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クリスマス 東雲1話

(東雲教官からだ!)
(えっと‥『わかってるよね、25日』‥)

サトコ
「こ、これはもしかして夜の‥」

鳴子
「‥どうしたの、サトコ?またブツブツ言って」

(しまった、つい心の声が!)

サトコ
「これは、その‥あははっ」
「じゃあ、おやすみ!」

鳴子
「おやすみ、また明日ね」

自室に入るなり、私は改めてメールを読み直した

サトコ
「『わかってるよね、25日』‥」
「‥‥‥よっしゃーっ!!!」

(ありがとうございます、神様、仏様、ゼウス様ー!)
(これって2人きりで過ごしたいってことだよね)
(絶対そういうことだよね?)

サトコ
「‥ん?」

(このメール‥まだ続きが‥)

サトコ
「『明日10時に駅前に来て』‥」

(えっ、デートのお誘い!?)
(そんな、まさか‥教官が1日に2粒も美味しい話を‥)

サトコ
「いやいや、それはさすがに‥」

(となると買い出し?)
(もしくは、休日返上で訓練とか?)
(そういえばこの間の尾行訓練、まだ合格点もらってないし‥)

というわけで翌日。
私は約束の時間より10分早く駅前にやってきた。

(スマホの充電はオッケーだよね)
(身軽に動けるように荷物は軽めにしたし、降水確率もチェック済み)
(小腹がすいたときのための携帯食品も問題ナシ!それから‥)

東雲
おまたせ

サトコ
「お疲れ様です!」

ちゃんと挨拶したのに、教官はなぜか顔をしかめる。

サトコ
「あの‥なにか?」

東雲
‥なんでジャージ?

サトコ
「ああ、これは‥」
「動きやすさを追求した結果です」

東雲
は?

サトコ
「これならどんな場所でも歩けますし‥」
「地味目だから尾行対象者の追跡にも最適」
「ついでにコートはリバーシブルなので」
「万が一、尾行がバレそうになったときはひっくり返せば‥」

東雲
デートなんだけど

サトコ
「えっ‥」

東雲
訓練じゃないんだけど

サトコ
「ええっ!?」
「だ、だって‥メールにはそんなこと一言も‥」

東雲
書かなくてもデートでしょ
休日に外で待ち合わせしてるんだから

サトコ
「普通はそうですけど‥っ」

東雲
ん?今のどういう意味?
オレは普通じゃないって言いたいの?

(しまった‥)

サトコ
「いえ、その‥滅相もない‥」

東雲
だったら行くよ

サトコ
「はい‥‥っ!」

(そっか‥デート‥)
(デートだったんだ、これ‥)

教官に連れられて、私は繁華街を歩く。

(デートなら、もっと可愛い恰好してくればよかった‥)
(っていうかデートなら‥できれば、手とかつなぎたいなーなんて)

幸いなことに、教官の右手はがら空きだ。

(これまでは、だいたい教官から手をつないでくれてたよね)
(今日は私から‥)
(でも、そんなことしたら、また『キモ』とか言われそうな気も‥)

東雲
‥さっきから何?

サトコ
「えっ」

東雲
キミの左手、やけにぶつかるんだけど

(いけない‥無意識のうちに‥!)

サトコ
「それは、その‥ただの偶然で‥」

東雲
手つなぎたいの?

サトコ
「!」

東雲
ふーん、つなぎたいんだ?
ジャージのくせに

(う‥っ)

サトコ
「で、でもこれ、おしゃれジャージですし!」
「一応、ニャイキの新作で‥」

東雲
つないであげてもいいよ
ここでキスできたらね

サトコ
「!」

東雲
もちろん、キミから

教官は軽く顎をあげて、うっすらと口元をほころばせる。

東雲
‥どうする?

(この顔‥絶対に『できっこない』って思ってるよね)

<選択してください>

A: ここでですか?

サトコ
「‥ここでですか?」

東雲
べつの場所でもいいよ
一本向こうの通りにする?ラブホあるし

サトコ
「!?」

(なんで、そんなこと知って‥)
(まさか、他の誰かと!?)

そう思った瞬間、私は教官の右手をつかんで歩き出していた。

東雲
ちょ‥
なに勝手に歩き出してんの

サトコ
「‥‥‥」

東雲
目的の店、通り過ぎるんだけど!

サトコ
「えっ」

B: それ、わいせつ罪ですよ

サトコ
「それ、公然わいせつ罪ですよ!」

東雲
わいせつ?
キミにそんなスキルあるの?

サトコ
「えっ」

東雲
公然わいせつ罪ってことは『社会の性的道徳秩序』を乱すわけでしょ
キミ、秩序を乱せるようなキスできるの?

サトコ
「そ、それは‥」

東雲
ちゃんと、オレのことも乱せるのかな?

(う‥)
(そう言われると、いまいち自信が‥)

東雲
っていうかさ

C: こうなったら‥

(こうなったら‥)

ちゅっ!

東雲
‥‥
なにこれ‥頬っぺたって
中学生かよ

サトコ
「でも、キスはキスです」

東雲
‥‥

サトコ
「手、つないでください」

東雲
いいけど、その前に

東雲
オレ、この店に入りたいんだけど

教官は、すぐ目の前のお店を指さす。

(ここ‥『ドソキホーラ』?)

(うわぁ、あっちもこっちもクリスマスグッズだらけ‥)

東雲
すみませーん
サンタのコスプレグッズってどこですか?

(コスプレ!?)
(そ、そう言えばこの前メールで『サンタのコスプレ衣装持ってる?』って‥)
(あれって、やっぱり私に着せるつもりで‥)

一人でうろたえているうちに、コスプレグッズコーナーに案内される。

東雲
ふーん‥ずいぶんいろいろあるんだ‥
ミニスカサンタ‥ミニスカトナカイ‥

(コスプレ‥)
(初めてのクリスマスでコスプレ‥)

考えれば考えるほど、ハードルが高い気がしてならない。

(でも、教官が『どうしても』っていうなら‥)
(‥そうだよ、せっかくのクリスマスだし!)
(この際、ナースや客室乗務員に負けないミニスカサンタに‥)

東雲
ああ、あった。これこれ‥

(えっ‥)

サトコ
「肉襦袢サンタ‥?」

(‥太ったサンタになれるっていう‥コスプレ?)
(ま、まさか‥教官は、『ふくよか』がお好み‥っ)

東雲
ほんと、謎だよね
難波室長の趣味って

サトコ
「室長!?」

東雲
当然じゃない。オレ、こんな趣味ないし
なんでこんなの着たいんだろ

(な、なんだ‥そういうこと‥)

東雲
‥なに残念そうな顔してんの

サトコ
「!」

東雲
まさかキミ、コスプレ好きなの?

サトコ
「違いますよ、そんな‥!」

東雲
そのわりに真剣な顔で見てたよね
その、ミニスカサンタの衣装

(うっ‥)

東雲
まさか、それ着てパーティーに参加‥

サトコ
「しませんよ!」
「教官と2人きりならまだしも」

東雲
2人きりでも困るんだけど
どう考えても視覚への暴力でしょ

サトコ
「ひど‥っ」

東雲
そういうのはさ
卒業してからに‥

チリンチリーンッ!

店員
「おめでとうございまーす!」
「1等・クリスマスツリーでーす!」

サトコ
「‥なんですか、あれ」

東雲
くじ引きでしょ
ふーん、1000円以上買えば1回引けるんだ

サトコ
「じゃあ、教官も1回は引けますね」

店員
「では、この箱から1枚どうぞ」

東雲
キミ、引けば?

サトコ
「いいんですか?じゃあ‥」

(1等のツリーはさすがに無理だとして‥)
(狙うなら2等のクリスマスケーキだよね)
(神様、25日においしいケーキを‥!)

サトコ
「えいっ」

店員
「お‥おおっ!」

チリンチリーンッ!

店員
「2等、クリスマスケーキです!」

サトコ
「やったー!」

(すごい、私‥!)

東雲
「なにそれ」
「普通は3等の『ポカポカカイロ』狙いでしょ」

サトコ
「でもケーキですよ?」
「これで25日にケーキを買う手間が省けて‥」

東雲
ケーキなら透が発注済みでしょ
室長といろいろ相談してたし

サトコ
「それは皆でやるクリスマスパーティーの話ですよね?」
「そうじゃなくて2人きりの‥」

東雲
‥2人きり?
なにそれ
そんなの初耳なんだけど

(ええっ!?)

サトコ
「で、でも教官、25日に2人きりでやろうって‥」

東雲
いつ?

サトコ
「メールです!」
「この間のメールで『25日わかってるよね』って」

東雲
それは『幻のピーチネクター』限定品の話でしょ
25日に『X’masミックス』が再販されるから

サトコ
「そ、そんなぁ‥」

東雲
キミって、ほんとズレてるよね
今日のお誘いは訓練だと思い込んでるくせに
クリスマスは勝手に2人で過ごす気になってるし

サトコ
「だってクリスマスですよ!?特別ですよ!?」

東雲
くだらない
あんなの、ただの一宗教の聖誕祭でしょ
日本では経済を活性化させるイベントと化してるけど、本来は‥

サトコ
「いいじゃないですか、活性化させましょうよ!」
「2時間‥」
「いえ、1時間だけでもいいですから!」

拝み倒す私を、教官は心底イヤそうな顔で見下ろす。

東雲
怖‥
キミ、さっきから必死すぎ

(ぐ‥っ)
(で、でも‥)

東雲
過ごすだけなら一緒に過ごせるでしょ
透のパーティーに呼ばれてるんだし

サトコ
「それは、そうですけど‥」

東雲
2人きりがいいわけ?
そんなにオレと2人きりになりたいの?

サトコ
「だって、教官と初めてのクリスマスだし‥」

東雲
‥‥‥

サトコ
「本当にちょっとだけでいいんです」
「黒澤さん主催のパーティーのおまけで‥」

東雲
あっそう
だったら、考えてもいいけど

思いがけない言葉に、私は勢いよく頭を上げる。

サトコ
「ほんとですか!?」

東雲
ほんと
ただしキミ次第だけどね

サトコ
「私次第‥?」

東雲
透のパーティーってさ
22時ごろに一度中締めするんだよね

サトコ
「はぁ‥」

東雲
だから、それまでにうまくプレゼンしてよ
それで、キミと過ごすクリスマスに興味を持てたら‥
中締めのあと、一緒に帰ってあげる

(それって、つまり‥)

サトコ
「じゃあ、残りの2時間は‥」

東雲
もちろんキミと2人きり
それでも良ければ‥

サトコ
「いいです!氷川、頑張ります!」

東雲
あっそう
じゃあ、とりあえずケーキの手続きをしてきたら?

サトコ
「はいっ!」

(絶対に教官が興味を持つような計画を立てよう)
(それで2時間だけでも2人きりのクリスマスを‥!)

東雲
‥‥‥



(とは言っても、ここからが難題なんだよね)
(教官‥どんなクリスマスなら興味を持ってくれるんだろ)
(直接聞きたいところだけど、教えてくれるとは思えないし‥)

サトコ
「そうだ!」

(この際だから、いろんな人にリサーチしてみよう!)
(そうすれば、一般的な男の人が好きそうなクリスマスはわかるよね)

辺りを見回すと、何人かの教官たちの姿がある。

(ここは、まず‥)

<選択してください>

A: 加賀に聞く

(よし、加賀教官に聞いてみよう)

サトコ
「おつかれさまです」

加賀
‥‥‥

サトコ
「あの、ちょっとしたリサーチなんですけど」
「加賀教官にとってクリスマス‥」

加賀
なんだ、俺の手伝いをする気か
クズの分際でいい度胸だ

サトコ
「えっ」

加賀
当日19時、駅前‥

サトコ
「す、すみません、失礼します!」

(あぶない、あぶない‥)
(またよく分からない何かの巻き込まれるところだった)

B: 石神に聞く

(よし、石神教官に聞いてみよう)

サトコ
「おつかれさまです」

石神
どうした

サトコ
「あの‥石神教官の理想のクリスマスについて伺いたいんですが‥」

石神
クリスマス‥そうだな‥
その時期は期末考査があるから‥
君たちの平均点が少しでもあがれば‥

サトコ
「し、失礼しました!」

(期末考査‥うう、なんだか胃痛が‥)

