カテゴリー

書き初め 後藤2話

30日のお昼。
寮に残るのは私ひとりになり、この日は後藤さんの教官室で買ってきたお弁当を食べた。

サトコ
「東京は年末年始休まず営業しているお店多いですね」

後藤
最近じゃないか?
少し前は正月になると休みで飯にも困ったもんだけどな

サトコ
「元旦から初売りするところも多いし‥テレビで行列できてるの観たことあります!」

後藤
福袋のために30日や、もっと前から並んでるってやつか

サトコ
「そうなんです!私、上京して初めて東京のデパートの初売り行ってびっくりしちゃって」
「あれは一種の戦場ですね‥」

後藤
初売りや福袋で正月を感じる人もいるんだろうな
初詣に行く神社までの道を調べておいた。街灯のある大きな道を通っても15分くらいで着く

サトコ
「出店もある神社なら、歩いてる人を見れば方向もわかりますよね」
「後藤さんは他に年末年始にしたいこととかってありますか?」

後藤
俺はアンタと過ごせれば、それでいい

(うぅ‥こうやって、簡単に殺し文句を‥)
(‥‥もしかして、後藤さんって天然タラシなのかな?)

サトコ
「年越しそばやおせちや初売りは?」

後藤
アンタが楽しみなら一緒に楽しみたいと思う
全部アンタ任せにするわけじゃないが、アンタと一緒にいるのが一番の目的だからな

少し頬が赤くなるのが、自分でもわかった。
その言葉に、こくりと頷くのが精一杯で‥

(そうだよね。一番大事なのは一緒にいること‥)
(お正月らしさに拘らなくても、後藤さんと一緒に過ごす初めての新年だから)
(特別に決まってるんだ‥)

張り切り過ぎていた気持ちが少しずつ落ち着いていく。

サトコ
「温かいお茶でも淹れましょうか」

後藤
ああ

実家から送ってもらったお茶を淹れて、程よく冷ましたカップを渡す。

サトコ
「後藤さんの手‥今日も冷たいですね」

後藤
アンタの手袋があるから大丈夫だ

(私がクリスマスにあげたプレゼント、使ってくれてるんだ‥)

サトコ
「でも、冷たいと心配です」

カップを持つ後藤さんの手に自分の手を重ねてギュッとする。

後藤
‥それだけじゃ足りない

サトコ
「え‥きゃっ!」

カップをテーブルに置くと、後藤さんは私を抱きしめた。

後藤
しばらくこうさせてくれ

サトコ
「はい‥」

(寒い夜に初詣に行かなくても、元旦の昼の暖かい時間に行くのもいいかな)
(そうすれば夜はゆっくり過ごせるよね)

そして大晦日。
予定通り届いたコタツを二人で設置する。


後藤
片付けを任せたみたいで悪い

サトコ
「いえ、コタツを置くスペースが確保できてよかったです」

後藤
コタツがあるだけで部屋の雰囲気が変わるな

サトコ
「さっそく吸い寄せられるように入りたくなりますね‥」

後藤
電源を入れるか?

サトコ
「でも、それをしたら最後‥」
「コタツから出れなくなっちゃうかもしれません!」

後藤
ハハッ!
今日はもう予定もないし、大晦日くらいいいんじゃないか?

ピンポーン!

後藤さんがコタツのスイッチを入れようとしたとき、寮の玄関のチャイムが鳴る。

宅急便
「佐山急便でーす」

後藤
宅急便?寮にいるのはアンタだけだよな

サトコ
「私が頼んだんです!ちょっと待っててください」

玄関に急ぐと冷凍便で届いたおせちを教官宿泊室に持って行く。

後藤
‥おせちを買ったのか?

