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書き初め 加賀2話

(やっぱり‥!ここって‥?)

車を降りると、そこは私がサプライズをするつもりでいた公園だった。

加賀
来たかったんだろ?

サトコ
「はい!ここの公園の大観覧車から見える景色が、最高らしいんです!」
「運が良ければ、観覧車に乗ってる時に、年越しの花火が見られるようですよ」

(あのサプライズ計画を加賀さんに聞かれて、もう絶対に無理だと思ってたのに)
(まさか、逆にサプライズされるなんて‥)

加賀
なんだ

サトコ
「いえ‥嬉しいなって」

加賀
安上がりな女だな

クッ、と加賀さんが微かに笑う。

(加賀さんと一緒に来られただけで、もう何もいらない‥)
(‥とは思うけど、でもできれば、一緒に観覧車に乗りたいな‥)

だけどきっと乗ってくれないだろう、とあきらめにも近い思いが過ぎる。

加賀
いつまで見てる

サトコ
「あ‥すみません。綺麗だなって」
「それにしても、雑誌に載ってただけあって、やっぱりすごい人ごみですね」

加賀
なんだって年末なのに動いてんだ

サトコ
「大晦日は深夜まで営業してるそうですよ」
「それに今日はカウントダウンイベントもあるから、みんなそれ目当てで来るらしいです」

予想以上の人混みに、加賀さんはうんざりしたように目を細めた。

(でも、これだけたくさんの人がいてもやっぱり寒いな‥)

加賀さんからお誘いがあるとは思わなかったので、メールを見てあわてて部屋を出たせいか、
深夜の寒さを考えず、少し薄手の格好で来てしまった。

加賀
‥‥‥
ちょっと待ってろ

サトコ
「どうしたんですか?」

私にタバコを見せると、加賀さんが灰皿の方へと歩いていく。

(この公園、結構広いからはぐれたら大変かも‥ついていけばよかったかな)
(えっと、カウントダウンまでは、あと‥)

女の子
「ママ、ママぁ」

子どもの泣き声が聞こえて振り返ると、小さな女の子が一人で泣きじゃくっている。

サトコ
「どうしたの?大丈夫?」

女の子
「うわぁん、パパ、ママー!」

サトコ
「迷子か‥パパとママと一緒に来たの?」

女の子
「うん‥パパとママがカットダウンに行きたいって」

サトコ
「カットダウン‥カウントダウン?」

(じゃあ、迷子だよね‥こんな時間に子どもがひとりでいるなんて、危険すぎる‥)

サトコ
「確か、向こうに総合案内所があったから、行ってみよっか」

女の子
「そこに、ママいる?」

サトコ
「もしかして探しに来てるかもしれないよ。お名前は?」

女の子
「あのね、なかたまなほ」

サトコ
「なかた、まなほちゃんだね。じゃあ、行こう」

(加賀さんのタバコ、きっともう少しかかるよね)
(案内所についたらメールして、私もそこで加賀さんを待った方がいいかも)

案内所には、まなほちゃんの両親らしき人たちはいなかった。
優しそうな係員のお姉さんに、紙を手渡される。

係員
「迷子ですね。じゃあ園内放送をかけますから、ここに名前を記入してもらえますか?」

サトコ
「私がかわりに書きます」

(えっと、ここに苗字でここに名前、っと‥)

サトコ
「はい、お願いします」

係員
「ありがとうございます。じゃあ放送かけますね」

ピンポンパンポーン♪という音が、園内に響く。

係員
「迷子のお知らせです」
「氷川サトコちゃんという4歳の女の子を、総合案内所で保護しています」

サトコ
「え!?」

(な、なんで私の名前!?)

サトコ
「ああっ!?」

(発見者と迷子のところ、名前書き間違えてるっ!)

サトコ
「わ、私の名前でそんなことしたら‥」

頭を抱えた、その時‥

加賀
このクズが‥!

(ですよねー!!!)

係員
「氷川サトコちゃんのお父様ですか?」

加賀
‥違います

サトコ
「す、すみません!迷子のところに、うっかり自分の名前を書いちゃって‥!」

加賀
どこまで世話焼かせるつもりだ

(怖い‥!般若のような顔で怒ってる!)

<選択してください>

A: それよりも、迷子が‥

サトコ
「そ、それよりも、迷子なんです!」

加賀
てめぇがか

サトコ
「私じゃなくて、まなほちゃんが!」

加賀
まなほ?

B: メールし忘れました

サトコ
「すみません!メールをしようと思ってたのに、忘れてて‥」

加賀
そうか。迷子になってたならしょうがねぇな

サトコ
「私じゃないですってば!」

(加賀さん、わかってるのに‥やっぱりこれは、完全にお怒りだ‥!)

