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クリスマス 東雲2話



クリスマス当日。

鳴子
「あー、昨日の納会楽しかった」
「途中で乱入してきた警護課の部長さんにはびっくりしたけど」

サトコ
「ああ、関西弁の?」
「なんて名前だったけ‥桃‥いや、梅‥」

鳴子
「そう!ずーっとカラオケのマイク離さないでさ」
「私も1曲くらい歌いたかったのに」

サトコ
「ははっ、そうなんだ」

鳴子
「今日は教官たちとのクリスマスパーティーだよね」
「カラオケあったら2人で歌わない?」

サトコ
「あっ、それなんだけど‥」
「ゴメン!私、行けなくなっちゃって」

鳴子
「ええっ、そうなの?」

サトコ
「うん、かわりに千葉さんが行くはずだから」

鳴子
「そうなんだ‥」
「じゃあ、千葉さんと2人で『アナ雨』でも歌おうかな」

笑顔の鳴子の隣で、私はそっとポケットの中の鍵を握りしめる。



今から30分前‥

黒澤
コスプレ衣装は用意しましたか?

サトコ
「はい、ばっちりです」

黒澤
じゃあ、準備が終わったら、オレに電話をください
そのときの歩さんの様子を見て、お誘いのメールの内容を決めましょう

サトコ
「わかりました」
「‥でも、本当に大丈夫でしょうか」
「勝手に部屋にあがりこんで飾り付けとか‥」

黒澤
大丈夫です、オレも過去に2度ほどやりましたから!

(2度も‥!?)

黒澤
ってことで、これ‥歩さんの家の鍵です

サトコ
「ありがとうございます」
「ちなみに、この鍵はどうやって‥」

黒澤
入手方法ですか?
知らない方がいいですよ、たぶん

サトコ
「‥わかりました」

黒澤
えー!もうちょっと、食いついてくださいよー!
サトコさんまで、オレにそんな態度、取るんですかー?

サトコ
「す、すみません。そういうつもりじゃなくて」
「教官たちと一緒に過ごしていたら‥つい」

(先輩になんて態度を‥私のバカバカ!)

黒澤
まぁ、サトコさんなら許しちゃいましょう
じゃあ、健闘を祈ります

サトコ
「はい、頑張ります!」

(クリスマス会は欠席にしたもらったんだけど‥)
(22時の中締めまでに一通り終わらせないといけないんだよね)
(飾り付けと料理を済ませて、着替えもして、それから‥)

鳴子
「あ‥昼休み、終わっちゃう」
「さー、午後も頑張るぞー」

サトコ
「うん」

(ま、なんとかなるか)
(よーし、私も頑張るぞー)

そして午後7時。

サトコ
「おじゃましまーす‥」

誰もいない教官の部屋に、私はそっと足を踏み入れた。

(うわ‥見事に季節感ゼロ‥)
(本当にクリスマスとか、興味がないんだな)

サトコ
「‥よし!」

(となると、飾り付けはちゃんとした方がいいよね)
(それと並行して料理も作らないと‥)

サトコ
「うーん‥うーん‥っ」

(ダメだ‥高いところの飾り付け、手が届かない‥)
(せめて脚立があればいいんだけど‥)

ゴボゴボゴボッ‥

サトコ
「ああっ、お鍋が‥っ」

ガツッ!

(しまった!ケーキの箱、蹴飛ばしちゃった!)

ジューッ‥ジューッ‥

(おかしいな‥なんでエビフライだけ焦げるんだろう‥)
(あれから何度も練習してるのに)

こうして気づけば2時間が経過し‥

サトコ
「うーん‥」

(ツリーの飾り付け‥もう少し欲しいな)
(普通は何を飾るんだっけ。電飾、星、スノーボール、靴下‥あとは‥)

サトコ
「‥願い事?」

(そっか、願い事を書いて吊るせばいいんだ!)
(なんて書こうかな。願い事、願い事‥)

♪ ~

(あれ、電話‥)
(あっ、黒澤さんから!)

サトコ

「おつかれさまです、氷川です」

黒澤
おつかれさまです
実は歩さんがこっちに来てないんですけど‥

サトコ
「えっ‥教官は出席予定でしたよね?」

黒澤
そのはずなんですけど、まだ‥

ガチャ‥

(え‥)

東雲
随分といい度胸だね
『クリスマス』に他の男と電話してるなんて

サトコ
「ぎゃーっ!!」

黒澤
サトコさん!?どうかしましたか?サトコさん!