サトコ
「最近は料亭のおせちとかも、通販で買えるんです」
「本当は作りたかったんですけど、時間も道具もなかったので。でも、今年は‥」

箱からお重を取り出して、中身を後藤さんに見せる。

サトコ
「伊勢エビ入りの豪華おせちにしてみました!」

伊勢エビ‥とボソリと呟く声が聞こえた。

後藤
すごいな‥こんなおせちは初めて見た

サトコ
「後藤さんと過ごす初めてのお正月なので、少し張り切り過ぎちゃいました」

後藤
俺は何も用意してやれなくて悪い

サトコ
「後藤さんはコタツを用意してくれたじゃないですか」
「おせち、ここで解凍してもいいですか?日付が変わる頃に食べごろになると思うので」

後藤
ああ。思ってたよりずっと正月っぽくなってきたな

サトコ
「浮かれすぎ‥ちゃいました?」

(後藤さん疲れてるのに、私だけ‥)

不安になって声が小さくなると、後藤さんにスッと手を取られる。

後藤
いや‥こんな正月らしい正月は久しぶりだ
ありがとう

また1つ後藤さんの笑顔を見ることが出来て。
後藤さんと出会った大切な年の最後は穏やかに過ぎようとしていた。

(教官に囲まれて年越しそばを食べる年になるとは思わなかったな‥)

サトコ
「年越しそば、私までご馳走になっちゃって恐縮でした」

後藤
学校の寮のために、アンタは残ってるんだ。気にすることはない

教官室で美味しいおそばを頂いて、私は後藤さんと一緒に寮に戻ってきた。

後藤
いよいよ、コレを使うか

サトコ
「はい!おなかいっぱいでコタツにあたれるなんて幸せ‥」
「私、部屋からクッション持って来ました!」

後藤
楽しむ気、満々だな
テレビつけるか?

サトコ
「そうですね。今年はどんな特番やってるんだろう」

テレビをつけると映ったのはお笑いグランプリだった。

サトコ
「このお笑いの人のネタ、なかなか面白んいですよ」

後藤
そうなのか?
ぷっ‥

鉄板のネタに後藤さんが小さく吹き出す。

(お笑いを見て笑う後藤さんって、なんだか新鮮‥!)

サトコ
「これ観ましょうか」

後藤
たまにはいいな

(夕飯食べた後の時間を、後藤さんと一緒にコタツとテレビで過ごすなんて幸せ‥)

お笑いの番組が終わると、今年も残すところ数時間となった。

後藤
そろそろ初詣に行くか?

サトコ

「そのことなんですけど‥やっぱり今夜は2人でゆっくりして、初詣は明日にしませんか?」

後藤
俺は構わないが‥いいのか?

サトコ
「何も夜に出かけなくてもいいかなって思って」
「後藤さんもここ数日ずっと忙しかったですし‥」
「新年くらいのんびり迎えましょう?」

後藤
アンタは本当に‥

微笑した後藤さんがコタツの上にある、私の手に触れる。

(コタツで温まってるせいか、手も温かい‥)

後藤
アンタがそう言ってくれるなら、今夜はここで過ごすか

サトコ
「年越しの瞬間をうたた寝で迎えないように気を付けないとですね」

観るともなしに年末恒例歌合戦を流して心地いい眠気を感じていると‥
不意に足に触れる感触。
足の間を割るように動く何か。

(えっ!?後藤さん!?そ、そんないきなり‥だ、大胆‥!)
(今夜はここで‥ってまさか、そんな‥)

フサァ‥

サトコ
「!?」

(け、毛深いっ!?)
(後藤さん、毛深い!?)

モシャっとしたものが足の間に割り込んでくる。

<選択してください>

A: 我慢している

(毛深いくらいでびっくりしたら、後藤さんを傷つけちゃう‥これくらいだったら‥)

くすぐったさを我慢していると、足に触れる毛の量はどんどん増えていく。

(こ、これは‥毛深いってレベルじゃない!)

B: 後藤さんを見る

(後藤さん‥)

赤くなりながら後藤さんを見ると、後藤さんは平然とした顔でテレビ観ている。

(顔ではなんでもないフリをして、後藤さんったら‥)
(で、でも毛深いってレベルを超えてるような‥ほとんど毛だし!)

C: 爪先で触ってみる

(後藤さんがそうくるなら、私も‥)

爪先で後藤さんの足を触ってみると、毛玉の中に足を突っ込んだような感覚になる。

(な、なにこれ?やけに柔らかいし‥後藤さんの足じゃない!?)

次にはベロッと舐められたような気がした。

サトコ
「ひゃっ!」

後藤
どうした?

サトコ
「いえ、あの‥」
「な、なんか‥コタツの中で何かが動いてます!」

後藤
コタツの中?

後藤さんがバッとコタツ布団をめくると、中にいたのは‥

ブサ猫
「ぶみゃー」

後藤
ブサ猫!