C: お仕置きは勘弁して

サトコ
「お、お仕置きは勘弁してください!」

加賀
それはてめぇの態度次第だ
迷子になるようなガキには、仕置きが必要だな

サトコ
「迷子になったのは私じゃないです‥!」

まなほ
「おじちゃん、怖い‥」

加賀
お‥
‥‥‥

(あ‥『おじちゃん』にショック受けてる?)

その時、血相を変えた女性が案内所に駆け込んできた。

女性
「すみません!娘が迷子なんです、放送かけてもらえますか!?」

まなほ
「あっ、ママ!」

女性
「まなほ‥!あなた、一人でここに来たの!?」

まなほ
「ううん、あのお姉ちゃんが連れて来てくれたの」

女性
「ああもう!ありがとうございます!」

何度も何度も頭を下げて、お母さんはまなほちゃんを連れて案内所を出て行った。

サトコ
「よかった‥ホッとしましたね」

加賀
そうか

(うぅ、まだ機嫌が直らない‥)
(でも加賀さん、ここに来たとき、肩で息してた‥きっと放送を聞いて、走って来てくれたんだ)

サトコ
「あの‥本当に私が迷子になったと思ってたんですか?」

加賀
お前ならやりかねねぇ

サトコ
「さすがに、その時は電話かメールしますから‥」

加賀
その知恵があったとは、驚きだな

加賀さんのイヤミに耐えていると、警官が入ってきた。

???
「いやー、やっぱりこのイベントは迷子が多いですね~」
「‥あれっ?加賀さん?」

男性が、驚いたように加賀さんに声を掛ける。

加賀
‥真壁か

真壁
「お疲れ様です!もしかして加賀さんも駆り出されたんですか?」

加賀
んなわけねぇだろ

真壁
「ですよね。そういうのはうちの仕事ですよね」

(この人、加賀さんの知り合い‥?公安課の刑事じゃないみたいだけど)

真壁
「そちらの女性は、もしかして‥噂の?」

サトコ
「あの、加賀教官の補佐官をしてる、氷川サトコです」

真壁
「やっぱり!歩さんから色々ときいてますよ~」

加賀
またあいつか‥

真壁
「初めまして。警護課の真壁憲太です」

(明るい人だな‥なんとなく、黒澤さんを想い出すような‥)

加賀
てめぇは、なんでここにいる

真壁
「それが、警備増強の関係で駆り出されたんですよ」

加賀
他の奴らもいんのか

真壁
「いえ、今日は俺だけです」
「‥ん?そういえば」
「氷川サトコちゃんという4歳の女の子を保護してるって放送が‥」

サトコ
「あれ、間違いです!」

慌てて訳を説明してから、加賀さんと一緒に案内所を出た。

公園を歩きながら、ついに大観覧車の前までやってきた。

(‥やっぱり乗りたい!)
(でも、加賀さんが乗ってくれるわけない‥)

こっそり加賀さんの様子を伺うと、まだ気難しそうに眉間にシワを寄せている。

(わかってるけど‥せっかくだし‥こうなったら当たって砕けるしかない!)

サトコ
「あの‥加賀さん!今年最後のお願いです!」
「私一人で並んでますから‥観覧車、一緒に乗ってください!」

加賀
‥クズが

必死に懇願する私を、加賀さんが一蹴する。

サトコ
「やっぱりダメですか‥?」

加賀
さっさとしろ

私を残して、加賀さんが観覧車の最後尾に並んだ。

<選択してください>

A: 一緒に並んでくれるの?

サトコ
「い、一緒に並んでくれるんですか‥?」

加賀
女一人で並ばせるように見えるか?

(見えます‥とは言えない‥)

加賀
あ?

サトコ
「な、なんでもないです!」

B: どういう風の吹き回し?

サトコ
「ど、どういう風の吹き回しですか‥?」

加賀
奴隷に戻りてぇのか?

サトコ
「じょ、冗談です!」

慌てて、加賀さんの隣に並んだ。

C: 私一人で大丈夫です

サトコ
「私一人で大丈夫ですから、加賀さんはどこか暖かいところで‥」

加賀
じゃあ、てめぇ一人で乗れ

サトコ
「それだと意味ないんです!」

加賀
なら、つべこべ言ってねぇでさっさと並べ

サトコ
「すみません、寒いのに‥」

加賀
今年最後の願いくらい、聞いてやる
ほら

ポケットから缶を取り出すと、私に手渡してくれた。

サトコ
「ホットココア‥!」

加賀
寒いんだろ

サトコ
「はい、実は‥でもどうしてわかったんですか?」

加賀
バカが。もっと着込んで来い

(私が寒がってたの、気づいてくれてたんだ‥)
(タバコのついでに買ってきてくれたのかな。加賀さんのこういう優しさって、じんわりする‥)