サトコ
「すすすすみません、あとでかけ直します!」

黒澤
えっ、もしも‥

プツッ‥

東雲
あれ、電話はもういいの?
じゃあ教えてもらおうか
どうやってここに入ったのか

サトコ
「そ、それは‥その‥」

東雲
ま、だいたい検討はつくけど

教官は、私の手からひょいとスマホを取り上げる。

東雲
‥やっぱりね
今の電話、透からか

サトコ
「‥‥‥」

東雲
ま、アドバイスを求める相手は間違ってないよね
それにインパクトもあるし
『恋人は不法侵入』なんて

サトコ
「す、すみませんでした‥!」

(まずい!これ、絶対怒られるパターン‥っ)

東雲
で、この飾り付けは?

サトコ
「え‥」

東雲
なんで中途半端なの?

サトコ
「それは、その‥高いところに手が届かなくて‥」

東雲
あっそう。じゃあ‥

教官は手を伸ばすと、ピンで飾り付けをきれいに留める。

東雲
これでいい?

サトコ
「は、はい‥」

東雲
で、今やってるのは?

サトコ
「ツリーにぶらさげる願い事を書こうかと‥」

東雲
願い事?

サトコ
「その、サンタさんにお願い事を‥」

東雲
なにそれ
七夕の短冊じゃあるまいし

(そ、そうだ。お願い事は、七夕だった‥!)

東雲
ま、いっか
どれに書くの?

サトコ
「えっと‥この紙に‥」

東雲
やっぱり短冊じゃん、これ

そう言いつつも、教官はペンをとってくれる。

(あれ、なんか‥怒られない‥?)
(でも、そう見せかけておいて、これから意地悪を‥)

東雲
はい、できた
オレの、飾っておいて

サトコ
「わかりま‥」

(『恋人の色気が3割増しにまりますように』‥)

サトコ
「‥‥‥」

東雲
で、キミの願い事は?

サトコ
「これです‥」

東雲
『立派な公安刑事になれますように』‥
ふーん、これだけ?

サトコ
「実はもう一つ‥」

私は、願い事の紙をひっくり返して見せた。

東雲
なるほど
『教官と楽しいクリスマスを過ごせますように』‥ね
よかったじゃない、願いが叶って

(え‥)

サトコ
「本当ですか!?」

東雲
本当も何も、ここまでされたらキミと過ごすしかないじゃない

サトコ
「でも、黒澤さん主催のパーティーが‥」

東雲
今更行ってどうすんの
もう9時過ぎてるのに

サトコ
「た、確かに‥」

東雲
それに、これがキミの願いなんでしょ

教官は、私の願い事の紙をひらひらと揺らす。

東雲
だったら叶えてあげるよ
今年ぐらいは‥ね

サトコ
「教官‥」

(変だな‥これって夢?それとも私の妄想?)
(だって、教官がこんなにストレートに優しいなんて‥)

東雲
っていうか焦げ臭くない?

サトコ
「!」

東雲
なにこれ。なんの臭い?

サトコ
「そ、それは‥」
「ブラックタイガーのフライを‥」

東雲
‥出たよ
また衣はがせってこと?

サトコ
「そ、それは‥」
「でも、それ以外は上手くできましたんで!」
「ケーキもありますし!」

東雲
あっそう
じゃあ、早く出して、お腹空いた

サトコ
「はい!」

(っと、その前に‥!)

サトコ
「すみません、教官」
「一旦、玄関に行っててください!」

東雲
は?

サトコ
「本当なら着替えて、お料理も全部出して‥」
「それから教官をお迎えするはずだったんです」
「なんで、そこから‥」

東雲
なにそれ。面倒くさ‥

サトコ
「そう言わずに、どうか10分‥」
「いえ、5分だけでも!」

東雲
‥‥‥

サトコ
「このとおりです!」

東雲
‥貸し1だからね

サトコ
「ありがとうございます!」

(よし、まずは速攻で料理をテーブルに並べよう!)
(それから着替えて、クラッカーを用意して‥)

15分後。

サトコ
「教官、準備オッケーです!」

東雲
‥どうすればいいの

サトコ
「普通に『ただいまー』って入って来てください」

東雲
‥‥‥

サトコ
「どうぞ!」

東雲
はぁぁ‥
ただい‥

サトコ
「メリークリスマス!」

パァァンッ!