C: 颯馬に聞く

(よし、颯馬教官に聞いてみよう)

サトコ
「おつかれさまです」
「あの、颯馬教官の理想のクリスマスについて知りたいんですが」

颯馬
私のですか?そうですね‥
やはり愛する女性と、高級レストランで食事を‥
しているところに、かつて愛した女性があらわれて‥

サトコ
「えっ」

颯馬
『泥棒猫!』『なんですって』と私をめぐる奪い合いがはじまり‥
さらにそこに愛する女性の元婚約者があらわれて‥

(なにその昼メロ展開‥)

颯馬
‥というのはもちろん冗談で
ふつうに楽しく過ごせるのが一番いいですよね

サトコ
「そ、そうですよね」

(一体、なんだったんだろう‥)

その後、他の教官たちにも聞いてみたものの‥

サトコ
「うーん‥」

(ダメだ‥どれも参考になりそうにない‥)
(でも、ここであきらめるわけにもいかないし、こうなったら‥)

東雲
オレには聞かなくていいの?

サトコ
「!」

東雲
理想のクリスマス
兵吾さんたちより、オレに聞きたいんじゃないの?

サトコ
「そ、それは‥」

東雲
ちなみにオレの理想のクリスマスはー
サンタさんが来てくれることかなー

(えっ‥)

東雲
で、もちろん下着はー
サンタらしく『赤』?

(ええっ、それって上下とも!?)

東雲
‥‥‥

(‥違う、これ、絶対バカにされてる‥)

サトコ
「き、着ませんから」

東雲
へー

サトコ
「‥着ても見せません」

東雲
とか言ってるけど
少しは着る気に‥

サトコ
「な、なってません!」

東雲
そう?でもさー
それくらいのインパクトは欲しいよね

サトコ
「インパクト‥」

(インパクトかぁ‥うーん‥)



その日の夜。
私はラーメンをすすりながら、ノートにいろいろ書き込んでみた。

(ホテルの最上階で乾杯‥)

サトコ
「予算的に無理‥」

(大型モニターで『メリークリスマス』‥)

サトコ
「絶対その場で『キモ』って言われそう」

(となると、あとは‥)

サトコ
「赤い下着‥」

難波
なんだ。氷川は下着が赤いのか

(ぎゃっ!)

サトコ
「お、おつかれさまです」

難波
おつかれー、ああ、いつものね

室長はそう言って、隣のイスに腰を下ろす。

難波
で、なにが赤い下着?

サトコ
「そ、それは忘れてください!」

難波
そう?
じゃあ、そのノートは?
『ホテルの最上階』‥『大型モニター』‥

サトコ
「こ、これは、その‥」
「姉のためのクリスマス計画といいますか‥」

難波
ん?

サトコ
「実は、その‥姉に恋人ができまして‥」
「その恋人が、インパクトのあるクリスマスを求めていて‥」

難波
ああ、そういうこと
インパクト‥インパクトねー
どう思う、お前ら

(えっ‥)

サトコ
「!?」

(い、いつの間に反対側の席に‥!)

黒澤
俺はやっぱりギャップですかねー
マジメそうな子のミニスカサンタとか
ギャルっぽい子の手作り料理とか
そういうクリスマスは、インパクトありますよねー

難波
ははっ!お前らしいな
で、後藤は?

後藤
俺は‥インパクトとかそういうのは‥
それより大切な相手と静かに過ごせるのが一番だと思いますが

黒澤
後藤さん‥

(さすが後藤教官‥癒し系‥)

サトコ
「って、それじゃダメなんです!」
「インパクト!今年はインパクトが重要で‥」

難波
ハハハ、氷川は自分のことのように必死だなー

(うっ、つい‥)

ひとまず落ち着こうと、私は目の前の醤油ラーメンに向き直る。
すると、黒澤さんが私の隣に移動し、こっそり耳打ちしてきた。

黒澤
わかってますよ、サトコさん
歩さんとのクリスマスですよね

サトコ
「げほっ」

黒澤
ここは愛の伝道師・黒澤透にお任せください
いい案がありますよ

to be continued

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