サトコ
「いつコタツの中に!?」

ブサ猫
「ぶみゃーん」

(なんだ‥ブサ猫ちゃんか‥後藤さんじゃなかったんだ‥)
(よかった‥いや、毛深くても私は後藤さんを好きでいられる自信はあるけど‥!!)
(いやいや、残念とか別に‥)

サトコ
「‥‥‥」

(ちょっとだけ残念だけど)

ほっとしたようなドキドキしたかったような複雑な乙女心でいると、ブサ猫が膝の上に載ってきた。

サトコ
「ここで寝ちゃうの?結構重いんだよ、キミ」

後藤
お前には寮の玄関に段ボールと毛布を用意してやっただろ

ブサ猫
「ぶみゃ!」

後藤さんは私の膝からブサ猫をどけると、ブサ猫は再びコタツの中に潜り込んでしまった。

サトコ
「ふふっ、コタツから出られないよね」

後藤
ったく、正月だけだからな

(そういえば‥後藤さんって抱き枕より膝枕派だって言ってたよね)

強化合宿での話を思い出し、私は勇気を出してみる。

サトコ
「あの‥よかったら後藤さんも膝枕どうですか?」

後藤
え‥

(マ、マズイ!引かれた!?)

サトコ
「なーんて、冗談、言ってみたり‥」

後藤
冗談、なのか?

サトコ
「え‥」

後藤
残念だって‥思ってる

サトコ
「‥‥それなら」

後藤
ただ‥膝枕してもらったら、そのまま寝てしまいそうだ

サトコ
「コタツでうたた寝したら風邪ひいちゃいますよね」

後藤
ああ‥だが、少しだけならいいか‥

誘惑に勝てないと、後藤さんが苦笑いして私の脚に頭を乗せようとしたとき‥

サトコ
「ああっ!」

後藤
どうした!?

サトコ
「おせちが狙われてます!」

知らぬ間にコタツを抜け出したブサ猫が向かう先は、おせちの伊勢エビ。

サトコ
「伊勢エビはダメ!猫は甲殻類はダメなんだから!」

後藤
お前はカマボコで我慢してろ!

慌ててコタツから出てブサ猫を捕まえようとするものの、意外にすばしっこい。

サトコ
「後藤さん!そっちに行きました!」

後藤
待て!棚の上に逃げるな!

ブサ猫
「ぶみゃー!」

サトコ
「私が捕まえます!」

棚の上に行ったブサ猫を捕まえようと背伸びをして、そのままバランスを崩してしまう。

サトコ
「あ!」

後藤
サトコ!

後ろに倒れそうになった私を後藤さんが支えてくれて、
そのままもつれ込むように2人で倒れてしまった。

サトコ
「大丈夫ですか!?」

後藤
ああ‥アンタこそ怪我はないか?

サトコ
「私は後藤さんのおかげで大丈夫です」

ブサ猫
「みゃー」

サトコ
「あ、何食わぬ顔でコタツの中に戻ってる‥」

後藤
ったく、やれやれだな‥

(って、私、後藤さんの上に乗っかっちゃってる!)

サトコ
「すみません!重たかったですよね!すぐにどきます!」

後藤
待て

サトコ
「え?」

後藤さんの上からどこうとすると、手をつかまれた。

後藤
もうすぐ年が明ける

サトコ
「バタバタしてる間に‥?」

時計を見ると、新年まであと1分。

後藤
サトコ‥

上半身を起こした後藤さんに手を引かれ、唇が重ねられた。

サトコ
「ん‥」

後藤
あけましておめでとう
今年もよろしくな

サトコ
「‥よろしくお願いします」
「今年はもっと成績を上げられるように頑張ります!」

後藤
‥抱負はそれだけか?

その親指で唇に触れ、後藤さんが間近で見つめてくる。

<選択してください>

A: 刑事としてキャリアアップ

サトコ
「いえ!現役の警察官としてもキャリアアップできるように頑張ります!」

後藤
そうだな。公安の刑事として一人前になるよう鍛えてやる
だが‥もう1つ大事なことを忘れてないか?

サトコ
「あ‥こ、恋人としてもよろしくお願いします‥」

後藤
こちらこそ、よろしく頼む

B: 恋人としてもレベルアップ

サトコ
「恋人としてもレベルアップできるように頑張ります!」

後藤
どんなふうに頑張ってくれるんだ?