東雲
‥‥‥

サトコ
「驚きました?驚きました?」

東雲
‥キミのその格好にね
なにその着ぐるみ

サトコ
「トナカイです!」

東雲
それは見ればわかるから
どうして着ぐるみ?

サトコ
「インパクト重視です!」
「それにこれだと『視力への暴力』じゃないですよね?」

東雲
‥‥‥
‥まぁ、いいや

教官はぼそりと呟くと、髪に引っ掛かっていたクラッカーの紙テープを外した。

東雲
で、ごはんは?

サトコ
「どうぞ!」

東雲
つまみばっかりじゃん!

サトコ
「だって教官、パーティーで食べてくると思ったから‥」
「あ、でも私用に買ったコンビニのおにぎりならありますけど」

東雲
‥もういいよ。ケーキが主食で

(うっ‥)

サトコ
「なんかすみません」

東雲
いいって
ここまで予測できなかったオレもオレだし
‥やっぱり浮かれてたのかも

サトコ
「えっ、今なんて‥」

東雲
なんでもない
それよりケーキ!

サトコ
「了解です!」

こうして、予定より少し早く2人きりのクリスマスパーティーがはじまり‥

サトコ
「はぁぁ‥」
「ケーキって結構ボリュームありますね‥」

東雲
確かにね
当分、生クリームはいいや

サトコ
「ですよねー」

東雲
あとブラックタイガーも

(うっ、痛いところを‥)

2人でシャンパンを1本と『幻のピーチネクター・X’masミックス』を2本あけたところで
ふと、あることに思いが至る。

サトコ
「そう言えば教官、いつ気づいたんですか?」
「私がここにいるって」

東雲
ああ‥
今日、校内で透と会った時?

サトコ
「!」

東雲
あいつ、教官室に来なかったし
軽く聞き込みしたら、キミと会ってたらしいし
ついでにオレの家の鍵、いつのまにか消えてたし

サトコ
「それで分かった‥と」

東雲
ま、ほぼ確定かなって
透にはこれまでにもいろいろやられてるからね

サトコ
「そ、そうですか‥」

(さすがというかなんというか‥)
(でも、それ以上に笑顔が怖いというか‥)

東雲
それよりさ
キミ、その着ぐるみ、いつまで着てるの?

サトコ
「えっ、今日終わるまではずっと‥」

東雲
脱ぎなよ

サトコ
「!」

東雲
っていうか脱いで

教官の指が、着ぐるみの襟にかかる。

(ま、まさか今日こそ‥)
(で、でも『卒業まではシない』って‥)

サトコ
「ダメです、教官!」
「まだ心の準備が‥っ」

(ついでに下着の準備も‥)

東雲
は?なんの準備?
脱いで履くだけでしょ

サトコ
「‥履く?」

東雲
こ・れ
クリスマスプレゼント

目の前に突き出されたもの、それは‥

(黒のパンプス‥?)

東雲
これなら仕事中でも履けるでしょ

サトコ
「はい‥」

(って、これ‥海外の超有名なブランドの!?)
(そりゃ、確かに人生で一度は履いてみたいと思ってたけど‥)
(こんなの普段履きにするにはもったいなさすぎて‥)

サトコ
「!」

(‥待って、もっと重要なことが‥)
(私、教官にクリスマスプレゼント用意して‥して‥)
(してないっ!!!)
(パーティーのことですっかり頭がいっぱいで‥)

東雲
さてと‥次はキミからだよね

サトコ
「!」

東雲
うわー楽しみー
初めてのクリスマスだしー
どんなものくれるのかなー

(ど、どうしよう‥)

<選択してください>

A: 実は来る途中で‥

サトコ
「じ、実はここに来る途中で‥」
「サンタさんとぶつかりまして!」

東雲
は?

サトコ
「そのとき、お互いに荷物を落としまして」
「教官へのプレゼントを、サンタさんが間違えて持って行っちゃいまして」
「なんで今頃、ちびっこたちのもとに配られてるかと!」

東雲
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥‥何点くらいですか?今の話」

東雲
28点

(うっ、やっぱり‥)

B: ごめんなさい!

