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書き初め 石神2話

突然勝負はついたと告げられ、困惑する私に颯馬教官は笑みを浮かべてグラウンドを指す。

(っ!?後藤教官が、東雲教官と黒澤さんに連行されてる‥!?)

後藤教官は2人に腕を掴まれ、こちらに向かっていた。

後藤
石神さん‥すみません‥

(後藤教官、水浸し‥)
(どれだけ雪玉をぶつけられたんだろう‥)

石神
いや、俺たちも長い時間持ち場を離れていたからな。すまない

後藤
いえ‥

颯馬
というわけで、試合は終了ですね。勝者は、加賀班です

黒澤
やったー!これで、雪かきは免れましたね!

東雲
透、うるさい
さっさと中に入ろ

ニヤリと笑みを浮かべる東雲教官に、ハッとなる。

加賀
じゃあな

加賀教官は楽しそうに言うと、東雲教官たちを連れて校舎へと足を向ける。
裏庭には、私と石神教官、それに後藤教官の3人が残った。

石神
仕方がない。さっさと終わらせるぞ

後藤
そうですね

サトコ
「はい‥」

こうして私たちは一日中、雪かきをする羽目になった。

雪かきが終わり、シャワーを浴びると、かなり遅い時間になっていた。
自分の部屋に向かって廊下を歩いていると、石神教官が向かい側から歩いてきた。

サトコ
「石神教官、お疲れ様です」

石神
ああ‥悪かったな。あんなことに付き合わせて

サトコ
「いえ、雪合戦もなんだかんだで楽しかったですし‥」
「私は石神教官の補佐官ですから!」

石神
そうか‥

教官はフッと笑みをこぼすと、私の頭にポンッと手を置く。
すると‥。

ぐぅ~

サトコ
「‥‥‥」

石神
‥‥‥

(こ、こんなタイミングでお腹の音が鳴るなんて‥!)

サトコ
「あ、あのあの!こ、これはですね‥!」

石神
‥まぁ、あれだけ動いたんだ。腹が減るのも当たり前だろう
年越しそばを食べる約束をしていたな‥俺の部屋でいいか?

サトコ
「はい!私、部屋からおそば取ってきますね!」

私は石神教官に背を向けると、足早に自分の部屋に向かった。

おそばを持ち宿泊室へやってくると、キッチンを借りておそばを作り始める。

サトコ
「教官は何そばがいいですか?」
「簡単なものでよかったら天ぷらも作れますし、卵もあるので月見そばもできますよ」

石神
そうだな‥ん?電話か‥

石神教官は私に断りを入れ、電話に出る。

石神
黒澤か?どうした?

(黒澤さん?何かあったのかな‥?)

石神
ああ、そうだが‥は?これから?いや、俺は‥
お、おい!待て、黒澤!っ
電話を切ったな‥

サトコ
「あの‥教官?どうしたんですか?」

石神
黒澤や颯馬たち‥教官全員で、年越しをするという話になったらしい
これから俺を誘いにここに来ると言っていた

サトコ
「えっ、そうなんですか!?」

<選択してください>

A: みんなで年越しも楽しそう

サトコ
「みんなで年越しも楽しそうですね」

石神
あいつらと年越し‥?

(うわー‥すごくイヤそう)

石神
そんなことよりも‥

サトコ
「‥あっ、そうですよね!」

(私がここにいたら、怪しまれる‥!)

B: どこかに隠れなきゃ!

(私がここにいたら、怪しまれる!)

サトコ
「は、早くどこかに隠れなきゃ!」
「あっ、でも‥隠れるといってもどこに隠れたら‥」

石神
氷川、落ち着け

サトコ
「そ、そんなこと言われても‥あ、まずは火を消さなきゃですよね!」

C: みんなで年越しはイヤですか?

サトコ
「みんなで年越しはイヤですか?」

石神
そんな呑気なことを言っている場合じゃないだろう

サトコ
「え‥?」

(呑気って‥って、そっか!私がここにいたら、ダメだよね!)

黒澤
‥やっぱり、年越しは大勢の方がいいですよね

東雲
透は騒ぎたいだけでしょ?