ようやく順番が回ってきたころには、もう新年まで10分を切っていた。

サトコ
「中は暖かいですね!」

加賀
ああ

向かい合って座ろうとすると、加賀さんが、トンと自分の隣を指で叩く。

加賀
ここだ

サトコ
「え?」

加賀
早くしろ

サトコ
「は、はい」

隣に腰を下ろすと、伸びてきた加賀さんの手が、私の二の腕を触る。

サトコ
「ま、また‥!」

加賀
この柔らかさはキープしとけと言ったはずだ

サトコ

「し、してますよ!ダイエットしたいですけど、ぐっとこらえて‥!」

加賀
なら、わざと太るつもりか?

サトコ
「え?」

加賀
どんだけ菓子食うつもりだ

一瞬、何を言われてるのかわからずキョトンとしてしまう。

(‥あ!?もしかして年末年始のために買ったお菓子のこと‥!?)

サトコ
「な、なんで‥まさか‥」

加賀
歩に見つかった時点で終わりだ

サトコ
「やっぱり‥!なんで東雲教官って、人の秘密を全部バラしちゃうんですか!?」

加賀
嫌なら、あいつにはバレないようにしとけ
‥勝手に、引きこもりを決め込んでんじゃねぇ

二の腕に触れていた加賀さんの手が、ゆっくりと胸元へ向かう。

サトコ
「な‥だ、ダメですよ‥!」
「そ、外から見えちゃいます‥!」

加賀
‥外から見えなければいいのか?

サトコ
「そういう問題じゃなくて‥!」

必死に加賀さんの手を掴もうとしたけど、空いた方の手でそれを止められた。

加賀
お預け食らわせるとは、偉くなったもんだな

サトコ
「だ、だって‥こんなところで」

加賀
黙ってろ

チュッと、加賀さんが私の首筋に吸い付く。
わざと音を立てながら、大きな手をコートの中へと差し入れてくる‥

ドーン!

サトコ
「!」

その音と光に振り返ると、ニューイヤーを祝う花火が次々と打ち上がり始めたところだった。

サトコ
「あ!いつの間にか新年になってる!」

加賀
チッ

サトコ
「今、舌打ちしましたか‥?」

加賀
新年なんざ、放っておいても勝手になる

サトコ
「でも、加賀さんと2人で迎えられて嬉しいです」
「今年も頑張りますので、よろしくお願いします!」

加賀
ああ

肩を抱き寄せられると、深く唇が合わさった。

加賀
よろしくしてやるよ

サトコ
「な、なんだか怖いんですけど‥」

加賀
今年も、しっかりついて来い

そう言って、加賀さんはもう一度、優しく口づけてくれた。

観覧車を降りると、公園の近くの神社へ初詣にやってきた。

サトコ
「公園にいた人たちはみんな、この神社に初詣に来る流れなんですね」

加賀
初詣なんざ、久しぶりだ

サトコ
「今年も無事事件が解決しますように、ってお願いしに来ないんですか?」

加賀
神頼みか‥一番嫌いな言葉だな

(確かに、そういうイメージかも‥)

サトコ
「あっ、向こうで甘酒を配ってますよ。もらってきますね」

加賀
いらねぇ

サトコ
「え?」

加賀
酒が甘い理由はねぇだろ

サトコ
「‥もしかして飲めないんですか?」

加賀
飲む必要もねぇ

サトコ
「あ、でもお酒が好きな人は甘酒はイマイチ、ってよく聞きますよね」

(加賀さんが飲まないなら、私もやめておこうかな)

でも、加賀さんが甘酒をもらってきて私に手渡してくれた。

加賀
飲め。温まる

サトコ
「でも‥」

加賀
風邪ひいても、看病は期待するなよ

サトコ
「の、飲みます!いただきます!」

加賀
酔ったら、介抱してやる

甘酒の紙コップに口を付ける私に、加賀さんが低く囁く。

サトコ
「‥看病はしてくれないのに、介抱はしてくれるんですね」

加賀
酔ったお前を試すのも、一興だからな

(た、試される!?)

サトコ
「‥って、なんの話ですか‥!?」

加賀
それは、帰ってから確かめる

いつもの意地悪なカレは変わらないけど‥

(新年早々、加賀さんに介抱してもらうなんて‥贅沢な年明けかも)

甘酒を楽しみながら、密かにそう思う私だった。

Happy  End

【管理人のツッコミ】

甘酒にはアルコールは入ってない

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