サトコ
「ごめんなさい!」」

東雲
‥‥‥

サトコ
「すみません、ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
「プレゼントはありません!買うのを忘れてました!」

東雲
‥‥‥

サトコ
「なので、かわりに肩たたき券を‥」
「もしくはマッサージ券を今から作って‥」

C: プレゼントは「わ・た・し」

サトコ
「プ‥プレゼントは‥」

東雲
プレゼントは?

サトコ
「『わ・た・し』‥なーんて‥」

東雲
‥へぇ、そう
じゃあ、いただこうかな

(げ‥っ)

東雲
まずはどうしてほしい?
優しく?ひどく?それとも‥

(ひどく!?)

サトコ
「ウソです!ウソです、ごめんなさい!」
「本当はプレゼント買うの、忘れてて‥」

東雲
‥ぷっ
アハハッ!

(え‥)

東雲
すご‥すごすぎ!ある意味、予想通り!
キミ、絶対にやらかすと思ってた
プレゼント忘れるか、ケーキを箱ごと落とすか

(うう、まさか言えない‥)
(実はケーキの箱も、飾り付けの最中に蹴飛ばしてました‥なんて)

気まずさのあまり目を逸らすと、思いがけないものが視界に入ってくる。

(あれ‥窓の外‥)

サトコ
「教官、雪です!」
「ホワイトクリスマスです!」

東雲
ああ、あれ‥さっきから‥

サトコ
「行きましょう!」

東雲
は?

サトコ
「ベランダです!せっかくですから!」

外に出た途端、吐く息が白くふわっと舞い上がった。

サトコ
「うわぁ‥けっこう降ってますね」
「もうちょっと、積もってくれないかなぁ」

(そうすれば即席のプレゼントを‥)

東雲
まさか誤魔化すつもりじゃないよね
クリスマスプレゼントを、雪だるまや雪ウサギで‥

サトコ
「そ、そんなつもりは‥」

(どうして、いつもバレるんだろう?)


東雲
ウソ

(え‥)

東雲
いいよ、プレゼントなんて
楽しませてもらったから

サトコ
「‥‥‥」

東雲
クリスマスなんてくだらないと思ってたけど
意外と悪くないね。こういうのも

サトコ
「教官‥」

じわりとした喜びで、心の中が満たされる。

(よかった、頑張って準備して)
(失敗もいろいろあったけど、教官い喜んでもらえて、本当に‥)

東雲
ところでさ
真っ赤なサンタさんじゃないんだ?

サトコ
「?」

東雲
これのこと

教官の指先が、着ぐるみの襟元に滑り込む。

サトコ
「な‥っ」

(肩紐‥っ!)

東雲
また紫‥ね

サトコ
「だ、だって赤いの持ってないですし!」
「着たところで見せる機会が‥」

東雲
さあね
見るくらいはするかもよ

サトコ
「え‥」

(あ‥っ!)

教官は襟を引っ張ると、右の肩紐のそばに唇を落とす。

サトコ
「‥っ」

鈍いような痛み。
けれども、それとは別の甘さがじわりと肌に広がってゆく。

(なんで、こんなところにキス‥っ)

東雲
ん‥まあまあかな
でもキミ、意外と肌が白‥
‥‥‥
‥なんて顔してるの

サトコ
「だ、だって急にこんなこと‥!」

東雲
いいじゃない
クリスマスは特別なんでしょ

<選択してください>

A: そうですね

サトコ
「そ、そうですね」

東雲
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥」

ビシッ!

サトコ
「な‥っ、なんでデコピン‥っ!」

東雲
キミの顔がいつまでたっても赤いから

サトコ
「それを言うなら教官こそ‥!」

東雲
オレは寒いだけ

サトコ
「だったら私も寒いだけです!」

東雲
なに真似してんの

B: 確かにそうだけど

サトコ
「確かにそうですけど‥!」
「さすがに唐突すぎるっていうか‥」

東雲
じゃあ予告しろってこと?

サトコ
「えっ」

東雲
キスマークつけるから
ほら、肌出して

サトコ
「そ、それはさすがに情緒が‥」

東雲
‥キミ、ほんと面倒くさ

C: だったら、もっと‥

サトコ
「だったら、もっと‥」

東雲
えっ

サトコ
「あ、いえ、その‥!」

(わ、私、いったい何を‥!)

