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書き初め 後藤1話

後藤
リンゴか‥久しぶりに食べる

サトコ
「食べきれないから少しでいいって言ったんですけど」
「お世話になってる人にお裾分けしなさいって、たくさん送ってきちゃって‥」

後藤
美味そうだ。確か果物ナイフがあったよな

備え付けの備品から後藤さんは果物ナイフを持ってくる。

後藤
リンゴの皮を剥くなんて、どれくらいぶりだろうな

(リンゴの皮を剥く後藤さんって新鮮‥って、皮を削ってる‥!)

サトコ
「あの‥よかったら私が剥きましょうか?」

後藤
‥頼む

(リンゴウサギにしてみよう)

リンゴの皮剥きは慣れたもので、スルスルと剥いていくと後藤さんがじっと手元を見つめている。

後藤
アンタは器用だな

サトコ
「慣れてるだけです。どうぞ」

剥いたリンゴをひょいと口元に持って行く。

後藤
‥ああ

(あ!つい、『あーん』‥みたいなことに‥)

照れ臭そうにリンゴをかじる後藤さんに、私も赤くなる。

後藤
‥ん、甘くて美味い。アンタも食ってくれ

サトコ
「は、はい‥」

お返しとばかりに、後藤さんも私の口にリンゴを持ってくる。

(こ、これって、後藤さんからの『あーん』だよね?)

<選択してください>

A: 『あーん』って言ってください

サトコ
「『あーん』って言ってください」

後藤
‥‥‥

サトコ
「ダ、ダメですよね‥はは‥冗談です!」

後藤
‥あーん

サトコ
「あ、あーん‥」

(自分で言っておいてなんだけど、恥ずかしい!)

B: 自分で『あーん』と言う

サトコ
「あーん」

後藤
あ、ああ‥
あーん‥?

サトコ
「後藤さんから食べさせてもらうと、いつもより美味しいです」

後藤
アンタは‥あまり不意打ちで可愛いことをしないでくれ

C: 後藤さんの指ごと食べちゃう

(後藤さんの指ごと食べちゃおうかな)

サトコ
「いただきます」

パクッと一口で食べると、唇が後藤さんの指先に触れる。

後藤
アンタの一口はデカいな

サトコ
「ん‥んぐ‥」

後藤
落ち着いて食べろ

(笑われちゃった‥これは失敗だったかも‥)

サトコ
「今年はいいリンゴができたって言ってました」

後藤
アンタの実家で作ったリンゴなのか?

サトコ
「いえ、親戚が農園で‥」
「本当は実家にもお正月に帰るつもりだったんですけど‥」

後藤
残念だったな。ご両親もガッカリしたんじゃないか?

サトコ
「はい‥でも、仕事頑張れって言われました」
「それに寮には後藤さんもいるので‥寮で年越しするのもいいかなって」

後藤
ここで年を越すなら日付が変わったら、近くの神社まで初詣に行くか?

サトコ
「いいんですか!?」

後藤
ああ

(後藤さんと二人で初詣‥悪いことあれば、良いこともあるって本当なんだなぁ)

後藤
‥くしゅっ

サトコ
「大丈夫ですか?」

(後藤さんのくしゃみ、意外と可愛い‥)

後藤
今日は冷えるな

サトコ
「そうですね。寒波がきてるって朝の天気予報で言ってました」
「この寮って何でも揃ってますけど、コタツがないのが残念ですね」

後藤
冬と言えばコタツだよな

サトコ
「コタツといえばリンゴですよねー」

後藤
いや、そこはミカンだろ

サトコ
「え!コタツの上にいつも置いてあるのって、リンゴが入ってるカゴじゃないですか?」

後藤
どうなんだろうな‥俺の家のコタツには何もおいてなかったが‥
テレビや漫画だとミカンが置いてあることが多いんじゃないか?

サトコ
「‥ですね」

(リンゴは長野だけ‥?え?まさか、我が家だけ?)

後藤
そろそろ消灯の時間だ。部屋に戻れ

サトコ
「はい。おやすみなさい」

後藤
おやすみ

部屋を出る前に、後藤さんが軽くおやすみのキスをしてくれる。

サトコ
「こ、今夜はいい夢がみられそうです‥」

後藤
‥俺もだ

幸せな気持ちのまま、私は部屋に戻った。

(うーん‥ここは思い切って松コースのおせちを頼んじゃおう!)

部屋に戻り、私はベッドの中でおせちの通販サイトを眺めていた。

(伊勢えびが入ってるのは、松のおせちだけだもんね)
(後藤さんと初めて過ごすお正月なんだから奮発しよう!)