サトコ
「それは‥追々の楽しみということで‥」

後藤
期待してる

C: 補佐官としてレベルアップ

サトコ
「後藤教官の補佐官としてレベルアップできるように頑張ります!」

後藤
補佐官としては、アンタは充分よくやってる
その他に大事なことがあるだろう?

サトコ
「えっと‥後藤さんの恋人として‥?」

後藤
ああ、そっちの方はどうなんだ?

サトコ
「ご期待に添えるように頑張ります‥!」

後藤
楽しみにしてる

後藤
すっかり目が冴えたな

サトコ
「ブサ猫ちゃんを追いかけ回して身体動かしたせいですね」

後藤
せっかくだから、このまま初詣に行かないか?

サトコ
「え‥でも‥」

後藤
アンタと一緒に初詣に行ったら、元気が出そうだ

サトコ
「‥はい!」

おせちを冷蔵庫にしまい、私は寮の部屋に戻ってコートを取ってくる。

後藤
テレビもコタツも消したし‥行くか

ブサ猫
「ぶみゃっ」

後藤
コタツの中はまだ、暖かいだろ。それで我慢しろ

手袋をした後藤さんと手をつないで、ブサ猫に見送られながら教官宿泊室を後にした。



サトコ
「寒いけど、その分、星が綺麗に見えますね‥」

後藤
ああ‥

そっと後藤さんの横顔を見上げると、寒さで鼻の頭が少し赤くなっていた。
吐く息は白く、少し空中を彷徨ってから、フッと消える。

後藤
サトコ‥

サトコ
「はい」

(珍しい‥名前で呼ぶなんて‥)

後藤
今年はもっとアンタを幸せにできるように頑張る

サトコ
「!」

後藤
だから‥今年も傍にいてくれ

サトコ
「もちろんです!」
「私も後藤さんを幸せにしますから‥後藤さんの傍にいさせてください」

吐く白い息の向こうに神社の出店の明かりが見えてきた。

(今年も後藤さんの笑顔がたくさん見られますように‥)

静かな新年の始まりに愛しい人との幸せを、ただ願っていた。



元旦の昼ごろ、後藤さんと教官たちに新年の挨拶に行くと、みなさんにジッと見つめられる。

サトコ
「あの‥何か?」

颯馬
いえ、コタツで迎える新年はさぞかし心地よかっただろうと思いまして

後藤
あのコタツ、なかなか具合いいですよ

東雲
でしょうね。なにせ『ラブラブカップルコタツセット』だもんね

サトコ
「!?」

(どうして東雲教官がそれを‥!?)

後藤
まさか‥つけてたのか?

加賀
バカが。いくら歩だって、そこまで暇なわけねーだろ

サトコ
「それじゃあ、どうして‥」

石神
これを見ろ

すっと石神教官が一枚の紙を差し出す。

サトコ
「領収書‥!」

後藤
‥‥‥

領収書の品名には『ラブラブカップルコタツセット』と書かれていた。

後藤
俺たちが甘かった‥

東雲
甘~い新年でよかったですね

後藤
誰が上手いこと言えと‥

サトコ
「ち、違うんです!ちょうどいい大きさを探してたら、そのコタツになっちゃっただけで!」

東雲
へぇ、じゃあ、このコタツを買った人に抽選で当たる温泉ペア宿泊券はオレが応募しとくね

(そ、そんなのがあったなんて‥)
(後藤さんと温泉、行きたかった!)

サトコ
「ど、どうぞ。抽選なんてなかなか当たりませんよ」

東雲
うわ、面倒。アンケートに答えるのか‥
ねぇ、コタツの使い心地どうだった?

サトコ
「すぐに暖かくなって最高でした!」

後藤
アンタ‥

サトコ
「!」

東雲
‥バカ?

サトコ
「そ、想像です!新しいコタツだから、そうなんだろうなーって思っただけで‥」

東雲
はいはい

(プロの誘導尋問反対!)

サトコ
「すみません、後藤さん‥」

小さな声で謝ると、微苦笑が返ってきた。

後藤
いや、アンタは悪くない。俺の責任だ

こうして新年の空気はいつもの日常らしい時間へと変わっていったのだった。

Happy  End


シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする