの男の子が川べりに並んで釣り糸を垂れている。

難波
おっ、きたか?ユウタ、引け引け!

ユウタ
「違うよー!これ、ゴミだよ」

難波
なんだよ、情けないな
本当にここで釣れるのか?

ユウタ
「釣れるって!ここのザリガニ、すっごくおおきいんだよ!」

難波
ははは、そうか!それは楽しみだな
じゃあ、釣れたらメールくれ

ユウタ
「ケータイ持ってない!」

難波
だったら電話だな。オジサンの番号は‥

(‥室長って何しにここに来たんだろ)

午後の訓練を思い返してみたものの、室長の姿を見た覚えはない。

(まさかザリガニを釣るため?それだけのためにここに?)
(いやいや、いくら何でもそれはさすがに‥)

ブルル‥

(ん?電話‥東雲教官からだ‥)

サトコ
「おつかれさまです」

東雲
おつかれさま。キミ、今買い出し中だよね

サトコ
「そうですけど‥」

東雲
だったら解熱剤と冷却シートを買ってきてくれる?
鳴子ちゃんが熱を出しちゃってさ

(ええっ!?)

サトコ
「鳴子、大丈夫!?」

鳴子
「うん‥なんとか‥」
「それよりごめん‥夕飯作るの、無理っぽい‥」

サトコ
「いいよ、気にしないで」
「みんなでなんとかするから、鳴子はゆっくり休みなよ」

鳴子
「ん‥ありがと‥」

(よし、今晩は鳴子の分まで頑張らないと!)



男子訓練生A
「氷川ー。人参の大きさはこれくらいか?」

サトコ
「ううん、もっと小さめ!」

男子訓練生B
「氷川ー、た、たまねぎを切ってたら涙が‥」

サトコ
「たまねぎのかけらを口にくわえて!」
「そうすれば涙が出ないから!」

サトコ
「みなさーん、順番に並んでくださーい」
「大丈夫でーす!慌てなくても豚汁は逃げませんよー!」

加賀
七味はどうした?

サトコ
「えっ」

加賀
豚汁といえば七味だろうが!このクズが‥

サトコ
「す、すみません、今探してきます!」

サトコ
「食べ終わった食器はちゃんと重ねてくださーい」
「ああっ!そこ!箸は別だから!箸はトレイにおいて‥」

東雲
おつかれさま。見事に仕切ってるねー

サトコ
「いえ、そんなことは‥」

東雲
いやいや、見事だって。エプロンも似合ってるし
いっそ刑事なんてやめて社食のおばちゃんになったら?

(満面の笑みで何たることを‥)

それでもめげずに一通りの作業を終らせて‥



サトコ
「つ、疲れた‥」

エプロンを脱ぎ、すぐそばの席に座り込む。
テーブルに突っ伏したとたん、疲れがドッと押し寄せてきた。

(やっぱり1人で仕切りのは大変すぎるよ‥)
(鳴子、早く元気になってくれるといいなぁ)

ガタッ‥

(ん?)
(うわ、室長‥!)

サトコ
「おつかれさまです!」

難波
んー?ああ‥えっと‥お前は確か‥
佐々木だったな、佐々木‥

サトコ
「いえ、氷川ですが‥」

難波
氷川‥
そうそう、氷川だ、氷川
っと‥

ガタガタガタンッ!

サトコ
「室長!?」

慌てて駆け寄ると、室長は床に転がってヘラヘラ笑っている。
どうやら新聞立てに足をつっかけて転んだようだ。
しかも‥

(うわ、お酒くさ‥っ)

<選択してください>

A:飲みすぎですよ

サトコ
「飲み過ぎですよ、室長」

難波
んー大丈夫だ‥
飲んでない‥

サトコ
「いえ、どう見ても飲んでますから」

難波
んー?

サトコ
「そんな、小首傾げられても‥」

(‥ダメだ、完全に酔っぱらってる)

B:大丈夫ですか?

サトコ
「大丈夫ですか?」
「怪我はしていませんか?」

軽く揺さぶって声をかけると、室長はじーっと私の顔を見つめてくる。

サトコ
「な、なにか‥?」

難波
かっぱ‥
よし‥お前のあだ名は『かっぱ』だ‥氷川‥

サトコ
「!?」

(なんで『かっぱ』?私、話してないよね?)
(以前『長野のかっぱ』って呼ばれてたこと‥)
(って、そうじゃなくて!)

C:どこで飲んでたんですか?

サトコ
「どこで飲んでたんですか?」

難波
どこで‥?
ああ‥そうだな‥

室長はぶつぶつ言ってたかと思うと、いきなり勢いよく身体を起こした。

難波
ママ、カラオケリクエスト‥
『雨の東麻布』で‥

サトコ
「い、いえ‥私、ママじゃないですけど‥」

(ダメだ、完全に酔っぱらってる‥)

(どうしよう‥このまま放っておけないよね)
(誰か呼んできた方が‥)

立ち上がりかけたところで、いきなり室長に腕を引かれた。

(えっ、ちょ‥)

ドスンッ!

サトコ
「痛たた‥」
「室長、いきなりなにを‥」
「!!!」

(こ、この状況は、もしや床ドン!?)
(しかも私から!?)
(違‥室長に床ドンなんて、そんな‥)

すると、背後から乱暴そうな足音が近づいてきた。

加賀
退け

サトコ
「!!」
「違うんです!私、室長を襲ってなんか‥」

加賀
さっさと退け

加賀教官は私を押しやると、室長の方に腕を回した。

難波
おー石神‥

加賀
加賀です

難波
そうか‥かががみ‥今日の店だけどなぁ‥

(‥行っちゃった)
(大丈夫だよね、誤解されてないよね?)
(このせいで、明日の訓練がよけいに過酷になるなんてこと‥)

ふと足元をみると、マッチが落ちていた。

サトコ
「スナック『恋合宿』‥」

(ほんと‥室長って何しにここに来たんだろ‥)



翌朝‥

サトコ
「ふわぁ‥」

(しまった‥だいぶ早く起きちゃった‥)
(あと2時間は寝ていられたはずなのに‥)

サトコ
「なんか、のどが乾燥してる‥」

(空気が乾燥しているせいかな?)

調理場の冷蔵庫に水を取りに向かう。

冷蔵庫の中から、冷えたペットボトルを取り出す。

(とりあえず2本あれば夕方までもつよね)
(足りないようなら、お昼ご飯と一緒に持って行けばいいし)

サトコ
「ふわぁ‥」

(うう‥やっぱり眠いな)
(部屋に戻ったらもう一眠りして、それから‥)

サトコ
「ん?」

(あそこにいるの、室長と教官たちだ‥)

3人はラウンジの隅で何かを話し合っている。
会話の内容は、まったく聞こえてこない。
でも、室長の表情を見ればまじめな話し合いをしているのは明らかだった。

(久しぶりに見たな‥室長のああいう顔‥)
(でも、こんな朝早くからなんの打ち合わせを‥)

サトコ
「!」

(ま、まさか今日の訓練メニューのこと!?)
(昨日よりさらにハードにしよう、とか?)

サトコ
「あ、ありえる‥」

(となると、さっさと二度寝して身体を休めないと!)
(こんなところでウロウロしてる場合じゃない!)



ところが‥

加賀
クズ共が、ちんたら走ってんじゃねぇ
今日こそ砂に埋めるぞ、テメェら

(あれ‥?)

東雲
水飲んでいいよ
休憩は5分ね、そのあと、40往復追加

(あれ‥?)



(変だな‥午前中の訓練、思ったよりきつくなかったよね)
(走り込みの本数が10本増えたのと、同期が3人砂浜に埋められただけで‥)

怪訝に思いつつも、私は部屋のドアをノックする。

鳴子
「はーい」

サトコ
「鳴子、お昼ご飯持ってきたよ」

鳴子
「ありがと、待ってた!」
「昨日の夜からほとんど食べてないから、お腹空いちゃってさ」

サトコ
「具合はどう?」

鳴子
「このとおり、熱はだいぶ下がったよ」
「病院にも行ってきたけど、たぶん疲労のせいだろうって」
「一応明日には復帰する予定」

サトコ
「そっか、よかった‥」

(‥あれ?)