颯馬
フフ、まぁいいじゃないですか。こうして全員揃ってることですし

加賀
チッ‥

(教官たち、もうすぐそこにいるんだ‥!)

慌てて火を消して靴を取るも、どこに隠れればいいのかわからない。

(ど、どうしよう‥!)

石神
こっちだ!

サトコ
「え‥わわっ!」

石神教官は私の手を取ると、そのままクローゼットの中に入った。

クローゼットの扉を閉めて数秒後、部屋のドアが開く音がした。
私たちは息を潜め、教官たちの気配を窺う。

黒澤
あれ~?おかしいですね。ここにいると思ったんですが‥

後藤
‥ん?

東雲
あれ?そばがある
しかも‥なんか、ついさっきまでいた空気だよね

(バ、バレてる!?)

颯馬
本当ですね
せっかくですし、私たちも誘ってくれればよかったのですが

加賀
クソメガネとそばなんか食えるか

黒澤
まぁまぁ、いいじゃないですか!おそばに罪はないんですから

加賀
そういうことを言ってんじゃねぇ

石神
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥」

(もし私がここにいるってことがバレたら‥)
(しかも、教官に抱きしめられてる状態だし、あったかくて安心するけど‥)

サトコ
「‥‥」

(あ、あれ?)

私は改めて、今の状況を確認する。

(狭くて真っ暗な中、教官に抱きしめられて‥そ、それに、教官の顔がこんな近くに‥)

サトコ
「っ‥‥!」

思わず声を上げそうになるも、教官の指が私の唇に当てられる。

石神
静かに

サトコ
「‥‥‥」

私は無言で頷くも、教官の顔が近くになり胸はドキドキと高鳴り続けていた。

黒澤
あー!!

サトコ
「!?」

東雲
だから、うるさいって

黒澤
もう12時まで1分切ってます!

颯馬
おや、もうそんな時間になるんですね

サトコ
「‥‥‥」

(まさか、この状況で年が明けちゃうの‥?)

黒澤
あと10秒です!8,7、6‥

黒澤さんがカウントダウンを始めると、石神教官が私の耳元に唇を寄せる。

黒澤
3,2,1‥

石神
氷川‥

耳元でかすれた声が聞こえた瞬間、カウントダウンが終わる瞬間‥

私たちの唇が重なった。

サトコ
「きょう‥かん」

石神
あけましておめでとう

返事をする前に、もう一度、自分の唇を柔らかく温かいものが塞いだ。

黒澤
あけましておめでとうございま~す!

颯馬
あけましておめでとうございます

東雲
はぁ、まさかこんな中途半端な感じで年を越すとはね

加賀
つか、いつまでクソメガネを探すつもりだ?

サトコ
「っ‥」

外から賑やかな声が聞こえるも、私たちの唇はまだ繋がったままだ。
暗いクローゼットの中には、室内からの明かりが漏れるだけ。
優しく、でも情熱的なキスに、応えるのが精一杯で‥
崩れ落ちそうになる前に、自然と教官にしがみついた。

(やっぱり私、教官と2人で過ごしたいな‥)

長いキスが終わりを告げ、名残惜しそうに唇が離れる。

教官たちは探すのを諦めたのか、部屋から去っていく音が聞こえた。

私たちはクローゼットから出ると、一息つく。

サトコ
「な、なんとかやり過ごせましたね」

石神
ああ

サトコ
「‥‥‥」

先ほどのキスを思い出し、頬に熱が上がるのを感じた。

サトコ
「あ、あの‥教官‥」

石神
顔が赤くなってる

サトコ
「あっ‥」

教官は私の腰を抱き寄せ、ゆっくりと顔を近づけてくる。
もう一度、触れ合う唇は、先ほどよりも甘いキスを、
啄むように、何度も何度も繰り返した。

石神
‥やはり、年越しは2人で過ごしたかったからな

サトコ
「はい‥あの、石神教官」

石神
なんだ?

サトコ
「さっきは言いそびれてしまったので‥あけましておめでとうございます」

石神
ああ‥今年もよろしく

今度はこめかみに触れるだけのキスをし、教官はキッチンへ視線を移す。

(あ、甘い‥!石神教官が、甘いっ!)
(天変地異とか起こったらどうしよう‥夢?もしかして、夢?)

石神
それにしても‥無理にやり過ごしたのはいいが‥

サトコ
「あっ‥」

(おそばのこと、完全に忘れてた‥!)

キッチンへ行くと、お鍋の中には伸びきってしまったおそばがあった。

石神
さすがにコレは食えないか‥

サトコ
「たしかに‥」

(昔、家で伸びたおそば、どうしてたっけ‥)

サトコ
「あ!私、アレンジ料理を作ります!」

石神
アレンジ料理?この、伸びたそばを使ってか?

サトコ
「はい!ちょっと待っててくださいね」

おそばをザルに上げ、湯きりをする。
湯きりをしたおそばをレンジで温めている間に、冷蔵庫から野菜を取り出して切り始めた。

(後は海苔で巻いて、均等なサイズになるように切って‥出来上がり!)

サトコ
「教官、できました~!」

出来上がった料理を運ぶと、教官は感心したように声を上げる。

石神
これは寿司にチヂミか‥?そばでこんなものが作れるんだな

サトコ
「はい!昔、実家でお母ちゃ‥あ!」

石神
‥‥‥

(いけない‥気が緩んで、つい‥)

サトコ
「は、母がやってくれたのを、真似したんです」
「お口に合うかわからないですけど‥」

石神
今年、初めてだな
お前の可愛いところを見るのは

サトコ
「う‥」

石神
『お母ちゃん』か‥ハハッ!

サトコ
「わ、忘れてください!聞かなかったことに‥」

石神
いや、無理だ
諦めろ

サトコ
「うぅ‥」

石神
あと‥俺の前だけにしておけ

サトコ
「!」

石神
それじゃあ‥いただきます

教官は手を合わせると、料理を口に運ぶ。

石神
‥美味い

サトコ
「本当ですか?よかった!」
「年明けそばになっちゃいますが、どんどん食べてくださいね!」

たくさんあった料理を食べ終わると、私たちはコタツに入る。

サトコ
「やっぱり、冬のコタツは最高ですね」
「これにリンゴがあれば、言うことありません」

石神
リンゴ?みかんじゃないのか?

サトコ
「え、リンゴですよ!我が家はリンゴで‥」

(‥もしかして、実家だけだったり?いやいや、まさか)

石神
なにはともあれ‥コタツは日本人らしい冬の過ごし方だな

少しだけ背を丸めてコタツでぬくぬくとする教官は、いつもと違った印象で可愛く見える。

(ふふ、教官もコタツが好きなのかな?)
(なんとなくだけど、前よりも教官のこと分かってきた気がする)

サトコ
「‥ふわぁ」

石神
眠いのか?

サトコ
「あ‥すみません」
「お腹もいっぱいになって、コタツがぬくぬくしてて‥」

石神
子どもみたいだ

サトコ
「うぅ‥ふわぁ~‥」

(ダメだ‥本格的に眠くなってきた‥)

石神
ここで寝たら風邪を引くぞ。寝るなら布団で寝ろ

サトコ
「はい‥」

石神
まったく聞くつもりのない返事だな

苦笑いしながら聞こえる教官の声が、いつも以上に心地よく感じる。

(こんなに気持ちいいんだもん‥少しくらい、寝ても‥いいよ、ね‥)

私はコタツの魔力と睡魔に勝てないまま、その場で眠りについた‥‥

翌日。

コンコンッ‥

サトコ
「う、ん‥」

(あれ‥?今、何か音がしたような‥?)
(って‥ここ、教官室?)

サトコ
「そっか‥私、あのままコタツで寝ちゃったんだ‥」

(ん‥?)
(さっきの音って、ノック‥?)
(も、もしかして、誰か来たんじゃ‥!)

サトコ
「ど、どうしよう!このままだと‥っ!?」

ゴンッ!