サトコ
「よし!注文完了!」

(もういくつ寝るとお正月‥こんなにお正月が待ち遠しいのも久しぶりかも)

翌日の放課後、教官室に行くと何やら教官たちが顔を合わせて話し合っている。

(もしかして事件!?この年末に‥)

サトコ
「何かあったんですか?」

黒澤
重要な会議中です

サトコ
「重要な会議‥」

(やっぱり、事件‥)

後藤
寮の教官宿泊室にコタツを置くって話をしてるだけだ

サトコ
「わかりました。コタツですね!」
「え?コタツ‥?」

東雲
あの部屋、暖房はあるけど、冬場はいまいちくつろげないでしょ

加賀
経費で落とすんだから、最高級のコタツを買うか

颯馬
コタツの場合、コタツ布団にお金をかけられそうですね

石神
西山布団のコタツ布団でも調べるか

サトコ
「珍しく教官みなさんの意見が一致してる‥」

石神
今年の冬は例年より寒いといわれてるからな。寒さを耐えて仕事しろという根性論はない

加賀
機械のカラダでも寒さを感じんのか?最近のサイボーグは高性能だな

石神
お前くらい心が乾いていれば、コタツでうたた寝しても干からびる水分がなくていいな

加賀
嫌味が回りくどいんだよ、テメェは

黒澤
というわけで‥こちらに皆さんの要望が書いた紙があります

1枚の紙を手に取ると、黒澤さんはそれを私の手の上に乗せた。

サトコ
「あの‥これは?」

黒澤
話し合った結果、サトコさんと後藤さんをコタツ買い出し係に任命します!

後藤
おい、勝手に決めるな

颯馬
男ひとりでコタツを見に行くというのもさみしいと思いませんか?

黒澤
かと言って、ぞろぞろ連れ立っていくのも目立ちますからね

東雲
口で言うほどイヤじゃないんだから、素直に行くって言えばいいのに

後藤
歩、何か言ったか?

東雲
いえ、後藤さんが面倒ならオレが行きましょうか?彼女と

後藤
どうして氷川を連れて行くのが必須なんだ

黒澤
教官宿泊室には訓練生も出入りするじゃないですか
訓練生の目から見て、贅沢って思われないコタツを選ぶのも重要とういう話になりまして

後藤
いや、だまされないぞ

サトコ
「私は構いませんけど‥1つだけ質問してもいいですか?」

黒澤
何なりとどうぞ!

サトコ
「黒澤さんは教官宿泊室に泊まることないのに、どうしてそんなに張り切ってるんですか?」

後藤
そうだ。お前が乗り気でも意味ないだろ

黒澤
やだなー。今ここで一枚噛んでおけば、コタツの具合を確かめに行けるじゃないですか

後藤
誰がお前を部屋に入れるか

東雲
オレも鍵かけよ

黒澤
ちょ‥歩さん!?

颯馬
私もプライベートな時間は守りたいので

石神
部外者を入れるわけにはいかない

加賀
残念だったな、黒澤

黒澤
ま、待ってください!ここまで手伝わせておいて、オレだけのけ者ですか!?
仲間外れ反対!

後藤
ったく‥

とりあえず、今回だけは引き受けてやる
サトコ
「皆さんが気に入るコタツを探してきます!」

こうしてコタツ買い出し係になった私と後藤さん。

(コタツを一緒に買いに行くなんて、同棲カップルみたいで楽しいかも‥)



翌日のお昼休み。
通りがかった裏庭の日差しが暖かくて、腰を下ろして一休みする。

(後藤さんと初詣に行く約束したけど、この近くってどんな神社があるんだろ)

歩いて行ける距離にあるのか携帯で調べていると、ブサ猫が近寄ってきた。

ブサ猫
「ぶみゃっくしょん!」

(ぶみゃっ‥?)

サトコ
「もしかして‥くしゃみ?」

ブサ猫
「ぶみゃー」

サトコ
「風邪かな?おーい、大丈夫かい?」

ブサ猫は私の近くにくると、陽だまりの中で丸くなる。

サトコ
「最近、急に寒くなってきたもんね。気を付けるんだよ」

ブサ猫
「みゃ」

後藤
日向ぼっこか?

サトコ
「はい。この子もさすがに寒いみたいで」

後藤
猫は寒さが苦手だからな

ブサ猫を挟むかたちで後藤さんが隣に座ると、ブサ猫はチラッと視線を向けただけだった。

後藤
明日、コタツを選びに行かないか?近くに大きめの家具屋を見つけたんだ

サトコ
「いいですね!それにモタモタしてるとお正月休みに入っちゃいますよね」

後藤
俺も明日は非番の予定だ。久しぶりにのんびり出かけるか

サトコ
「はい!」

(のんびり出かけるってことはデートって思っていいのかな‥)

ブサ猫
「ぶみゃー」

後藤
コタツって言葉に反応したのか?お前もここで年を越すつもりなら‥
夜くらいはコッソリ寮の玄関に入れてやるか

サトコ
「大丈夫なんですか?」

後藤
夜になると凍える日もあるだろうからな。あとで考えておいてやる

ブサ猫
「みゃー」

サトコ
「あ、珍しく後藤さんにすり寄ってる‥」
「でも、私も心配だったので寮に入れてもらえれば安心です」

(こういう後藤さんの優しいところ好きだな‥)