東雲
‥バカ

教官はぼそりと言うと、反対側の衿を引っ張る。

サトコ
「ん‥っ」

(今度は左‥っ)

東雲
‥キミだからね
『もっと』って言ったの

教官はそう言うと、私の着ぐるみの襟元を整えた。

東雲
ってことで‥そろそろ返してよ

サトコ
「なにをですか?」

東雲
貸し。1つあったでしょ

(あ、そう言えば‥)

東雲
どうやって返すつもり

サトコ
「それは、えっと‥」

(どうやって返そう‥)

東雲
‥目、閉じた方がいい?

サトコ
「えっ」

東雲
開けたままでもオレはいいけど

唇を軽くなぞられて、「ああ」と教官が求めていることに気が付く。

サトコ
「とっ、閉じてくれると嬉しい‥です」

東雲
仕方ないね

伏せられた長いまつ毛に見惚れつつ、教官のメガネを外す。
背伸びしてそっと唇をぶつけると、かすかに笑われた気がした。

東雲
それだけ?

サトコ
「いえ‥」

もう一度、今度は強めにキスしてみる。
触れあった部分は冷たいようでいて、意外とあたたかい。
ベランダの外で雪が降っていることなんて、なんだか忘れてしまいそうだった。

そして翌日。

鳴子
「あー昨日は楽しかったー!」

千葉
「う、うん‥楽しかった‥ね‥」

サトコ
「‥なんだか2人のリアクションが全然違ってるんだけど」

鳴子
「だって私は楽しかったもん」
「昴様がきてくれたし」

サトコ
「えっ、どうして一柳さんが?」

鳴子
「さぁ、よくわかんないけど」
「後藤教官が呼んだんじゃない?」

サトコ
「そっか‥仲良しだもんね、あの2人」

千葉
「いや、たぶん後藤教官は呼んでないと思うけど‥」

サトコ
「‥千葉さんは元気ないね」

千葉
「ああ‥うん‥」
「ちょっといろいろと‥」

鳴子
「千葉くんは、颯馬教官のお気に入りだもんね」

千葉
「そ、そんなことは‥」

(千葉さん、怯えてる気がするけど‥気のせいかな?)

東雲
おつかれさま

鳴子
「あっ、おつかれさまでーす!」

教官は愛想のいい笑顔を浮かべて、私の隣に腰を下ろす。

鳴子
「そう言えば、教官‥昨日のパーティーに来なかったですよね」
「なにか用事でもあったんですか?」

東雲
ああ、昨日はね
モコモコのトナカイに会ってて

サトコ
「ゲホッ」

鳴子
「トナカイ?」

東雲
ああ、違った‥
ラベンダー色のサンタさんだったかな

(教官‥っ!)

千葉
「ラベンダー色のサンタクロースって珍しいですね」

東雲
そうだね
オレもサンタさんはてっきり赤だと思ってたんだけど
オレのところに来たのはラベンダーだったみたいで

(ダメだ‥さっきから冷や汗がダラダラと‥)

ピーンポーン♪

難波
千葉、佐々木。今すぐ教官室に来るように
繰り返す‥

千葉
「珍しいな。校内放送で呼び出しなんて」

鳴子
「サトコ、先に行ってるね」

サトコ
「うん、おつかれー」

鳴子と千葉さんがいなくなったのを確認して、私は教官に詰め寄った。

サトコ
「なんてことを言うんですか!」

東雲
いいじゃない。どうせバレないんだから
それよりパンプスは?

サトコ
「えっ」

東雲
それ、いつもの靴だよね
オレがあげたのは?

不満げにそう問われて、私は慌てて弁解する。

サトコ
「あれはまだ履けないです!もったいなくて」

東雲
は?

サトコ
「憧れてたブランドのものだし」
「なにより教官からもらったものだから」
「あの靴にふさわしい女性になれるまでお預けかな‥と」

東雲
なるほど。だったら
一生履けないかもね

(う‥っ)

サトコ
「そ、そんなことはないですよ!」
「これから努力して、素敵な‥」

東雲
真っ赤なサンタさんに?

サトコ
「しーっ、しーっ!」

私の抗議に、教官は声を上げて笑う。
クリスマス翌日の昼下がりは、そんな焦りとくすぐったさに彩られていた。

Happy  End

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