サトコ
「いたっ!」

慌てて隠れようとすると、コタツに足をぶつけてしまう。

サトコ
「って、い、石神教官!?」

足を抱えて悶絶していると、目の前に教官の顔があった。

(石神教官も、コタツで寝ちゃったんだ)
(ふふ、教官もコタツの魔力に勝てなかったのかな‥?)

サトコ
「って、今はこんな場合じゃ‥」

後藤
‥‥‥

サトコ
「あっ‥」

起き上がろうとすると、いつの間にいたのか後藤教官と目が合った。

後藤
物音がするから、入ってみたら‥

(な、なんで後藤教官がここに‥!?)

<選択してください>

A: 言い訳をする

サトコ
「あ、あのですね‥これは‥」
「そ、そう!石神教官に勉強を見てもらっているうちに寝てしまって‥」

後藤
‥勉強道具はどこにもないみたいだが

サトコ
「そ、それはですね‥さ、さっき片付けたんですよ!」

後藤
‥‥‥

B: 正直に話す

(どうしよう、言い訳が思いつかない‥!)

私は観念して正直に話そうと、口を開く。

サトコ
「あのですね‥実は昨日、石神教官と年越しそばを‥」

(って、正直に話したら、昨日のことも話さなきゃいけなくなるよね‥!)

サトコ
「食べようと思ったんですが、教官がどこにもいなくてですね‥」
「それで諦めて1人で年越しをしたんですが、今朝、教官に用が出来て‥」

後藤
そうか‥

必死に弁明するも、後藤教官は疑わしそうな視線を送ってくる。

C: コタツに潜る

サトコ
「‥‥‥」

私は勢いよく、コタツに潜った。

(な、なんで!?なんで後藤教官がここにいるの‥!?)
(っていうか私、なんでコタツに潜ってるの!)

このままではいけないと思い、私は慌ててコタツから出ると言い訳を始めた。

サトコ
「あ、あのですね。猫を探しにここまでやって来まして」

後藤
猫‥?

(よ、余計に怪しまれてる‥!)

サトコ
「あ、あの!後藤教官は、何故ここに?」

後藤
俺は石神さんを起こしに来たんだが‥

サトコ
「そ、そうだったんですね‥」

後藤
‥なぁ、とりあえず石神さんを起こしてもいいか?

サトコ
「は、はい!私はこれで失礼しますね!」

結局、後藤教官にまともな言い訳できないまま、私は教官室を後にした。

寮監室から自分の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、黒澤さんがいた。

黒澤
サトコさん、おはようございます!

サトコ
「おはようございます」

黒澤
‥って、あれ?今から部屋に戻るんですか?もしかして‥朝帰りとか!?

サトコ
「!?」

黒澤
しかも、サトコさんが歩いてきた方は、教官宿泊室‥
まさか‥

サトコ
「ち、違います!」

それから私は、黒澤さん相手に必死に再び言い訳を始めるのだった。

私は学校へ行くとスコップを持ち、教官たちと雪かきをしていた。

加賀
チッ‥何で俺がこんなことを‥

颯馬
難波さんが‥

難波
なんで‥?
全員で雪かきすればいいんじゃない?

颯馬
‥って言うから、仕方ないですよ

後藤
‥‥‥

黒澤
歩さん!雪かきも楽しいですね!

東雲
昨日のバズーカ、経費で落ちるかな‥

黒澤
って、無視しないでくださいよ~!

サトコ
「ふぅ‥ここはこれくらいでいいかな?」
「あの、次は裏庭を雪かきしてきますね」

私は教官たちに声を掛けると、裏庭へ足を向けた。

裏庭へやってきた私は、もくもくと雪かきをしていく。

石神
氷川

サトコ
「あ、石神教官。お疲れ様です」

石神
ああ‥付き合わせてしまって、すまない

サトコ
「気にしないでください」
「私は石神教官と一緒なら、なんでも楽しいですから!」

石神
‥そうか
今年の年末年始はいろいろと騒がしかったが‥次は2人でゆっくり過ごそう

サトコ
「っ、はい!」

石神
氷川‥今年も、よろしくな

私をそっと抱き寄せ、教官はゆっくりと私の唇を塞いだ‥。

Happy  End


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