ブサ猫を見て微笑んでいる後藤さんの横顔に、ますます明日が待ち遠しくなっていた。



サトコ
「みなさんからのリクエスト見ましたけど‥見事にバラバラですね‥」

後藤
‥こうしておこう

サトコ
「や、破っちゃダメですよ!」

丸型、四角型、天板は日本製に限る‥様々な要望が書かれた紙を後藤さんは破ってしまう。

後藤
買い出しに来てやったんだ。俺たちで選べばいい

サトコ
「それじゃあ‥まずは丸型と四角型、どっちにしますか?」

後藤
俺は丸いコタツを使ってみたいが‥スペースを考えれば四角い方がいいよな

サトコ
「そうですね、あとは大きさですけど‥小さ目と大き目どっちにしますか?」
「教官宿泊室に置くなら、1人は入れれば充分なんですよね」

1人用のコンパクトなコタツを見に行こうとすると、後藤さんに手を取られる。

後藤
2人は入れる余裕が欲しい

サトコ
「え‥」

(2人は入れるコタツが欲しいってことは‥)

<選択してください>

A: 黒澤さんを入れてあげるんですね!

サトコ
「黒澤さんを入れてあげるんですね!優しい‥」

後藤
‥どうして、そこで黒澤の名前が出てくるんだ?

サトコ
「黒澤さんもコタツに入りたいって言ってたので‥」

後藤
男2人でコタツに入りたいヤツがいるか‥俺はアンタと入りたいんだ

B: こっそり私も入っていいですか?

サトコ
「あの‥こっそり私も教官宿泊室のコタツに入っていいですか?」

後藤
最初から、俺はアンタと入るコタツを探すつもりで来た
そうでなければ、コタツの買い出し係なんて引き受けない

C: コタツでうたた寝するんですね?

サトコ
「コタツでうたた寝するんですね?」

後藤
どうして、そういう話になるんだ?

サトコ
「大き目のコタツなら、横になっても足が出ないかなって‥」

後藤
コタツでうたた寝するのは嫌いじゃないが、それが目的じゃない

照れたように視線を逸らしながらも、手を握る力が強くなった。

後藤
コタツにはリンゴ‥なんだろ?アンタとコタツに入ってリンゴを食べたい

サトコ
「あの、じゃあ‥あっちのカップル向けのコタツコーナーに行ってみますか?」

後藤
ああ‥どの売り場でコタツを買ったかなんてわからないからな。どこで選んでもいいだろ

お互いソワソワしながらも、カップルにオススメ!

と謳われていた2人用コタツを、ちゃっかり購入した。



駅近くのカフェでランチがてら休憩することにする。

サトコ
「学校近くの神社調べたんですけど‥」
「10分くらい歩いたところに比較的大きな神社があるみたいですね」

後藤
ああ、出店も出ていてそこそこ賑わうらしい。そこに行ってみるか?

サトコ
「はい。それじゃ大晦日は年越しそばを食べてから‥」

31日の予定を話し合っていると、後藤さんが立ちあがった。

後藤
‥悪い、仕事の電話だ。外で出てくる

サトコ
「はい」

(大きな事件はないって言ってたけど、後藤さん忙しそう‥)
(今日も朝方まで警察庁にいたみたいだし)

窓から電話している後藤さんが見える。

(私の前ではいつもと変わらないようにしてるけど、やっぱり疲れてるよね)

(大晦日に初詣に行くのもいいけど、年末年始くらい出かけないでゆっくりするのもいいかも)



12月30日・朝。

帰省する人たちが寮を出ると、いよいよ人も少なくなってきた。

鳴子
「それじゃ、私たちももう行くけど‥」

千葉
「なんかあったら、いつでも連絡してくれよ」

サトコ
「大丈夫だよ、教官たちもいるし、鳴子も千葉さんも気を付けて」

鳴子
「ハワイのお土産、いっぱい買ってくるからね!」

千葉
「オレも地味だけど、田舎の土産たくさん持って帰ってくるから」

サトコ
「気を遣わないで。寮で寝正月するのも悪くないし」
「ちょっと待ってね。名簿にチェック入れるから」

外泊チェックをしている名簿で2人の名前を探していると、
私の携帯が震えた。

(後藤さんから‥)

後藤
明日の午後にコタツが届くと連絡があった。設置するの手伝ってくれるか?

(大晦日の午後も一緒に過ごせるんだ!)

鳴子
「サトコ?なんか‥ニヤニヤしてるけど大丈夫?」

千葉
「もしかして寂しさのあまり‥」

サトコ
「う、ううん!ほら、ひとりでもやっぱりお正月って楽しみだから」
「良いお年を!」

鳴子・千葉
「良いお年を‥」

首を傾げながら荷物を持って出る2人を見送る。

(帰省できなくて、お母さんたちには悪いけど)

(後藤さんと過ごせるお正月、楽しみだな‥)

to be continued

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