サトコ
「このゼリーは?」

鳴子
「ああ、それね。病院の帰りに室長が買ってくれたんだ」
「ごはんが食べれなかったら、これを口にしてから薬を飲めって」

サトコ
「へぇ、室長が‥」

鳴子
「やっぱ、気が利くよねー」
「さすが既婚者は違うっていうかさー」

(え‥)

サトコ
「室長、結婚してるの!?」

鳴子
「え‥サトコ、今まで気づいてなかったの?」
「薬指に指輪してんじゃん」

サトコ
「うそっ」

鳴子
「嘘じゃないって。ふつー見るでしょ。男の左手」

(いやいや、見ないでしょ‥左手なんて)
(気になる相手ならともかく、室長の左手なんてさすがに‥)

サトコ
「あ‥」

(噂をすれば‥)

灰皿の前で、室長がタバコをくわえている。
なにか考え事でもしているのか、灰が落ちそうなのに微動だにしない。

サトコ
「あの‥落ちますよ?」

難波
‥ん?

サトコ
「タバコの灰」

難波
ああ‥そうだな

室長は目を細めると、慣れた手つきで灰を落とした。
ふと、左手に目を向けると、そこには

(指輪してる‥)
(しかも、かなり年季が入ってるっぽい‥)

考えてみれば、おかしなことではない。
室長の年齢からすれば、むしろ独身の可能性の方が低いはずだ。

(でも、なんか既婚者っぽくないんだよね)
(無精ヒゲのせいなのかな。あと、全体的にゆるいっていうか‥)

難波
ん‥そう言えば、加賀がお前を探してたぞ
『追加訓練』がどうのこうのって‥

サトコ
「追加訓練‥」

(ああっ!そうだ、昨日最下位だったから‥)

サトコ
「すみません、すみません!本当にすみません!」

加賀
いい度胸だな。クズのくせに、俺を待たせるとは

サトコ
「そ、そんなつもりは‥」

加賀
砂と海、テメェの希望はどっちだ

サトコ
「!!」

加賀
聞こえねぇのか、このクズ
砂と海、どっちがテメェの好みだ

ものすごい迫力で追い詰められて、私はじりじりと後ずさりする。

(ど、どうしよう‥)
(できればどっちも遠慮したいんですけど‥)

東雲
いいじゃないですか、兵吾さん
彼女、昨日から鳴子ちゃんの分まで頑張ってるんですから

加賀
歩‥

東雲
ここは少し大目に見てあげないと
彼女まで寝込んで倒れちゃいますよ

(神様が‥!神様がここに‥!)

感激する私とは対照的に、加賀教官はいまいましげに舌打ちをする。

加賀
テメェはこのクズを見逃せってか

東雲
いえ、そこまでは
追加訓練をすっぽかしたのはいけないことですから

加賀
だったらどうする

東雲
そうですね、罰として‥
今日の夜も買い出しに行かせたらどうですか?
ちょうど水のペットボトルが足りなくなってたことだし

(え‥)

東雲
2リットルのボトルを‥そうだな、とりあえず6本と
あ、オレの日焼け止めクリームも買ってきてよ
SPF30以下のヤツね。強すぎると肌に悪いから
じゃ、よろしく

サトコ
「‥‥‥」

(神様じゃなかった‥鬼だった‥)

その日の夜‥

サトコ
「はぁ‥はぁ‥」

(お、重い‥6本はさすがに重すぎるっ)
(これを持って、合宿所まで戻るなんて‥)

いつもなら、それでもなんとか頑張れる。
けれども、今はハードな訓練を終えたあとだ。

(まずい‥足がガクガクしてきた‥)
(どうしよう。ちょっとだけ、どこかで休憩を‥)

荷物を置いて、一息ついたそのとき、

???
「ステファニー!」

(ん?)

難波
おお、やっぱり!ステファニーじゃないか!

(え、室長‥?)
(って‥)

サトコ
「!!!」

(な‥なんで!?)
(なんで私、室長に抱きしめられてるの!?)

to be continued

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